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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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映し鏡の少年 二頁目


 戦いの開始を告げるのは、康太が持つ二丁の拳銃が鳴らす銃声だ。


「……くだらん」


 まっすぐに自身へと飛んでくるそれを、全身を黒で染めた謎の少年は僅かに体を傾けて躱し接近。

 剣を抜き、蒼野へと向け一直線に迫ると、優が迎え撃つように前に出て拳を放つが、その瞬間カウンターの要領で彼女の首へと向け刃を滑らせ、それを見て優が一歩後ずさる。


「気を付けろ! そいつダメージ度外視で首を取りに来るぞ!」

「嫌な奴ね!」

「飛び道具の対応も手慣れてるな。何者だこいつ?」


 一瞬の攻防とそれ以前に手に入れていた情報を共有し、突破口を想像する四者。


「なら、これはどうかしら!」


 足りないパズルのピースを埋めるために、優が掌から水を溢れさせ相手の持つ漆黒の剣以上のリーチをした鎌を作成。

 空高く跳躍し、狙いを定め振り下ろす。


「……甘いな」

「うっそ!?」


 迫る刃を躱すことはせず、ただの一刀で両断し、続く第二撃で首を狩りにかかる。


「優!」


 それはさせまいと聖野が割り込み軌道を変えるが、刃を抑えきることはできず、男は体勢を変え聖野の体を左ひざから右肩へと逆袈裟に斬り裂き、二人の体が重なった瞬間、二人纏めて蹴り飛ばし蒼野と康太がいる方角から僅かに逸れた位置に吹き飛ばした。


「野郎!」

「……」


 思いもよらぬ劣勢を目の当たりにして、その状況をひっくり返すため、音が重なる速度で引き金を絞る康太。


「ちょ、やめろ康太。弾かれた弾が俺の方に飛んでくる!」

「っ、すまん!」


 そうして何発もの弾丸が弾かれるのだが、その内の一発が蒼野の肩に衝突し蒼野が声を上げた瞬間、動揺から康太の動きが僅かに止まった。


「……死ね」


 その一瞬の隙に、蒼野へと迫る少年に、再び銃口を向ける康太。


「……いいのか?」

「あ?」

「……また古賀蒼野を傷つけるぞ?」

「てめぇ!」


 怒りに満ちた言葉が、康太の口から漏れる。しかしその一言の効果は確かなもので、康太は引き金を引くことをほんのわずかな時間だが躊躇し、その隙を逃さず少年は邪魔者と判断した康太に肉薄。

 漆黒の剣を鞘に戻し手を添え、腰を低くして迫る姿に、康太も蒼野も彼が何をしようとしているか即座に理解。

 彼に狙われている康太が考えるよりも先に体が自然と動き後退すると、ほんの一瞬前まで康太の立っていた場所に黒い刃が通り、康太の首に一本の線が作られた。


「マジかよおい!」


 後退しながら撃ちだされる銃弾全てがほんの少し左右に動くだけで全て躱される。

 

 悪いのは銃弾か?


 そう考え鋼属性を固めた銃弾を木属性を固めた跳躍弾へと変えようと意識を集中させるが、気が付けば民家の壁にまで追い詰められている。


「……」

「クソッ!」


 鋼のように無機質な瞳をした少年の刃が再び康太に襲い掛かる。

 百を超える斬撃が息つく暇もない程の勢いで繰り出され、康太は持ち前の直感でそれらを躱していくが、その末に放たれた一撃が康太の肩を貫いた。


「っ!?」

「………………」

「風刃・一閃!」

「…………ちっ」


 痛みから康太が歯を食いしばった瞬間、謎の少年の刃が康太の心臓に狙いを定める。

 しかしそんなところで二人の間を風の刃が通り、攻撃の手が緩んだ隙に康太が男の腹部を蹴り飛ばし真横へと逃げのびた。


「大丈夫か康太」

「ああ、だが思ったより強い。捕獲は諦めて……」

「諦めて?」

「……逃げる算段でいくぞ」


 殺すつもりでいく、という言葉を飲み込み打開案を口にする康太。


 ほぼ同時に回復を終え二人の元に戻る聖野と優。


「……そうか」


 それを見た謎の少年は、

「……ならばやり方を変えよう」


 言いながら剣を自らの顔と平行になるよう正面に構え、


「……燃えろ」


 そう呟く。


「!」

「あれは」


 途端に漆黒の剣に炎が纏われるが、それを見た蒼野達全員が息を飲む。


「紫色の」

「炎だと?」


 既に目にはしているものの、その剣が纏っているのは普段目にすることのない紫紺の炎。

 月の光で照らされた空間を侵食し、我が物顔で悠々と燃えるそれは、その場にいた四人の胸に一抹の不安を抱かせた。


「……さて」


 正面に構えた刃を地面に突き刺し、


「……古賀蒼野と共に灰燼と化すがいい」


 炎属性粒子を地面へ流し広範囲へ流布。強く念じると同時に辺り一面を炎の海へと変化させる。


「クソッ! 面倒な事を!」

「気を付けろよお前ら! 恐らく属性混濁だ。どんな効果があるかわからねぇ!」

「属性混濁って…………なんだそりゃ?」


 聞きなれぬ言葉に蒼野が疑問を口にするが、炎の海を突き破り現れた漆黒の刃とその主を確認し、身を屈め横一文字を躱す。


「……無駄に粘るな」

「いきなり現れて滅茶苦茶言うな!」


 迫る第二撃を剣で弾き返し、攻撃に転じようと踏みこむが、蒼野が攻撃するよりも早く少年の攻撃が割り込んでくる。


「お前……」

「好き勝手に暴れすぎ!」


 それでも二本の剣が衝突する音を察知し優と聖野の二人が炎を飛び越え挟撃を仕掛ける。


「…………紫流残火」


 炎を纏った剣の刀身に掌を滑らせ過剰な炎がまとわりつき、優と聖野目がけ振り下ろされる。

 それは敵である聖野と優に当たることはなかったのだが、刃が通った道に炎の帯が現れ、聖野と優の行く手を阻む。


「こんなもの!」


 とはいえ優は水属性の使い手ゆえ炎を消すだけならば苦労はしない。そのため謎の少年の如く水を鎌に纏わせ炎を帯を消して優が接近するのだが、


「……邪魔だ」

「んぐっ!?」


 少年は焔の帯が掻き消え優が接近しようとした瞬間には既に彼女の目の前まで迫っており、優の首を鷲掴みにして、炎の帯を迂回して現れた聖野に向けて投げ飛ばす。


「クソッ、射線が!」


 そうして投げ飛ばされた二人の先にいたのは、密かに機を伺っていた康太だ。

 彼はこちらに対し絶えず警戒心を向けていた男の隙を探していたのだが、目論見は少年にばれ、援護射撃をするための射線を、僅かな間だが仲間の体で遮られる。

 

「……さて」


 そうして男は、


「……これで一騎打ちだ」


 古賀蒼野と再び相対する。


「………………なぁ、一つだけ聞かせてくれ」


 四対一でも一切引けを取らぬ相手との一騎打ちという絶望的な状況。

 自分が狙われているというのならば、命がけで逃げなければならない状況で、


「あんたは、何で俺を殺したがるんだ」


 それでも蒼野は、これまで浴びた事がない程鋭い殺意を自らに飛ばしてくるこの男に、そう聞かずにはいられなかった。


「…………」


 受けた言葉に動揺したわけではない。そうではなく思案するために男はほんの一瞬足を止め考え、


「……死にゆく貴様に話す意味はない」


 そう突き放すように言いきって飛びだした。


「そうかよ!」


 打ち勝つのではなく防ぎきるために剣を構える蒼野に、紫紺の炎を纏った剣が襲い掛かる。

 迫る炎の熱気で、呼吸をするだけで喉が焼ける様に痛む。

 剣を握る両腕が繰り返される衝突に悲鳴をあげ掌に血が滲む。


「っ!」


 このままでは押し負ける


 脳裏に浮かんだ結末を覆すため勢いよく前に踏み出し攻勢に転じようと画策するが、


「……下らん」

「うっ!」


 男が一歩前に出るだけで、蒼野が踏み込むスペースが失われ、体を押し込まれる。


「まだだ!」


 声をあげながら自ら吹き飛ばされ、風属性を用い空中で転身。

 その後一呼吸で名も知らぬ少年に迫り風属性を纏った息もつかせぬ連撃を繰り出すが、現状を打破することはできず、


「……そこだな」


 逆に大ぶりの一撃を躱され、顕わになった腹部を斬り裂かれ鮮血が溢れる。


「ぐ、がは!?」


 腹部の傷から内臓が溢れそうになり、それを抑えようと抵抗する蒼野の顎部を少年が蹴り飛ばし、蒼野の体が宙を舞い仰向けに地面に衝突。


「蒼野!」

「……古賀康太、貴様!」


 少年が蒼野に止めを刺そうと近づいてきたところで、炎の波を飛び越えてきた康太が現れ、鬼の形相で撃ちだされた跳躍弾が少年の右肩に右脇腹、加えて右太ももに直撃する。


「うらぁ!」

「……ちっ!」


 片膝をついたその状況を好機と捉えた康太が、腹の奥に溜まった怒りを吐きだすかの如く叫び、男の頭部を蹴り飛ばすがそれは剣の柄で防がれ、脚を掴まれ投げ飛ばされる。


「……飛炎斬」

「あぶねぇ!」


 体勢を崩し、飛んでくる炎の斬撃の姿を視認することはできないにもかかわらず、康太は容易く躱し地面に着地。


「……やはりその勘が最大の障害となるか。邪魔をするな古賀康太」

「俺の事を知ってるのか。それに直感の事も。蒼野の事も知ってる様子から見るに、俺達全員の情報を知ってるのか?」

「…………」

「ま、答えたくなけりゃいいさ。気色の悪いストーカー野郎が!」


 罵声と共に放たれた銃弾は少年ではなく地面へと衝突し爆発。熱によるダメージは一切ないが、全身を襲う衝撃に体を強張らせる少年に、康太が突撃する。


「なら、こう言うのはどうだ!」

「……貴様」


 二丁の拳銃の銃身を駆使し、普段は見せることのない打撃戦に持ちこむ康太。

 時折銃の発砲を交えたその体術は謎の少年の知らぬ者で、優との日々の喧嘩で鍛えられたその技術は男との近接戦を互角に行った。


「時間稼ぎサンキュー」

「クソ猿にしてはやるじゃない!」

「うるせぇよ! 減らず口叩く暇があったら手を動かせ」


 その結果聖野と優の二人が戦線に復帰する時間を稼ぎきることに成功。


「紫炎……装填」


 それでも、少年に焦りは見えない。自らの得物である漆黒の剣に今度は一際大きな紫紺の炎が宿り、刃は怪しく揺れる。


「…………邪魔だ」


 迫る三人に向け、ただ一度だけ横一文字に振り抜く。

 斬撃と共に放たれた紫紺の炎は三方向から迫る三者を飲みこむ程の射程で後方へと吹き飛ばすと、近くの民家や工場の壁に衝突させる。


「嘘だろ」


 自らと同じ姿形の男が行った行為に蒼野が呆然とする。

 自分よりも強い三人が蹴散らされたという事実からか、それとも自らの死が迫っているからか、迫る死神を前にしても体はピクリとも動かない。


「…………貴様に罪はない。私怨だとわかってもいる。だが死ね古賀蒼野」


 蒼野の前に立ち剣を大上段に構え、振り下ろそうと力を込めたところで、


「テメェ……俺の部下に何やってんだ?」

「……!?」


 パペットマスターと戦っていたはずの原口善が彼らから数百メートル離れた位置に現れる。


「善さん!」


 その場に現れた男の姿を見て、民家に埋もれたまま動けない聖野が叫ぶと、少年は急いで刃を蒼野へと振り下ろすが、


「馬鹿が。んなもん当てさせるわけねーだろ」


 数百メートルの距離を瞬時に詰め、振り下ろされた刃が蒼野に届くよりも早く少年を無造作に蹴り飛ばし、無数の民家を突き抜け町を覆う壁にその身をめり込ませる。


「全く、まさか暗殺者が正面から堂々とやってくるとはな……狙いは誰だ。康太か、優か、蒼野か、聖野か?」

「…………原口善」

「なぁ、ゼオス・ハザード」


 その時、少年は自らの名を呼ばれ、善を忌々しげに睨みつけた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日分更新だったのですが、いかがだったでしょうか?

これまでになく戦闘描写を盛り盛りであった回だと自負しています。


これはこれまでの戦闘の中でも割かし近い実力差に存在同士だからできた事なのですが、

作者個人としては苦労もありますがやっていて楽しい回でもありました。


それと、今回の話の最後でこの謎の少年の名前が出ましたね。

彼がこれからこの話にどうかかわって行くか、見続けていただければ幸いです。


それと、一昨日の時点でお伝えするのを忘れていたのですが、もしパペットマスターが気に入ったのでしたら、感想や評価をぜひ。


それが増えてると単純にかなりうれしいです!


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