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3月22日 19時30分


「むっ!」


 アイビス・フォーカスが手にする球体が膨張するのと同時に眩い光が溢れ出し、シュバルツ・シャークスの視界を塞ぎ世界が七色に変化する。

 不意打ちをされても何らおかしくないその状況にシュバルツ・シャークスは警戒の色を濃くするのだが、彼の想定した事態は起こる事なく、閃光弾などが放つ光とは種類からして違う、まさしく世界を変えるための光が掻き消え、


「これは…………」


 彼の視界に作り替えられた世界が映しだされる。


「夢双領域――――――」


 シュバルツ・シャークスにアイビス・フォーカス。そしてシャロウズ・フォンデュ。

 彼らの周囲に広がるのは、いや世界を満たしているのは果てなく続く黒い海。

 至る所には満天の輝きがあり、シュバルツ・シャークスとシャロウズ・フォンデュは彼女が作りだした世界に息を呑み、そんな中で彼女は呟く。


「星の海」


 その意味を二人の男はさほど考えるまでもなく理解する。

 自分たちが今存在している世界は、母星ウルアーデを包むようにどこまでも広がる宇宙に極めて近しいものなのだと。

 奇しくもそれは規模や形は違えど、ガーディア・ガルフがクライシス・デルエスクと戦った時に味わったものと類似している形であった。


(いやしかし、これはどういう事だ?)


 だが彼らは即座に断言できるような勢いで答えを導き出したにもかかわらず明らかに違和感を抱いていた。というよりその違和感こそがこの空間を宇宙を『再現した』ではなく『近しい』ものだと考えた理由。

 単純に言ってしまえば星の数と距離がおかしいのだ。


 星の数は写真や映像で見た事があるものよりも遥かに多く感じ、大小様々なのは当たり前なのだが、それにしても距離が近すぎる。

 それこそ彼らの周りには様々な大きさの球形が漂っており、あまりにも現実味がない光景に恐怖や高揚感よりも先に疑問符が浮かんだ。


「夢双領域は使い手にとって最適の空間を作り上げる最強の普遍能力。別に宇宙を望んで作ったわけじゃないわ」

「ならばこの空間をどう捉える?」

「簡単な話よ。あたしが全力を発揮するには果てしなく広い空間が必要で、攻撃のためのエネルギーや道具に使うためには巨大なエネルギーの塊が必要だった。その形をイメージしたら」

「宇宙を土台にした空間が最適だった、か。なるほど道理だな」


 紡ぐ言葉に合いの手を入れ頷くシャロウズに同意を示すアイビスだが、シュバルツ・シャークスは内心穏やかではない。

 何せいま彼女は間違いなく口にしたのだ。


 この世界は自分のためにあり、数多の星は自分が使うための武器であると。


「シュバルツ・シャークス」

「!」


 彼の頬に一筋の汗が流れ、心臓の鼓動が徐々にだが早まっていく。

 そんな中で彼女は男の名を呼び、


「知っているかもしれないけど先に謝っておくわ。ごめんなさいね。領域の中は基本的に外部とは別世界。だからこの世界にエヴァ・フォーネスが貼った結界の効果は発揮されない」

「…………それで?」

「例え貴方が神器から手を離して死にかけても、戦場からは離脱できない。だから貴方はここで惨たらしく死ぬしかない。そんな結末を貴方ほど強く高潔な存在に迎えさせてしまうんだもん。謝罪の言葉くらい言わせてもらうわ」

「そうかい!」

 

 他の誰かならば決して言えないような傲慢な言葉を口にして、それを聞き彼は苛立ちと興奮、それに嬉々とした感情をごちゃ混ぜにしながら駆け出した。



「ぬ、うぅ!?」

「ここまでね」


 左腕が無くなった事で全ての四肢を失い、天使が痛みと出血に耐えきれず大地に崩れ落ちる。


「おの、れ。その変化は卑怯だろう!」


 既に手にしていた神器を腕と共に失くしていた初老の強者はここに至りなおも意識を残しており、必死の抵抗とばかりに頭をあげる。


「…………」

「んぐっ!?」


 がしかしそんな彼の頭部に血で染まった革靴が押し付けられついに男は意識を失い、戦場に立つ資格を失い光を放ちながら退場していく。


「レイン!」 


 友の凄惨な姿と退場を見届け、ノア・ロマネが悲鳴に近い声をあげる。

 その後彼は視線を僅かに上げるのだが、そこにいた者、すなわちアイリーン・プリンセスの様子はこれまでとは全く違う。


 真っ白な服はかつてないほど血で染まり、白目の部分は真っ赤に染まり、左頬から口の端にかけてはまっすぐに黒い線が数本引かれている。

 いやそのような変化は頬だけではない。

 真っ白な手袋を外した手の甲には顔と同じような黒い線が敷かれており、その姿から体中に同じような線が敷かれているのではないかと彼は推測した。


「全くずるいよなぁお前は」


 そんな彼女の背後から悠然とした足取りで近寄ってくるのは、数多の魔獣を従え、自身の周りをメタルメテオで固め、戦場を支配するエヴァ・フォーネス。

 彼女は自らに敵はいないとでも言うように堂々とした足取りで近づいてくると、普段の彼女が備えている温和な瞳を殺戮者が見せる冷ややかで鋭いもにに変貌させている戦友の側に立ち愉悦の声をあげる。


「私でも引くぐらいの殺戮力を持ってるくせに普段の物腰やら口調、それに外面の良さから『聖女』なんて呼ばれてやがる。なぁ参謀長殿」

「…………なんだ?」

「今のこいつを見てお前どう思う。『殺戮者』やら『暗殺者』なんて呼び方の方が合ってるとは思わんか?」


 語る彼女は心底楽しげで、その醜悪さにノアは怯む。


「エヴァ」

「お、なんだなんだ。気を悪くしたか? だがまあお前の力を知ってる身としてはな、このくらい言わせてもらわなければ」

「そうじゃないわ。貴方すぐにそこから移動しなさい」

「な…………にぃ!!?」


 がその瞬間、戦況が大きく動く。

 それは本当に突然の事であった。

 エヴァ・フォーネスの周囲にいるメタルメテオが勢いよく向きを変えたかと思えば剣を構え、動揺する幼女の肉体に勢いよく突き刺したのだ。


「い、一体どういう事だこれはぁ!」


 突然の事態に声をあげるエヴァ・フォーネスにため息を吐くアイリーン・プリンセス。


(よくやった三賢人!)


 この事態が起きた真相。それを語るために時は戻る。


 そして


「来たか『果て越え』」

「君が最後の守護者とは驚いたよ。久しいなヴァン」


 神の居城最上階前、ここまで昇りきったガーディア・ガルフは今、最後の障害たる生き字引きの竜人と相見えた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


戦場確認フェーズその2。

ここから戦いは第三段階へ。

多くの戦いが起き終わってきた戦いは佳境を迎えます。


第一は戦場を大きく変化させるメタルメテオサイドの真実へ


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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