果てに立つ者達の饗宴 三頁目
ガーディア・ガルフを打倒する方法があるとしたらそれはどのようなものであるか。
この問いに対し多くの者は答えを出せず口を噤むのだが、シュバルツ・シャークスは自信を持って答える事ができた。
その答えは実にシンプル。攻撃を当てればいい、という聞けば誰もが空いた口が閉じれなくなるものであるのだが、このような答えを返すのには理由がある。
というのも幼い頃に彼に勝利した事があるシュバルツ・シャークスは、果て越えと呼ばれる男が速度や技術こそ尋常ならざるものを備えている事は知っていたのだが、同時に肉体の強度に関しては常人の域を超えてはいない事も知っていた。
だからこそ男は適性があったという理由もあれど肉体を鍛え続け、それこそ指一本でも触れさえすれば彼を打倒できると豪語できるまでの剛力を備え、あらゆる攻撃に耐えきれるだけのタフネスも得た。
ただやはりどれだけ鍛えても己一人ではできる事にも限界があり『攻撃を当てなければならない』という彼を打倒せしめる条件を満たすことはできなかった。
そこで彼は名案を浮かべた。
すなわちそれが自身の攻撃が当たるよう援護する味方の作成である。
「捕えたぞシャロウズ・フォンデュ!」
「シュバルツ・シャークス貴様!」
「この練気はっ!」
だからこそシュバルツ・シャークスの背後で控えて戦いに参加していた練気の塊、いわゆる『化身』には、二大宗教最強戦力たる二人が考えていたような仰々しい能力は存在しない。
ただシンプルに、主が倒すべきと感じた相手に攻撃を当てるまでの道筋を繋ぐ役割として作られているのだ。
「まずはシャロウズ・フォンデュ。さて後は君だけだぞアイビス・フォーカス!」
そのよう思想を抱く男の一撃が賢教最強にして聖騎士と呼ばれていた男の肉体へと深々と突き刺さる。
その一撃の威力は凄まじく、体を守るために来ている鎧が神器である事など関係ないという様子で粉々に砕いていた。
「残念だけど」
「!」
「ちょっと油断したわねシュバルツ・シャークス!」
がしかし先程まで彼が纏っていた神器の中身は空洞であり、その結果届いた攻撃には大した手ごたえはなく、対象となる人物は既に刃が届く範囲から逃れていたという結果に終わり、
「すまない。鎧の神器を失った。これからは斬撃の余波でさえ受けるわけにはいかなくなった」
「ま、仕方がないでしょ。むしろ分からない事だらけの初手を生き延びられたんだから御の字よ」
二人の最強はシュバルツ・シャークスが見つめる先で肩を並べ、事態は再び最初の状況へと戻っていく。
(むぅ。困った)
こうなれば困るのはシュバルツ・シャークスである。
というのも彼は口にこそしなかったが自身が徐々に追い詰められていく事になるだろうことを自覚していた。
目の前の二人は確かな対応力を備えており、時が進むごとにこちらの手を解明し劣勢を覆してくる。そう考えていたのだ。
「いやしかしだ…………ここで押しきれば問題ないな!」
ただそのような感想を抱くのと同時に自身が以前優勢なのも理解しており、彼は自身の練気で作りだした『化身』とでも呼ぶべき存在に指示を出し、前進する自分にそれは追従する。
「さぁて次はどうする!」
アイビス・フォーカスはともかくとしてシャロウズ・フォンデュの手札はかなり削いだ。
ゴロレム・ヒュースベルトから情報提供をしてもらっている彼らは、聖騎士と呼ばれる彼が四つの神器を所持している事を知っており、槍と鎧はその中でも使用頻度が高い事を知っていた。
「駆けよルル!」
「それが世にも珍しい生物型の神器か!」
それらが使い物にならないとなれば残された手段はさほど多くなく、鎧の神器と一体化していた盾を構えながらシャロウズは声をあげ、迫るシュバルツ・シャークスの射程内から離れるようにどこからともなく現れた馬にまたがった。
「広い範囲は奴の行動範囲を無駄に広げるだけであるように思えたが」
「ええそうね。あんなデカい練気を相手にするにはこの部屋じゃ狭すぎる!」
そのまま少々離れた位置にいるアイビスを自身の後ろに乗せると広いとは言い切れぬ部屋の床や壁、それに天井を神器の馬は駆け巡り、シュバルツ・シャークスがそれを追う。
「ハハッ!」
「ちっ!」
「いくら何でも早すぎでしょ!」
そんな彼の追跡力というものはやはりガーディア・ガルフを想定して鍛えているだけあって破格のものであり、縦横無尽に動く存在にほんの数秒で追い付くと、振りかぶった刃を振り下ろす。
「頼んだぞ!」
「任せなさいな。てかこの空間なら間違いなくあたしの主戦場よ!」
それが躱しきれるものではないと瞬く間に理解するとシャロウズは飛び降り、鎧の神器が残していた盾を構え、自身がここで砕け散ることさえ考慮してシュバルツ・シャークスへと特攻。
振り下ろされる現代に生きる者では発揮できない威力の斬撃を己が肉体に張り巡らされている全細胞を注ぎ受け流し、
「戦場を移すわよ!」
僅かな隙を逃さず詠唱を終えた彼女は両の掌の間に作りだした様々な色を放つ球体を広げながらそう宣言。
世界の景色は全く別の物に様変わりした。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VSシュバルツ・シャークス。ここから先はお姉さまことアイビス・フォーカスのターン。
彼女が自身の主戦場たる世界で大暴れとなります。
その様子は次回で!
そして同時に話を一つ先へと進めようと思います
それではまた次回、ぜひご覧ください!!




