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果てに立つ者達の饗宴 二頁目


 シュバルツ・シャークスから溢れ出た青い練気が彼の背後に集まり始め、不定形な状態から変化していく。

 その光景を前に完成を阻止するため動くべきかと考えていた二大宗教の切り札たる二人であったが、その考えはすぐに捨てた。

 不用意に手を出しその隙を狙われる事を嫌ったゆえだ。


「ガーディアの奴は単体で」

「「!」」

「ゲゼルの奴は戦場にいた他の奴ら全員を踏み台にして攻略したものだ。さて君達はどうかな?」


 期待を込めた様子で語る彼の背後で、床から天井まで届く範囲まで広がっていたで練気が形成するもの。

 それは四本の筋骨隆々な腕に強靭な二本の足を備え、鬼のような形相を顔に張り付けたまさしく修羅と呼ばれる存在である。


「固定型!」

「なんでしょうけど…………」


 『放出型』に『装着型』に並ぶ練気三つの基礎系統、それが今しがた白銀の鎧に身を包んだシャロウズが口にした『固体型』だ。

 ミレニアムの推進力移動やレオンの斬撃のようにほんの一瞬溢れさせ移動や攻撃に利用する『放出型』。

 自身の体に纏い、気体・液体・固体、範囲や規模を比較的自由に変更できる特徴を備え、幅広い活躍が見込める『装着型』。

 この二つと並ぶ基礎系統が『固体型』だ。

 その特徴は文字通り物質の固体化。

 ただこの固体化というのは『放出型』と比べ一長一短の特徴を備えており、まず第一に『装着型』と違い固体となった練気は物は自由に液体・気体へ変化させることができない。

 これができるのは常に体に纏って自由に操作できる『装着型』ゆえであり、『固体型』が同じことをしようとした場合、変化させたい対象に触れて指示を出す必要がある。

 この点は明確なデメリットであるのだが、大きなメリットとして『固体型』は他二つと違い、体から離れた位置にも固体化した自身の練気を作ったり設置したりすることができる。

 これにより足場や罠。他にも投擲武器として使用でき、しかも練気は粒子と違い使用者の闘志が尽きぬ限り無限に使えるため、取り回しがきく。

 熟練者ともなれば様々な形に変化させることが可能で、なおかつ固体化した物質の硬度も自由に操れるため、他二つの基本系統以上に使い手の腕が試される型となっている。

 

「ここまでの規模のものは初めてね」


 とはいえ練気は神器に無効化されないという大きなメリットはあれど、基本は能力程優れた性能はしておらず、無限に使えるとしてもその出力は限られている。

 であるからこそ彼らは対峙しているのが決して負けられない敵対者と理解しながらも、見た事もないでたらめな出力と固体としての完成形を前に吐き出す息に賞賛の念を込めてしまう。


「では…………」

「来るか!」

「応とも! 征くぞ!!」


 そんな彼らの不意を突くこともなく十分なためを作り、片膝を曲げ神器の剣先を地面に触れさせ、体を前に傾けるシュバルツ・シャークス。

 彼は自身の声に反応したシャロウズが盾を構えアイビスも臨戦態勢になったのを認識すると掛け声と共に勢いよく前へと飛び出し、それに続くように青い練気で作られた巨大な修羅も動き出した。


「あの巨大な練気の意図はまだ読みきれないけど」

「ひとまずはこれまで通りの対応だな!」 


 敵はガーディア・ガルフを除けばここ千年のあいだで最高位の存在。

 そのような相手ならば一つの練気に二つ以上の効果を含ませられる可能性も大いにあり、目に見えるものだけが全てではないと認識しながら、二人は先に迫るシュバルツ・シャークスへの対応へと意識を注ぐ。


「ハァッ!」

「フン!」


 これまで通りアイビスが後ろに下がりシャロウズが円形の盾を手に前に出る。

 するとそんな彼の動きが自身の挑戦に応じるという意味であると考えたシュバルツ・シャークスが刃を振り下ろし、シャロウズが盾で流す。

 それは瞬きほどの間に一回のみならず二千回ほど続き、床がボロボロに砕け、シャロウズが後退するのと同時に元の状態まで再生。


「ここで来るか!」


 体勢を整えなおし追撃に備えようと彼は考えるのだが、そんな彼の行く手を阻むようにいつの間にか背後にいた修羅が手にしていた剣で彼へと攻撃を仕掛ける。


「しかしだ」


 四本の腕のうち二本の腕を使い行われる攻撃は激しい。

 それこそ並大抵の戦士ならば成すすべなく蹂躙され、『万夫不当』や『超越者』の位にまで昇った者でもかなり手こずると考えられた。


「侮るな!」


 だが修羅が今現在対峙しているのは並大抵でもなければ『超越者』の中でも更に上澄みの存在シャロウズ・フォンデュである。

 剛力かつ技術に富んだ彼ならばその程度の攻撃を捌くことはわけなく、返す刀で鋼属性を固めて作った投げ槍を投げ飛ばし、修羅の顔面を瞬く間に貫いた。


「止まらない。いや、そもそも攻撃に意味がないのか?」


 しかし人間ならば致命傷に違いない攻撃を受けても、彼へと挑みかかる練気の塊は止まらない。

 投げ槍がぶつかった顔面は霞のように消え去ったかと思えばすぐに元の形に戻り、何事もなかったかのように動き続けている。


「聖騎士殿!」

「!」


 この固体型がどのような意図で作られたのかわからない。


 そのような困惑が彼の動きを一瞬だが止めるのだが間髪入れずアイビスが声をあげ、意識を真正面に向ける。

 するとそこには己へと向け剣を構えるシュバルツ・シャークスの姿があり、彼は盾を手にする右腕に力を籠め、


「なっにぃ!!?」


 そのタイミングで別の方角から修羅が手にしている刃を用いた攻撃の嵐が降り注ぎ、防がなければ直撃すると察したシャロウズがそれらを左手で叩き落とし、


「そこだ」


 そちらに僅かでも意識が向かった一瞬をつき、一撃必倒の刃が撃ちこまれ、


「せいき――――シャロウズ!」


 防ごうと考え動き出したアイビスの抵抗も修羅の残った二本の腕が全て阻み、刃は彼の体に吸い込まれるように進んでいき、彼の脇腹を深く抉った。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


シュバ公練気発動回です。この力の意図については次回伝えられるかと思うのですが、本編で語っていなかった事について少々説明を。


今回練気について説明をさせていただきミレニアムやマクドウェル(レオン)殿を例に出しましたが、他の者についてあてはめると、


ブドーは放出と固体の二種類を高レベルで習得。基本一つの型を極める傾向にある中でこれは結構なレア。なおかつ彼がどれだけ練気の扱いに向いているかを示します。


善の場合は装着型が一番近いのですが、明確なビジョンとして他者に纏わせることを意識していたため、装着型の派生となります。これまた割とレアです。


で、一番レアなのが先日初登場した那須鉄子の持つ対象を限った上での未来予知染みた観察眼。基本型に一切属さず、全く別の方向に伸ばして昇華した形ですね。


なお出力に関してはシュバ公がダントツです。放出型のお株を奪っています。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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