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果てに立つ者達の饗宴 一頁目


 強くなればなるほど危険という物に対する感覚は変化していく。

 油断慢心から鈍化していくわけではない。

 あらゆる危険に対する判断力が研ぎ澄まされ、向かって来る攻撃が自身にとってどれほど危険かの識別ができるようになってくるのだ。

 言うなれば戦慣れすることで培われる観察眼であり、同時に対処する力も向上させることで、判断力と実力を兼ね備える事で、強者は大半の攻撃を対処できる『安全』なものに変化させるのだ。


 鎧の神器で全身を包み隠し世界最強クラスの攻撃力を兼ね備えた賢教最強シャロウズ・フォンデュ。

 文字通り不死身にして世界で最も多彩な攻撃手段を備えている神教最強アイビス・フォーカス。


 彼らはそれらを最も高めた存在であり、あらゆる攻撃を『安全』に対処できると言いきれるだけの実力を備えていた。


「ふん!」

「っ!」

「もどかしいな!」

「ええ。生まれて初めての感覚かも!」


 そんな両者が戦闘開始から今まで、絶対に真正面から対応してはいけないという感覚に襲われ続けている。

 しかも多彩な攻撃に対してではなく、たった一本の武骨な大剣を前にしてだ。


「どうしたどうした。もっとせめて来ないのかいお二人さん!」

「好き勝手言ってくれるわねホント!」

「それをさせないようにしてるのは自分自身だというのにな!」

「それを超えてくる事を期待しているという事だよ!」


 シュバルツ・シャークスが行う攻撃は実に単純。

 鍛え上げられた腕で剣の柄を握り、渾身の力で振り抜く。

 それを成しえるために途中途中で水属性やマントを使った様々な手を打ってくる事はあれど、恐ろしいのは口にすればあまりにも単純だが、ただの斬撃である。


 がしかし単純ゆえに恐ろしい。


 彼は攻撃をする際にエヴァ・フォーネスのように魔法陣を展開する必要はなく、アイリーン・プリンセスのように一々武器を取りだすこともない。

 ただ手にしている神器を己が膂力で振り回すだけなのである。


 しかしそれだけの行為で振りだされる一撃は隕石級だろうが惑星級だろうがどのような攻撃でも退ける盾となり、敵対者に振り抜けば究極といっても過言ではない矛である。


「っと。そこだ」

「退け不死鳥!」

「っと。サンキュー聖騎士様! ああでもやりずらくてイライラする!」


 加えて言えば二台勢力の長とシュバルツ・シャークスの相性も良くなかった。

 彼らは文字通り規格外の強さを備えてはいるものの、武器の強さや備えている粒子量の多さ、それに他者にはない特殊性がその強さに結びつくところが大きい。

 決して苦手とするわけではないのだが、単純な技量でいえば最高位であるレオンや善と比べれ一段階落ちるのだ。


 そしてそのようなタイプの輩はシュバルツ・シャークスという男を最も苦手とする傾向がある。


 なぜならどれだけ強い武器や硬度の防具であろうと神器砕きを容易く成しえる彼の前では意味を成さず、どれだけ多くの粒子を注いだ攻撃を行おうとも、ただ腕を一振りするだけで砕かれる。ないし振り払われる。

 様々な特殊性も能力であるのならば神器で無効化され、属性にしても高い態勢と身体能力を備えるシュバルツ・シャークスは真っ向から乗り越えて来る。


「ハッハァ!」


 ただ大地を蹴り他の者同様に駆けるだけでその力強さから足場は砕け、構えるだけで発せられる闘気の密度と圧に目を見張る。


 シュバルツ・シャークスは言うなれば先に述べたレオンと善が辿り着くかもしれない到達点に座している存在で、そのような相手と戦うのは彼らとて初めてだったのだ。


「むんっっっっ!!」

「不死鳥!!」

「そこぉ!」

「っと。危ない危ない!」


 しかしである。

 ここまで二大宗教を代表する二人が劣勢を強いられることを記してきたが、では彼らはなすすべもなく敗北するしかないのかと言えば別である。

 というのも今彼らは凄まじい速度で目の前の『天災』という言葉を遥かに凌駕する、言うなれば『厄災』とでも言う存在に『対応』して見せていた。


「流石は現代最強格の二人!! いい腕をしてるなぁ!」

「その減らず口ももうすぐ聞けなくなると思うと残念ね!」 

「はっはっは! 言うじゃないかアイビス・フォーカス!」


 戦闘開始から最初の十分は彼らが最も苦労をした時間であった。

 なにせ先ほど説明したように彼らがこれまで築いてきた『強さ』の大半を真正面から否定し捻り潰せる存在が相手なのだ。どんどんのしかかる重圧もあり肉体以上に心が削られ、回避に徹していたアイビスは無傷で済んだが、前線で戦っていたシャロウズはこの時点で攻撃専門の槍の神器『賢者の武器』アルマテスを半壊。攻撃をアイビスに任せる事になり、自身はシュバルツ・シャークスの猛攻を受け止める盾となる事を選んだ。


 ただ攻守の役割を決めたためか初めてコンビを組んだにも関わらず彼らはむやみな衝突を起こす事はなくなり、それから更に十分。

 押され続ける時間は変わらず続いたのだがシャロウズは他三つの神器を失ったりすることはなく、アイビスにまで攻撃が届くことはほぼなくなった。

 それからの時間はどのような攻撃が届くのかをアイビスが試す事になり、


「これならどうよ!」

「!」


 戦闘開始から四十五分経過した時点で、刃による迎撃と伸縮自在なマントの守りを抜け、神教最強の放った途中で軌道をガラリと変える不可視の弾丸がシュバルツ・シャークスの脇腹を掠り、


「イイな」

「「!!」」

「すごくイイな君達は!!」


 劣勢の立場から一時間もかけず自分にまで刃を到達させ、そこから更に自分を追い抜こうと画策する。

 それを成しえられる可能性が確かに存在する二人に対し素直な賞賛を送り、自身の体から原口善同様に水属性に優れている事を示す青い闘気を大量に放出。


「ちょっとちょっとおかしいでしょ。あたしら二人掛かりで押しきれないどころか互角なんてどーいうことよ!!」

「無駄口を叩いてる暇はないぞ。この圧力、かつてないものだ!」


 慌てた二人が自身の体から溢れさせた闘気で弾こうとするも互角に持ち込む事がやっとであり、


「少々尊大な言い方になってしまって申し訳ないとは思うんだがね。光栄に思ってほしい!」

「「!!」」

「ガーディアの奴意外じゃ、ゲゼル以外には使った事がない私の練気術だ!」

 

 その均衡も長くは続かず押し返したかと思えば練気は様々な異名で呼ばれる彼の背後に集い、具体的な形を成していった。


 こうして彼らの戦いは新たな段階へと進んでいく。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ついに始まりましたシュバルツVSアイビス&シャロウズ

今回の話はギャン・ガイアやらゴロレム・ヒュースベルトの戦いが行われている裏側。言うなれば現時点に到達するまでのダイジェストです。


今回の話で語られる通りシャロウズ・アイビスとシュバ公の相性は最悪で、その点で言えば善やレオン殿の方がやりやすいところでした。


ただまあここで粘れるのが最強格たるゆえんで、逆にこの二人以外が同じことをしようとしてもまず無理です。

基本スペックの暴力過ぎて対応する時間ができず、なおかつそれを成しえるだけの手段もないわけです。


そんな二人に対し次回からはシュバ公渾身の一手が立ちふさがります。

お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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