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終わりと崩壊と 三頁目


「…………これを貴様に渡しておく」

「あぁ? 何だこのちっこいのは?」


 時はほんの僅かに遡り数分前。

 デリシャラボラスがギャン・ガイアに蹴り飛ばされてすぐの時点にまで遡る。

 僅かなあいだに積と相談をしたゼオスは動けぬ状態の竜人族の青年の場所にまで移動し、巨大な彼が見つめられるよう瞳の側に近寄り、その上で手にしていた物を彼に見せる。


「…………古賀康太が俺と原口積に渡した攻撃型の神器だ。効果は込めた粒子を決まった形に展開すること。今の状態ならば炎の推進力により突破力を底上げした鋼の剣だ。

 俺と奴の残された粒子の大半を注ぎこんだ今の状態なら巨体の貴様でも掴める程度の大きさにはなっているはずだ。これを使い大きな隙が生まれるであろうギャン・ガイアを貴様が仕留めろ」

「は、はぁ!?」


 その物体を疑問を抱きながら見つめるデリシャラボラスに説明をするゼオスだが、その内容を聞き彼は戸惑いの声をあげる。

 だがそれも当然のことである。

 三つのタイプの中では他二つと比べれば気軽に手渡す事ができる攻撃型の神器だが、当たり前だが渡す相手というのは誰もが慎重に選別する。

 何せ手渡された相手は問答無用であらゆる能力を無効化することが可能になり、攻撃型神器のばあい神器一つにつき必ず一つは付与されている能力をある程度ならば使用が可能になるのだ。


「テメェ正気か。オレサマに渡すリスクとかは考えてねぇのか?」


 万が一誤った者に渡してしまった場合、その損害は計り知れない。

 となれば手渡す相手はある程度どころか絶大な信頼を置いている事が必須であるというのが一般的な考えであり、デリシャラボラスはゼオス・ハザードからそれほどの信頼を得ているという自信は身は露ほどもなかった。


「…………今はそれどころではない。奴を倒すためにはこれが最も適している。それだけのことだ」

「!」


 そんな思いを込めた言葉に対する答え、それは至ってシンプル。この状況で自分たちが勝利するための打算がそこには存在しているという事だ。


「……ついでに言っておけば貴様を『信頼』はしていないが『信用』はしている」

「あ?」

「…………貴様ならばここで俺達を裏切るより、ギャン・ガイアを倒すことによる名誉を得ると確信しているということだ」

「……………………」

 

 更にダメ押しというばかりにゼオスは数多の邪魔者に拘束され未だ立ち上がる事できない彼にそう告げると、手にしていた漆黒の剣に紫紺の炎を宿し、彼を縛る木の根や幹を斬り裂き、ギャン・ガイアは暴れまわる決戦の地へと向け駆け出す。


「…………ちっ!」


 その姿を見送った竜人族の青年には様々な思惑が胸によぎり、いくつもの選択肢が頭に浮かぶが、迷う事なく一つの答えを選び立ち上がった。

 それこそがゼオス・ハザードの言う通り、竜人族という種全体にとって最善であると確信を抱いて。




 思い返せば気付ける点は幾つかあった。

 この状況でゼオス・ハザードが木属性に有利な炎の利用をあまりしなくなった事。

 三人全員が神器の強力な能力を多用しなかった事。

 そして何より、神器を持っているはずのゼオス・ハザードがエヴァ・フォーネスが張った能力の影響を受け、この戦場から塵となって消え去った事。


「ぐっ…………」

 

 それらに微塵も気づかなかったことこそ彼の敗因であり、同時に彼は尾羽優に告げられた事により自身の欠点を自覚する。


「周りを見ていない、か」


 振り返ってみればいつも狭い範囲しか見ていなかった。

 何かを信じ、探求心の赴くかままに情報を集め、決して許せない事があれば牙を剥いた。

 他者の意見には一切耳を傾けず、信ずる者が良しとしたことこそ善であり他は悪であると断定した。


「フフ……………………誇りに思うよ」


 そんな自分の人生を、今の彼は胸を張ってよいものであると言いきれた。


 様々な悲しみがあった。

 様々な落胆があった。


 その結果暴走し世間から指さされる事が多々あった事は事実で、それに対し憤怒の念を抱いたことだって数えきれない事があった。

 振り返ってみれば良いことよりも悪いことの方が多かったのだろう。


 だがしかし彼は最後の最後に心から信用できる主に会えた。

 信じ続け後を追い、彼の言う通りに力を行使すれば絶対に良い世の中に導いてくれると確信を抱ける存在に出会う事ができたのだ。これ以上の喜びはない。


(まだだ。まだ終われない)


 そのような思考の彼が考える事は当たり前だが無論この戦いに於ける敗因などではない。

 こどうすれば主の役に立てるかだ。


(粒子崩し。分解と構成の魔術師。古賀蒼野に聖野という強力な面々。それにまだ残っている賢教を筆頭とした神器使い! 僕が倒さなければならない連中はまだ星の数ほど存在する!)

 

 彼の役目というのは既に述べた通りこの戦場で蔓延る強者達の駆逐である。

 そのために戦場のあらゆる場所に駆け付けその力を行使していたのだが、まだまだ駆逐しなければならない存在は多い。


(範囲は…………ラスタリア内部以外の全て! 残す位置は…………)


 そこまでわかっているのならば彼の選ぶ答えはシンプルで、彼は迷うことなくそのために残された全てを捧げる事を決意した。




「おい。こいつなんかおかしくねぇか?」

「え?」


 最初にその事実に気が付いたのはトドメを刺したデリシャラボラスである。

 彼は既に手放していた剣が僅かに揺れた事を認識すると近くにいる優に対しそう告げ、優の視線もギャン・ガイアに注がれる。


 すると確かに刺さった剣が蠢いているのが見て分かり、すぐに身構えるのだが未だ立ち上がらず自身の周りだけでなく目に見える光景全てが大きく揺れたのを認識し全てを悟り、


「まずい!」

「なにしやがるつもりだテメェ!」


 優とデリシャラボラスが声をあげ、残っていた他の面々も釣られて動くなり身構えるなりしたところで、


「消えてなくなれーーーー!」


 もはや指一本動かすだけ、いや口を動かすことでさえ体力を使うにも関わらず狂信者と言わ続けた青年は咆哮をあげ、僅かなあいだに地下深くに根付いていた木の根を利用し集めた大気中に溢れている木属性粒子。さらには体内に残っていた木属性粒子全てを吐きだし粒子術を発動。


「樹海生誕・怒涛!!」


 ラスタリアを囲む白亜の壁から外側全てに凄まじい勢いで強靭な木々や花々が大地を砕き現れ、


「きゃ!?」

「が、がぁぁぁぁぁぁ!?」


 優やデリシャラボラスだけではない。

 戦場で戦っていた全ての兵士を巻き込んだ大惨事が生じる。


「これでいい。これ、で、いい」


 その光景を見届けることなく瞳を閉じた彼は意識を朧気にするものの、自身が信じる主の勝利だけは最後まで信じ続け、自身が横たわる地面が割れた結果生まれた巨大な裂け目に呑み込まれ戦場から消えて行った。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSギャン・ガイアはこれにて終結!

ラスタリア攻防戦。二度目の革命戦争。

その展開に大きな亀裂を残しました。


こいつとパペットマスターを指して、自分の中では木属性使いは変態もとい狂っているという印象があります。

なお両者のエンジョイ度は天と地の差がある模様。


さて明日から23日までは以前に伝えた通り筆者はPCを使えない状況に陥ります。

なので次回の更新は25日となりますのでよろしくお願いします。


次回は新展開第一話!

新たな戦いの扉を開きましょう!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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