ギャン・ガイアという男 二頁目
(今のギャン・ガイアを打倒する方法なんて一つしかないだろ)
(……原口積、貴様にはこの状況を覆す方法が思い浮かぶと)
ゼオスが切り札を二人に開示してすぐ、彼らは僅かな時間でギャン・ガイアを前に念話を用いた会議を行う。
その内容は至ってシンプル、いま目の前で対峙している間違いなく過去最強の状態である狂信者の攻略法である。
それに対する案をゼオスと優は数十秒のあいだにいくつも提示したのだが、相手が出した案をもう一方が否定するという悲しい状況に陥っていた。
もちろんこれは相手を憎んでの行為ではない。それほど今のギャン・ガイアは強いと判断しての事であった。
戦いが始まってすぐに行われたほんの一瞬の交錯、その際に行われた打撃には普段ならば存在する隙はなく、尋常ならざる鋭さが宿っていた。
それらは一発撃つごとに的確に優とゼオスの動きを阻害し、そのことから凄まじい判断力を備えていたことも理解できた。
能力など使わずともそれだけの事を可能とする今のギャン・ガイアに対し、二人は切り札の存在を含んだうえで手にしている自分たちの手札を確認。
針の穴を10も20も通した上で成される勝利の案はどれも非現実的であり、やはり時間稼ぎに徹するしかないという結論が二人の頭を掠めたのだ。
がそんな二人の悩みを前にして、話を聞いていた積は何を迷うのだとでも言うような念話で割って入ったのだ。
(時間がないわ。単刀直入に言いなさい!)
念話の内容は繋いでいる者達同士にしかわからない。がしかしかつてない真剣さで戦いに臨むギャン・ガイアは念話による作戦会議などという抵抗を決して許さない。
とすれば彼らの邪魔をするのは当然の原理であり、大技を当てるための隙を作るために手足を用いた肉弾戦に加え視界の外にある根を利用し猛攻を仕掛け、善に師事してもらっていた優と、それに並び近接技能が優れているゼオスの二人を圧倒する。
(どこまで悟ってもよ、ギャン・ガイアである事には変わりないだろ?)
(?)
(最強状態のギャン・ガイアに勝てる案が浮かばないならその状態から引きずり降りてもらおうじゃないか)
「…………原口積。貴様なにを?」
そんな状態で発せられた積の発言は凄まじい勢いで行われる攻撃を捌き続ける二人の思考では理解しきれないものであり、念話などではなく素直な言葉としてゼオスの口から漏れて出るのだが、幸いにもギャン・ガイアは何の反応も示さず、意識をそちらに向けていることで動きが鈍っていたゼオスと優を蹴とばすだけにとどまった。
(ギャン・ガイアが一番優先する事は何だと思う?)
「「!」」
木の根の壁にぶつかり、そのまま復帰は許さぬと囚われそうになった状態を積が救い、そのとき必勝の意志を宿しニヤリと笑いながら投げかけられた問い。
それを聞き二人はこの戦いに確かな光明を見出した。
つまるところギャン・ガイアという存在はやはり異名通り『狂信者』なのである。
今彼は確かに生涯で初めて自分と同じ立場にいる人間に出会い、それを退けるために真剣になった。
しかし彼の思考の根本に存在するのはどこまで言っても主であるガーディア・ガルフに対する信仰心であり、それを成しえること、いや満たすことこそが第一の目的なのだ。
(僕の能力を無効化された! 原口積も神器を!? いや違う。古賀康太が持っていた神器が攻撃型だったのか!)
「ぶっ潰れろぉぉぉぉ!」
だからこそ彼は選択を誤る。
もし積達を確実に倒す事に専念して動いていたのなら、今のような事にはならなかった。
隙のない攻撃を続け自身の優位を守り続けていれば、備えているスタミナの差で彼は確実に勝利していたし、万が一不意を突かれて神器を使われていたとしても、十分に対処できるだけの実力差があった。
しかし彼はその道を捨てた。
三人に対する失望は確かにあった。
がしかしそれを抜きにしても彼は主の敵対者を退ける事を最優先に持っていき、彼らだけでなく外で足掻く邪魔者に対して意識を注いだ。
その結果が康太の持つ神器を手渡された積に能力を無効化され、続けて展開された鉄の盾の下敷きになるという哀れなものであった。
「!?」
とはいえ積の立てた作戦も完璧にうまくいくというわけではなかった。
康太がゼオスに渡した神器の箱の内の一つ。積の得意属性である灰色の箱。
それに康太では取り扱う事ができない量の鋼属性粒子を積は注ぎ、神器の能力により出力を大幅に増強させた状態で飛びだした鋼の盾は数百トンという尋常ならざる重量で彼を押しつぶし、肉塊とした上で身動き一つできないままこの戦争が終わるのを待つだけになるはずだったのだ。
「お、おぉぉぉぉぉ!」
「ウッソだろ!?」
「シュバルツ・シャークス以外であれが持てるの!?」
「見事だ。見事だ我が宿敵! 狙って行ったというのならば原口積のあの叫びは演技か!」
そんな彼らの想定を覆す咆哮が発せられ、彼の体にのしかかった巨大な盾が大きく揺れ、積と優の口からは驚きの声が漏れた。
どれだけ鍛えているにせよ、大陸を動かしたという伝説を持つシュバルツ・シャークス以外が数百万トンの重さに耐えることができるとは毛ほども思っていなかったのだ。
しかし現実問題ギャン・ガイアは己が四肢と大地から無限に吸い取っている木属性粒子で強靭な木の幹を形成し、それを真っ向から受けきっているのだ。
「錆びて砕けろぉぉぉぉ!」
「貸せ積!」
このままでは逆転される。
自身が出した鋼の盾が黄緑色の光に寝食されていく光景を前にして積の胸にはそのような思いが去来するのだが、その次の瞬間には二年以上共に戦ってきた少年のらしくもなく切羽詰まった声が耳を衝き、伸ばされた腕の意味を理解し手にしていた鋼属性の盾を展開する箱を投げつける。
するとゼオスは懐から出した箱、すなわち康太がゼオス用にと思い投げつけた炎属性の箱を取り出し、自身の炎属性粒子を大量に注ぐと躊躇なく合体させ、
「……来い!」
どのような形で出力されるのかまでは積にもゼオスにもわからない。
しかしこれこそが目前に控える怨敵を打倒しうる一手であると信じ、積が込めた鋼属性粒子とゼオスが込めた炎属性粒子の二つを使った箱を開封。
「や!」
「やった!」
その結果現れたのはゼオスが使う事を想定していたかのような一方に刃をもう一方に峰を備えた刀の形をした武具であったのだが、持ち主である彼の数倍の大きさを誇っていた。
「っ!」
が両腕と腰に負荷をかけながらもゼオスはなんとかそれを持ちあげ、
「……ギャン・ガイア」
「!」
「…………終わりだ!」
全身全霊の力を込めて、鉄の盾を凄まじい勢いで劣化させていくギャン・ガイアへと振り下ろし、そんなゼオスの意志に従うように、刀は峰からジェット噴射の如き勢いで炎を発し、
「ぐ、おぉぉ!?」
砕きかけていた鉄の盾にぶつかり、ギャン・ガイアに更なる衝撃を与えた。
「く、ハハ!」
「おいおいおいおい嘘だろ嘘だろぉ!?」
「まだ耐えられるの!?」
「見事だ。見事だ愛しき怨敵よ!!」
しかし大量の脂汗を流し両足を震えさせながらも彼は耐え続け、その口からは嬉々とした感情が伝わってくる声を発し、
「…………紫炎装填!」
負けるわけにはいかぬとでも言うようにゼオスは声高らかに己の技の名を叫び、持っていた巨大な剣の刃を包み込むように紫紺の炎を展開。
既にボロボロになっていた分厚く巨大な鋼の盾はその重みと熱に耐えきれず崩壊し、
「ハ…………!?」
その奥にあるギャン・ガイアの肉体を深々と抉った。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VSギャン・ガイア、クライマックスへ突入。
今回の話で開示されましたがゼオス達の切り札は康太が渡した神器『天弓兵装』の箱ですね。
本編では出て来ていませんが優も水属性の箱を持っています。
で、重要なのはこれが攻撃型の神器なことで、知っての通り能力無効の範囲は持っている本人だけなのですが、担い手以外でもその効果を発揮することができます。
ただゼオスの場合本来の担い手ではないので、発現する形までは分からないというデメリットはあります。
あとこれは二月下旬ごろの話なのですが、数日ほど家を空け、小説を書く時間も作れないかもしれないので、連続投稿をおやすみすると思います。
直前になったらまた告知する予定なのでよろしくお願いします
それではまた次回、ぜひご覧ください!




