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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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映し鏡の少年 一頁目


 これはとある星の物語。


 世界は粒子と呼ばれる物質で形成され、人々はそれを扱い自由に暮らしていた。


 木も水も大地でさえも自由に作りだせる彼らは、世界を支配していると言っても過言ではなく、やがテ人々はその力を用い文明を作りだし、同時にその力を誇示するようになる。


 そう、多くの者達がその力で自らの願いや欲望、信念を叶えるために戦いだしたのだ。


 ゆえに、この世界は財力でも科学、権力でもなく、力こそが正義とされ続けてきた。


 此度の物語は、そんな星で生きる二人の少年を描いたものである。




 迫る刃に、古賀蒼野は対応できない。

 弧を描き飛んでくる聖野を助けるための姿勢を取っていた蒼野は、仲間が飛んでくるという事態に意識を注ぎ、首元に刃が触れているのにもかかわらずそれを躱そうと動くだけの余裕がない。


「ぶっ!?」


 首元に触れた刃が押し込まれていく。

 口からは鮮血が溢れ服を汚し、鋭い痛みを感じた事で蒼野はやっと目の前に迫っている命の危機に脳内アラームが鳴り始めるのだが、今から体勢を変え首元を斬り裂いている刃をどうにかしようとしても、決して間に合わないことはわかっている。


「え?」


 だがその時、突如止まった刃を見て、蒼野が驚きの声をあげる。


「ねぇ」

「…………」


 蒼野の首を斬り裂こうとした漆黒の刃が、優の右手でがっしりと捕まれ抑えられている。


「これから頑張ろうと思ってる奴の……」


 男が力を込めるがそれ以上深く剣が進むことはなく、優の右手の掌からは鮮血が滴り落ちる。


「邪魔すんな!」


 それでも優はその事実を顧みず、全身全霊という言葉がふさわしい勢いで突如現れた正体不明の相手の腹部を蹴り上げ吹き飛ばした。

 すると突如現れた謎の少年が僅かに顔を歪め吹き飛び、


時間回帰リバース!」

「助かる!」


 その隙に蒼野は聖野の時間を戻し腹部の傷を修復。三人の少年少女は突如現れた少年から距離を取る。


「大丈夫か聖野?」

「話してる暇はないみたいだ。来るぞ!」


 殺意を全身に巡らせ迫ってくる自らの顔と同じ少年に無意識に気後れする蒼野だが、そんな彼の事情を一切知らず、掌の回復を始める優を傍らに走りだす聖野。


「……」

「クソッ」


 殴りかかるため一歩踏み込んだ聖野が、首元目がけ飛んでくる刃を見て回避行動に専念。


 それから先は一方的だ。

 一度回避に回った聖野を相手は得物の有無から生まれたリーチの差で圧倒し終始攻勢。

 対する聖野は能力の連続使用で特殊粒子を使いきったためその身一つで目の前の少年の相手をしなければならず、首や心臓目がけ飛んでくる鋭い斬撃を必死に捌く。


「こ、の!」


 流石にこのままではまずいと考えた聖野が攻撃を躱し半ば無理矢理反撃。


「……」

「ちっ!」


 しかしその一撃も、首を狙う一撃を前にしてどうしても足踏みしてしまう。

 それから瞬きほどの間に十数回の攻防が続き理解したが、目の前の少年は攻撃を無理に避けようとはしていない。


 相手を殺す事ができるのならば、拳の一撃程度貰ってやる


 少年の刃にはその類の意思が込められており、聖野がどうやって現状を打破すればいいか頭を回転させるが、


「……炎天」


 思考させるだけの時間は与えないと、蒼野と同じ顔をした少年は漆黒の刃を地面に打ち付け、聖野の全身を地面から現れた紫色の炎の柱が襲い掛かる。


「ちぃ!」


 一撃、二撃、三撃、地面から溢れ出る炎柱に大きく後退し避ける聖野。

 述べ十数発の炎柱を避け少年の方へと視線を向けると、その姿が消えている。


「……視線を外したな」

「!?」


 聞こえてきたのは真横から。

 急いで視線を向けてみるが姿形はなく、気が付けば左足が中ほどまで斬り裂かれ、体はバランスを崩し受け身を取ることさえできず彼は崩れ落ちていた。


「まずっ!」


 無意識に漏れる言葉。

 迫る死の瞬間を避けるために、崩れ落ちそうになりながらも体勢を整え次に備える聖野。

 そんな彼が見たのは、自らから遠ざかっていく少年の姿。


 その姿に虚を突かれるが、向かう先にいる人物を見てその狙いを理解する。


「逃げろ蒼野!」

「う、お!」


 自らと同じ顔の存在の登場時から固まっている蒼野が、刃のように鋭い殺意に晒され正気を取り戻す。

 そうして前を見れば、自分へと向け迫る少年の姿が。


「っ!?」


 鏡で見る顔が目の前に迫っている事に違和感を抱きながらも、放たれた一撃を薄皮一枚のところで回避。続く二撃目三撃目をすんでのところで躱すが、地面に落ちていた瓦礫に躓き尻もちをつく。


「……死ね」


 少しだけ離れた位置にいる優が動き出し、当の本人は能力を発動させようと足掻くが、それよりも早く刃は蒼野の首へと到達し、


 そこで銃声が鳴り響く。


 銃声が発せられるのと同時に跳躍し、先程まで自分がいた場所を通りすぎる銃弾を見送る少年。

 彼はそれから続けて迫る数発の銃弾も容易く回避。

 着地と同時に自身へ向け放たれた聖野の拳を弾き後退し、この場に現れた乱入者に殺意の籠った視線を向ける。


「てめぇ」


 視線の先にいるのは黄色い鉢巻を肩に巻いた銃を構える少年…………


「俺の大切な義兄弟に何しやがる!」


 古賀康太がそこにいた。


「康太!」

「待たせたな!」


 言いながら康太が狙われていた蒼野を庇うように前へ陣取り、


「にしても派手にやられたわね」

「パペットマスターとの連戦だ。文句を言われる筋合いねぇぞ」

「まあ、相手が相手だしね。仕方がないか」


 優は片足を失った聖野の側に移動し回復を始める。


「……」

「おっと、動くなよ。多少腕に自信があるみたいだが、四対一のこの状況で勝てるなんて思ってねぇだろ。大人しく捕まってな」


 そう言って向けられた銃口を見て、少年の動きが止まる。

 その隙に優は聖野の足を完全に繋ぎ腹部の傷も応急処置程度の事ではあるが内臓が漏れないようにしっかり塞ぎ、蒼野と康太の二人と合流。


「さて、まだ足掻くか?」


 康太の呟きと同時に、四人全員が臨戦態勢を取る。


「…………」


 満身創痍な面々もいるが人数で完全に圧倒している状況。

 敵は十怪でもなければ荒れ狂う狂戦士でもない。


「…………ふん」


 ゆえに、誰一人としてこの後の思いもよらない展開を想像していなかった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


少し短くなってしまい申し訳ありません。明日からはある程度の文量に戻ります。


さて舞台は未だ変わらずですが、物語としては新章開幕となります!

今回は全体で見た場合長いのですが、実際には小さな物語の連続になると思います。


物語全体のテーマも前回までのパペットマスターとのダークファンタジー風の空気から大きく変わり、

今回は熱血漫画風に仕上げられればなと思います。


同じ点はただ一つ

蒼野がひどい目に会うという点のみです。




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