ゴロレム・ヒュースベルトVS那須親子
「いやー息子がいい働きができててお母さん嬉しい! 感動から涙が溢れちゃうわ!」
「馬鹿! こっちが結構大変なんだ。余計なこと言ってないで動け!」
「ま、お母さんに向かってなんて口の利き方なの。思わず頭をかち割りたくなっちゃう!」
「なんなんだとあんた!」
そのように気の抜ける会話が親子の間で成されるのだが、そんな二人がコンビとなって立ち向かう死の大地での戦いは誰の目で見ても一方的なものであった。
「接近戦は苦手だと伺ってたけど、結構粘るのねぇ」
「私にも『四星』としての維持があるのでね!」
「それ、裏切った貴方に言われると釈然としない台詞っすね!」
数多の人形に援軍として現れる魔獣。さらには極少数とはいえなおもこの場に馳せ参じるメタルメテオ。その大半を息子である那須童子が食い止める中、それでも止めきれなかった面々を捌きながら、母というよりは年の近い姉のような容姿をした那須鉄子が一人で、残る面々とゴロレム・ヒュースベルトを圧倒する。
「えいやっとね!」
「むぅ! 正確っ!」
ゴロレム・ヒュースベルトが本を輝かせては出現させる様々な種類の氷の人形が息子である童子の包囲網を掻い潜ると、自身の身長程もある鋼色の武骨な扇子が巻き起こす数多の刃で瞬時に破壊し、ゴロレム・ヒュースベルトが必死に引き離した距離を瞬きすら許さぬ速度で詰めては体に響く重い一撃を浴びせかける。
「まだまだいくわよ!」
「噂に聞く練気術『感知』! 接近戦で使われるとここまで厄介なのか!」
ゴロレム・ヒュースベルトにとって最大の問題は攻撃の手数以上に狙いの正確さだ。
撃ちだされる渾身の一撃は確実にゴロレム・ヒュースベルトの防御が脆い点を突き、圧縮した氷の守りでしっかりと守っているため致命傷にこそ至っていないものの、彼の体力を減らしていき、彼を徐々にだが限界へと追い込んでいた。
「そりゃそういう使い方をするために覚えた練気術ですからね!」
彼女が覚えている練気術『感知』は康太の持つ異能『危険回避』を別方向に尖らせたものである。
その特徴は視線で目にした相手の動きを体から発する気の流れを元に読み取るというもの。いわば未来予知の類である。
相手が練気を発しない非生物や数が多すぎる場合、頭が処理しきれずに使いずらいという特徴はあるものの、息子である童子がおぜん立てしているように状況を整えれば、元々の身体スペックの高さもあり一対一のタイマンにおいては無類の強さを発揮でき、それこそ単純な総合力では格上の相手だろうが一方的に蹂躙する事すら可能である。
「鎌威太刀!」
「っ!」
「数がご自慢なのは知っていますけど、その程度の実力の奴をどれだけ出しても意味なんてありませんよゴロレム卿!」
加えて神器『伯楽紅葉』が巻き起こす鉄の刃の嵐は雑魚散らしには実に向いている。
ここにこの神器の能力を組み合わせる事で彼女は大抵の相手の足止めも可能で、これらが合わさり倭都でも最高戦力と言われる『三将軍』の一人に名を連ねているのだ。
「母さん!」
「お、いい援護!」
「しまっ!?」
そんな彼らの相手をするゴロレム・ヒュースベルトは近接戦を苦手分野としており、凄まじい速度で動く二人に対応しきれず、挟み撃ちを許してしまった事で襲い掛かる鋼鉄の強度を備えた泡に後頭部を叩かれ、脳震盪を起こし動きを止める。
「っ! 時期尚早、いや予定より早い投入だが致し方ない!」
この危機的状況は彼どころかインディーズ・リオ全体にとっても少々予想外の事態であり、本来の予定ではまだ投入する予定ではない氷の彫像を自身の周りを分厚い氷の壁で守りながら急いで制作。
「あらこれは」
「ゴロレムさんが使う中でも最高スペックの奴だ。油断すんなよ!」
「そうなの。それは楽しめそうでいいわね!」
二人の超越者により壁は砕かれるが八体いる内の半数を複数召喚した。
一体は分厚い盾と剣を備えた騎士の彫像。
一体は猿の頭部に虎の胴体。そして蛇の尾を備えた大型の獣。
さらには天を突く巨人や無数の小型の兵隊に空を舞う龍を生み出し、自身は後方へと大きく下がり援護に徹する。
「悪いがまだ敗北するわけにはいかない。この勝負、勝たせてもらう!」
なおも苦境に立たされている事は自覚しながらも彼は堂々とそう宣言する。
全ては果たすべき目的のために。
「甘いな、君達の本気とはその程度か!!」
「…………ちぃ!」
「ああもう。うまくいかない!」
そのように連合軍側の戦力が有利な戦いを繰り広げる一方で、苦戦を強いられている場所も存在していた。
その内の一つがギャン・ガイアと戦っているゼオスに優。そして積の三人だ。
今彼らが木の根で包まれた戦場で戦っているのは三度目の相対となるギャン・ガイアなのだが、その強さはかつてないほどのものであった。
「何で今回に限ってこんなに強いんだよこの頭クルクルパーは!」
「…………空気が違うな」
「ええそうね。今回に限っては頭クルクルパーじゃない。というか真剣度が段違いな感じがする」
「あーまあそうだよな。そういう理由だよなめんどくせぇ!」
普段との違いに抗議する積であるがゼオスと優の口にすることの意味はしっかりと理解している。
言ってみれば彼は今、自分たちという敵対者に対し、普段は決してテーブルの上に置くことのない自らの誇りをかけて戦っているのだ。
「事情を知ってなお今の世界を維持する。そう豪語するのならば、その思いを僕に示せ!」
これまでの彼はガーディア・ガルフに対する狂信や決して認められない賢教や神教を否定するために勢いづいていたのだが、今回は全く違う。
今彼の前にいる三人の少年は、二大宗教の抱えている問題を知り、自分と同じ目線に立つことになり、自身の事情を正確に理解しなお今の世界を維持し続けようとする存在だ。
それを彼は煩わしい存在と捉えることなく、自身の思想を証明するにふさわしい壁として戦いを挑んでいる。
様々な理由から相手を見下してたり邪魔者と断じていた立場から替わり、越えなければならない壁として捉えているのだ。普段とは真剣度が違う。
「ふん!」
気高さから来る空気が自分たちに向けられているのは誇らしいことであると積は思うが、何をやっても完全に対処され、能力か粒子術かの判別が難しい攻撃や、隙が少なく大技に繋ぐために手数を重視した鋭い体術が返される。
その現状が彼らにとってはこの上ない問題だった。
「普段みたいに挑発したら乗ってくるかしら?」
「どうだろうなぁ。なんかあそこまで真剣なあいつに半端だったり不用意な手を打ったら、一瞬で負ける気がするなぁ!
それは足止めだけで十分な戦果な立場としてはおすすめできないなぁ!!」
「そっか。そうよね」
ギャン・ガイア対策に覚えた能力『滑水航路』によるバランス崩しにも完全に対応され、ゼオスの使う爆発もものともしない。
このまま進めば敗北は免れない。距離を取り油断なくギャン・ガイアと周囲の木の根に意識を飛ばしながら、予知などという生半可なものではなく確信を得る積と優。
「…………お前達に話しておくこと、いや渡すものがある」
「え?」
「何だよ唐突に」
「……これだ」
「「!!」」
そんな二人の会話の間に割って入ったゼオスは、この状況を打開せしめる活路を二人に見せた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸つかさです。
戦いはゴロレム・ヒュースベルト戦から戻ってギャン・ガイア戦へ。
これまでの狂い続けていた彼とは違うという事情説明へ。
ここから決着まで一気に進めて行きます。
ゼオスが示した起死回生となる一手。その正体は次回以降で!
なお那須鉄子の身体スペック、というより接近戦能力は息子よりワンランク上。
最高ランク付近の物を備えており、ここから格上を相手に一方的に蹂躙できるため、現代メンバーの中では善やレオンと同等に並ぶ近接戦のプロです。
流石にシュバ公は無理
手数が果てしないアイリーンあたりも相性からきつい、などという感じです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




