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難局打開への行軍 一頁目


 康太が優が積がゼオスが、目にした光景が勝機に繋がる物だと信じ巨躯へ飛び乗る。


「っと!」

「あぶねぇな! けどまあ、足止めのためなら仕方がないのか!」


 根が敷き詰められた巨体の表面はデリシャラボラスとのぶつかり合いが繰り広げられることで絶え間なく大小様々な揺れを起こすのだが、文句を言うだけの余裕がない事を彼らは知っている。


「行くぞ!」


 であるならば行動は迅速に。

 そもそも足場の悪いこの場所で揺れも合わさった状態で長長居するいすること自体が悪手であり、そのような理由も自覚しているため彼らは後の事は意識的に考えず、ここで全てを使いきるという勢いで全力疾走を開始する。


「来るぞ!」

「ゼオス頼んだ!」

 

 先頭を走っていた積がゼオスに先を譲り、康太の直感が反応した方角に紫紺の炎を打ちこんでいく。

 するとその方角からは一歩遅れて木の根が飛来し、ピッタリのタイミングで到達した炎が伸びきるより先に根元から燃やし尽した。


「急げ! 次々来るぞ!」


 捕まれば自分たちではどうする事もできない。

 優れた直感を備えている康太でなくともすぐに結論に至れるだけの凄まじさが襲い掛かる木の根にはまとわりついており、脅威を退けられたというのに彼らの顔には安堵はない。

 ただ前方を塞ぐ障害を急いで滅し、先へ先へと進み目的地へと向かう。


(問題は)


 が彼らは思考を放棄しているわけではない。

 直感ではなく反射神経に優れるゼオスと優は残る二人よりも早く前に出て、時に康太の指示を、時に自身の意志を信じ、迫る脅威を全て退ける事に専念していたのだが、残る二人は違う。


 冷静に戦場を見渡し、現状手にしている自分たちの手札を確認し、ギャン・ガイアと相見えるところから打倒に至るまでの一連の流れに考えを及ばせる。

 

(結局のところ、康太の奴が持ってる神器の使いどころが問題だよなぁ!)


 その鍵を握る物。

 それに関する意識は二人とも共通しており、ズバリ先日の賢教強襲の際に手に入れた康太の神器であった。

 これは神の座の提案で裏切ったゴロレム・ヒュースベルトを前にしても発動しておらず、なおかつクライシス・デルエスクと戦ったガーディア・ガルフも知らない一手であり、使えば一度は苦境を打開したり突破することができるもの、それこそ使いどころを誤らなければ決定打にさえなると康太と積は確信していた。


 しかし逆に言えばギャン・ガイアを相手に有利になれる点はこの一点しかないという事も彼らは正確に認識していた。

 ギャン・ガイアほどの相手に対し、手の内がばれたものを使っていくのは極めて危険であるとこれまでの戦いの経験で学んでいたのだ。


(重要なのは!)

(ゼオスと直感馬鹿をあいつの元に届けること!)


 そこまでわかっているゆえに彼らが取る作戦はシンプル。

 木属性に対し有利な炎属性を手にするゼオス。

 そして未だ狂信者に手の内を晒しておらず一発逆転が可能な康太。

 この二人を必ず狂信者のいる場所まで育てる事である。


(ゼオスは変わらず爆発する剣。クソ犬は相手を滑らせる能力の水。で、積は確か粒子回復藥の一般には出てない高級品だったな)


 そんな他の者達の考えをおおむね理解しながら康太が考えるのはアル・スペンディオが鍛冶の島で作成した籠手に各々が込めている切り札についてで、積を除いた二人の編成が変わっていない事に頭を悩ませる。


「まぁそうそう相性のいい手札なんて見つからんわな!」

「はぁ? この状況でなに叫んでるのよアンタ。頭おかしいの!?」

「うっせぇ! 意味はなくても文句くらい言わせろや!」

「なんですってぇ!!」


 相手の苛立ちに対し自身も苛立ちをぶつけ、世界の命運を握る戦いでも普段通りな自分たちに彼らは顔や口には出さず内心で苦笑する。

 こんな状況でも悪態を吐ける相手がいる自身の境遇に妙な満足感があったのだ。


「…………到着するぞ」

「体力尽きる前に辿り着いて良かった~」


 そんな二人の空気は残る二人に対しても良い形で伝染し、彼らは道中さほど苦労することなく進み続けられ、巨体に昇る前に見た場所まで辿り着いた。


「ゼオス頼んだ!」


 他と比べ一際膨らんでいる位置を目にして優が声をあげ、それに応えるように炎を宿した漆黒の剣を足元にある木の根に叩きつける。

 すると剣先に宿った膨大な炎属性粒子が一直線に駆けていき膨らんだ部分を包みこむように燃焼。それを見届けるよりも先にゼオスは自身の籠手の能力で爆発する剣をいくらか生成し、紫紺の炎により燃え盛る内部へと投擲。

 周囲の根も含め一瞬膨張したかと思えば耳に響く爆発音が生じ、急いで駆け付けた彼らがその場所を確認すると皆が同じ光景を目にした。


 すなわちそれは上半身を周囲の木の根に横たえ、力なく崩れ落ちているギャン・ガイアの姿だ。


「や、やった!」


 間違いなく最良の結末を目にし喜ぶ積。

 するとその感情は他の者にも伝わり、彼らは緊張がほぐれ息を吐くのだが、


「…………いや待て。なぜこの巨体は解除されん」


 すぐに異変に気が付いたゼオスがそう告げ、それがきっかけとなったかのように事態が動き出す。


「足が!」

「沈んだ!?」


 四人の子供たちの足がいつの間にか木の根に呑み込まれ、身動きが取れない状態になっている。

 それと同時にこれまでの比ではない量の木の根が四方八方から現れ、彼らへと向け一斉に襲い掛かり、


「自分たちの身を守れ!!」

「「!」」


 康太が切り札を晒す必要性を感じた瞬間、彼らの身を案じる声が背後から聞こえ、躊躇することなく従い各々が持っている粒子術で守りを固めた。


「お、おぉ!?」

「熱いが文句は言ってられねぇな!」


 一歩遅れやってきたのは炎の海。

 威力の大半は各々の守りが削るのだが残った余波により彼らはみな多少の火傷を負い、しかし結果として両足の拘束は解け、なおかつ襲い掛かってきていた無数の根も焼失した。


「ありがとうございます!」

「先にどんどん進んでいくから敵の場所が分かっていると思ったんだが、違うのか?」

「お恥ずかしい話ですけどそうみたいッス」


 それらの事を瞬く間に行った鬼人族の青年たちと合流し、僅かな時とはいえ安全な時間を確保した彼らはそのような会話を行うのだが、多少心に余裕ができれば自分たちの失態にも目が届いた。


「考えて見ればわかりやすい弱所を放っておくわけないもんな。こうなりゃやっぱ時間を稼ぐ事に終始するべきか? それで十分役割は果たせるわけだし」

「いや残念ながらそう上手くは行かない。今回我々が訪れたのもその件について話すためなんだ」

「え?」


 作戦を練り直す事を口ずさむ積に、それは不可能であると伝える一同。

 その意味が分からず優や積が頭に疑問符を浮かべるのだが、答えを示すような怒声と強烈な揺れが再び彼らを襲った。


「デリシャラボラスが!」

「やり返されてる…………」

「彼は本当に強い。ここに援軍として来てくれたのは僥倖としか言いようがない。けれども使える粒子の量に違いがありすぎるらしい」


 デリシャラボラスが他の者と比べれば計り知れない量の粒子を備えているのはまごうことない事実であるのだが、今回は相手が悪い。

 今のギャン・ガイアは地面に根を張っている状態ならば戦場どころか山一つ超えた先にある町からでさえ自己再生や攻撃に必要な粒子を吸って賄える状態になっており、戦いが長引けば如何に相性勝ちしている竜人王の息子でも劣勢を強いられるのは目に見えていた。


「ここが文水嶺か」

「康太?」


 それが分かっているゆえに康太は腹を括る。

 戦う土台さえ作れなければ自分たちが役目を果たせないのは目に見えていると理解し、最善の策を思い浮かべるために頭を回転させる。


「デリシャラボラス!」

「あぁ!?」

「もう一度こいつの全身を地面から引き離して、手痛いダメージを与えろ! そうすりゃ後はこっちで何とかする!」

「はぁ!? オレサマにできねぇ事をお前ら如きがするってのか!?」

「あぁ!?」


 思い浮かんだ案を実現するため、鬼人族の面々に周りを警戒してもらった状態で声を張り上げ自身と同じサイズの怪物と対峙している竜人族の青年に頼み込む康太であるが、苛立ちを募らせた声を聞くと反射的に反抗的な声が喉から溢れ、


「後生だ! 頼む! 康太の言う事を聞いてくれ!」

「アンタに一度は勝ったアタシたちを信じなさい!」


 そのまま交渉決裂かと思われたところで、彼の前に積と優が飛びだし、片方は土下座を行いもう片方は気の抜けた声で頼み込んだ。


「頼む! 彼らを信じてやってほしい!」

「余裕がないのは理解しています。それでも何卒!」

「…………っち、もう一度だけだぞ」


 そこから更に常日頃ならば豪快かつ強気な鬼人族の面々まで拝み倒すように頼み込んだとなれば彼とてえ無碍にすることはできず、渋々ではあるが同意を示すと残り粒子残量が不安な事実さえ無視し、炎で全身を纏い敵対者の攻撃を防ぎ殴り返すことで体勢を崩すと、長く伸びる尾を鋼属性で鋭い刃へと変貌させ、ただの一振りで地面から根の巨人を切り離した。


「康太!」

「…………貴様は何をするつもりだ?」


 するとこれまでと比べ緩慢ながらも再生は始まり、しかしすぐに急速な回復に変化していき、その光景を見ながら積とゼオスが声をあげ、


「切り札を出す! だからあとは頼んだぞテメェら!」


 望んでいた反応が行われたのを確認し、康太は自身の神器を取りだした。





ここまでご閲覧していただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


VSギャン・ガイア続行!

唐突ですが今回の話に出てきた鬼人族のような脇役も活躍する話って結構作者は好きです。

総力戦をしているという感覚も溢れてきますし、無駄な戦力なんていないという感じも作れるからです。


話を本編に戻しますと今更な話ですが相性の問題は結構重要だったりします。

総合スペックでは負けているデリシャラボラスがそれを覆したりできているのですから物語に出てくる人物達も結構気にしたりします。

まあシュバ公やら皇帝様のような『んなもん関係ねぇ』なんて奴もいたりはしますが。


次回も引き続きギャン・ガイア戦。

現状を突き破るために神器を取りだす康太。彼が選んだ選択とその結末とは


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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