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舞い降りる神童


 土煙が晴れ、巨躯となった狂信者の体を押しつぶした者の正体が顕わになる。

 すると多くの者はいま自分たちがいる場所が世界の明日を分かつ戦場であると理解しながらも思わず固まってしまった。

 無論それは異常かつ他の者に指差され罰せられる行いなのだが、それほどまで強烈な衝撃が戦場を迸ったのだ。


「お、おぉ」

「夢を……見ているようだ」


 彼らの前に現れたもの。

 それは今のギャン・ガイアに負けぬほどの巨体を備え強靭な爪に開ききった瞳孔を備え、鋭い牙を生え揃えさせた上で口から火の息を吐く異形。

 真っ黒で巨大な鱗に身を包んだその姿は、つい最近まで亜人である者達も含め、ほとんどの者が知らなかった『生物』という枠組みで見た場合、間違いなく頂点に座する存在。


 すなわちドラゴン、竜人族である。


「ば、馬鹿な。竜人族だとぉ!?」


 その衝撃は敵側であるギャン・ガイアにもあり、巨大な木の根の肉体からは戦場全体に伝わるほどの声が発せられ、


「おらぁ!」


 そんな彼の動揺を見透かし、自身と同じ高さにある巨体に対し、竜人族自慢の膂力を使った拳が撃ちこまれた。


「……貴様は」

「デリシャラボラス!!」


 その勢いでのけ反る木の根を束ねた怪物。

 他と比べればかつて遭遇したことがあることから幾分か冷静さを残したギルド『ウォーグレン』の面々は、このまま飛び乗ったままでは衝撃から明後日の方角へと吹き飛ばされる可能性があるとすぐに判断した巨体から飛び降り、突如現れた彼の近くに飛び降りると、冷静さを残したまま現れた竜人族の名を口にした。


「テメェらはあの時の豆粒。っち、嫌な縁だなこりゃ」

「いいのかよ。今回は前みたいにギルドメンバーだけが集まった戦いじゃねぇんだぞ!」


 するとギルド『ウォーグレン』に所属している彼らの顔を覚えていた竜人族の王の息子である彼は苦々しい表情をしながら言葉を発し、


「死んだはずの亡霊がなぜこの戦場に現れる!」

「っ!」


 そちらに気を取られている隙にギャン・ガイアが作りだした巨体の拳が彼の全身に襲い掛かった。


「いってェなこの野郎!」

「なにぃ!?」


 が効果はない。

 いや正確にはダメージとしては通っているのだが、傷を負った様子は一切なく数歩後退すると負けじと拳で殴りかかった。


「おいデリシャラボラス。そいつは殴ってもさほど意味がねぇ。炎吐け炎!」

「言われずとも分かってんだよ!」


 そうしてギャン・ガイアを再び引き離すと瞬く間に炎属性粒子を口内に溜め、他の者が使う炎属性とは規模がまるで違う範囲の火球を怪物の肉体にお見舞いする。

 すると巨体は勢いよく燃えていくのだが、燃えた側から再生し、結局ははじめと同じ状態に戻り目前の竜人族との殴り合いに戻ってしまう。


「効いてねぇのか?」

「やっぱり蒼野の奴の『原点回帰』なしはきついんじゃ。いや本体を叩ければそれでもいいのかもしれないけどよぉ!」


 その光景を前にして弱音を吐く積に苛立ちを感じる声を発する康太。

 しかしそんな中でもゼオスと優は冷静さを保ち続け、ギャン・ガイアが必ず備えていると断言できる弱所、すなわち積が口にした核となるであろう本体部分を探すために目を凝らす。


「腐るがいい!」

「危ない!」

「それは喰らうな!」


 地上で彼らがそのようにしている一方で、鬼人族などの援護を受けながら最前線に立ちど突きあいを続けるデリシャラボラス。

 しかしそこでギャン・ガイアは不気味な黄緑色の気を纏い、その正体があらゆるものを過剰に成長させる粒子術『生枯輪転』、ないし時を進め老化させる邪悪な能力『腐食カース』に関わるものと知っているゆえに康太と優が声を上げた。


「くだらねぇ。そんなもんはオレサマには効かねぇよ!」


 だがそれを前にしてもデリシャラボラスは一歩も引かない。むしろ意気揚々とした様子でラスタリア内部とは違い平坦な大地を勢いよく踏むと前へと飛び跳ね、自身へと迫る脅威へ飛びこんでいく。


「しゃあ!」

「な、にぃぃぃぃぃぃ!!」


 そうして結果は示される。

 攻撃を受けたにも関わらずデリシャラボラスに変化した点は一切なく、勢いを付けた飛び膝蹴りを受けたギャン・ガイアが驚きの声を上げながらこれまでにない勢いで後退する。


「足元にいる野郎共に敗けた時からよぉ、敵についてはよーく調べておくことにしたんだよ。で、今回は歴代最強様の時みたいな興奮から来た突発的な行動じゃねぇ。つまりだ、おめぇとオレサマは相性最高ってことだ!」


 デリシャラボラス、というより竜人族にはいくつかの特徴がある。

 まず第一に彼らは通常の人間や長寿族と呼ばれる者と比べてもかなり長生きだ。千年程度ならばみな生きるほどに。

 加えて生まれながらに炎属性ともう一属性が他種族と比べ圧倒的に多く、なおかつ肉体の再生速度も通常と比べ異様に早い。竜人族の長であり優れた肉体を持って生まれたデリシャラボラスはその速度はピカイチだ。


 そしてこの特徴はまさにギャン・ガイアにとって天敵となりえるものになる。


 過剰成長とはすなわち対象の時間を急速に進める事に繋がるのだが長寿の竜人族にはあまり効果がなく、肉体の再生速度が速い竜人族に腐食を当てたところで、多少表面を腐らせたとしてもすぐに適用範囲から抜ければ、深いダメージは受けず腐った部位も回復する。


 このようにして彼はギャン・ガイアを脅威たらしめる二つの力をなにもせず封じる事ができ、至ってシンプルな肉弾戦に移行させることが可能なのだ。


「おらぁ!」

「こ、この膂力はぁ!」


 そしてそのような単純な戦いになればデリシャラボラスは強い。

 確かに彼らは油断した事で子供たちに後れを取った。

 ガーディア・ガルフを相手に戦いを挑み、なすすべなく敗北した。


 がしかし、後者はともかくとして前者はもし彼が油断も慢心もなく挑めば勝敗はこのようにならなかったと多くの者は断言する。

 『超越者』のカテゴリーに属する善やクロバと並び立つだけのスペックを彼は備えているのだ。確実に勝利したと言えるだろう。


 そんな彼が圧倒的な力を油断や慢心などせず発揮することに加え相性で優位をとっているとなれば、例え相手が『十怪』でも武闘派と知られるギャン・ガイアであろうと、五分以上の展開に持っていけるのだ。


「もう一発!」


 吹き飛んだ狂信者の足元を切るように鋼属性で硬質化させた尾を振り回し、乾いた地面との接触面を一気に剥がす。


「!」


 それは少しすると再生していき元の状態に戻ってしまうのだが、そこで起きた変化を康太達は見逃さなかった。


「デリシャラボラス。今のもっかいやれ!」

「あぁ!? 一度勝ったくらいでこのオレサマに命令するんじゃ!」

「お前の一撃で時間稼ぎなんかじゃねぇ勝機が見えたんだよ。黙って言うこと聞け!」


 そう告げる康太が今しがた認識したのは、これまでと比べいくらか遅かった再生力。この原因が地中からエネルギーを取る事ができなかった故のものというのは決戦が始まる前に既に推測されていたことなのだが、それ以上に大きな変化が視界に映ったのだ。


「仕方がねぇなぁ!!」


 再び地面から離れる木の根の怪物。

 するとそれまでと比べる幾分かゆっくり再生していくのだが、その速度は根が張り直されるよりも早く、突如急速な速さで元に戻る。


「なぁ優。今!」

「ええ。あそこね!」


 ある場所を起点に大量の木属性粒子が流れ、元々の速度に戻しているのだ。

 そしてそんな芸当ができるとすれば、この巨体の中心となる部分であるのはすぐに察せられ、


「…………決着を付けるぞ」

「おう!」


 それが核と言われる部分。すなわちギャン・ガイア本体が居座る場所なのだとも瞬時に理解でき、四人は幾度となく鎬を削った彼を打倒するべく動き出し、巨体へと再び飛び乗った。

ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ということで援軍の正体判明からの戦闘回。

これまで噛ませ犬ならぬ噛ませ龍の印象が強かったデリシャラボラスの面目躍如となる話です。


相性さえ悪くなければ、こんなに強いのねお前


なんて感じてくれるとうれしいです。


その勢いに乗った子供たちはこのまま本体へ。

速いもんですがギャン・ガイアとの戦いも一気に詰めていく事になります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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