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二つの限界地点


 メタルメテオ1000体による奇襲。

 これは無論脅威であったが、しかしそれは連合軍側が予期していた事態でもあった。

 それはこの戦争が始まる前にレオンがメタルメテオの動きに対し不信感を抱いたところから始まり、忠告を聞きイグドラシルを中心とした上層部はその対策を行った。


「蒼野!」

「!」


 その作戦が『プランX』、問答無用の破壊能力持ちを中心に、様々な能力者や練気使いを終結させ、無数のメタルメテオに対応するために組織された部隊である。


「聖野か!」

「戦場全域を認識出来るマップを見ろ! メタルメテオの出現地点がマーキングされてる!」

「流石に手が早いな! ありがたい!!」 


 その条件に当てはまる人物、能力『原点回帰』を持つ蒼野と能力『暴君宣言』を持つ聖野は土埃沸き立つ戦場で一早く合流し、肩を並べながら疾走。


「すぐそこに一体いる。蒼野!」

「原点回帰!」


 すぐ側で多くの戦士を戦場から退場させている鋼の騎士に狙いを定め、他者に当たらぬよう刃に破滅の光を宿したままの状態で斬りかかる。


「!」

「速い!」


 その一撃をメタルメテオは跳躍することで容易く躱し、もはや自身の正体を隠す必要はないと右腕を掲げると、掌の中心に穴を作り、高密度の雷属性粒子を集め始めた。


「聖野!」

「任せろ!」


 傍から見れば絶体絶命なその状態はしかし、彼らにとっては好機である。

 攻撃を躱す素振りを一切見せず、攻撃が撃ちだされるのを甘んじて受けると、蒼野とメタルメテオの間に挟まるように聖野が勢いよく飛びこみ、盾のような形で広げた黒い塊でそれを防ぎ、


「裁き(エグザ)!」


 迫る脅威を軽々と吸収すると、返す刀で無数の枝葉へと変貌させた。


「!」


 結果自身へと襲い掛かる超広範囲を覆う無数の枝葉を、空中を駆け必死に躱すメタルメテオ。


「原点!」


 しかしそうして躱す動きを続けているうちに蒼野は狙いを定め、


「回帰!!」


 対象がほんの僅かに足を止めた隙を狙い、空一体を覆うように真っ赤な破滅の光を打ちだし瞬く間に消滅させた。


「よし一体!」

「情報にあった固体より遥かに弱いな。レオンさんが倒した固体以外はそこまで強くないのか?」


 ただ彼らはその勝利に歓喜の念を晒す事はなく、冷静に敵戦力を分析し次の目標地点を検索。


「貴様の愛を見せろ!」

「って、考える暇もくれないか!」


 しかしそうしている彼らに対し間を開けることなく新たなメタルメテオが接近し、呼吸を整える暇を与えぬとでも言うように勢いよく肉薄してきた。


「の野郎!」

「落ち着け聖野。もう一度だ!」


 その姿をはっきりと認識するも攻撃を躱しきれなかった聖野が弾き飛ばされ、そんな彼とは別の方向へと蒼野が移動し、先程と同じように蒼野が跳躍を誘うような攻撃を行い、それに従うようにメタルメテオが跳躍。

 数秒前と全く同じように空中で再び掌を開き雷属性粒子を溜める。


「もういっちょ……って、うぉ!?」


 ただ先程と同じ展開が続いたのはそこまでだ。

 発射寸前まで雷属性粒子を溜め、聖野が間に入るべく動き始めるその直後、メタルメテオは溜めていた粒子全てを自身にぶつけると青白く発光。

 予想だにしなかった動きに蒼野と聖野が身を強張らせると、


「っ!」

「速い!」


 二人が追いきれぬ速度で動き出したかと思えば聖野の背後を奪い、いつの間にか手にしていた柄もない簡素な鋼の剣で彼の背中を斬り裂いた。


「こ、の野郎!」


 がしかし聖野の反応からの対応はギリギリ間に合っており、振り抜かれた剣の刀身がなくなったかと思えば、それを成し得た黒い球体が聖野の拳を中心に膨張した。


「そおら!」


 空中に撃ちあげなければ先程の策は取れないため、蒼野が強烈な風を巻き起こし再度鋼の塊を宙に浮かばせるのだが、メタルメテオは空に浮かぶのと同時に背中を開くとジェットパックを取り出し、強烈な炎を吹き出し方向転換しながら地上にいる蒼野へと迫って行った。


「こいつ!」


 一度見せた動きや生半可な策は通用しない。

 そう理解し歯噛みする二人の戦士。


「援護する!」

「!」


 その状況を打破したのは思わぬ存在、先日刃をぶつけていた賢教の神器部隊の面々だった。


「あなたたちは!」

「いいんっすか。蒼野はともかく俺は敵対組織の一員ですよ?」

「馬鹿な事を聞くのだな。その垣根を取っ払い協力する。それが今回の作戦における肝だと思ってたのだが?」

「……おっしゃる通りですけどまさか貴方達に助けられるとは」


 メタルメテオの体を雷鳴すら上回る勢いの棘付き鉄球や投げ槍が貫き、対象が沈黙したのを確認し能力で消滅させ、賢教の制服を着た神器使いを前に蒼野がそのような話をする。


「で、恐らく奴らは一度見たこちらの動きに対応できるプログラムを装備してます。なのでこまめにパーティーを入れ替えて連携を変えていきましょう」

「承知した」


 他方では聖野がメタルメテオへの対策を手短に伝え、その内容を本部にも送る。


「戦闘経験豊富なあんたたちにお尋ねしたいんですけど、どれくらい時間を稼げると思いますか?」

「我々は敵を倒すために万の手段を会得している。1000体全て破壊し尽くして見せるさ…………と言いたいところだが、多少劣っているとはいえレオン・マクドウェルでさえ手を焼く相手だ。あまり偉そうなことは口にできん」

「恐らく稼げる時間は一時間ほど。倒せる数は100を超える程度かと」


 それが一段落したところで聖野がそう尋ねると十数人からなる神器部隊の面々は誇張を一切していない冷静かつ確かな数字を告げ、顎に手を置いた聖野は唸る。


「一時間…………」

「どうした聖野?」

「こいつら相手に稼げる時間は恐らく一時間が限度だってさ」

「そうか。一時間か」


 それをやってきた蒼野に語ると彼は落胆した様子は見せず、しかし無感情に呟き


「もうちょっと時間が稼げそうなら良かったんだがな」

「ああ。間に合うか微妙だ。問題は」

「レオンさんがどうしてるかだな」


 二人はこの策の最終目標に関し思いを巡らせる。




「どうしたんだい真実を知りなお邪教に味方する幼き勇よ! 古賀蒼野がいなくなればその程度か?」

「ああクソ!」

「さ、再生力に追いつかねぇ!!」


 ところ変わって先程まで蒼野がいた戦場。すなわちギャン・ガイアとの戦いが行われている一大戦線。

 先程まで均衡が保たれていたその場所は、今は彼の動きを瀬戸際で何とか食い止めるというような状況に陥っていた。


「なぁやっぱさ、蒼野がいた方が!」

「弱音を吐かない! アタシ達は今ある戦力で何とかするしかないの!」


 その理由は至ってシンプル。

 文字通り古賀蒼野がいなくなったこと、いや更に突き詰めれば『原点回帰』がなくなった事に尽きる。

 数十メートルの無限に再生する木の根の化け物と化したギャン・ガイアは、圧倒的な消滅の力なくしては止めきれなかったのだ。


「それにしても凄まじいなおい!」

「ええ。鬼人族を筆頭に多くの炎属性使いが協力してこの程度の成果しか上げられないとは!」


 代わりに投入されたのは背後に控えていた鬼人族を筆頭とした炎属性使いとヒュンレイの部下達であり、その規模は二年前の対デスピア・レオダの時を遥かに超えるものであったのだが、結果的にはギャン・ガイアが自由に動くのを防ぐのが精いっぱい。

 しかも時を追うごとに粒子切れで離脱者が現れる程であった。


「あぁぁぁぁぁぁ!! 我が主よ! 醜き愚者の寝床よりご覧あれ! 我が! 活躍をぉぉぉぉぉぉ!!」

「ああもうるさい!」


 核となる本体を見つけられれば止められる。

 その希望に縋り優や積が再生と膨張を続ける木の根で形づくられた体皮の上を駆けるが、それも成果が出ているとは決して言えない。


 ジリ貧だ。


 蒼野や聖野と同じように、しかし彼らよりも切羽詰まり、策もない嫌な感触が彼らの胸を襲う。


「優、後ろだ!」

「!」


 その感覚に後ろ髪を引かれてしまったゆえに一瞬ではあるが優は反応に遅れ、無数の木の根が逃げ場を奪うように展開される。


 まずは一人


 根の奥に潜りながらギャン・ガイアがそう考え、思考を彼女へと集中させるのだが、


「っ!」


 直後、戦場を蹂躙する巨体どころか自身がいる周囲一帯を揺らす程の衝撃が頭上から降り注ぐ。


 なんだこれは!?


 思わぬ事態にそのような事を考えるギャン・ガイア。


「ま、まさか!」

「テメェは!」


 驚きは彼だけにとどまらず、メタルメテオ同様に頭上から降り注いだ影を前に、ギャン・ガイアを囲うように動いていた多くの面々は動揺を示した。


 その正体とは――――


ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


中盤戦突入。そしてその中でタイムリミットがある二ヶ所の現状です。

最後に現れた影、そして対メタルメテオの策とは?


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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