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一心不乱の末の収束


 空から落ちる不可視の死の塊が、建物と大地それにあらゆるものの残骸に触れる。

 すると触れた側からあらゆるものは凍りつき、次の瞬間には耳に響く音と共に切り刻まれる。


「はぁ! はぁ!」


 上空でその光景を見守るシェンジェン・ノースパスはその光景を最後まで見届け、舞い上がる氷の礫を目にしながら荒い息を吐くのだが、その顔には嬉々とした感情が宿っている。

 なぜなら少年は今しがた確かに目にしたのだ。

 自身が駆使する風の爆発により体勢を崩した超人・原口善。彼が天幕のように垂れ下がる不可視にして必殺の攻撃に抵抗する事ができず呑み込まれていく姿を。


「やった…………」


 そうなれば彼の体が耐えきれるはずがないのは片腕を奪ったことから証明されており、彼の口からは願い続けた結末を迎えた故の言葉が零れ、


「やったぁぁぁぁぁぁ!」


 次に口から溢れた同じ言葉にはこれ以上ないほど強い歓喜の念が含まれており、空に浮かぶ月を見上げ復讐が完了したという事実から両腕をあげる。


「なんだおめぇ。ずいぶんと嬉しそうだな」

「…………………………え?」


 がしかし歓喜の瞬間は長くは続かない。

 それを遮るような平然とした声が地上から発せられ、勢いよく真下を眺め彼は見たのだ。


「もしよけりゃ何があったのか教えてくれねぇか? お前さんの父さんの親友の俺に」


 片腕はなおも失われている。

 しかし間違いなく健在している怨敵の姿を。


「お前、なんで生きて?」

「さあな。自分で考えてみな」


 それを前に彼は心底腹立たしげな声で尋ねかけるのだが、尋ねられた善はといえば口に花火を咥え、余裕綽々とでも言うようにポケットに入れていたライターを手にして火を点ける。


「っっっっふざけるな!」


 そんな彼の態度を自身を舐めているゆえのものと断じ少年は吠えそして再び攻撃を始めた。

 

「なんなんだ。なんなんだよアンタは!」

「…………」

「今のは間違いなく当たってた。僕の目はそれをしっかり捉えたんだ! なのに何であんたはまだ生きてる!」


 幾度となく、一切の間を置かず繰り返される風の大爆発と触れた相手を殺す風と氷の合わせ技。

 その威力は彼の怒気の上昇を示す様に増していき、なおも逃げ続ける善へと向かっていく。


「そんな不可思議な事ができるクセに何で父さんを守れなかったんだ!!」


 その精度は更に増していき、善の頬が爆発により焦げ、肩の肉と骨が冷気と斬撃の衝突で削られる。


「それほどの事ができるのに何で逃げた! 何で戦わなかった!」


 ヒュンレイ・ノースパスが死んだあの日、どのような事が行われたのかシェンジェン・ノースパスは知っている。

 ヘルス・アラモードの協力のもと神教のデータベースに侵入した彼は、自身の父を死に至らしめた犯人が『十怪』の一角エクスディン=コルで、その方法が自分が今使っているものと同じ相手を即死させる類の攻撃であることも知っていた。


「答えろヒーロー! その力があれば父さんを助けられたんじゃないのか! 貴方が命を賭して戦えば、父さんは助かったんじゃないのか!」


 それと同タイプの自身の攻撃をどうにかして防げるのなら、父も同じように助けられたのではないか。少年は喉が潰れる勢いでそう尋ね、答えを聞くべく攻撃される危険を承知で攻撃の手を止め、彼に弁解する機会を与える。


「言いたいことはそれだけか?」

「!?」


 がしかし目の前の怨敵は答えない。

 わざわざ弁解の機会を与えたというのにその口からはふざけているとしか思えない言葉を吐き、ただただじっと少年を見上げている。


「――――――――――ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その姿を見てシェンジェン・ノースパスはキレた。

 それこそ頭の奥で血管が千切れたのではないかと思うほどの怒りが全身を包み、理性を失った獣のような咆哮を上げ、休めていた腕を掲げ攻撃を再開する。


「死ね!」


 その威力・密度・連射性能、まさに鬼神の如く。

 善が見た中で間違いなく最強であると断言できる様子で延々と攻撃が行われ続ける。


「死ね!」

(躱せる!)


 ただ善にとってはありがたい事に冷静さを極限まで欠いた彼の攻撃にはいくらかの隙があり、善自身が二つの攻撃の合わせ技にも慣れて対応できるようになった事もあり、幾らかの余裕を持って躱す事ができるようになっていた。


「死んでしまえぇぇぇぇぇぇ!」

「あぁ!?」


 がしかしここで彼は再び驚かされることになる。

 絶えず涙を流しては凍らせるシェンジェン・ノースパス。

 彼は両腕をおもむろに下げたかと思えば勢いよく振り上げると、周囲一帯の地面が勢いよく浮きあがる。


「ま、じぃ!」


 それほどの規模のことを瞬く間に成し得た少年に空恐ろしいものを感じ、同時に自身の意思で起こったものではない浮遊感から逃れるため空を蹴る。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「がっ!」


 だが急いで移動しようとした善へと向け今度は爆発ではなく風の膜を纏い姿を消していたシェンジェン・ノースパス自身が特攻を仕掛け、善はうめき声を上げながら更に上空へ。


「今度こそ!」


 さらに体勢を崩しその修正を計ろうとする善が何かをしでかすよりも早く、威力よりも精度と速度に重点を置いた数多のエアボムが彼の体に襲い掛かり、更に上空へ上空へと打ちあげ雲を貫き、


「これで!」


 そんな彼よりも更に上。

 真ん丸な月を背景にした少年は善を見下ろし、


「終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 三百六十度全てを絶氷斬風で包み込み勢いよく収束させていく。


「っ!」

「な、なんで!?」


 がしかしそれを受けているはずの善はなおも傷一つなく空に浮かび、


「なんでなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 もはやそのトリックにまで頭がまわらないシェンジェン・ノースパスは完全に正気を失った状態で同じ攻撃を繰り返していく。


「え?」


 がしかし、そこで思いも寄らぬ事態が起こる。

 雲さえ真下に見ている少年の体が突如自由を失い落ちていくのだ。


「な、なんで?」


 その状況に困惑する少年の目にしている先では原口善を囲っていたはずの風と冷気も消え去っており、彼らはほぼ同時に地上へと降下。


「ク、ソ!」


 そのまま近づいて来る善を前にして危機感を抱いた彼は周囲に散っている風属性粒子を集め着地するが、そこで自身が至った今の状況を理解した。


「粒子切れ、だな」

「っ」


 そう、今のシェンジェン・ノースパスはその身に備えていた粒子を使い尽くしていた。

 髪色が変色するほど大量に備えていた風と氷の粒子がなくなり、攻撃はおろか自力では空さえ飛べなくなっていたのだ。


「ま、あれだけ強力な攻撃を繰り返したんだ。当たり前っちゃ当たり前だわな」

「!」


 すると善はそうなった原因を指摘し、それを聞きシェンジェン・ノースパスは顔を青くした。

 彼の言う通り冷静さを失った少年は自身が備えている粒子の量さえ頭から抜け落ち、善の練気ごと肉体を砕く事ができるほどの冷気と斬撃を合わせた攻撃を延々と繰り返していたのだ。


「な、なんで?」

「ん?」

「なんでこんな結果になったんだよぉ」


 そうして辿り着いた結末。そのあまりにも情けなく無慈悲な終幕に彼の口からは弱弱しく嗚咽が混じった言葉が漏れた。


「…………お前はすごいよシェンジェン。けどな、まだ六歳なんだ。その年齢でヒュンレイより強烈な冷気を扱って、あれだけの大爆発を起こすエアボムを繰りかえすってんなら、そりゃ限界も来るさ」


 がしかし善はそんな様子の彼を嘲笑わない。

 むしろ確証もない賭けにまで追い込まれた事実に恐れすら抱いていた。


「ま、これで勝負は終わりだな」

「!」


 しかしどのような経緯があったとしても彼は賭けに勝ち、もはやロクな抵抗ができない幼過ぎる少年へと近づいて行く。


「ひ!!?」


 その光景を前に少年は声をあげる。

 それはこれまでのような怒りや悲しみを多量に含んだものではなく、殺意をもって挑んだ相手が悠然とした様子で歩いて来るという事実。そのような選択をした自身に待ち構えているであろう考えるだけでも恐ろしい未来に対する恐怖からのものであり、少年は小さな体を強張らせると立ち続けることすらままならず転んでしまい、体と頭を丸め目を瞑った。


「本当に――――すまなかった!!」

「え」


 がしかしそのような結末は訪れない。

 代わりに訪れたのはもはや希望はないと断じていた彼の耳に届いたそんな言葉で、


「お前の言う通りだ。俺は…………俺はあの時死ぬことを覚悟で残るべきだった!!!」


 恐る恐る顔を上げ目にしたのは、自分の前で土下座している怨敵にして宿敵、そして父の盟友である原口善の姿であった。



ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


というわけで原口善VSシェンジェン・ノースパスここに終結!

最後は善の戦略勝ち! そして謝罪の土下座!

その結末は次回で!


なおシェンジェンの放つ冷気はヒュンレイを超えていると善は言っていますが、彼は見ていないのでこう言っているだけで、実際のところは氷属性の極致を使えるヒュンレイの方が強いです。

シェンジェンの方が強いというのは、極致抜きにした場合の話です。

とはいえ熱で無効にできる皇帝殿以外は基本当たれば倒せるため、めちゃくちゃな強さなのは確かです。

人を殺すのに銀河ぶつける必要はねぇ!

という枢機卿に対する反抗みたいな力ですね


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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