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シェンジェン・ノースパスと原点に至る物語


 僕が覚えている最初の記憶は今から三年前と少し前。三歳だった頃のものだ。

 雪に包まれた町の都心部からちょっとだけ離れたところにある大きめのログハウス、それが僕が住んでいた家で、その時から僕には他の子のような親がいなかった。

 周りにいる親切な乳母さんやお手伝いさんによると、お母さんは僕を産んだ時に死んでしまい、お父さんは戦いに行った先で戦死したという事だ。

 ただだからといって悲しむような事はなかった。お母さんには産んでもらった感謝しかないし、お父さんにしてもそういう死に方をする人が多いのは知っていたからだ。

 それに幼稚園に行けばいっぱい友達がいて、不思議な事に僕の方は全然知らないのに僕を慕ってくれる大人の人達は多かった。

 他にも色々な人が周りに居て、みんな、みんなみんな僕に優しくて、頼めば色々なものを買ったりもしてくれた。

 だから毎日が充実していて寂しく感じる事は全くなかった。


「シェンジェン様。お手紙が来てますよ」

「はーい!」


 名前を呼んでくれたちょっと腰の曲がったお手伝いさん、彼女がいる玄関にまで近づくと、僕に対し定期的に送られてくる分厚い和紙の封筒に包まれた手紙を受け取る。

 それからすぐに勢いよく封筒を開けて最初に『親愛なるノースパスへ』と書かれた紙が現れ、それに続いて世界中の色んな風景が映った写真とお小遣いが送られてくる。

 それが本当に嬉しいから、僕は笑いながら廊下を駆け、部屋に戻ってヒーローに報告をする。


「善さん見て! また僕の知らない景色が送られてきたんだ! ブクっていう場所にある本が流れる皮だって!」


 その人の名前は原口善。

 手紙に書かれていた内容によるとこの世界を良くしようと日々頑張っている人で、強きを挫き弱きを助けている、世界中に認められているすごい人らしい。

 そんなこの人は僕と同じように家族を失っているらしくて、それでも立ち上がって日々努力している姿は本当に本当にかっこいいと思っていて、お手伝いさんに頼んでこの人が戦ってる映像を見ては言いつけから日々行っていた得意な属性の研鑽に加えて体を鍛え、友達と一緒に真似したり、やって来る大人の人達の前で見せたりした。

 それが本当に楽しくて、何も考えることなく無我夢中であこがれの人の真似をして過ごせる日々は最高だった!




 彼が後に僕にとって許せない人になるなんて、この時の馬鹿で愚かな僕は思いもしなかったんだ。




 それから一年ほどが経った四歳のころ、不思議な事に毎月数回送られてきてた手紙が送られてこなくなった。

 それをとっても楽しみにしていた僕は色々な人になにがあったのか尋ねるのだけど、彼らはみんなあまりいい表情を浮かべなかった。

 ある人は無理矢理取り繕った笑顔を浮かべてごまかして、ある人は沈痛な面持ちを浮かべた。

 またある人は涙を流し始めた。

 そういうのを見続けていて僕は気づいた。恐らくだけど手紙の主は僕に接する多くの人たちにとって本当に大切な人で、その人は帰らぬ人になってしまったのだと。


 で、たぶん色んな人が僕を子供だと侮った結果なんだと思う。

 僕が得意な風属性を使った技とかの練習をしているとき、風に乗ってやってきた言葉を聞いてしまった。

 それが僕の親に関する情報。つまりヒュンレイ・ノースパスに関してだった。


「ノースパス…………僕と同じ名前だ!」  


 これからしばらくして分かった事なんだけど、僕が情報端末の使用を制限されていた理由はこの『ノースパス』という名前で検索される事を嫌がっての事だった。

 でもその名前にこそ僕が知りたいことが全て存在するとなんとなくだけど確信を抱き、色々な人の目を盗んで調べ始めたんだ。


「シェンジェン様、お部屋に戻りましょう。今日は普段と比べ殊更冷えます」

「…………はい」


 けどそれは中々うまくいかなかった。

 これも後で知った事だけど、あの場所に居たのはただのお手伝いさんではなく一人一人がすごい力を有している手練れの類だった。

 だから幼い僕が何かしようとすると結構な頻度で見つかってしまい、その度にやんわりとした、本当に優しい口調で違う事に意識を向けるように誘導してくるんだ。

 それこそ何度僕が同じことを繰り返そうと怒ることなんて一度もせず、温かい心で僕を包むように語りかけるんだ。


「だめだ。決定的な情報だけが手に入れられない!」


 そんな彼らに対し申し訳なさを覚えながらも足掻き続けた僕は三か月の間である程度外堀にあたる情報を集める事が出来た。けど結局のところ死の真相や彼自身についてはほとんど知る事ができなかった。


「君の父、ヒュンレイ・ノースパスの事について知りたいかい?」

「え?」

「どのような生活をしてたのか。どこで活動していたのか。友はいたのか。そして隠された死の真相」

「!」

「君が望むのなら私と私の仲間達が、それを知る手助けをしよう」


 そんな時だ、ガーディアさんと知り合ったのは。

 僕を慕う大人の人の内の一人が姿を変え、友人として彼を紹介してくれたんだ。


 そしてこれがきっかけで僕は全てを知る事になる。




「僕の親で手紙を送ってくれてたのは予想通りヒュンレイ・ノースパスさんで、目の前に居たのに助けられなかったのは人を助ける事を心情にしてる原口善さん?」

「そうだ」

「はは…………………………なにそれ」


 ガーディアさんとその仲間、細かく言えばシュバルツさんとエヴァさんにアイリーンさんの活躍はすごかった。

 彼らは様々な方法で手練れであるお手伝いさん達の目を掻い潜り、僕が知りたい情報を全て教えてくれた。


「なにそれなにそれなにそれなにそれ…………なにそれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 でもそうして知った真実は最悪だった。頭がぐちゃぐちゃになって吐きそうになった。


 信じられるわけがなかった。

 それまでヒーローだと思ってた原口善が父さんの同僚であり無二の親友だった。

 そしてそんな彼が側にいながら、死にゆく父さんを見送った。共に戦う事なくむざむざと死なせた。

 そんなの、そんな卑怯で汚いこと、ヒーローだと信じ憧れ将来の目標としていた彼の姿だと、信じる事は到底できなかった。


「なんでだよクソォ!」


 それでも現実を受け入れた僕は溢れる涙を止めることなく、周りにはガーディアさん達以外には誰もいない事を理解しているから人生で初めて汚い言葉を吐き、


「友じゃないのか! 弱きを助けるんじゃないのか! 世界中に認めもてはやされている英雄じゃないのか!」

「そんな原口善が土壇場で父さんを見捨てた!? 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの!!!!」


 混乱した頭の中でも鮮明に浮かぶ感想を、心を整理するためにただただ吐きだす。


「しかもなんだって? 本人は悪びれる様子もなくのうのうと生きて、父さんを死なせたくせにまだ表立って活躍してるだって? 何事もないように平然として人助けをやってるだって?」

「そうだ」

「ふざけるなぁ!」 


 その時一人でやってきたガーディアさんが渡してくれた資料の中にはミレニアム討伐のために西本部で戦っている彼の姿があって、そこに映る彼には父さんを失った事による悲しみなんて一切ない様子が映っていた。

 だから僕は喉が枯れる勢いで呪詛を込めるようにそう呟きながら手にしていた写真を破り、荒い息を吐き膝を詰めたい地面に付け頭を垂れる。


「ハァハァ…………殺してやる」

「…………」

「無二の親友である父さんを守れないでのうのうと生きてるクズ! 僕から父さんと会う機会を失わせた大罪人! 原口善!! あの男を必ず殺してやる! 絶対に絶対にこの僕が殺してやる!!!」


 その状態で僕は両手で地面を叩く。

 そして胸に宿った憎悪を必ず成しえる目標として吐きだす。


「手伝おうか?」

「え?」

「これから数年後、私はこの世界に戦いを挑む。その際に必ず原口善と衝突するだろう」

「お、お願いします!」


 そんな僕に対しガーディアさんはこれまでと一切変わらぬ単調な声で語りかけ、差し出された手を僕は掴む。

 これが始まり。僕が今に至る始まりだ。


ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ありません。本日少々忙しかったためこのような時間の投稿となりました。

さて今回の話は超重要、シェンジェン・ノースパスという少年があまりにも幼い復讐者となるに至ったきっかけです。

まだ四歳だった彼はここから鍛えに鍛え、二年経った六歳の時点で原口善と戦えるまで成長します。

正直めちゃくちゃな才能です。どのくらい凄いのかはまたどこかで


そして次回からは一気にクライマックスへ。

小さな復讐者は隠し続けた切り札を出します。

その正体とは……


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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