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曖昧模糊の真相 二頁目


 何度目かもわからない衝突が戦いを続ける両者の間で行われる。

 彼らが行うは拳同士の衝突と並ぶ接近戦の花形、剣を用いた接近戦。

 秒間千回を超える衝突は周囲に重苦しい重低音を響かせ、発せられる衝撃が有象無象を弾き飛ばす。

 そのような剣戟の末にメタルメテオが押し負け後方へと吹き飛び、銀の鎧に汚れが付着する。

 先程から延々と続くこの戦いの展開だ。


「クソ」


 にもかかわらず悪態をつくのは彼と対峙し一方的に押しているレオン・マクドウェルである。

 というのも傍から見れば彼が終始優勢な状況なのだが、その実本人は常に自分の首元に刃を突きつけられているような感触を覚えていた。


「今の一撃も――――覚えた」

「そろそろきつくなってきたぞ!」


 というのもこのメタルメテオという男、同じ動きが絶対に通用しない。

 どれだけ早く鋭い一撃であろうが、それが同じ角度同じ踏み込みで行われる二度目であれば必ず対応するような動きを見せてくるのだ。


 これによりレオンは衝突の度に多少なりとも前回までとは違う動きをしなければならず、時を経るごとに繰り出せる手が減っていくという嫌な状況が続いていた。


「はぁ!」

「効かん!」

「面倒な固さだ!」


 逆を言えば初手にあたる攻撃ならば彼の者の肉体に確実に届いているのだが、体を纏う銀の鎧を破壊する程の威力にはなりえず、多少の傷は全て彼が発動する術式により修復される。


「閃光よ。集え!」

「またこれか。面倒だな」


 そうして元の状態に戻ると鉄の騎士は体勢を立て直し、何度目かもわからぬ光の刃を作りだし虚空に浮かべ、その切っ先をレオンへと向ける。

 するとレオンは手慣れた様子でそれらを受け流しながら駆ける速度を微塵も緩めず鉄の騎士へと肉薄するのだが、彼が攻撃を捌ききり剣を下に降ろした瞬間、その動きを予期していた敵対者が距離を詰め、大地を掬いあげるかのような軌道で腕を動かし、


「お命、頂戴する!」

「迅型鋼の太刀!」


 そう言いながら渾身の力で剣を振り上げる。

 それを前にして舌打ちしたレオンは全身を風属性粒子で包み込み、神剣アスタリオンの力で守りを固めそれを捌き、


「攻型風の太刀――――!」


 そのまま粒子を変える神剣アスタリオンの能力を再度発動し、メタルメテオが第二撃を放つよりも遥かに速く、彼の体を斬り裂いた。


「またか!」


 がしかしなおも倒しきれず、同時にレオンも彼がここまで堅牢な理由の一端を知る。

 というのも目の前の鉄の騎士は攻撃が当たる瞬間、接触ヶ所に鋼属性粒子を練っているのだ。

 それによりレオンが想定している程の硬度を瞬時に得る事で耐えきり、決着の瞬間を遠ざけているのだ。


(時間稼ぎが目的。いや単純に長期戦にして俺の手がなくなるまで粘るのが目的か?)


 頭の奥に浮かんでいた最悪の予想とは別の予想が彼の頭をよぎり、その場合どうするべきかという思考に移行。

 すぐに最大火力を叩きこむという答えに辿り着くが、できればそれはしたくないというのが彼の本音であった。

 理屈ではなく直感が囁いているのだ。恐らく一度見せれば、角度や緩急などを変えようと、二度目は通用しないと。


「いや迷っている場合じゃないな」


 しかしその程度の事で臆するほど彼は臆病ではなく、なおかつ自身の役割が何であるかも忘れていない。

 とすれば目前の敵を一早く下し、神の居城内部に援軍として馳せ参じる事が今の自分がしなければならないことであり、二度目が通用しないのならば一度目の衝突で当て、勝負を決してしまえばいいと認識。

 そう意識をまとめてしまえば後はその通りに動くだけだ。


「炎上膜」


 神器、魔剣ダンダリオンの切っ先に炎を灯し、地面を大きくこする。

 すると振り上げた軌道に沿って炎が立ち昇り、レオンとメタルメテオを阻む境界が瞬く間に形成された。


「速い!」


 と同時にレオンは全身を風属性粒子で包み、さらに神剣アスタリオンの効果で速度重視の形態に移行。

 メタルメテオの視線を自身から外し、決定的な一撃を叩きこむために手にしている二本の剣に炎を宿す。


「重い一撃入れるつもりか。だがしかし、そこまであからさまな行動がうまくいくと思っているのか?」


 だが末席とはいえこの鉄の騎士もインディーズ・リオの一員である。

 思惑が分かっているのならばそれ相応の対処方法を思いつく程度造作もない。


「全弾装填。鋼の脅威は雨となり対象を駆逐する――――」

「派手な事をする」


 剣を両手でしっかりと掴んだ状態で腕をあげ、銀の鎧の胴体部分の至る所に穴を開ける。

 そしてその状態で呪文を唱えると無数の小さな砲身がその姿を現し、疾走しているレオンも彼が何をしてくるか予期し、クロバに対し念話を送る。


「喰い破れ――――パニッシュ・パニック!」


 その直後、彼を中心に360度全ての角度へと向け銃弾とレーザー光線が撃ちだされ、視界に入る全ての存在が、敵味方問わず大地に沈む。


「まだだ!!」


 がしかし数秒しても目当ての男の姿は見当たらず、彼は自身の足の裏から車輪を出し移動しながら攻撃を続行。

 自身を中心とした半径一キロの範囲を生き物の生存が不可能な程の密度の攻撃で埋め尽くし、レオンがその全身を大地に沈める瞬間が来るまで、これを続けようと意志を固める。


「む!?」


 そんな中、彼にとって予想だにしない事態が行われる。


「上に飛んでいた奥方が招いた怪物か。運がない事には同情するが、邪魔をしないでほしいものだな」


 360度全てを範囲とする以上その射程は上空も含まれる。

 とくれば空中を舞う者達も無論彼の放った弾丸やレーザー光線の餌食であり、全身をおびただしい量の攻撃で撃ち抜かれたいくらかの者が地面に沈むのだが、連合軍の兵士が落下しきる前に消え去るのに対し怪物達はそのまま地面に落下した。

 問題なのはそれが彼の頭上に迫っていたことであり、それを億劫げに思った彼は背中から生えている他と比べやや大きな砲身をそちらに向け、


「悪いが吹き飛んでもらうぞ」


 そう告げると巨大な砲弾を発射。

 砲弾は怪物に接触すると周囲一帯を包む程の煙を発し、彼の視界を僅かなあいだではあるが奪った。


「何っ!?」


 その時であった。

 邪魔者を除いたことで一瞬気が緩んだ彼に飛来する物体があった。

 それは真横から勢いよく飛んでくる巨大な怪物で、意識をそちらに向けていなかったメタルメテオは慌てた様子でその全身を蹂躙するのだが、怪物の巨体を完全に破壊することは叶わず、足の車輪を動かし、武骨な両手剣を頭上へと掲げたまま横へ移動。


「そこだ」

「貴様!」


 レオン・マクドウェルが現れたのはまさにそのタイミングで、彼は念話でクロバに指示して飛ばしてもらった怪物の巨体から飛び降りると、完全に不意を突かれた様子のメタルメテオへと向け降下。


「攻型火の太刀!」

「おのれ!」


 おびただしい量の弾丸を足元に出した鉄の板で何とか防ぎながら剣の届く射程へと迫り、


「煌炎閃線!」


 強烈な熱と輝きにより赤というよりも白に近い色を発した炎。

 それを纏った刃を一直線に振りきった。


「躱した!?」

「残念だがその動きは見切っている!」


 しかしそれは既に見た動きという事で寸でのところで躱され、反撃とばかりに彼は大上段に構えた飾り気のない両刃の剣に水を纏い、


「ふん!」


 シュバルツ・シャークスが行うような声を発しながら大きく踏み込み、全身全霊の一撃を叩きこむべく着地寸前の状態のレオンへと向け腕を振り下ろし、


「だがその程度ならば問題ない。俺の射程内だ」


 しかし彼は焦ることなくそう呟き、


「!」


 次の瞬間、メタルメテオの胴に袈裟に斬られたかのような強烈な衝撃が迸る。


「こ、れは!?」

「切り札は一枚とは限らない、ということだ」

「おの、れ!」


 ほんの一瞬前まで危険が迫っていたにもかかわらず、一切慌てずそう語るレオンの両腕から二本の剣の切っ先には赤と桃色が混ざった彼の『気』が纏われており、これまで見ていなかったその姿に鉄の騎士はくぐもった声をあげる。


 練気『斬影』

 接近戦という距離を主体に置いているレオンが備えている、遠くにいる相手を狙う際に行われる攻撃手段。

 対象の鎧や盾の防御をすり抜け、本体部分に時間差で防御力無視の斬撃を与える特殊な攻撃。

 それを喰らった事で鉄の騎士はその身を硬直させ、


「煌炎閃線・双身十字!」

 

 その瞬間に交差するように駆けながら放った二つの斬撃は彼の胴体にぶつかる瞬間に交差し、その強烈な威力を示す様に銀の鎧を名の通り十字に斬り裂いた。





ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


先日から続いてレオンVSメタルメテオ。

今回語られた通りメタルメテオは立場で言うとインディーズ・リオの末席です。

そんな彼との戦いの決着と正体の判明はもうすぐそこ。


今回の戦争編は一部の戦いを除いてこんな風に結構テンポよく進んでいく感じになると思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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