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曖昧模糊の真相 一頁目


 ギルド『ウォーグレン』の五人の子供たちがギャン・ガイアと対峙し、三十秒ほどが経過する。

 そのあいだ五人は目前の敵の一挙一動を決して見逃すまいと意識を集中させ、ギャン・ガイアもまた微動だにせず彼らを見つめていた。

 

「…………ちぃ」


 というより彼もそうするほかなかった。

 初めの衝突にプロニックで行われた二度目の衝突。そして三度目となる今回の衝突。

 会うたびに目の前の五人は彼の想定を超える勢いで強くなっており、今ではこの数分で下した雑兵とは比べ物にならないほどの強敵になっていると理解。


 まだ幼いながらも紛れもない傑物が五人。自分の前に立ち塞がっているのだ。彼とて一挙一動に気を付ける他ない。


「…………心底から憐みの念を覚えるよ。君達のような未来明るい若人が、無知ゆえに邪教の手先になっているという事実にね」


 そんな彼らを前にして彼は誰に話しているのかもわからない、もしかしたら声の大きな独り言かもしれないような事を口ずさむ。


「ギャン・ガイア」

「?」

「あんたが神教を、いやもしかしたら賢教も含めた二大宗教を邪教って呼ぶのは、彼らが裏で何をしているのか知っているからなのか?」

「!!!」


 これまでの彼らならばそれらの言葉の羅列は聞くに堪えない妄想妄言の類のようなものであった。

 しかし先日の賢教襲撃の際にクライシス・デルエスクから聞いた内容を思い浮かべれば、そう思えない自分たちがいるのもまた事実であり、


「君達は………………邪教、いや賢教と神教が裏で何をしているのか知っているのか?」


 真摯に対応し適した答えを返せば、普段は狂気に身をゆだねている彼もまた正しい反応を示すのだ。


「はい」

 

 声だけでなく体を小刻みに震えさせる狂信者と呼ばれる男。

 その姿を前に蒼野は一歩も引くことなく肯定の意を示す。


「ならば、ならば君もわかるはずだ! この世界がどれだけ歪か! 流す必要のない血が、たった数人の愚者の意志でどれだけ流されているか!」

「……ギャン・ガイア。そうか貴様があの男が言っていた」


 今にも泣き出しそうな勢いで言葉を浴びせかける彼の様子にゼオスは一人納得する。

 彼こそがクライシス・デルエスクが語っていたこの世界の真相を盗み聞きしてしまったものなのだと。


「個人のエゴにより失われる多くの命! それをもとに成り立つ世界! これを仕組んだ者が主をする宗教を邪教と言わずなんと言う! この状況を打破する希望の光を主と慕って何が可笑しい!」


 情報が入れば見るもの聞くもの全てが大きく変わる。

 料理をただ食べるだけの者と作る苦労を知る者では米粒一つ、野菜の欠片一つの価値が違い

 競技の世界に身を置くものならば唸るような動きや一手も、素人からすればその価値は有象無象と変わらない。


 蒼野達五人がいま陥っている状態はまさにそれだ。

 これまで頭のおかしい狂人にしか思えなかった目の前の存在が、今では真実を知り孤独に戦い続けた偉人にさえ見えた。


「――――――古賀蒼野。古賀康太。尾羽優。ゼオス・ハザード。そして原口積」

「な、なんだよ」

「君らもインディーズ・リオにその身を置かないか?」


 そんな状態で彼が初めて子供達の名を真摯な態度で呼び、戸惑う積や他の面々を前に自身の右手を差し出し左手を胸元に置けば、周囲の喧騒は全て吹き飛び、目の前の人物が舞台に立つ主人公のようにさえ思える。


「今! この時! 僕達は最大の好機を得た!」

「この千年。この状況を覆すほどの力を持つ者は誰もいなかった! だから続いた!」

「これほどの業を背負った彼らを裁くことができる者は現れず、世界は歪みに歪んだ!」

「しかし。しかしだ!!!」

「「!」」

「この状況を覆すことができる者が現れた。それが我が主ガーディア・ガルフ様だ! 

 彼に着いていけば世界は変わるのだ!」


 早口でまくし立てるその言葉の数々は聞くものの事を一切考えていないものである。しかしそれらは不思議と彼らの耳に届き、心の奥底に根付き、甘く強い毒として彼らの全身に浸透し、思わずその手を取ってしまいたい誘惑が彼らに襲い掛かる。


「…………すいません。俺は、いや俺達はその手を取れません」


 しかしその誘惑を先頭に立つ蒼野が一早く跳ねのけ、懐にある革袋から取りだした空色の光球を虚空へと飛ばしながら謝罪の言葉と共に断った。


「な、なぜだぁ!?」


 するとギャン・ガイアは誰の目で見てもわかるくらい明らかな動揺を示し、またも口を光速で動かせ始める。


「理解できない理解できない全くもって理解できない!

 真実を知ってなおmなぜ彼女の肩を持つような答えを僕に示す。君達は大量の人が無意味に費やされるこの世界を認められるというのか!」


 彼ら全員を包み、他の怪物や兵士が跳ねのけられ空間一帯から消えていく中、派手なモーションで自身の感情を示し、敵意ではなく憐れみや悲しみを彼らに注ぐギャン・ガイア。


「………同じように思えてしまったんです」

「同じ?」

「ガーディア・ガルフという存在がどれだけ偉大なのか、正直俺にはわかりません。けど計画がうまくいかなかったからってすぐに力づくに出るような人が、今のこの世の中を変えられるとは思えないんです」

「!」


 もしガーディア・ガルフが計画が失敗した際に戦いとは別の道を選んでいたのなら、蒼野はもう少し頭を悩ませていただろう。


「それも戦争なんて形でです。そんなもの誰も望んじゃいない。そんなもの誰も幸せにならない。なるとしたらそれは――――――極少数の勝者だけです」


 しかし彼は力づくという他の者達でも選ぶことができる原始的かつ暴力的で、多くの者が得しない解決法を選んだ。

 そんな人物に世界を変えられるなんて思えなかったのだ。


「戦争とは言うが犠牲者は出ないんだよ?」

「死人が出ないだけですよ。

 傷を負えば体は痛いし、怪物に襲われれば怖い思いをします。確かに犠牲者が出るのは最大の被害です。無くなった方がいいに決まっています。けど、それが無くなったからって戦場で起こる全ての不幸が消えるわけじゃない。それに神器使いは死んでしまう抜け道もある」

「っ!」

「ギャン・ガイアさんが口にした世界の真実については、この戦いが終わったところでしっかり聞きます。それこそが正しい道だと俺は思うんです」


 なおも道を譲らぬギャン・ガイアは言葉を返すのだが、蒼野が毅然とした様子で語った内容を聞くと一瞬だけ彼らしくない表情を見せ、


「………………残念だよ。真実を知った者同士、仲良くしていけると思ったんだけどね」


 それで彼らの会話は終わりだ。

 ギャン・ガイアは勢いよく口を開きかけるのだが反論の言葉を口にすることができず、初めて彼らに対し正気を保ったまま悲しみの言葉を吐きだし、


「だが敵対するのならば容赦はしない」

「!」


 数多の木の根を地面から噴出させ自身の体を持ちあげる。


「蒼野!」

「ああ!」

「ここは戦場だ。立ち塞がるのならば容赦はしない。君達が我が主が、いや僕の思想が間違っていると宣うのなら!」

「く、来るぞ!」

「…………」

「その道理その意志を、その身で示してみるといい!」


 斯くして先日の戦闘で多くの『超越者』クラスを追いつめた木の巨人が顕現し、彼らへと向け巨大な腕を振り下ろした。




「はぁ!」

「っ!」


 ギルド『ウォーグレン』の五人の戦士がそのような会話の末に戦い始めたのと対比して、レオン&クロバとメタルメテオ、いやレオンとメタルメテオの戦いは何の言葉も挟む事なく始まった。

 残ったいたクロバは彼らの周囲に群がる怪物の対処に追われていたのだが、背中を預ける戦友に対して不安はなかった。


 いやむしろ絶対の安心感を抱いていた。

 相手が剣士でありシュバルツ・シャークス以外が相手ならば、ゲゼル・グレアが亡き今、レオン・マクドウェルという男を倒す事ができるものはいないと断言できた。


「甘い!」

「つ、強いっ!」


 そしてそう信頼されているレオン・マクドウェルはといえば、その思いにしっかりと答えていた。

 撃ちだされる追尾ロケット弾や光の結晶。地面から生えて来る不意打ちの攻撃に剣を使った接近戦。

 それら全てを手にしている二本の神器で瞬く間に退け、重い斬撃を鋼の鎧に叩きこむ。


「硬い!」

「奥方の様々な加護が施された至高の品だ。如何に重い一撃であろうと、そうそう壊れる物ではない」


 ただそれが決定打になる事は未だなく、しかし戦いは終始レオン優勢のまま延々と続いていく。

 もし観客がこの戦いを見ていたとするならば、誰もが勇者と呼ばれる彼の勝利を疑わないだろう。


「…………くそ」


 しかし当の本人だけは、正体が一切掴めないこの男を未だに打倒できない事実に対し、嫌な汗と感触を覚え始めていた。








ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ギャン・ガイアとの戦闘前会話。そしてこの戦争編の祝福?すべき初先頭は

レオン・マクドウェルVSメタルメテオとなります。


仮面の奥に隠された真相。それを知るための戦いです。

お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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