因縁・思惑・開戦 三頁目
此度の戦いにおいて連合軍側が勝っている最大の点は『数』である。
ガーディア・ガルフにシュバルツ・シャークス。そしてギャン・ガイア。彼らのような一人で数百から数千万を蹴散らすことができる怪物を前にすればさしたる意味がないように思えるが、それでも数が多いということはそれだけ優秀な人材があり、状況によって手を変え品を変え、相手に優位を取れるのだ。
そして今、万どころか億兆の大群を前にしても優位を取れる二人が神の居城の中に消え、最後の一人を子供たちが抑えている。
となれば数の差が占める比重は殊更大きなものになり、この一点を有効活用して場を制圧することこそ彼らの最大の勝機であった。
「奴らの進軍速度は遅い。今のうちに詰めっるすよぞ~」
「「はっ!」」
その数の差を覆す大きな要因が別の惑星から大量の戦力を投入するエヴァ・フォーネス。
そして今、賢教が誇る神器部隊が向かっている先にいるとされる賢教を裏切りし難敵ゴロレム・ヒュースベルトである。
「うらぁ!」
「はぁ!」
先頭に隊長である那須童子を置き、一丸となって進軍する一同。
彼らは壁のように立ちふさがる数多の魔獣と意志はないもののこちらに刃を向ける無数の氷の人形を蹴散らし、ほんの少し前まで尊敬すべき上司だった男のいるであろう場所にまで勢いよく迫っていく。
「隊長!」
「こりゃデカい。んでもって体を構成する粒子の圧も結構なもんだ。王格の精霊クラスか」
そんな彼らの前に現れたのはねじ曲がった角を頭部の左右にこしらえた筋骨隆々のヤギの顔を携えた深緑色の体をした巨大な怪物。
数多の精霊の中でも特に秀でたものが名乗るとされる『王格』。それと同等の力があると彼は判断。
動くビルのような体躯を誇っているその存在は彼らに真っ赤な瞳を注ぐのだが、それだけで那須の背後に居たメンバーのいくらかが全身を炎で包んだ。
「発火能力、じゃあないっすね。神器持ちに能力は効かない。てことはピンポイントの爆撃みたいなもんか」
攻撃の正体を模索しながら、地面を踏む両足に力を込め己が神器を形成しようとする那須。
「足を止めるでない。貴様らの仕事はこの先のはずだが?」
「!」
そんな彼らの頭上を飛び越し、敵側で言うギャン・ガイアと同じ使命、膠着状態の戦場を蹂躙する役割をこなすのは、先日の戦いで彼らと敵対していた雲景と保守派の面々だ。
「飛びこめ」
「「はっ!」」
彼らは空を舞い巨大な怪物の前に立ち塞がると、指差す雲景の指示に従い己が肉体を鋼属性で包む事で巨大な弾丸へと変貌し、巨大な悪魔の姿を模した怪物へと突撃。
百メートルを超える怪物を瞬く間に押しのけ、神器部隊の行く道を作った。
「さっさと行かんか」
「うっす。こんどうまい焼酎といい銀杏を奢ります」
「…………ふん」
二メートル近い身長を携えた鳥人族の生き字引きである彼に先頭を駆ける那須がそのような軽口を叩き、彼らは更に先に進む。
「おっとまた魔獣の大群に盾構えた氷の兵士か。ちっとばかし面倒だがちゃちゃっと蹴散らして」
「ここは我々が受けましょう。童子殿。先へ!」
「サンキュー雷膳さん!」
そんな彼らの前に現れたのは鎖帷子の上から甲冑を着こんだ独立国家『倭都』の切り札の一人富士雷膳とその部下であり、出身地の知人が出てきた事で彼は顔を綻ばせながら加速。
「お気を付けて。母君もすぐに駆けつけるはずです」
「げ、マジっすか。そりゃ嬉しくない情報っすね」
雷属性粒子を圧縮した強烈な雷撃により真正面にいた兵が瞬時に蹴散らされ、編成が元に戻るよりも早く那須を筆頭とした神器部隊が道を広げ先へと進む。
その途中で彼はあまり聞きたくない人物の情報を聞き顔をしかめるが、凍った地面を滑らないように強く踏み更に前進。
「ふぅ。辿り着いた」
「那須か」
「お久しぶり? でいいんっすかね。なぁーんで俺らを裏切ったんですかゴロレムさん」
すると彼らはこれまでにない規模の氷の人形の密集地帯に到達。
今度は自分たちの手で排除し、真っ白な息を吐きながら不自然に兵士がいない枯れ木に落ち葉が広がっているエリアに到達。
積み重ねられた土管の上に座り、自身の神器である本を開いているゴロレム・ヒュースベルトと対峙した。
神の居城内部で行われている戦いの中でも重要とされるインディーズ・リオの面々との戦い。
そのファーストコンタクトは神の座率いる連合軍の思惑通りに進んでいるのだが、この組み合わせには二つの思惑があった。
それが『意図的に膠着状態を生みだす対戦カード』と『手早く勝利し神の居城内部に突入する対戦カード』である。
というのも実は連合軍側はこの戦いにおいてインディーズ・リオ全員の捕獲ないし撃破は最初から目指していなかった。
たった一人で万軍全てを蹴散らせるガーディア・ガルフにシュバルツ・シャークスの二人こそ絶対に撃破しなければならないと考えていたものの、他の面々に関してはいくらかの優先順位を付けていた。
その中で特に優先順位が高いのが数の差を覆すエヴァ・フォーネスとゴロレム・ヒュースベルトだ。
ただエヴァ・フォーネスに関しては意識を奪ったり封印したとしても異星に繋がる空間が閉じない事は千年前の戦いで理解していたため撃破までは望まない事にしており、他所に手だしできず、なおかつ味方の強化もさせないよう意識を釘付けにする事を優先。
逆にゴロレム・ヒュースベルトは意識を奪えば氷の兵士全てが消える事が周知の事実であったため、神器部隊の半数以上に倭都の精鋭とかなりの戦力を注ぎこんだ。
他にもギャン・ガイアにアイリーン・プリンセス。シェンジェン・ノースパスなどが存在するが、この中でも後者に選ばれたのがエアボムの使い手であり、他の面々と比べればまだ未熟であると判断されたシェンジェン・ノースパスだ。
彼に対しては強い決意と意志を見せた原口善が送られ、素早い決着を付けるように指示。
「そこか!」
「この太刀筋は!」
そして後者に選ばれたもう一人が確かな実力を持ってはいるものの、相応の実力者を複数ぶつければ素早い撃破が可能であると判断されたメタルメテオであり、氷の兵士も数多の怪物も破竹の勢いで退け現れたのはレオン・マクドウェルとクロバの二人。
その存在に気がついたメタルメテオが剣を掲げ防御しようとするが、クロバの拳がその防御ごと彼を吹き飛ばした。
「不意打ち失礼。が、時間があまりない故の事だ。許してもらおう」
「レオン・マクドウェル。それにクロバ・H・ガンクか」
「…………」
全身をミレニアム同様鎧で隠した彼は堂々とした姿で現れた二人を凝視しその名を呼び、ダメージがなかったかのように立ち上がると剣を構える。
「…………」
「どうしたマクドウェル」
「いや。少しな」
その姿を見てレオンは嫌な感覚に襲われた。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
各箇所での対戦カード決定回その3。と同時に連合軍側の意図の説明です。
次回からは多少他の場所のハイライトを行いながらも1ヶ所ずつ戦闘を進めていきます。
え、ヘルス・アラモードはどうなったかって?
上層部、というより神の座イグドラシルの彼に対する方針は、まあ最低限の戦力を向けておけば、放っておいても大丈夫。というものです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




