因縁・思惑・開戦 二頁目
アイリーン・プリンセスとエヴァ・フォーネスとの決戦。それはまさに重要局面という言葉にふさわしい事態である。この一戦の勝敗がこの大戦全体に与える影響はとてつもなく大きいだろう。
「こっちにもっと戦力をくれ!」
「武器もだ!」
「任せろ!」
「人員の転送は私がする!」
「助かる!」
とはいえこの大戦における重要箇所はここだけにはとどまらず、また戦いの火蓋が切って落とされたのはシロバやデュークがいる場所だけではない。
「個の力ではこちらが完全に勝っている。恐れず進め!」
ある場所ではクドルフ・レスターが声を上げながら四勢力が混ざった合同部隊の指揮をして巨大な怪物複数体を相手取っており、
「先陣は私が。みなさんは援護をお願いしまう!」
「「了解!」」
またある場所ではシリウス・B・ノスウェルが先頭を走りながら敵陣ど真ん中に飛びこんでいった。
このような戦いは戦場の至る所で行われていた。
ある場所では賢教の神器部隊が暴れており、またあるところでは身体能力自慢で編成された部隊が暴れていた。
「スワッパー!」
「ああ!」
「砕けろ!」
中でも各勢力の強力な能力持ちを集めた二十人ほどからなる編成部隊の活躍はめざましく、他の部隊の二倍三倍という戦果をあげ、そこら一帯の怪物達の波を押し返していた。
「ようし。次はこっちだ!」
「か、かかかか加速します。みなさん私にふれてくださいぃぃぃぃ!」
ギルド『エンジェム』においてレイン・ダン・バファエロを支えており、今回の作戦において大いに貢献した希少能力『加速領域』の使い手。
貴族衆に雇われている高難易度の普遍能力『万物崩壊』の能力者。
さらには『俯瞰視点』と『座標転移』の能力を混ぜ、特定の相手を入れ替える事ができる能力者。
そのような強力な普遍能力や希少能力を備えた者達が徒党を組んだ結果が上記の結果である。
「中々やるようだね」
「!」
がしかし忘れてはならない。
それほどめざましい活躍をすれば、それ相応の戦力が出てくるということを。
「君達ならいい戦果になるかなぁ?」
「「ギャン・ガイア!!」」
彼らの前に突如として現れたのはラスタリア外部で行われる戦いにおける厄介な邪魔者撃退の任を受けていたギャン・ガイアであり、彼は賢教の者達が着ているのとほぼ同じ見た目の黒のカソックを羽織り、邪魔者である彼らに視線を注いだ。
「怯むな!」
「ここで足止めするんだ!」
ねちっこい物言いに空間を歪ませるほどねじ曲がった狂気。
それだけで嫌悪感を覚える彼らであったが、胸の奥で感じる吐き気を押し殺し、この戦いにおける最大の難敵の一人へと向け大地を駆ける。
「…………足りない」
「っ!」
が、意味がない。
触れるだけで敵対者を殺める事ができる能力も投擲した物体を無限に増やせる能力も、はたまた味方の位置を入れ替えるという類稀なる能力を備えた戦士も、狂信者の動きを捉えきれず攻撃を受け意識を失う。
「足りない足りないっ」
「覚悟ぉ!!」
彼の姿を認識し離れた場所にいた身体能力自慢の戦士が一跳びで彼の元へと移動するが、無造作に振り払われた裏拳に当たっただけで意識を失い他の者と同様に戦場から離脱するように消えていった。
「足りない足りないく足りなぃぃぃぃぃぃ!!
弱すぎるゥゥゥゥゥゥ!!!!」
その姿を見届けた彼は声が裏返るほどの勢いで獣の如き雄叫びをあげると再び進軍を開始し、目に入った者達全ての意識を刈り取りながら、次の戦場へと飛びこんでいった。
「この程度ではダメだ。この程度ではダメだ。この程度ではダメだっっ!!」
撃ちだされた攻撃を躱し、使用者の脇腹を抉り意識を奪った。
就きだされた刃をしゃがむだけでやり過ごし、顎から脳を揺らす様に掌底を当て同じく意識を奪った。
追尾攻撃は全て己の優れた肉体を行使することで弾き飛ばし、反撃とばかりに撃ちだしたどこまでも伸びていく木の根が、敵対者全てを蹂躙し数多の粒子が空へと昇った。
「幼き容姿をした醜悪な吸血姫。図体ばかりでかく思慮が足りない木偶の棒。臆病で腰抜けな『三狂』。銀の鎧に身を包んだ特級の戦士に幼き復讐者。僕と同じく二大宗教を見限った信徒。そして美しく華麗な姫君!
彼ら全てを凌駕する成果をあげ、僕は彼の隣に座らなければならないのだ。お前達のような三下以下の愚物がどれだけ集まろうと、圧倒的に足りないんだぁ!」
狂気を言葉に滲ませ、髪の毛が逆立つほどの邪悪な深緑の気を発し、ギャン・ガイアは咆哮する。
そのあまりにも恐ろしい姿を前に敵だけでなく味方の怪物達も彼を退け、そんな姿を目にして彼は敵に照準を合わし、
「何をしているぅぅぅぅぅぅっ!!
召喚者こそあの忌々しきクソチビとはいえ、君達化け物は我が主のために働く兵士のはずだ。それが足を止めてどぉするというのだ!
さっさと動いて、少しでも強い奴を見つけるなり潰すなりするんだぁ!!」
彼らの体に全身を腐食させる効果を付与した木の根を伸ばしながら、味方である怪物に対し薄暗い欲望が秘められた声で一喝。
それを聞き怪物達の軍勢は再び動き出し、見届けると彼自身も動きラスタリア内部に辿り着くことなく劣勢となっている場所へと一直線に向かっていく。
「弱い弱い弱い! 弱すぎるぅぅぅぅぅぅ!!」
現場に辿り着けばほんの数秒で敵を退場させ、また移動を行いその先でも同じことを行う。
最前線で戦う怪物や後ろから迫り接敵を目前とした氷の兵士とは別次元の強さ。
すなわち『十怪』でも最強の一角と言われる実力を遺憾無く発揮していた。
「どいてください!」
「ぬぅ!?」
がしかし、連合軍側とて馬鹿ではない。このように暴れまわる輩、もっと詳しく言えばその面々の中に暴れまわる事が最も有効な使い方である彼がいる事は分かっており、だからこそ対ギャン・ガイア用の部隊も用意していた。
「ギャン・ガイア!」
「また会ったなこの野郎!!」
「君達は!」
それがギルド『ウォーグレン』に所属する子供達。
レオン・マクドウェルやオーバー。パペットマスターにミレニアム。雲景とクライシス・デルエスク。そして目の前にいるギャン・ガイアや他のインディーズ・リオとの死闘を経て、並の兵士を遥かに凌駕する力を得た、五人の戦士である。
レジャー施設や摩天楼、普通の市街地に身を隠す事に特化している山岳地帯。
ガーディア・ガルフやアイリーン・プリンセスなどのような見敵必殺が可能な相手に対し、対策を練るように形づくられた常日頃とは全く違うラスタリア城門内に一つの影が入る。
「来たか」
並の者では目にすることのできない彼を最初に見つけたその男は短くそう呟き、上空からの見晴らしの悪い歓楽街を模したエリアの中を駆ける。
「!」
「突入だ! 俺達はできるだけラスタリア内部を荒らす……ってうぉぉぉぉ!?」
その途中で建物の一部が崩れたかと思えば最も速くラスタリア内部に侵入することができた大部隊と鉢合わせ、先頭に立つヘルス・アラモードを認識。彼もまた男の姿を認識すると、過去の経験が頭をよぎり、悲鳴に近い声を上げた。
「おらぁ!」
すると先にヘルス・アラモードを捉えた彼が気合いの入った声を発し、音を置き去りにし、雷さえ全く届かぬ領域の速さと威力を備えた拳を何度も打ち出す。
「へ?」
しかしそれらは身構えていたヘルス・アラモードではなく背後から迫っていた怪物達を退けるために撃たれた物で、彼が呆けた声と姿を晒した時には既にその場から離脱しており、
「よぉ」
男は復讐すると誓った存在から離れ、少年が足を止めた――――すなわち確かな勝機があると確信を抱いている摩天楼にある最も高いビルを駆けのぼり、真っ赤な航空障害灯に照らされているその姿を確かに捉える。
「風を纏って姿を隠して中に入ったら釣れると思ったよ。あんただけだもんね。他人を纏っている気で識別するなんてキモイ能力持ってるのは」
侮蔑し嘲るは復讐を誓う少年。
対峙するはそんな彼と戦う道を選んだ青年。
強烈な風が吹きすさぶ夜空の下で原口善とシェンジェン・ノースパスは相対した。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
ギャン・ガイアとシェンジェン・ノースパスとの邂逅回。いかがだったでしょうか?
全く違う様相の二ヶ所の物語を楽しんでいただけていれば嬉しいです。
さて次回は遭遇回最後の一話。
メタルメテオとゴロレムさんです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




