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因縁・思惑・開戦 一頁目


「戦闘員の無駄な消費の削減。恐らくそれが我々二人を神の居城内部に招き入れた理由だろう」

「なるほど…………なるほど?」


 ガーディア・ガルフとシュバルツ・シャークス。

 此度の戦いに於いて間違いなく最強の敵である二人を招き入れ、真っ白な城の入口が音を立てながら閉まっていく。

 ガーディア・ガルフがそのようなセリフを告げたのは入ってすぐにシュバルツ・シャークスが零した疑問に対してであり、なおも首を捻る友を一瞥し彼は歩き出す。


「少しでも我々の余裕や体力を削った上で最大戦力をぶつけるべきじゃないのか…………なるほど君の指摘は最もだ。しかしだよ、二人のフォーカスや聖騎士の座などの一部の戦力以外をぶつけたとして、我々がそこまで大きな負傷をすると思うか?」

「いやしないな。例え他がうまいこと連携したとしても、お前と二人でなら軽くあしらえる」

「ああ。恐らく傷一つ付けれず、全員この戦場から退場するだろう」

「だからか!」


 それに着いてきた友の姿を確認し恐らくされていたであろう作戦の詳細を語っていくと、彼も納得した様子を示しガーディア・ガルフは頷いた。


「どのような形で戦いを挑んだとしても傷一つ付けられない。体力の消費もそこまで望めない。それが分かっているなら、最大戦力をぶつける前に無駄な消費は避けておきたい、というのが上層部の本音だろうさ。ただまあそれだけじゃない」

「というと?」

「こういう事だ」


 そう告げるガーディア・ガルフの前には上下左右に十を超える道ができており、先の光景は闇属性粒子で真っ黒に塗りつぶされていた。


「聞くがこのような場所は君が分身達に潜入させて集めた資料の中にあったかな?」

「いやないな。これは一体?」

「実に単純な話でね。時間稼ぎだよ」


 その意味をすぐさま理解したガーディア・ガルフだが、それに対しシュバルツ・シャークスは目を見開く。理由はこれまた単純な話で、自らの友を相手に時間稼ぎをするというのは、それこそ世界で最も難しいことであると認識していたからだ。


「てかそもそも時間稼ぎに意味があるのか?」

「どういう事かね?」

「多少時間を稼げたとしても最大戦力をぶつけるっていう結論が出てる以上、意味なんてないんじゃないか?」


 さらに言えばその時間稼ぎに意味があるとは思えず彼はそんな事を口にするのだが、ガーディア・ガルフの認識は違った。


「これから我々がお行儀よく上に昇るために時間を稼ぐとしよう」

「うむ」

「とそればそれだけの時間、彼らは残った面々と戦う事ができるわけだ。そしてその戦いが短い時間、それこそ我々がここで足を止めている間に終わらせられれば」

「こっちに送れる戦力ができるというわけか!」

「ああ。各勢力の最強程の活躍が見込めないと言えど、彼らに加勢するように動けば目障りになる程度ならいくらかいる」


 ゆえに自身の考えを告げるとシュバルツ・シャークスは納得が言った様子で手を叩き、その勢いだけで周囲が揺れ、強烈な音が辺りに木霊する。

 すると壁からは様々な機関銃に加え魔法陣が浮かびあがり、彼らへと向け一斉に攻撃が迫って行った。


「で、一応聞いておくが彼らの思惑に付き合うのか?」

「無論だ」


 無論それらが彼らを傷つける事はない。

 シュバルツ・シャークスが水で作りだした剣を一振りすると生じた衝撃波だけで全てが押し負け、それによって生じた衝撃が第二波を生むのだが、ガーディア・ガルフが周囲に一切の衝撃も漏らさぬ形でかき消しながらそう告げた。


「我々の今回の目的は完膚無きまでの彼らの敗北だ。立ち塞がる様々な策を無に帰した状態で、彼女に死を叩きこむ。これをしなければならない。それにだ」

「それに?」

「彼らがどのような思惑を浮かべどのような布陣で他の者に挑もうと、私の思惑を外れる事はない」


 ゆえに乗っかる。

 そう堂々と言いきる友の姿にシュバルツ・シャークスは笑い、運がない友を背に一つの道を選び先へと進み出した。




「怯むな! 見た目こそ異形の怪物だが僕達クラスの強さを持つ兵は宇宙中のどこにもいない!」


 その一方の外側では、二人の怪物が戦場から消えた瞬間から戦いの号砲が鳴り響いていた。

 するとゆっくりと、隙間を埋めるような動作と速度で進む氷の兵士たちを追い抜きながら異形の怪物達が飛来し、その姿に一歩後退してしまう仲間達に対しシロバが発破をあげる。


「お、おぉぉぉぉ!!!」


 貴族衆が寄付した最先端の防具に遠距離武器を持つ兵士がその言葉を信じ引き金を引くと、怪物達は守りを固めるが僅かな時間耐えたかと思えば貫かれ、轟音を立てながら地面に落下し沈黙。その様子を見て多くの兵士が士気をあげ、勢いよく彼らに襲い掛かった。


「いいぞ。その調子だ!」


 その様子に嬉々とした声をあげるシロバだが、内心ではかなり焦っていた。

 というのも予想よりも敵が固い。


 本来ならば最新の兵器を用いた攻撃であればそこらの雑兵程度は紙に穴を開けるくらい簡単に倒せたはずなのだが、今彼の目の前で行われた戦いでは怪物は多少なりとも粘った。


(これだけの数相手にそれはまずいぞ。しかも奴ら、死んだと思ったら蘇ってる)


 そのような想定外を起こしている人物が誰であるか。実にありがたい事に彼は事前に聞いていた情報から心当たりがあった。


「今は滅びた吸血鬼の女王エヴァ・フォーネス!」


 それが夜ならばアイビス・フォーカス同様に無尽蔵の粒子と放出量。そしてどれだけの傷を負おうとも、それこそ息絶えようと復活するという無敵の肉体を備える幼き少女の姿をしたエヴァ・フォーネスだ。


「あん? 私に敵意を向けるかクソガキが」


 すると彼女は自身に向けられた敵意を察知し味方強化の魔法陣を発動しながらそちらに意識を向けるのだが、


「はぁ!?」


 そのすぐあとに彼女にとって想定外の事態が起きる。

 自身が使役する異星の民がこれまで以上の勢いで押され始めたのだ。


「悪いなエヴァ・フォーネス。味方強化は君だけの専売特許じゃないってね!」


 得意げに語るシロバの意識の先。そこにいるのは戦場全体を粒子術で覗いているデューク・フォーカスだ。

 ただ一戦に全てを傾けるならば姉さえ勝ると言われる彼は数多の強化系粒子術や能力も兼ね備えており、それらによって強化された兵がそれまで以上の勢いで敵を蹂躙しているのだ。


「調子に乗るなよ!」

「見たところ指先ちょっと動かしただけだろあのロリババア。それでこの強化はおかしいだろ!」


 ただエヴァ・フォーネスも決して負けてはいない。

 アイビス・フォーカス以上に粒子術の知識を備えている彼女はすぐに現行の敵対者の強化に対応する粒子術を組み、状況を当初の状態まで戻していった。


「おい。仕事だ。デューク・フォーカスを食い止めろ!」

「!」


 このまま二人による技の応酬が続くかと思われたがその状況に変化が起きたのはその直後だ。

 エヴァ・フォーネスが腹立たしげに声をあげるとデュークが強烈な光に晒されたのだ。


「いやぁ事前情報として知ってはいたよ。知ってはいたけどさ!」

「!」

「同じ光属性の硬度とは全く思えん。鋼属性混ざってないかいこれ!?」

「あら。話には聞いていたけど、私と並べる光属性の使い手がいたのね」

「ご冗談を!」


 その正体は光属性を固めた刃を投擲したアイリーン・プリンセスであり、二人の間に割り込んだレイン・ダン・バファエロがそれらを弾くのだが、『攻撃は軽い』という弱点のはずの光の圧縮体を弾いたはずの彼はその重さから腕を震わせていた。


「中に入った二人を除いたら一番面倒な相手だ。俺は他に手だししなくちゃいけなくてそっちに意識を向けられないから、しっかり守ってくれよ二人とも!」

「承知した」


 すると彼を守るようにノア・ロマネも現れ、ここに第一の重要戦線。


 アイリーン・プリンセスVSレイン・ダン・バファエロ&ノア・ロマネが始まった。





ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


大戦争が始まり最初の重要戦闘が始まりました。

といっても今回の話は各所の戦闘紹介が主なもので次回は別の場所に映ります。

一つは執念深い狂信者。

そしてもう一つはある男と幼き復讐者んp物語です。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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