ガーディア・ガルフの提案 二頁目
『戦場にいる全員に対しガーディア・ガルフから渡された文章の内容を送ります。確認をお願いします』
「これって…………」
「やる事が派手だなおい!」
ガーディア・ガルフから行われた提案の名称。
そこから推測出来る通り彼が提案した此度の戦の勝利条件は『互いの大将』の撃破である。
この撃破に関しては捕獲や殺害など手段は問わないという事が書かれており、十分承知していたこととはいえ、世界を収める長の命が掛かっているという事実を彼らは再認識した。
「けどよ、これって俺らの中じゃお前だけは適用されないんじゃね?」
「神器を持ってるからな。まあ仕方がねぇ」
問題はここから、この戦いを凄惨な殺し合いから変貌させる一つの提案。
エヴァ・フォーネスによって行われる『戦場離脱の結界作成』という内容だ。
ガーディア・ガルフが書いた内容によれば、ラスタリアを囲うように発動する予定のそれは、内部にいる者達が気絶ないし致命傷に近い傷を負った場合、外部へと強制転送し最低限の治療を施すという効果である。
これにより能力を無効化する力を秘めた神器を持つ者以外が死ぬ可能性を大いに減らせ、同時に掲載されていた結界の詳細内容を見ても説明以外の効果を秘めている様子はなかったため神の座は了承。その報告をデュークが城門前で敵に囲まれながらも眉一つ動かさないガーディア・ガルフへと告げた。
「快い返事に感謝する。それでは私も戻らせてもらおう」
デュークの返事を聞いたガーディア・ガルフが恭しく頭を下げ、そのまま友の居る場所まで戻ろうとするのだが、
「ちょうどいいや。こっちからもお前とその懐刀に提案をしようと思ってたん」
「なにかね?」
それを止めたデュークが口を開くと、最後まで言いきるのを待つこともなく彼は反応を示し、
「実はだな――――」
「ほう」
彼が告げた提案を聞くと僅かに驚いた様子の声をあげた。
「どうだった?」
「快く了承してくれたよ」
「ふん。当然だな。奴らが負けた場合のケアとして私達は最大の対応をしたのだからな!」
ガーディア・ガルフの姿が神の居城から消えたのと同時に、シュバルツ・シャークスとエヴァ・フォーネスの元に彼の姿が現れる。
他の者ならば驚く速度の移動も無二の親友である彼らからすれば騒ぎ立てることではなく、戻ってきた彼に対し常日頃と同じ対応を行い、
「それとシュバルツ。君と私に対してある提案がされた」
「彼らの方から?」
「ああ」
その後ガーディア・ガルフが淡々とした様子でそう告げると、そのような展開は予期していなかったシュバルツ・シャークスが腕を組んだまま尋ね彼は短く返答。
「実はだね」
ガーディア・ガルフが淡々と話すイグドラシルが行った提案を聞きシュバルツ・シャークスは感心した様子を示し、術式を発動する準備を終えたエヴァ・フォーネスが不服そうに頬を膨らませた。
「何で私がその提案に入ってないんだよ!」
「そりゃお前を入れたら断られるとわかってたからだろ。この戦争における核であるお前がいなくなったら困るだろ?」
「…………まあ、そりゃそうだろうがな」
本当は俺とシュバルツだけを隔離したいのだろうな
などと内心で呟きながらもシュバルツ・シャークスは彼女が納得するにこと足りる理由を口からでまかせ、反論できぬ様子のエヴァ・フォーネスは美しい少女の顔を僅かに歪ませ唸りだした。
「よし。完成したぞガーディア!」
「ご苦労。流石だエヴァ」
ただそうしながらも然程時間をかけることなく術式を完成させた少女の姿をした吸血鬼は、愛しい人の言葉にふやけた表情を浮かべるとそれらを行使。
「空間内に神器使いがたくさんいるから発動できるか心配だったんだけど、必要なかったみたいね」
戦況を見守れるよう神の居城の最上階付近でそれを見守っていたアイビスがそう呟く中、ラスタリア全域どころかガーディア・ガルフたちがいる場所まですっぽりと包み込むように黄緑色の輝きを備えた光の幕が展開。
それは数秒したところで泡となり消えるのだが、戦場に居る多くの戦士が目に見えない衣のような物で自身が包まれたのを理解した。
「前準備はこれでいい。後は戦いを始めるだけだが、彼らの招待を受ける前にひと仕事しよう」
「あれをするのか?」
「ああ。君が千年経った今でも覚えていてくれてなかったのでね」
「いやいや。お前みたいに色々使える方が稀なんだって!」
そんな彼女の頭をガーディア・ガルフが撫で、彼女の表情を友の言葉にもそのような返答をしながら一歩前に進み、自身の背中に向かってぶつけられた答えには無言の肯定を行い、
「沈め」
短く、確かな意思を籠めそう呟き、
その言葉は世界を呑み込むように具現化した。
「はっ!?」
「こいつぁ!?」
「………………っ」
ラスタリア周辺にのしかかるように落ちてきた超広範囲に広がる赤色の練気が戦士達を襲い、多くの者が心臓を直接掴まれ、脳を勢いよく揺さぶられたかのような衝撃を覚える。
それにより友に動いていた蒼野や康太は立つことさえできなくなり、その場で片膝をつき方を揺らしながら荒い息をのだが、彼らが見渡した周囲の様子は更にひどい。
「ああっ」
「みなさん!?」
積や優が見ている目の前で数多の兵士たちが意識を失い、その全身が空間を包んだ時と同じ黄緑色の粒子の輝きに包まれ消えていく。
「こ、これが!!」
「神の座が想定していた果て越えの第一手か!」
「むぅ! 分かっていたとはいえ老体には響くのぅ!」
無論被害は子供たちだけで留まらない。
クロバやシロバ、雲景など戦場の様々な場所に点在する多くの戦士達が意識を失い、黄緑色の淡い光に包まれ退場していく。
「六割方か」
「思ったより多く残ってるな!」
「いくらかの練気使いが他を守るために練気を広げたようだ。その影響だな」
「ほう。そりゃ中々の腕前で!」
そうして消えていった割合を把握しガーディア・ガルフが口にすると、シュバルツ・シャークスが獰猛で好戦的な笑みを浮かべながらそう告げ、
「残念だが彼らを相手にお前の出番はないがな」
「そうなんだよなぁ。ま、それ以上の楽しみがある事を期待するさ!」
快活な笑い声を辺りに広げながら勢いよく跳躍。
「当初の予定と少々変わったがやる事は変わらない。頼んだぞ諸君」
それを見たガーディア・ガルフが後方を振り返り周囲一帯に聞こえる声を発すると、その後に懐刀である彼に追従するように跳躍。
「出迎えご苦労!」
「床を壊すな。喋るな。早く中に入れ」
神の居城の正門前で地面を粉々に砕かれながらも一ミリたりとも動揺せず、腕を組んで仁王立ちするデュークに対しシュバルツ・シャークスがそう告げると苛立ちを感じる声が返され、
「君と戦えないのが残念なんだが、中には姉君が?」
「自分の目で確かめな」
「あ、聖騎士殿もいるのかな?」
「さっさと入れこの野郎!」
なおも話しかける巨躯の男に対しデュークが声を荒げ、後ろからやってきたガーディア・ガルフがそんな友の頭を叩きながら共に前進。
この戦における最大戦力二人は、無傷で神の座イグドラシルが待つ屋内へと入って行った。
「さて、じゃあ私達も行くとしましょう」
「ふん。ぬかるなよ」
「あなたこそ」
ほぼ同時に残るインディーズ・リオの面々が氷の兵士と異形の生物を引きつれ行進を開始。
ここに世界の明日を左右する大戦が始まった。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
これまで登場してきた人物の大半が注ぎこまれた大戦争がここに開幕です!
シュバルツ・シャークスの初手に続き行われたガーディア・ガルフの一手。
神の座イグドラシルが提案した最強二人の無血入場。
そして進軍する強者達。
これまで積み重ねてきた多くの因縁に決着を付けましょう!
それではまた次回、ぜひご覧ください!




