ガーディア・ガルフの提案 一頁目
「んだよこれ。見れねぇじゃねぇか!」
「どうなってるんだ。誰かが十個以上設置した僕の監視カメラを全て壊したのか!?」
「能力が無効化された!?」
「我々メディアを無下にするなど、例え神の座といえど許せるものか!」
世界の行く末を左右するこの戦いを視聴する事を希望していた多くの者達が、アイビス・フォーカスが行った所業に対し怒りを見せる。
能力・機械・はたまた人員を割いて行われた様々な方法は、二大宗教を分かつ境界の維持が必要でなくなった事で全力を行使することが可能になった神教最強の一角により一掃され、戦いの結末を見る事ができるのはその場にいる戦士達だけになっていた。
それに対する非難や怒りの声は留まる事を知らず、それこそ全世界を満たすのだが、これからほんの数分後、彼らは神の座イグドラシルのこの配慮に感謝する事になる。
ここで視聴を止めておいて良かったと、心の底から感じる事になるのだ。
「賢教に神教。貴族衆にギルド…………アイビス・フォーカスにデューク・フォーカス。シャロウズ・フォンデュもいるな。いやしかしエルドラの姿が見当たらないな!
あの巨体なら見失う事はないと思うんだが!」
「いやエルドラだけじゃないようだぞ。そもそもの話として竜人族が一人もいない」
「むぅ。この展開でもまだ表立って活動しないか。そりゃちょっと臆病すぎやしないか?」
夕焼けと夜の境界を斬り裂き、漆黒の洞がラスタリア全域を囲い込むように切り開かれる。
そこから現れるのは惑星ウルアーデには存在しない異形の怪物の数々。
数多の骨を体に纏い鎧とした巨神兵がいた。
手も足もなく、不気味にうねる蛇やミミズを思わせる肉体を備える妖がいた。
六つの首を備えた巨大な狼にその子分らしき三つ首の犬が、岩でできた体を備えたいわゆるゴーレムが、または正体不明の霞の塊が、この世界に存在しないありとあらゆる生命が軍勢となり、ラスタリアへと向け敵意を注いだ。
その先頭を飛翔するのはゴム質の皮に二等辺三角形の兜のような真っ赤な頭部を兼ね備えた、六つの目を三対に並べた鳥と竜を混ぜたような怪物で、その頭部には、エヴァ・フォーネスにシュバルツ・シャークス、そして二人に挟まれる形でガーディア・ガルフが乗っており、およそ十キロ離れた位置にあるラスタリアの中心にある神の城と、その背後にある神教の象徴たる緑生い茂る世界樹をじっと見つめていた。
「……ちと気になるんだが、あれだけの数の中で俺達と戦える使い手はどれくらいいるんだろうな?」
「んなもん百いるかどうかくらいだろ。分かりきった事を聞くなんて馬鹿か。馬鹿なのか?」
その左右ではエヴァ・フォーネスとシュバルツ・シャークスが常日ごろと同じ調子で会話を行い、
「んーやっぱそんなところか」
親友の答えを聞き、彼は困った様子で顎に手を置き、
「減らすか」
「は?」
短く、しかし確かな意思を籠めた声でそう呟き、エヴァ・フォーネスが何を言っているのかわからないと示すような声を発した。
「いやいくら何でも多すぎてな。ちゃんと策を練っているのは昨日までの話し合いで無論分かってはいるんだが、これだと事故が起こる可能性も十分にある。だからまずふるいにかけようと思ってな」
「ふるいって何するつもりだよ?」
「簡単だ。千年経った今でも語られる、私の逸話の再現さ」
「逸話……っておい!?」
そのような会話の末に手を伸ばす吸血鬼の女王を振り払い、彼は地上へと向け勢いよく飛び降りながら己が左足に力を込め、
「ふん!!!」
気合いの籠った声を発し練気を足に集中させながら大地を蹴った。
言葉にすればそれだけの、能力はおろか神器や粒子さえ使っていない単純な行為。
「己が力に自身がない奴はこれに呑まれるといい。これならまあ…………万が一にも死ぬことはないぞ!」
たったそれだけで大地がひっくり返る。
シュバルツ・シャークスが足を付けた場所を起点として砕けた大地は強烈な衝撃により宙を舞い、前へ前へと進んでいく。
それは速度こそ控えめであるが、兵士たちの驚きから発せられるあらゆる攻撃は拮抗することなく威力負けし、数キロという距離を徐々にだが詰めていく。
「一度の足踏みで大地を砕いた…………一踏の湖の再現か!」
ここで戦力を大量に失うわけにはいかない。
そう考えたデュークが一度の跳躍で神の居城から最前線にまで移動し、懐から巻物を取り出し、その中に書かれている一文を輝かせ対処する。
「連れが失礼した」
「っ」
はずであったが、それらを行使されるよりも早く、彼の前に『果て越え』ガーディア・ガルフが現れ、それだけで目前に迫っていた巨大な壁は霞のように消え去った。
「やめろシュバルツ。君のそれは非効率だ」
「痛い!」
それとほぼ変わらぬタイミングでシュバルツ・シャークスとエヴァ・フォーネスの側にいるガーディア・ガルフは帰ってきた友の腹部を裏拳で叩き、彼が悶絶しているのを確認するとその姿を消し、デュークの側にいる一体だけとなった。
「ガーディッ!?」
「すまないが少し待ってくれデューク・フォーカス。その前に君達の代表、いや君ら全体に一つ提案したいことがある」
突然の知覚することすらできなかった接近に加え、見せつけられた圧倒的なその強さ。
それを前にしてデュークは勇敢にも戦いを挑もうと粒子を練るが、そんな彼を『果て越え』は右手一本で制し、そのような事を告げる。
「…………提案?」
「ああ。先日ムスリムで行った素敵な催しの礼だ。今度はこちらからゲームの提案をさせていただこうと考えてね」
すると一瞬ではあるが戸惑いを表に出したデュークであるが、すぐに気を取り直し彼の言葉を反芻。
ガーディア・ガルフは淡々とした物言いでそのように説明し、
「我々の目的は虐殺ではない。無論君らも大量の死者など望んでいないはずだ。であれば同意を示してくれるのではないかと私は考え、このような者をこしらえさせてもらった」
「こいつは?」
懐から取りだした羊皮紙を差し出すとデュークは慎重な様子でそれを受け取り中身を閲覧し、
「少し待ってろ。こいつは俺の一存じゃ決めれない案件だ!」
描かれている内容を見て光属性を纏いながら後退。
「私は外で待っている。なので手短に頼む」
「っ」
そんな彼の横を『果て越え』は難なく並走し、その様子を忌々しく思いながらも城の前で待つ彼を置き去りにデュークは神の座が待ち受ける居城内部へと入場。
「こいつを見てくれ!」
瞬く間に最上階まで登り、手渡された羊皮紙を主である彼女に開示し、
「……………………受けましょう。この提案を断る理由がありません」
「いいのか?」
「ええ。この提案は我々にも十分な『得』がある。受けない手はないでしょう」
その内容を一瞥すると、連合軍全体の総意とでも言うようにそう言いきった。
その羊皮紙に書いてあるゲームのタイトル。それは
『王取り合戦』
などというシンプルかつ分かりやすいものであった。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
今回の戦の肝となるルール説明回その一。
次回でまとめますのでよろしくお願いします。
敵戦力に関してはこれらに加えて前に話でも出ていたゴロレム製の氷の彫像が多数。
こう見ると結構多いですね。
さて肝心要のルールとは…………
それではまた次回、ぜひご覧ください!




