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革命戦争前話 3月20日


 ガーディア・ガルフ率いるインディーズ・リオとの一大決戦まであと二日。

 決戦の日時が関係者だけでなく世間一般にも知れ渡り世界中が騒然となっていた。


 それは多くの者の動揺から成ったものであったのだが、決して否定的で恐怖に満ちたものばかりというわけではなかった。

 理由は明白。敵対する彼らがこれまで行ってきた神の座イグドラシルが見逃してきた悪人たち、彼らの存在があったからだ。

 その数は百二百では収まらない程であり、彼らが行った悪事は多くの者に嫌悪感を抱かせた。


 裏金問題やわいせつ行為などの日常的なものから、人を雇いまたは自身の手で行われた殺人。

 恐喝やワイロによる様々な売買に、犯罪者とのつながり。

 果ては様々な人々を巻き込んだ大規模な破壊行為や戦争など数々の罪が表に出て、それを取りしきることのできなかった神の座に対する怒りの炎と化したのだ。


「これからデカい戦があるっていうこの状況で騒ぐんじゃないよ全く!」

「ヴァン殿の登場は時期尚早だったか?」


 そのような事態を前にして肩を並べて歩くのは貴族衆末席アリクシア家当主ルーテリアとガンク家が経営するギルド『アトラー』の強者クドルフで、長く伸ばした髪の毛をポニーテールにまとめた鋭い目つきの女傑の指示により軍隊は動かされ、暴動を起こす面々をクドルフを筆頭として止めていた。


「かもしれないねぇ。確かにあの場においては意味があったけど、後の影響を考えたらねぇ」


 彼らがそのように告げる内容は先日あった二大宗教和睦会議においてヴァン・B・ノスウェル、つまり竜人族の生存を表に出したことだ。


 千年前、竜人族は滅んだ。

 これは神の座やエルドラ、そしてヴァン自身が竜人族という種族を守るために行った政策だった。

 その結果竜人族は世間から消え去ることになったものの、危険な狩人や賞金稼ぎに狙われる事もなく主としての数を増やしていき現代まで生き残る事ができたわけだが、別の側面からこの事態を見た場合、神の座イグドラシルを筆頭とした現政権は全世界の人々に対し嘘をついていたということでもある。


「千年間、なぜ竜人族の生存を隠されていたのですかイグドラシル様!」

「彼以外の竜人族も生きているのでしょうか!」


 それは『神の座の失態』という形ではなく『全世界の人々に対する虚言である』という形で取り上げられ、別の層、すなわち神の座とて『全能』ではないとして犯罪者の見過ごしも仕方がないと考えていた人たちにまで疑惑や怒りの種を撒く結果となった。


「デューク。今の世論ってどんな感じ?」

「この星全体の三割方が政権交代を望んでやがるってとこだな。ヴァンさんの件に関しちゃ、驚くことに賢教よりも神教含めた他勢力からの方が多いといときた」

「こういう時、信頼っていうのは厄介ねぇ。裏切られたと思っちゃう」


 これらが合わさる事で決戦前だというのに各勢力の面々は事態の鎮圧に力を注がなければならない事態に襲われ、思ったように連携を取れず歯がゆい思いをすることになった。


「こんなところでしょうか」

「うむ。まあそうだろうな」


 ただ各勢力の代表。

 神の座イグドラシル・フォーカスに教皇の座アヴァ・ゴーント。竜人族の王エルドラに貴族衆筆頭ルイ・A・ベルモンドという面々は他の協力もあり何とか顔を合わせる事ができ、当日の作戦に関して煮詰める事ができていた。


「戦場は平原ではなくアスファルトや障害物が覆い市街地なのはなぜかね?」

「相手の中には視界さえ確保できれば完璧なタイミングで爆撃を行えるシェンジェン・ノースパスがいます。加えて縦横無尽に動けるアイリーン・プリンセスにガーディア・ガルフもいるとなれば、少しでも彼らの動きを阻害する方が得なのです」

「なるほど。解説ありがとうルイ殿」

「いえこれくらい」


 それは戦場の決定から始まり各勢力が行える戦力の投入や兵器の準備。さらには現状確認できているインディーズ・リオの戦力の確認など多岐にわたっていた。


「しかしいいのですか教皇様。この『樹』の情報は秘中の秘のように思えますが?」

「いいさいいさ。これで二大宗教の和解が進むなら、私は喜んで情報を提供するよ」

「ドラドラドラ! 俺はアンタを尊敬するよ教皇!」


 中でも最も大きな兵器、いや情報。

 それは賢教の長アヴァ・ゴーントが提供した神器を作りだす『樹』についてだった。


「今更だがお前さんは知らなかったのかイグドラシル。元賢教だろ?」

「賢教に居た頃の私はただの書庫管理者ですよ。戦闘分野に関する情報など一切入ってはきませんよエルドラ」

「そうか。まあそうだな」


 アヴァ・ゴーントの情報によると彼が住んでいる賢教の中枢と言える城の最深部付近にあたる位置には巨大な木が生えているとのことだ。

 この木は担い手が存在するかもわからない神器なのだが、その能力は『神器』の作成。

 一定の条件を踏んだ者に神器を授けるというものであった。


「なぜ賢教は『神器部隊』などというものを作れたのか、長年の謎が解けましたよ」

「ついでに同じ神器がいくつもある謎もね」


 さらに言えばこの神器というのは最初はアビス・フォンデュが持っているような薙刀の形をしており、適正に応じて数百種類存在する成長後の姿になるということまでアヴァ・ゴーントは説明。

 担い手になり秘めている能力の発動こそできないものの、能力無効化の効果を秘めているそれらをいくらか他勢力のトップ層に渡すことまで約束した。


「失礼。そろそろ会見の時間ですので私はこれで」


 この法外に大きな情報に対し敵対組織の長としてイグドラシルは自分も切り札の情報を提供する事を約束。ただ忙しないこの状況では中々伝えるのも難しいという事で、戦争終了後に必ず教えるとだけ口にした。


「おいおい大丈夫かよ。顔色が悪いぜイグドラシル」


 顔を青くし、ふらつきながら政務を行おうとする彼女の姿に竜形態のエルドラが声をかける。


「馬鹿な事を聞くものじゃないぞエルドラ。ミレニアムの時と比較しても格段に切羽詰まっている現状で彼女に掛かる負荷がいかほどのものか。少し考えればわかるはずだ」

「そ、そうだな。すまねぇ」

「いいんですよエルドラ。勢いこそあるものの思慮が足りない、それが貴方の特徴であることは十二分にわかっています」


 その返事をしたのは腕を組み彼の高貴な容姿には似合わない簡素なパイプ椅子に座っていたルイであり、叱るような物言いを聞きエルドラが申し訳なさそうに頭を掻き、追い打ちをかけるような言葉が疲労困憊のイグドラシルの口から漏れて出る。

 するとエルドラはムッとした表情を一瞬浮かべるのだが、その時には神の座の姿はなく、


「ドラドラドラ…………」

「どうしたのですかなエルドラ殿。今は笑うタイミングではないのでは?」


 一瞬何とも言えぬ沈黙が周囲を漂うのだが、その空気を砕くようにエルドラの特徴的な笑いが苦笑しているような勢いで口から漏れ、アヴァ・ゴーントが気になった様子で尋ねた。


「いやなんかさ、千年前の事を思いだしてな。懐かしいなぁ。あの頃は三人ともまだ重荷一つない若者でよぉ。それが今じゃ各勢力の長だ」

「…………そうだな。思えばずいぶん遠くに来たものだ」

「そんな俺達がこうやって昔みたいに顔合わせて馬鹿やれてんだ。しかもこの難局を乗り越えりゃ世界平和はすぐ側ときた。そう考えるとよぉ、今は大変だけど存外悪くねぇなって思えてさ」

「相手がガーディア・ガルフでなければなおさらよかったのだがね」


 するとエルドラはしみじみと語りだしルイは同意の言葉を吐き、アヴァ・ゴーントも無言で頷いた。

 そう、今この状況はかつてないほど危険な状態だが、そのようなデメリットに対するメリットも確かに存在していた。


「とりあえず今からイグドラシルの奴が壇上に立つんだろ。ここで見守ってようや」


 そうして穏やかな空気になったところでエルドラがそう口にしてルイが部屋にあったモニターで会見に挑むイグドラシルの様子を見るのだが、


「え」

「なに?」

「待てイグドラシル! それは完全な悪手だぞ!!」


 そこで彼らは信じられないものを見た。




 

ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


予告通りの予約投稿となります。

その内容はこれまで秘されていた賢教の秘密暴露回。彼らが何故神器部隊などというものを作れたかの理由ですね。

加えて現在の世界情勢。

印象としましてはミレニアムの時が混沌とした空気だったのに対し、今回は筋の通った反発という感じです。


彼らを前に神の座が何を告げるのか


次回、革命戦争前話 イグドラシル・フォーカス

に続きます


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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