革命戦争前話 古賀康太 アビス・フォンデュ
「今更かもしれねぇんだが驚きだな」
「そうですね。賢教の人と神教の人たちが入り乱れた景色。これをどこでも見れるようになるとは思ってもいなかったです」
「それもそうなんだけどさ、オレが言いたいのは」
「言いたいのは?」
「アビスちゃんのお父さんが俺とアビスちゃんが一対一で出かける事を許してくれたことだ」
蒼野が机を挟み女性と一緒に居る一方で、古賀康太もまた義兄弟である彼と同じく女性と共に時間を過ごしていた。
違いがあるとすればその間柄、そしてお互いの立場であり、紅茶を飲み一服していた康太の発言にアビスは苦笑交じりの返事をした。
「そうですね。それも驚きですね!」
彼らが話題にしているのはアビス・フォンデュの父親。すなわち賢教最強の男シャロウズ・フォンデュに関してだ。
というのもこれまで彼らは一対一であって談笑するという事ができなかった。いや正確に言えば許されていなかった。
娘の事を亡くなった母の分まで溺愛する彼が、悪い虫を寄らせるわけにはいかないという意志の元、あらゆる存在を跳ねのけていたのだ。
ただ二大宗教が一つになろうとしている今、神教に所属していた事がある人物との絡みは重要であると彼の冷静な部分は理解を示し、なおかつ相手が神器を手に入れる程の強さを持つに至った康太ならば、非常時でも彼女を守る事ができる。
などと言う思惑を娘と康太にした上でこのような時間を取る事を許可された。
「まあ触れることさえ許されていない関係ですが」
しかし彼にはまだまだ許せない一線というものが存在しているようで、例えば今回の場合、手を繋ぐ事を筆頭に彼女に触れる事は許されていなかった。
「興味本位でやってみる事じゃないのは分かってるんだが、手を繋いでみたりしたらどうなるのかちと気になるところだな」
「…………なんとなくの予想ですけど、この場に槍が飛んでくるか、帰った時に何らかの方法でそれを識別されて、貴方に命の危機が襲い掛かるような気がします」
「怖すぎだろ賢教」
ただ康太は語られた理由以外にも自分が彼女と一緒に居る事を許された理由がある気がしており、悪戯半分不安半分といった意味を込められた笑みを浮かべる彼女を見ながらそちらに意識を飛ばす。
それは彼女が師として仰いでいたゴロレム・ヒュースベルトの離反行為である。
「ま、言われてることはしっかりと守るっすよオレは」
「その方がいいと思います!」
シャロウズ・フォンデュ直々に自身の愛娘の護衛兼師匠として選ばれた彼の裏切り行為は、彼女にとってかつてない程衝撃的な事態であったはずだ。
その影響がどの程度のものかは完璧には分からず、そのケアも兼ねて自分は選ばれたのだと康太は考えていた。
「ところで康太さんは」
「ん?」
そんな心境を示しているかのように彼女は時折神妙な表情を浮かべ、康太は見惚れながらもその真意を考えてしまう。
「デルエスク卿がおっしゃっていたこの世界の仕組みについてはどう考えていますか?」
「…………ああ。そっちか」
「康太さん?」
「いやなんでもない。そうだな」
ただシャロウズや康太の心配をよそに彼女は思ってもいなかった質問を投げかけ、思いがけない質問を受け康太は彼女の耳に入らないほど小さな声で呟いた。
「そうだな――――」
が、聞かれたのならばしっかりと答えなければと考えた康太は持論を語り、それに対して少女はまっすぐな視線を返した。
(まだまだ先は長い。ってことかねコレは)
自分やシャロウズが考えているような関係はまだまだと遠いところにある。
そんな事を考えながら康太は話を終え、
「そうだアビスちゃん。よかったら一件付き合ってくれないか」
「いいですけど、どちらに行かれるんですか?」
「あぁ。恩人の墓参りにな」
自分と彼女のカップに注がれていた紅茶がなくなったのを確認しそう提案した。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
本日の投稿は少々短め。というのも昨日から今日にかけて仕事の方が色々大変で、申し訳ないのですが中々書くことに注げる時間が少なかったのです。
ですので文章量が少ないのはもちろんのこと、少々語りが固い気もします。申し訳ない。
本編は康太とアビス視点の物語。本当ならもうちょっと事務的な会話以外も入れたかったのでちょっと残念。
ただ彼女が木にしていることや康太やシャロウズの思考は多少開示できたかと思います。
忙しい二日間も終わったので、次回はしっかりと普段通りの文量と文章で書いていければと思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




