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最大最善を求める者 一頁目 


 これから訪れる大戦のための前準備。

 その最大の分岐点が終わりを迎えた。


 結果から見ればいがみ合いその場で衝突する可能性があった大衆はそのような事に一切ならず、二大宗教の協力は無事締結し、共に戦えるだけの土台を作る事ができた。

 これだけ見れば最高の結果を得たといっても過言ではなかった。


「頭が痛いな」

「本当だよ。レウさんとかは知ってたのかい。賢教最高戦力があそこまで気性が荒いって」

「まさか。彼についての情報は名前や素顔さえ隠されていたんだ。性格なんて知るはずがないだろう」


 しかしそれは組織運営をしていない者達視点だけの話であり、各勢力の代表者たちの感想は違う。

 むしろこの結果は最悪の部類であると彼らは考えており、パイプ椅子に座っていた貴族衆の代表であるCとF、そしてAの家系の長達はそのような事を口にした。


「私は延々と忠告したはずだ。二大宗教が平和に手を取りあうなど不可能だと。これは、これは当たり前の結果だ!」

「だがあの化け物共を相手にするとなればやるしかなかった事もまた事実だ。その結果がこうであった。それだけの事だ」


 それに対し膝を叩きながら反応を返したのは魚人族の長キングスリング。

 腕を組み唸り声を上げたのは竜人族の長であり人間形態をしているエルドラだ。

 簡素な長机を挟み貴族衆の代表たちが集まる面の向かい側に座っていたギルドの代表二人はそう断じ、部屋の隅で頭の後ろで両腕を組んでいた壊鬼は、そんな彼らの会話を退屈そうに眺めていた。


「ま、エルドラの言う通りさね。結果は出た。問題はある。けどまあそれを何とかするためにあたしらがいるんだ。頑張るしかないさね」


 その場にいないヴァン・B・ノスウェルを除いた面々は誰もが思った。

 賢教と神教、その代表者達の仲は恐らくここ千年で最も険悪になったと。

 最強格二人が何の打ち合わせもなしに好き勝手に動き、結果シャロウズ・フォンデュがアイビス・フォーカスの首を刎ね、一歩間違えれば神教はゲゼル・グレアに続きかけがえのない戦力を失う直前に追い詰められたのだ。

 正常な思考の為政者や組織運営者ならば、これを良きものとは捕えない。

 むしろ宣戦布告の類であると考えるだろう。


「…………」

(来た、が)

(まあ彼はそう言う表情をするわな)


 それをうまくなだめ、来たるべき大戦に向けた作戦会議を行える場所へと移行させるのが自分たちの役目。

 そうギルドと貴族衆の代表者の大半は考え始める中、四方にある扉の一つが開き新たな面々が現れる。

 神教代表であるノア・ロマネとイグドラシル・フォーカスだ。


「デュークはいないのか? 任務が終わり次第合流するという話であったはずだが?」


 普段ならば闘技場に挑む戦士達が使う待合室に使われている部屋にやってきた彼は、自身の主を守るためだけでなく先程の展開に対する不満も合わさり普段以上に剣呑なもので、口から出る言葉の意味もこの場の面々はすぐに汲む事ができた。

 

「まだ見ていないな」

「そうか」


 そこでクロバが簡潔に返事をすると落胆も安堵もない固い声が返され、彼は主を引き連れエルドラやキングスリングに近い位置に座った。


「うす。よろしくお願いします」

「…………」

「っ」


 それから僅か数秒後、神教代表の二人が入ってきた扉とは真逆にある扉から賢教代表の二人、那須童子とアヴァ・ゴーントが現れ、彼らが入ってきた瞬間、他の面々は場の空気が一気に冷え切ったのを認識。その発生源である男に意識を飛ばした。


「那須殿」

「ん?」

「貴方にお聞きしたい。先程のあの行為、あれは賢教全体の企みか。それとも…………聖騎士殿の独断か?」


 嘘偽りの感じる返答をすればこの場で殺す。

 そのような意味が込められているであろう言葉を冷え切った空気を生みだしている男が告げ、それを感じ取りその場に居た貴族衆とギルドの者達は各々が必要であると考える姿勢を取る。


 ある者はノア・ロマネの動きを封じようと考える。

 ある者は両者の間に入り物理的な壁として機能しようと考える。

 はたまた別のある者はまずは二大宗教の長の安全を保障しようと考える。


 各々が自身が考える『最重要』を果たすべく粒子を練るか、いつでも動けるように体に力を込める。


「…………少なくとも賢教全体の総意、なんて大それたものじゃないっす」

「…………」

「けどまあ、嘘をつくとこの場はまずいってことは分かるんで正直に言うっす。あれはあの人『だけ』の独断ってわけでもない」

「えっ?」

「………………そうか」


 果たしてノア・ロマネの問いに対し那須童子はいつもと変わらぬ様子を示し、あの蛮勇としか言えない行為に協力者がいたという事実に教皇の座アヴァ・ゴーントが戸惑いの声をあげ、その場に居た他の者のいくらかも驚きの意を示す。


「では聞くが、この馬鹿げた計画に加担してるのは誰だ。吐いてもらうぞ」


 すると答えを聞き出した彼は更なる質問を繰り出すのだが、剃刀のように細長い瞳にはもはや隠しようもないほど大量の殺意が乗せられており、神器である紙を周囲に舞わせ始める。


「おっと力づくですかい。それはやめてもらいたい!」


 その反応を前にすれば那須とて普段通りの様子を貫くことは不可能であり、己が神器を手にして無数の泡を展開。

 同時にこの事態を予期していた大多数が動き出し、冷え切っていた場の空気が一瞬で熱に満ちた。


「その怒り、ごもっともです。けどこっちにはこっちの事情があったんです。その辺については」


 そしてこの事態の中心に立つ那須が口を開きかけると、


「この声」

「アイビス・フォーカスか!」


 彼らの耳に部屋へと向かい近づいて来る声を届く。

 すると何を思ったのか彼らは押し黙りながら彼女が現れるのを待ち、


「いやでも、任せたあたしが言うのもなんだけどやりすぎじゃない?」

「深い溝がある賢教と神教の仲を取り持つ。その第一歩なんだ。むしろあの程度で済んだことを僥倖だと喜んでもらいたい」


 扉を開き現れた彼女らの姿を前に、皆が言葉を失った。


「な、」

「何だこれは。一体どういう事なのだ!」


 彼らが目にした姿。

 それは神教最強アイビス・フォーカスを銀の鎧も着こまず私服のまま背負う賢教最強シャロウズ・フォンデュの姿であった。



 





ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


慌ただしい会議が終わり舞台は代表者達だけが集う裏側へ。

とまあちょっと真面目な話の入りになりましたが、今回の最後だけである程度見えてきた者があるかと。

ただ彼らの目的は未だ明かされておらず、次回はその点について


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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