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知られざる遺産 一頁目


「待てコラ!」

「嫌だよ!待って話をできる類の相手ならいいけど、あんたどう考えてもその類じゃないじゃん! 暴力に訴えかける類じゃん!」


 子供たちが賢教を舞台に大立ち回りを演じ、神教が誇る最大勢力二人もまた最強クラスの敵との激闘を演じる中、残る面々も己が役割を果たすために動いていた。


 現代を生きるインディーズ・リオの面々、ギャン・ガイアにヘルス・アラモード、それに正体の分からぬメタルメテオにシェンジェンという少年を相手に動いているのは貴族衆のシロバやクロバ、ギルドの壊鬼や無所属のレオン・マクドウェルである。


 彼らのうち半数以上がギャン・ガイアやメタルメテオを相手に鎬を削る一方で、原口善は自身の故郷を壊滅させた因縁の相手、『三狂』最後の一角ヘルス・アラモードを相手を延々と追いかけまわしていた。


 ただ彼ら二人の戦いというのは他の面々と比較し全く違う形で行われており、ヘルス・アラモードは抵抗らしい抵抗は一切見せず第戸を駆けて逃げ続け、原口善がそれを追いまわしているというような状況であった。


「お前が止まれぇ!」

「んのガキィ。いい加減しつけぇんだよ!」

「あんたがそれを言うのか!?」


 この状況を更に複雑にしているのがそんな二人を空に浮かぶことで視界にとらえ、他の者の相手をする途中途中で攻撃を行う幼い少年シェンジェンで、ほとんど前触れなく生じる爆発が善の体に襲い掛かり、ヘルス・アラモードへの道のりを険しいものに変化させていた。


「厄介だ。先におめぇから」

「!」

「仕留めてやらぁ!」


 それを何度も繰り返せば善とて少年に対する意識は切り替えざるえず、ヘルス・アラモードから視線を外し、この日初めて自分をつけ狙う少年に意識を向けた。


「やった。これで俺は自由だー!」

「待てヘルス殿。戦線から離れる事は我らが主と奥様は許していないはずだ」

「あぁ~~そうですた…………」


 善のプレッシャーから解放されたヘルス・アラモードが足を止めガッツポーズを行うとメタルメテオが口を挟み、それを聞くと彼はあからさまに残念そうに腕と肩を下ろし俯いた。


「君の足止めはおじさんがさせてもらうよ」

「援護する!」

「ギャー神教の重鎮二人じゃないか! ヘルプ! ヘルプ! 助けてギャン・ガイア!!」

「面倒なの複数人に狙われてる僕に助けを求めるな!!」


 するとレインとノアの二人が彼の前に現れ、その光景を見てヘルス・アラモードは再度絶叫。すかさず大地に根を張り巨大な木の魔物と化したギャン・ガイアが抗議を上げ、そんな彼にシロバとクロバ、それに壊鬼やキングスリングの攻撃が深々と突き刺さった。


「無駄だぁ! 君達如きの攻撃が、主への献身から成るこの肉体に通用すると夢にも思うなぁ!」

「クソ!」

「燃やしてもダメ。潰しても抉っても斬ってもだめ。いやすごいねこりゃ!」


 それでもそれらは一つたりとも致命傷には至らず、ギャン・ガイアは崩れた自身の肉体をすぐに復元させ、太陽の光を遮るほどの巨体を動かし攻撃を行っていた。


「むん!」

「ちぃ!」


 その被害を受けぬよう少々離れた位置ではレオンが全身を鋼の鎧で武装したメタルメテオと激しい剣戟を繰り返し、両者一歩も譲らぬ衝突を繰り返し重低音と火花を何度も生じさせ続け、同時に撃ちだされた渾身の一撃の衝撃により同じタイミングで後退した。


「お前……何者だ?」


 後退の衝撃を小刻みなステップで和らげ体勢を整え、顔を隠し正体がわからぬ人物を前にすぐさま油断なく構えるレオン。

 彼の口から漏れたのは困惑の感情を含んだ疑問だ。


「なにがかなレオン・マクドウェル」

「自慢じゃないが剣聖ゲゼル・グレアが死んだいま、俺と鎬を削れる剣士はそうはいない。少なくとも現代にはだ。その筈なのにお前は俺とここまでやり合えている。それが不思議で仕方がない。その仮面の奥に、お前はどんな素顔を隠している」


 神剣と呼ばれる神器の切っ先を鋼の鎧へと向け、言葉の反応から正体を探ろうと考える勇者の座。


「…………世界は広い。ただそれだけの話だよレオン・マクドウェル」


 それに対する返答は感情というものを完全に削ぎ落とした平坦な声であり、その反応にレオンは目を細め、


「ふっ!」


 一息のあいだに返答をしたメタルメテオの目前にまで体を屈めた状態で潜り込み、神剣と魔剣を交差させた渾身の十字切りを振り抜いていた。


「効かぬ。その動きは既に見た」

「一度見た技は通用しないという事か。中々に厄介だな」


 それを僅かに後退するだけで対処し、反撃に移るメタルメテオ。

 レオンはその反撃を受け流しさらに逆襲。

 そのような出来事が続き、両者は幾度となく鍔迫り合いは行い、


「むっ!」

「善!」


 百を超える衝突の末、レオンが一手分だけ詰め切れたというタイミングで、体から煙を発した善が飛びこみ、驚きから両者は距離を取り、その姿に戦友である男は声をあげた。


「畜生が。あのガキマジで厄介だな」

「まさかお前が押されてるのか? あんな子供に!?」


 メタルメテオに意識を向ける一方で彼は信じられない様子の声をあげるのだが、それに対する善の表情は硬く口は重い。

 というのもレオンの言葉を否定することができなかったのだ。


「まぁ俺もガキだと思って侮ってたところはあるんだがな。普通に強ぇぞあの野郎。それこそ蒼野、いやゼオス相手にタイマン張っても勝てるレベルだ」


 彼がシェンジェンと名乗る少年と会ったのは半年も経っていない程度前のことだが、その日から今日までという短い期間で、この少年は恐ろしく強くなった。

 普遍能力の中では最高難易度に位置する『エアボム』を使いこなせている時点でその実力は折り紙付きなのだが、この半年でその精度が勢いよく増したのを筆頭に、善を相手にしても簡単には寄せ付けないほどの機動力と戦術を備え、さらには面倒な小技も幾らか覚えていた。


「ところでおめぇに一つ聞きたいんだが、あのガキに見覚えはあるか?」

「あるわけがないだろ。突然なにを言いだすんだお前は?」


 ただ見た相手の気の流れを知る事ができる善は少年の全身から並々ならぬ気が漏れている事が分かり、ふと気になった様子で戦友であるレオンに尋ねる。


「とにかくあの子供の事は任せたぞ。エアボムの使い手を放置なんてできないんだからな!」

「あぁ。分かってるよ」


 襲ってきたメタルメテオに対処するレオンの捨て台詞におざなりな返事をしながら考えるのは、幼子の纏う異様なほど濃い『気』。並の者では発することのできないほど洗練された敵意と殺意だ。


(やっぱどこかで出会ったのか? いやあの年のガキなら肉親の死に関わったか?)


 この類の気については善は飽きるほど目にしている。

 簡単に言ってしまえば身を焦がすような復讐心を備えた者が持つ気である。

 それ自体はシェンジェンと名乗った少年も既に口にしていた事実のため十分に理解していたのだが、やはり善にはどうしても心当たりが思い浮かばない。


「なぁ坊主」

「!」


 正直何も知らずこのまま打倒したところで悪いことなど一つもない。

 むしろ日常茶飯事だ。しかし


「おめぇは誰の息子だ。いやおめぇの親は誰だ?」


 以前アイリーン・プリンセスが去り際に口にした言葉が頭に響く。

 彼の直感が、真実を知るべきだと囁きかける。

 ゆえに善は素直にそう尋ね、


「――――――――」

「は?」


 そこで信じられない名前を耳にした。






ここまでご閲覧していただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


善さんサイド。その話題は知られざるシェンジェンの正体に追及する話です。

彼の正体に関してはそこまでヒントはなく、言うなればその才能が証拠みたいなところがあります。


気になる正体については次回

そこから善とシェンジェンの物語は大きく動きます。


それではまた次回、ぜひご覧ください!





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