図書室戦線 四頁目
「い、今のは?」
「斬撃の混じった強烈な風だったな。流石四星の一角だ。巨大な筆の神器意外にもあんな武器を持ってるなんてな。てか普通に出力で負けてそうで凹む」
通路全体を駆け巡る強烈な風の牙が通りすぎ、本棚に隠れた子供たちが息を吐き自分たちが得た情報を整理する。
「神器かい?」
「…………そこまではわからんな。が、その可能性は低いだろう。如何に奴が強力な戦士であろうと二つ以上の神器を備えているのは稀なはずだ」
「という事はあれはただの装備なのかな。結構な威力だったけど」
「といってもまあ何ともできない、なんて絶望的な威力の物じゃありませんよ。ある程度警戒しておけば、俺の能力でなんとでもなります。出力勝負は遠慮しますけど」
「…………すごいな。普段戦場に出てない僕からすれば、あれだけで十分な脅威だ」
最前線に立ち攻撃を目にして受けた蒼野とゼオス。逆に積と同様に最後尾におり攻撃の全貌を目にしたレウ。二つの視点、真逆の実力の彼らはそのような話を行い、未だ康太の身柄をおさえている強敵に視線を移す。
「それはいいんだけどよぉ、まずは俺の怪我を直せ蒼野! し、四肢が千切れかけてる!!」
そんな中本棚に背を預け多量の血で床を染めているのはレウと蒼野の間にいたゲイルで、その言葉を聞き蒼野は驚いた様子で肩を揺らした。
「わ、悪い。すぐに気がつかなかった!」
「たくっ。俺はレウ程ではねぇとはいえ、鍛えてるお前らほど頑丈じゃねぇんだ。お前や優がいなけりゃ死んでるぜこの怪我!」
目前の脅威に意識を向けていた蒼野はゲイルの怪我の具合に気がつくと慌てた様子で能力を発動し、彼の体の時間を戻し、それにより床を染めていた血痕も消えてなくなる。
「おいコラ積。見積もりが甘すぎんじゃねぇのか。死にかけたぞこのやろう!」
するとゲイルは蒼野とレウが苦笑するような言葉を発し、彼らよりも上の位置で老兵を眺める積に対し文句を口にするのだが、対する積は返事をしない。
「…………積?」
「ん、ああ。さーせんさーせん! 許してくだせえ。もう二度と今みたいなミスはしないからよ!」
「そうかい。頼むぜホント」
その様子から覚えた違和感を前に彼は訝しげな声を挙げるのだが、それを聞くと頭上にいた少年は普段通りの様子で言葉を返した。
「…………いけるか?」
そして彼の意識は再び目の前に注がれる。
彼が思案し作成しているのは目の前の強敵の突破法。すなわち康太を取り戻し、手にしている神器を掻い潜るの方法だ。
そのために彼は様々な要素に意識を向ける。
神器の備えている能力の正体と弱点
新たに取りだした団扇の性能
康太の位置
仕掛けられてるトラップの種類
目の前にいる老兵の性格と備えている手札の数
対する自分たちの手札の数
そして何よりも重要な――――――
それら全てを思い浮かべたところで少年はそう呟き、
「よーしよく聞け野郎共!
康太からうまい事能力の正体を教えてもらった俺が、とっておきの作戦を伝授しよう!!」
普段はしないそのような提案をして、他の者達を少なからず驚かせた。
「来るか」
自分の周りを漂う空気が剣呑なものになった事を察知し、雲景は小さくそう呟く。
すると臨戦態勢であることを示す様に彼は真っ黒な翼を広げ筆と団扇を構えるのだが、その姿は年を感じさせる肌の質感と着ている服も合わさり、一枚の絵のような神々しさを控えていた。
「四星!」
「正面衝突とは勇敢だな」
見る者や挑む者を圧倒させるその空気を前に、しかし古賀蒼野は怯まない。
本棚から出てきたかと思えば自身の体を風属性粒子で包み込み、強い意志を秘めた瞳と愛剣を携え、迷いのない足取りで一直線に向かっていく。
「援護は…………貴族衆の御曹司共、か」
とはいえこれはたった一人での孤独な行進ではない。
彼の直進と共にその援護をするように大量のレーザーと炎の弾丸が頭上から飛来し、老兵の体へと襲い掛かる刺客と化した。
「下らんな。その程度のものは策とは言えん」
それらの抵抗を千年以上の時を生きた老兵は鼻で笑う。
蒼野や無数の無機物が到達するよりも遥かに速く体を捻り、蒼野の剣が届くよりも四歩以上早く団扇を一振りすると、前方全てを覆うような暴風が数多の斬撃を携えながら生じ、光と炎の抵抗を消し、さらに自分の側に迫っている蒼野へと襲い掛かった。
「原点――――」
それを前にした蒼野は最初から分かっていたとでもいうように大きく跳躍し更に距離を縮め、
「回帰!」
「ほう!」
足場もない空中にいる状態で、万象を存在しない段階まで逆行する破壊の赤を体に装着。これにより地面を壊すことなく迫る障害全てを退け、自身の剣が届く射程まで迫る事に成功。
「事前の情報ではなかった使い方だな。若い者の成長は早いものだ。がしかしだ」
「!」
そのまま雲景の背後を取るように音一つ立てず迫っていたゼオスと息を合わせ攻撃を剣を突き出し、
「ワシとて伊達に千年も生きてはおらん。得手ではないが、この距離でも充分に戦えるぞ。それこそ」
「…………貴様」
「お主ら若造を一蹴する程度にはのう!」
しかしそれは円を描くような筆の一振りで完璧に阻まれ、神器に触れた事で蒼野の能力は解け、二人は大きく後退し膝をついた。
「おっとそこで通行止めだ!」
「…………愚かな。その程度の抵抗に何の意味がある?」
そのまま行われるであろう追撃を阻んだのは二人から離れた距離にいる積であり、彼が行った遠距離からの刃の砲撃を体を左右に揺らすだけで躱しながら失望の声を上げた。
残るゲイルとレウでは邪魔をする程度の事ならばできるものの、彼を倒すほどの決定打を撃ちこむ事はできない事を知っており、それが可能な三人が既に視界に収まった時点でこの勝負は終わったのだと彼は認識したのだ。
「終いだ。拙い作戦で攻めてきた己を悔いろ」
そう宣言しながら筆を持つ腕を僅かに動かし団扇を一薙ぎ。
今度は無数の斬撃は生じず強烈な風だけが彼らの身を横薙ぎに襲いかかり、吹き飛ばされないよう彼らは歯を食いしばり、その姿を見て彼は筆を持ちあげ揺らし、いくらかの墨を暴風に乗せる。
「せ、積!」
「っっ!」
その攻撃を前に声を挙げる蒼野に返事をしない積。
すると宙を舞う墨は暴風に流れるうちに更に細かな水滴へと変化し、
「来た!」
「なに!?」
その瞬間、頭上から戦場にいる四人へと向け大量の本が落下し、その光景を前に子供たちは歓声をあげ、老人は狼狽えた。
「さあて、もういっちょ付き合ってもらいますぜクソジジイ!」
体に付着するはずだった墨を大量の本で防ぎきり、自身の姿をそれらの中に紛らわせ、得意げな声で積が言いきり、
「待て原口積。この作戦を貴様が!?」
その言葉に含まれた感情から真実に辿り着いた老兵が、全く想像していなかった指揮者の登場に狼狽えた。
ここまでご閲覧していただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
皆さまお久しぶりです。
数日の間を開け帰還しました!
無事に賞への投稿もできたので、ご協力本当にありがとうございます!
さて本編は引き続き神器攻略戦。
一話でできればとも思ったのですが後半部分を入れると六千字を超える感じでしたので二話に区切りました。
まあ逆に言えばこの攻略戦は次回で終わりの予定です。
積が辿り着いた答えと突破口、楽しみにしていただければ幸いです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




