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衝突、ガーディア・ガルフ 一頁目


「ふむこれは」


 危機的状況である。

 自身へと迫るおよそ一万の強者達を前にガーディア・ガルフは機械的にそう判断する。

 千年前に生まれ現代に至るまでの間に、彼は様々な困難の大半を無傷で超えて来た。

 しかし過去を振り返ってみても一万近い大群に手が届く距離まで迫られた覚えは一切なく、その中に一握りの強者が含まれているとなればこれは自身の無傷記録にとって過去最大の危機であると認識しても問題ないと彼は判断した。


「やるじゃないか古賀蒼野」


 自身の力では決して勝てないと断じ、他者の力を信じこの状況を作りだしたであろう存在を彼は素直に賞賛。


「『果て越え』覚悟!」

「少し静かにしてくれ。シュバルツ以外の相手を純粋に褒めるのなんて久方ぶりなんだ。その余韻を味わいたい」


 割り込んでくる幾人かを片手間で退け言葉通りの事を終えると、彼は周囲に意識を向ける。


(私に一早く攻撃が届きそうなのはおよそ百人。遠距離持ちを考えればその三十倍ほどか。壊鬼とクロバはまだ遠いな)


 冷静に、的確に、迫る敵の現状を十手分の時間を使い正確に認識。


「まずは手前の百人からだな」


 敵方の損傷具合に気迫の大小。この戦いを始めるにあたり頭に叩きこんだ一人一人の粒子術や能力のデータ。そこから割りだされる対処するべき優先順位。

 そこまで到達すれば、後は普段と変わりはない。

 迫る百の敵の近接攻撃が届く距離とはすなわち、彼の手が届く距離に他ならない。

 迫る相手を瞳と肌、それに周囲を漂う炎属性粒子で捉え、己が右腕に過不足のない力を込め、普段と変わらぬ自然体のまま、神速の拳を撃ち出し射貫く。


「さて次は後方の攻撃に移ろうとしている面々だが…………あまり動きたくはないな」


 それが終われば目標は全て痛みを感じる間もなく意識を失い、そうして全員が落下をして行くのを見届けるともう一度周囲を見渡し、遠距離攻撃の準備に移っているおよそ三千人に狙いを定める。


「隕炎」


 そうして多くの者が攻撃に移るよりも早く虚空に散っている炎属性粒子を固め、音を遥かに超えた速度で降下させる。すると突然の出来事に困惑している者達の体に直撃し、勢いよく大地へと向け落下していき、


「紅蓮封殺杭」


 地面に衝突していった者達の四肢にガーディア・ガルフは小さな剣を刺し、地面に張り付け動きを止める。


「残り七千と少々」


 そこまでの行動を最適解をそのまま辿るかのように終えた彼は残る面々に意識を向けるのだが、彼が一方的な攻勢に出れたのはそれまでだ。


「「おらぁ!」」

「来たか」


 戦場を蹂躙する『果て越え』を挟み込むように二人のクロバと壊鬼という『超越者』が襲撃。

 その攻撃を彼は一歩後退するだけで躱してしまうが、二人の猛攻は止まらない。


「ほう」


 いや二人だけではない。

 今動ける戦士達全員がここが正念場であると認識し攻撃を行っていく。

 ある者は光属性を固めた球体を撃ちこみ、ある者は水圧カッターを打ち出す。

 またある者は隕石を降らし続け、自分たちの中心にいる史上最強へと挑みにかかる。


「手を抜くな!」

「「!!」」

「当たったところで文句は言わねぇ。今この瞬間に、この化け物をぶち殺すよ!」


 ただその勢いが彼らの全力でないと瞬時に見抜いた二人は空に浮かぶガーディア・ガルフに接近しながらも声をあげ、それを聞き戦士達の目の色が変わる。


「ちっ」


 途端に変貌した攻撃の質はそれまでの数倍のもので、絶えず降り注ぐ弾幕を前にガーディア・ガルフは一つずつ丁寧に落としていく事を諦める。


「阻め火遁道」


 とくれば彼が次に行う守りは単純だ。

 己が肉体ではなく極めた粒子術を迷いなく使い、帯状に広がる炎の塊であらゆる攻撃を消滅。

 風や雷などの炎耐性に引っかからないものは、同様の形をした鋼属性の帯で防ぎきり、


「諸君も退くといい」

「ぐっ!」

「くそぉ!」


 なおも攻撃を続ける二人の超越者に再度攻撃を仕掛ける。


「早いだけじゃない!」

「当然だな。むしろ私の強みは磨いてきた技術だと自覚している」


 そうして一秒が過ぎ次の一秒が刻まれ始める。

 攻撃を防ぐために二本の帯状の粒子術を駆使するのはそれまでと変わらないのだが、攻撃の精度が異様に高い。

 それこそクロバと壊鬼の全力は最初の一撃を打たせぬよう執拗に潰し、光を遥かに超えた早さを重さへと変換した拳と蹴りによる衝撃を、彼らの体に幾重にも刻んでいき、


「君達にも手伝ってもらおう」

「なっにぃっ!」

「鬼人族の力でも解けないとかマジかい!?」


 ほんの一瞬動きが止まった隙に二本の帯を彼らの体に巻き付け、それを自由自在に操り様々な攻撃を防ぐ肉盾とした。


「そこだ」


 それを見れば如何に覚悟を決めた戦士と言えども大半は僅かな隙というものを作ってしまい、その一瞬を彼は逃さない。


「エアボム」


 シェンジェンが遣うものよりも範囲を狭め威力を高めた爆発を数千カ所で同時に発生させ、多くの戦士達を地面に沈める。


「ガーディア・ガルフ!」


 こうなれば後は有象無象。

 そう考えていた彼はしかし、次の瞬間には聞くはずのない声を聞く。


「君は彼らとは離れた位置にいたはずだ。なぜまだ動けるデューク・フォーカス?」


 それはほんの短い間ではあるが彼と一進一退の攻防を繰り広げた現代最高峰の男のものであり、自身へと振り下ろされている鉄槌を躱した彼は、僅かではあるが普段よりも固い声を発していたようにそれを眺めていた少年には思えた。


「古賀蒼野の能力圏内にはいなかったはずだ」

「お前の言う通りだよ。けどまぁ、今こうやって動けるのはあいつのおかげだよ!」


 続けざまに行われる攻撃を、いつの間にか手にしていた短剣でレオン・マクドウェルさえ真っ青になるほどの精度の受け流しで捌き、己が拳が届く距離へと近づき攻撃を攻勢に移る。


「おぉぉぉぉ!」

「見事だよデューク・フォーカス。君は素晴らしい」


 ガーディア・ガルフが打ち出す数多の斬撃をデュークは不格好ながらも耐えきる。

 それこそ意識を奪うであろう一部の攻撃だけは粒子術や能力を用い死にもの狂いで防ぎきり、他の斬撃は全て、クロバでさえ到達できないレベルの硬化で受けきった。


「減らず口を叩く暇が」

「む」

「あるのかテメェ!」


 そんな中でもなおも余裕のある言葉を残す『果て越え』を前にして吠える。

 今は自分たちの方が有利であると暗に伝える。


「無論だ。なにせ残るは十人程だからね」

「は?」


 その問いに対し返ってくるのはそのような答えで、デューク・フォーカスは一瞬呆けながらも視線を明後日の方角に移動。


「そういえば君の復活についてだが、先程蒼野君が撃ちだした『時間回帰』か。ミレニアムの討伐といい、見どころがある少年だ」


 すると既に大半の戦士達が先程まで同様に大地に沈んでおり、そんな『果て越え』の平坦な声を聞きながら彼は、クロバや壊鬼などの極少数以外は戦闘不能に陥っている事を認識した。


「当たれぇ!」

「攻撃の対象にならないため、この土壇場まで敵意を放たず状況を見守っていたか。なるほど、エヴァに深手を負わせ、一定の評価を貰うだけのことはあるな」


 他の者とは違い最初から仰向けに倒れ猛攻のターゲットから外れ、じっと息を潜めながら近づき、至近距離から攻撃を当てようとしていたゲイルの一撃も虚しく虚空に消え、軽く小突かれただけで頭から大地に沈み意識を失った。

 それとほぼ同じタイミングで別々の方角から抵抗を続けていたクロバと壊鬼も疲労とダメージから足が止まり、


「散れ。紅蓮灼刃」


 そんな短い呟きと共に撃ちこまれた灼熱の刃を前に抵抗する気力はなく、二人は腹部を貫かれた衝撃に一瞬だけ瞳を大きく見開いたかと思えば全身から力を抜き、瞼を閉じ意識を失った。


「一騎打ちだ。まだやるかねデューク・フォーカス?」

「っ」


 複数の『超越者』が入り混じった、強豪およそ一万人による一斉攻勢。

 それを無傷どころか血しぶきや砂埃ひとつ付着させず対処した彼はそう言いきり、


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!」


 彼我の実力差から来る恐怖をかき消すために雄叫びを挙げながらデューク・フォーカスは前進。


「策もなければ望みもない。そのような状態での突進はよくないなデューク・フォーカス。それは勇気ではなく蛮勇だ」


 その姿をそう断定した『果て越え』は剣を構え、


「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 勝敗を決しようとしたその瞬間、彼ら二人の耳に驚くべき声が聞こえ、振り向いた先で同じ姿を見た。


「なに?」

「おいおいマジかお前!」


 彼らが目にしたもの。それは、

 泣きそうな悲鳴を上げ、それでも他の者達の姿に鼓舞され立ち上がり闘志を纏うに至った臆病者。

 ゲイル同様、しかしもっと情けない理由で地面に這いつくばっていた原口積の姿であった。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。

遅くなってしまい申し訳ありません。

本日はどうしても外せない予定が入り遅くなってしまいました。


本編はガーディア・ガルフ戦の続き。

恐らく全編通して積が一番勇気を出した回です。

そんな彼の頑張りはどう実るのか。

次回、VSガーディア・ガルフ終結編。お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください!




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