鬼人族の里『豪湖』 四頁目
「神器にも弱点はある」
「!」
積の体が本人の意思に反し引き寄せられ、現れたシロバの真横にまで移動される。
と同時に積の隣にいるシロバはそう語りだすのだが、彼はその声を聞き驚いた。
というのも今彼が耳にした声はシロバの物とは別の人物のもので、事前にあった情報ではここに居ないはずの人物のものであったからだ。
「所有者は範囲内に入った能力を全て無効化できるが、逆に言えば範囲外にある限りはこういう変装は解けないんだよな」
彼が今耳にしている声の人物の正体。それは
「デュークさん!」
シロバ・F・ファイザバードの盟友にしてセブンスター第二位、デューク・フォーカスである。
「デューク、貴方に課すオーダーは今回の戦いの中で間違いなく最高の難易度。ガーディア・ガルフに攻撃を一度でも当てる事というものです」
「それはそれは。ずいぶんと慎ましい願いだな義母さん」
善やレオン達が特別な依頼を受けるのと同様に、デューク・フォーカスが神の座の対面に座り指示を受ける。
するとデュークは鼻で笑いながらそう告げ、二人をへだつようにセットしてある机の上に置いてあったショットグラスになみなみに注がれていたウイスキーを一気に飲み干し、僅かに音を立てながら机に置き直した。
「そう機嫌を悪くしないで下さいデューク。貴方は確かに強いですが、相手が『果て越え』ガーディア・ガルフとなれば、単体で挑んでも万に一つも勝算はありません。彼は一騎打ちにおいては誰にも負けない存在です」
「へぇ。で、それが野郎に一撃ぶつける事にどう繋がるんだ?」
機嫌を悪くしているデュークも自身の義母がこの上なく真剣に話をしているとなれは矛を収めるしかなく、頬に手の甲を、肘を膝に起きながら努めて冷静に質問を行い、神の座は一度深く頷いた後に話を再開。
「逆に言えばいかにガーディア・ガルフとて最強クラスの使い手が複数でかかれば、僅かではありますが勝算が生まれるわけです。そうやって千年前の戦いは勝ちましたしね。彼に一撃を与えるというのはそのための地盤作りです」
「地盤作りだぁ?」
「はい」
「んなもん必要なのか?」
彼女の言葉に疑問を挟むデュークであるが、
「ええ。一つ尋ねますが、今の世界で本気でガーディア・ガルフを打倒できる、もしくは倒したいと考えている存在はどれだけいると思いますか?」
「…………」
そう言われれば即答する事ができなかった。
自分は絶対にぶちのめしてみせると考えているものの、同じような思想を持つ者は明らかに少ないと感じていたからだ。
「壊鬼の嬢ちゃんやエルドラさんのところの息子。姉貴だってそうだわな。えーと他には」
「居るかもしれませんが実力が足りない者がほとんどでしょう。ガーディア・ガルフに一撃を与えるという事は、言うなれば彼を私達の住むステージに引きずり下ろすという事です」
「…………あぁなるほど。そう言う事か」
ガーディア・ガルフはまさに次元が違う存在だ。
強さ云々はもちろんのこと、その圧倒的な強さを目にしたことで、大多数の人間は彼が自分たちと同じ人間ではないとさえ考えているのだ。
「千年前も同じでした。強すぎる彼を前にして多くの人が膝を折った。その状況を覆したのが当時まだ若かったゲゼルでした」
過去を回想すればすぐに思いだす、かつての光景。
その状況を覆したのはたった一人の戦士が与えた、本当に小さな切り傷。すなわち攻撃を当てれば血が吹き出て、いつかは打倒せしめるという事実であった。
「つまりなんだ。義母さんは俺にゲゼルさんになれっていうのか?」
「…………ええ。そうです」
自身の意識が過去に注がれ過ぎたのを理解し、一拍遅れて返事をするイグドラシル。それを聞きデューク・フォーカスは実に好戦的な笑みを浮かべた。
「それは面白いな。英雄になろうとかそういう事を考える性格じゃあないんだが、義母さんの言葉通りなら最後にトドメを刺すのも俺になるわけだ。宣戦布告をした身としては、これ以上ない結果だ!」
そう言いきったデュークの姿に先程までの苛立ちは露ほども存在せず、それを見てイグドラシルは内心で胸を撫で下ろし、
「実際の動きは貴方に任せますが、私個人の意見を述べさせてもらえれば初手全力の不意打ちが最も勝率が高いと思います。参考にしていただければ」
「はいはい。あ、ところで」
その後自身が知る僅かではあるが必要な情報を告げるとデュークは生返事を返し、しかし気になった事がある様子で話を続け、
「なんでこんな風に他の奴らに秘密にしてるんだ。知ってた方が連携を取りやすいんじゃないか?」
引っかかった内容を尋ね、
「ああ。これは裏切り者の炙り出しですよ」
神の座はそう言いきった。
「さあて、決めさせてもらうとするか!」
目の前で起こる光景を前に息を呑む積。
そんな彼の様子など露知らず、デューク・フォーカスは一撃を与える、などという生半可な覚悟ではなく、この場で打倒しようと動き続ける。
「第二第三第四第五!」
彼が言葉を紡ぐたびに腰に巻かれている巻物は独りでに動き出し、様々な色を発し出すのだが、問題はそうして発動する粒子術の規模だ。
「ちょ、相手は人間ですよデュークさん!」
「それがどうした!」
「どうしたって…………星を、いや銀河でもぶっ壊すつもりですかねこれは!?」
デュークの一声で発動する技の数々、それら全てが並の者はもちろんのこと、義姉であるアイビス・フォーカスでも発動にある程度の時を必要とする超高火力、それこそ技の極みと言えるものであった。
ある技は疑似的に生み出した星を爆発させるいわゆる『超新星爆発』であり、
ある技は同じように生み出した星を意図的に崩壊に導き、終焉の際に生じる『ブラックホール』をたった一人へと向けぶつけており、
「とっておきの中のとっておきだ。受け取れ『果て越え』」
「ちょ、それ大丈夫ですかデュークさん!」
「大丈夫。硬度やら耐性を備えたあいつを閉じ込めてる箱は疑似的な神器だ!」
その流れのままガーディア・ガルフを囲った壁の中に撃ちだされたのは、積からすれば明確には正体を理解できず、しかし何かが『膨張』しているという事だけは理解。
「ま、まさか」
『超新星爆発』『ブラックホール』と続く、それ以上のとっておきにふさわしい現象は何か、それを理解し声を強張らせ、
「ビックバン!」
彼の想像通りの奥義の名をデュークは唱えた。
結果サングラスを掛けている積さえ視界を奪われるほどの光がガーディア・ガルフを中心とした四角い箱を中心に広がり、
「見事だデューク・フォーカス」
その全てを否定するような声が彼らの背後から聞こえ、
「だが失念したな。最初に君が言ったはずだ。神器にも――――弱点はある」
「っ!」
その短い呟きと共に、デューク・フォーカスの全身は切り刻まれた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
そして遅くなってしまい申し訳ございません。作者の宮田幸司です。
本日は少々忙しかったため、ちょっと文章が荒れているかもしれませんが許していただきたいです。
VSガーディア・ガルフ続行。
現れた人物の正体と、その実力披露です。
今回めちゃくちゃな攻撃を続けて行ったデュークの種は次回くらいで語れればと思います。
重々しい空気を吹き飛ばせる話も近々書いていければと思います。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




