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鬼人族の里『豪湖』 二頁目


 古賀蒼野と原口積の二人が衝撃と轟音のあった中心部へと向け駆けだすのだが、その足取りは普段と比べ幾分軽い。

 というのも今の二人は珍しい事に、自分の実力を試したくて仕方がなかったのだ。


 この三か月間で磨き上げた身体能力。

 アル・スペンディオから貰った籠手の性能への期待。


 これらに関して強い関心を抱いている二人は、敵の強大さを知ってなお高揚していた。


「途中で誰かと合流できるものかと思ってたもんだが」

「そう上手くはいかないか。作戦に関しては戦いながらだな!」


 ギャン・ガイアやシェンジェン、メタルメテオやヘルス・アラモード。

 それこそ今ならばシュバルツ・シャークスやエヴァ・フォーネス、アイリーン・プリンセスなどの千年前の戦士が相手でも戦い、自身の実力を試したい。

 そんな強い闘争心を胸に抱きながら彼らは町を抜け、湯気上がる天然温泉が並ぶ大地を抜け、雑木林の枝を足場を目的地直前の場所まで迫り、砂埃昇るその場所へと一気に飛び込む。


「さぁて、襲撃者はだれかね?」


 珍しく好戦的な声をあげサングラス越しに未だ砂埃が立ち昇る爆心地を見守る原口積。

 蒼野にしても気持ちは同じであったのだが、そこで彼らは言葉を失った。


 理由は簡単だ、

 最高のコンディションで迎えた決戦の時。そういう時に限り嫌な事態というものは起きてしまうと自覚してしまったからだ。


 彼らは対戦相手を選ぶ際、半ば無意識のうちにある選択肢を削っていた。

 なぜならばシュバルツ・シャークスやエヴァ・フォーネスのような千年前の戦士であろうと、今回ならば初見の勇利もありある程度の戦果を挙げれると考えていたのだが、彼だけは例外であると言いきれたからだ。


「!」


 そして誤算がもう一つ、彼らは認識を誤っていた。

 ここに来るまでの間に誰とも合流できなかったのはただの偶然ではない。既に先に到着していた者は先に攻撃を仕掛け、返す刀で退けられたのだ。


「次は古賀蒼野、それに原口積か」


 その証拠に砂埃が僅かに収まった爆心地の中心地帯周辺には既に数多の鬼人族が意識を失った状態で横たわっており、その中には近くで待機していたため一早く現場に到着したであろう聖野やゲイルの姿も確認できた。 


 すなわち『豪湖』を襲った襲撃者とは


「ま、マジか。こんな普通に遭遇していい相手じゃないだろ!」


 『果て越え』ガーディア・ガルフに他ならない。




 終わった


 彼の姿を認識した瞬間、戦う前から二人はそのような感想を抱いてしまった。

 それまでは熱に浮かされ戦いを望んでいた二人は、しかし現れた存在を前にしただけで意気消沈してしまう。


 だがそれを誰が責められるというのだろうか。


 他の者と対峙した場合でもそこには明確な差が存在するが、その中でもガーディア・ガルフは別格だ。

 二人は他の者から彼を前にした場合『絶対に戦ってはいけない』と言われており、今回とてそれを遵守する予定であったのだ。


「なにが可笑しい」

「え?」

「我々には目的があり、それを成すために私が動いた。それだけの事だが?」


 淡々と、嫌味や敵意、興味関心も一切含まずそう答えられ、それだけで彼らは肩を揺らしてしまう。


「それで、君達も私の前に立ち塞がるのかい。ごく一般的な第三者視点の意見を言わせてもらえば、意味はないと思うが?」


 ゆったりとした声色の、しかしギリギリ聞き取れる程度の早口という奇妙な声を発しながら歩み寄る彼の姿に、二人の少年は考えるよりも先に一歩ずつ後退する。


「甘く見てもらっちゃ困りますね皇帝の座!」

「…………ほう」


 が、彼らが気後れしていたのはそれまでだ。

 固唾を呑んだ蒼野が怯えから声を震えさせながらも後の世にまで残されている彼の異名を告げ、それを聞いたガーディア・ガルフが関心を抱いたのか足を止め続きを促す。


「貴方と戦う事になる可能性だって十分に考えてたんだ。もちろん怖いけど、だからって何もせず引くほど俺と積は腰抜けじゃない!」

「え?」


 正直俺は白旗をあげたい!


「そうか」


 そんな積の思惑を見透かしながらも蒼野は言いきり、ガーディア・ガルフは短く応答。

 蒼野が覚悟を決めたように肩を強く叩くと、積も顔全体から嫌な汗を流しながらも蒼野同様に固唾を呑み込み、サングラスでは隠れない程の涙を流しながらも覚悟を決め鉄斧を二つ錬成。

 自身の背後には千を超える投げ槍を作成し、彼の者へと照準を定め、を


「行くぞ!」


 風を纏い籠手を纏った蒼野と共に体を傾け疾走を開始。

 勝利することはできずとも、僅かでも時間を稼ぐ事で壊鬼やシロバ、それにクロバのような増援が来ることを願い勝負を挑む。


「え?」

「っ!?」


 そんな二人であるが決着は瞬く間に訪れた。

 最初の一歩を踏み込むと同時に積が背後に展開していた投げ槍の穂先が溶けていく。

 それを行ったであろう犯人は掌に宿った炎を消しながら二人の前に現れ半ば強制的にその歩みを遮り、同じ人間とは思えぬほど整った顔に表情一つ浮かばせず、ただじっと彼らを見つめていた。


「この音は!」

「これで君達が戦う理由もなくなった。さて、どうする?」

「うっうぅぅ」

 

 そんな彼の様子を前にして呼吸さえ困難になるほどの威圧感を二人が覚えていると、彼方では何か巨大な者が崩れる音が聞こえ、ガーディア・ガルフの発言を聞き守るべき対象であった結界維持装置が一瞬の間に破壊された事を蒼野は認識。


「は、果て越!」


 もしかしたら、もしかしたらこのまま無言を貫いていたらあとちょっとでも時間を稼げたかもしれない。

 しかし目の前で起こった事態を前に蒼野は声をあげ、


「………………」


 しかしガーディア・ガルフは最後まで言葉を聞くことなく知覚できない速度の拳を撃ちこみ、蒼野は抵抗することもできず意識を刈り取られ、


「あ、ああ。ぁぁぁぁ………………」


 残された原口積は完膚無きまでの敗北を悟り膝をつく。

 戦闘開始から三秒、実際に衝突したのは一秒にも満たなかった戦いの決着である。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


襲撃者判明から戦闘開始かつ終結。

プロニックでの戦いとは真逆の、あまりにもコンパクトな一話です。

思うにここまでプロレスが苦手な存在はいないと思います。


ミレニアムだろうとシュバ公だろうと、なんだったら今後出て来るあらゆる相手でも、もうちょっとは相手のペースに付き合ってくれるだろうなと思います。


皇帝殿はマジで独り相撲しかしない


とまあここまで彼の行動に関して語りましたが、流石にもうちょっとは続きます。

これじゃあ吉報一つありませんしね


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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