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当意即妙 三頁目


「言い忘れていました。これは貴方達が自由に決めていいことですが、戦う前にシュバルツ・シャークスに神器を使わせるか使わせないかは決めておいてください」

「はぁ?」

「…………どのような形であれ、結局は使わせることになるのではないのか?」


 神の座がインディーズ・リオとの戦いにおける大一番として今回の戦いを挙げ、四人がその場で当日の動きを確認する。

 その内容は当日の動きや作戦を伝えていない面々に対する協力要請、そして実際に戦った場合の事を想定してのものだったのだが、その途中で神の座は『これだけはして欲しい』と彼らの話に割って入った。

 その内容を聞けば不思議に思う者も無論出てきて、鉄閃やレオンが口を挟んだ。


「普通に戦えばそうなるでしょう。ただ最初から使わせない事に意識を注ぎ戦うとなれば、話は変わって行きます。貴方達なら使わせないための戦略戦術を組むでしょう?」

「まぁそりゃそうだがよ、それって結構難しいことなんじゃねぇのか?」

「某もそう思いますな」

「そうですか」


 彼女の提案に対する返答は至極当然のものだ。

 しかしそれを受けた彼女は顔色一つ変えず、モニター越しにいる戦士達に短くそう返した。


「でれば出来るだけ早めに使わせるべきであると提案します」

「……その心は?」


 鉄閃とブドーが当たり前の返答をすると神の座は僅かに思案した後そう告げ、気になった鉄閃が質問。


「まぁ色々な理由があるのですが、第一はやはり切り替わりの瞬間が最も攻撃を喰らう可能性があるからでしょうか。四人がかりで勝機が見える戦いで、三人になるのは致命傷でしょう」

「まぁ、そりゃ道理だな」


 彼女の指摘に対し善は頷いた。

 シュバルツ・シャークスが持つ神器『ディアボロス』は、剣というカテゴリーの中では最長に近いリーチを備えている武器だ。

 その長さは彼が水で作る剣よりも幾分か長いリーチを持っており、とすれば急に持ち替えられ不意の一撃を行われれば、確かに防御も回避も間に合わず一人脱落する可能性は大きいだろう。


「あとはそうですね。やはり……………………慣れの問題でしょうか」

「?」

「「慣れ?」」


 だが続いて神の座が告げた内容については全容が掴めず、彼らは訝しむ。


「口で説明して理解はできても、実際に体験するとなれば話は変わってきます。となれば前情報はむしろ邪魔かもしれない。ですからそうですね。これはアドバイスとして素直に受け止めて欲しいのですが」

「なんだよ。もったいぶんなよ」

「最初の数分は勝ちに行くよりも見定める事に意識を向けなさい。そうしなければ最初の数秒で勝負は終わります」

「まぁ」

「実際に野郎の動きを知っているあんたがそう言うなら、俺らは従うさ」


 そんな彼らの様子を見ても彼女はそれが当然と受け止め当日の動きに関するアドバイスを差し込み、少々不服な様子を見せる者もいたが、彼らは素直に了承。


 そして作戦日当日の大一番


「ディアボロス」


 数多の異名を背負った男は、その剣を手にした。




「さて」

「これで彼は全力なわけだな」


 ブドーが、レオンが、警戒心を最大まで増幅させ、その上で一挙一動を見逃さぬと意識を絞る。


「「…………」」


 残る二人、すなわち善と鉄閃といえば同様の事を行っているのだが、そのレベルは二段ほど高い。


 それは鉄閃は実際に戦った際には到達していなかった領域に足を踏み入れたことからきており、善に至っては実際に『神器』を手にした際の戦いぶりを見た事があったゆえに自然とそうなっていた。


「ああ、一応これだけは伝えておこうかな」

「?」


 そのような様子を見せる彼らを前に僅かに屈んだシュバルツ・シャークスは思いだしたかのように口を開き、善が眉をつり上げ、レオンと鉄閃が手にした得物を持つ掌に力を込める。


「これまでこいつを取りださなかったのは、別に侮っていたからというわけではないんだ。ただまあこいつは何か物を破壊する以外に使う、というより人を相手に使う場合はちと危険すぎてな。まぁ端的に言うと、君達を殺してしまう可能性が高いから使わなかったんだ」


 その様子を理解しながらもシュバルツ・シャークスは困ったように頬を掻きながらそう説明。


「いやそういうのを舐めてるって思われるんだよ」

「だから違うんだって!」


 しかしその説明を聞き善は明らかな苛立ちを募らせ己が抱いた感想を口に出し、シュバルツ・シャークスは困ったようにしながら否定。


「要は我々の目的に死者は出したくなかったんだ。他にも理由はあるが、だから使わなかっ……おおう!」


 説明を続けるのだが、最後まで語るまでもなく四人の敵意を一身に受け彼は声をあげ、


「まあ何が言いたいかというとだな」

「…………」

「死ぬなよ。こいつは手加減ができん暴れ馬だぞ!」


 シュバルツ・シャークス堂々とそう宣言。


「う、お!?」

「これは!!」


 発せられた言葉と共に足踏みが行われ彼は屈むのだが、それだけの動作で彼らの目に見える範囲の地面に亀裂が奔り砕け散り、


「!」

「っ」

「引け!!」


 敵が纏っている『気』の流れが唯一視認できる善が一早く声をあげ、四人が全身から発せられる警報に従い別々の方角へと飛んで行く。

 それから一歩遅れ、シュバルツ・シャークスの肉体がその場から消失。


「「!」」


 日の光を背負うかのように彼らの頭上を撮っていた彼は、流星の如き勢いを纏い落下。


「ぬん!!!」


 短くも力強い声を発しながら神器の刃を振り下ろし、その切っ先が砕かれた大地へと衝突した。


 そして


 世界は裏返った


「なっ!」

「なんだこれは。一体どうなっている!?」


 その一瞬の出来事は、様々な敵と戦い、様々な戦場を渡り歩いた彼らであっても初めての経験であった。


 まず第一に起きたのは、衝突の中心地から広がる衝撃だ。

 ただこれは別に驚くことではない。

 無論その規模は剣の衝突とは思えぬほど大規模かつ高威力だ。

 視界に入る範囲にあった砕けた大地は全てひっくり返り、そのまま粒子の一滴すら残さず消滅した。

 その後にあった雲を貫く現象も、自身の身を襲う、方向感覚を失うような衝撃も身に覚えはある。


 だがその後の現象は別だ。


 何の能力も使用せず、空間が斬れていく。


 衝撃の余波は空間にまで及んで行き、虚空にに刃が奔ったような切り傷が刻まれ、文字通り『斬れ』てしまう。


 その奥に見えるものは黒い洞なのだが、空いた穴は強烈な勢いでその場にいる者達を呑み込まんと彼らを引き寄せていく。


「善!」


 無論この場にいる者は超一級の戦士達である。

 その勢いがいくら凄まじかろうが呑み込まれるような事はなく、すぐさま対処することが可能である。


「待たせたな原口善!」

「っっっっ!」


 だが目の前の男。

 史上唯一『果て越え』の座に到達した男の友であり、そこに並ぶために努力を続ける最強の『超越者』。

 彼が迫ったとなれば如何に原口善であろうと一呼吸することすら困難な状況に追い込まれ、


「ミレニアムがしでかした戦いの時からいつか戦わなければと思っていたんだが、まあ今口にするべき内容はただ一つだ!」

「オメっ!」

「死ぬなよ!」


 そんなあまりにも失礼な言葉を聞いても反論する気など一切起こらず、ただ振り下ろされた第二波を躱すだけに意識を注ぐことしかできなかった。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSシュバルツ・シャークス開戦。

うん。そうなんです。

見ての通りこ奴は反則的に強いです。ただまあ『果て越え』を目指すとなればこのくらいは必要な事でして…………

とりあえず次回も戦いは続きます。


さて最初の脱落者は誰になるか


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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