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鎧袖一触の来訪者 二頁目


 この場合の対応としてはどのようなものが適切なのだろうか?


 目の前で敵意なく悠々自適な時間を過ごしている三人の怪物を前に少年・古賀蒼野は考える。


「ん? どしたシュバ…………木偶の棒。知り合いか?」

「対象とシュ木偶の棒は僅かに緊張している様子。あまり友好な関係を築けている人物ではない様子です」

「君達私に対して容赦がないな!」


 現状はシュバルツ・シャークスだけがこちらの素性について知っている様子で、報告にあったエヴァ・フォーネスとメタルメテオの二人はこちらの事など一切知らぬのか、報告にあったような強烈な敵意は隠している。

 ただ問題はこちら側で、最初に遭遇したゼオスと優の二人は努めて冷静に対処しようとしてはいるのは分かるのだが、何もせずとも圧倒的な存在感を発する彼らを前に無意識のうちに敵意が漏れてしまっており、それを見てメタルメテオが訝しげな声をあげ、エヴァ・フォーネスも顔色を不快感に染め始めている。


「ゼオッ」


 中でもゼオスが発している敵意はあからさまで、腰に携えている漆黒の剣に手を掛け油断さえあれば斬りかかろうという様子は、シュバルツ・シャークスを除いた二人の様子をより険悪なものにしていった。


「あーいや悪いな。実は元の姿に戻ってからも何度か道場破り染みた事をやってしまってな。ほら、いつもの修行の一環だ。私も彼らはどこかで見た事があると思ったんだが、その道場に居た生徒達だ」


 ゆえに蒼野が口を開くのだが、それを遮りこの状況を崩したのは敵側三人の中では最も事態を呑み込めている様子のシュバルツ・シャークスで、食べていたソフトクリームを完食すると立ち上がり、すぐさまゼオスの間合いへと歩を進める。


「!」


 するとゼオスは蒼野達だけでなくエヴァ・フォーネスなどが見ている前で流れるような居合いを披露するのだが、それは気や粒子でコーティングした様子もない掌で簡単に受け止められてしまい、その光景を目にしてしまいゼオスは張っていた闘気を霧散させ、エヴァ・フォーネスやメタルメテオも表情を和らげた。


「なんだ。お前の馬鹿な修行の被害者か。あーその、悪かったな坊主共。こいつも悪気があってやったわけじゃないんだ。戦闘狂の発作と思って勘弁してくれ」


 すると日傘の下に体を埋めていた少女は驚いた事に蒼野達三人の前で無防備な様子で頭を下げ、シュバルツ・シャークスも困ったように頬を掻く。


『康太。ゲイルと善さん、それに鉄閃さんに現状を説明してくれ』

『分かった。お前はどうする?』

『とりあえず現状維持を目指してみるよ』


 そうしていると蒼野は隣にいる康太に対し念話でそう伝え、状況を理解した康太は頷き、積を連れてその場を離脱。


「ほら。お前も謝れ。あーやーまーれ!」

「痛い痛い! 私の髪の毛を引っ張るなって!」

(状況は好転したけど、次はどう動くのが最適解なんだこれは!)


 エヴァ・フォーネスがシュバルツ・シャークスの頭を掴み無理矢理下げさせている光景を見ながら、蒼野は再び考えを巡らせる。


 一触即発の空気が霧散した現状は、見方によっては好機にもなりうる。


 というのも一ヶ月に一回の襲撃と違い、今はここだけに戦力が集中できる。

 つまりアイビス・フォーカスやデューク・フォーカス、それにエルドラや壊鬼などの名だたる強豪を一ヶ所に集め、今この場にいる面々と共に奇襲を仕掛ける事が可能なのだ。


「あ、その…………そこまで謝らなくていいですよ。なぁゼオ…………お前さん!」


 それが最適解と考えた蒼野は、連絡を行いに動いた康太がそのような吉報を届けるのを信じ、今は彼らをこの場に留まらせ続けることこそ最重要と考え、脂汗を流しながらそのように発言。


「…………ダメだな」

「へぇあ!?」


 ただそのような方向に事態を傾けようとしている蒼野の耳に飛び込んで来たのは自分と同じ姿をした男の否定の言葉で、それを聞き蒼野の腹の奥からは奇妙な叫びが発せられ、ゼオスの隣に居た優もいきなり何を言い出すのかという様子で目を剥いでいた。


「ちょ、おまえ!?」


 これは目に見えた暴走だ。

 そう感じた蒼野がズカズカと草原を踏みながら前に出るのだがゼオスはそれを腕で制し、その様子を見て一瞬エヴァ・フォーネスが顔を歪めるものの、すぐに表情を消し大きなため息を吐く。


「謝っても許してもらえんか。ならばお前は何を望む?」


 データ通りであるとするならばこの中で最も気性が荒く手が出やすいのはエヴァ・フォーネスだ。

 無論これはメタルメテオという正体不明の相手の不確定な情報を除いた場合を仮定しての事ではあるのだが、苛立ちを孕んだ声色を発し、目に見えて分かりやすく顔色を変えた彼女を前に蒼野は肩を揺らした。


「…………俺の師匠を打ち負かした貴様の力に興味がある。ゆえにここで一手ご教授願いたい」

「「はぁ?」」


 そんな中でゼオスが淡々と要求した内容は蒼野や優だけでなくエヴァ・フォーネスでさえ想定していなかった内容で、戸惑いの感情が周囲に満ち溢れる。


「ふむ、つまり君が強くなるための修行に付き合え、と。

 いいだろう。それで許してもらえるなら受けてたとう」

「おい!」

「よろしいのですか?」


 するとエヴァ・フォーネスやメタルメテオが相談をするよりも早くシュバルツ・シャークスは返事を行い、それを耳にした二人が一歩遅れて声を挙げる。


「お前はまた勝手な事を言いだして!」

「いいじゃないか。禍根は残さず清算するに限る。お前からしてもグチグチと言われるよりスパッと解決した方がいいだろう」

「…………まあ否定はせんよ」

「なら良しだ。メタルメテオも文句はないな?」

「それで場が収まるのであれば」


 その後行われた人形のように美しい容姿をした少女の文句も彼は華麗に躱し、メタルメテオからも許可を取り、彼は一歩前に出て闘気を纏う。


『おいゼオス。お前いきなり何を!』

『そうよそうよ。即座に殺し合いにならなかったから良かったけど、独断専行が過ぎるんじゃない。特にいきなり斬りかかるのなんて結構リスキーな行動じゃない!』


 一方で蒼野と優も念話を用い彼らに内容を聞かれないようにしながらゼオスに対しそのような事を指摘。


『…………俺が奴に襲い掛かったのは、奴が俺に対し闘気を飛ばしたからだ』

『え、そうなの?』

『…………ああ』


 その言葉に反応したゼオスがそのような行動を起こした理由を説明し、二人は目を丸くする。


『…………それと原口善に伝えておけ』

『なにを?』


 しかし彼はそこで念話を止めず言葉を綴ると蒼野がその内容を尋ね、


『…………貴様の予想は当たっていたと』

『え?』

『…………今の一瞬、俺は奴の闘気を浴びた。そしてその瞬間、限界地点を迎えていないにも関わらず肉体の限界を塞ぐ『門』が複数開いた感覚に陥った』


 そこで無視できない事実を口にした。


「さて、じゃあやろうか少年。それとも親御さんの許可をもらってくるか?」

「…………いや必要ない」


 その事実を前にして蒼野が思わず口を開きかけるがそれを遮るように巨躯がさらに一歩前に進みそう告げ、二人が静止するよりも早くゼオスも彼と対峙。


 なんともおかしなことであると認識してはいるのだが、彼らは敵対する組織のナンバー2を相手にして修行を行う事になった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ゲームで言うところのイベント戦闘開始。VSシュバ公の摸擬戦です

なお今回の戦いで善さんの推測がある程度証明されたわけですが、鉄閃が扉一つ分しか開けなかったのに対しシュバ公が二つ開けたのは単純な実力差。

とはいえこれは鉄閃が弱いから、というわけではなくシュバ公が強すぎるため


ぶっちゃけエヴァが同じことをやろうとしてもたぶん無理


次回も日常回として続きますが、多少は読みごたえのある戦いになるのではと考えています


それではまた次回、ぜひご覧ください!





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