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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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時戻せし針の考察


「敵の規模にもよりますが今回の件、つまり以前ここに来た監査官をどうにかしたとして隠すのに最も適した場所は、一体どこだと思いますか?」 


 コップに注いだミネラルウオーターで薬を飲みこんだヒュンレイが、三人に尋ねる。


「ん~」


 彼がそう尋ねたのは、ホテルに辿り着き一人一部屋の部屋割りがされてから数分後、少年少女がヒュンレイの部屋に集まり今後の作戦会議を行い始めてすぐの事だ。

 蒼野はベットの端に座り、聖野はベットに完全に乗っかり奥の壁に腰かけ、優は部屋の主であるヒュンレイから椅子を譲ってもらい、クルクルとまわっていた。


「それはまあ……やっぱり人気のない場所じゃないですか?」


 ヒュンレイの投げかけた問いかけに対し三人は頭を捻り、三人を代表するように蒼野が答えるが、その答えをヒュンレイは否定する。


「いいえ違います。そのような場所は誰かが来ないか周囲を探る見張りが必要になります。その場合交代制ならば出入りの際、一人がずっと見ている場合ならばその人物の不在などが理由で、どうしても周りに違和感を抱かせてしまう」

「まあ最もですね。でも、じゃあどうするんですか? そんな事言ったら、どこに隠したとしても違和感が出るんじゃない?」

「必要な条件は、交代の必要がなく、なおかついつでも監視下に置ける場所。そこに行方不明になっている監査官達を封じ込めるんです」

「もしかして…………工場の中とかですか?」

「はい。聖野君正解です」


 穏やかな声ににこやか表情でそう伝えられ、聖野が両腕をあげガッツポーズを取る。

 が、それを聞いても優と蒼野はいまいち納得がいかない様子で、詳しく説明して欲しげにヒュンレイを見つめ口を開いた。


「なんで? 人が多すぎて死角なんてないんじゃない。それなら誰かの自宅に押し込めるなりしたほうがまだマシじゃない?」

「空間をいじれば何とでもなりますが、それでも調査員数名を誰にも見つからず殺し、移動させるということは難しいでしょう」

「むー」


 回転いすの前にあった化粧台に肘を置き、頬杖をついていた優が反論できずに唸り声を上げ、それに続いて納得できない蒼野が口を開いた。


「いやでもやっぱりおかしいです。隠す場所に工場が適しているって言うのはわかりますけど、人通りの多さは他とは桁が違う。さっき言ってたうっかり見つかる可能性は、工場の中の方がはるかに高いはずですよ」

「それは廊下に隠すなどした場合の話です。例えば限られた研究員しか入れない個室などに隠した場合、常に見張って置きながら違和感を抱かせない仕事を行う事が可能です」


 さも当然とばかりに語るヒュンレイだが、その答えを聞いた蒼野が居心地の悪そうな表情をした。


「…………その考えがあってるとすると、中が見えない部屋に所属してる人全員がグルってわけですよね」


 心底嫌だとでも言わんばかりの蒼野に対し、ヒュンレイは依然穏やかな表情を浮かべたまま頷く。


「そう睨んでいます。数名とはいえ本部の精鋭を退けてるわけですし、ある程度の人数は必要になるでしょう」


 その考察を聞き、生唾を呑みこみ緊張から心臓周辺を抑える蒼野。


「さて、あとはどのタイミングでB塔侵入するかですね」

「「え!?」」


 その後間を置かずヒュンレイが口にした内容を聞き、今度は蒼野だけでなく優や聖野も驚いた。


「潜り込むって言いきるってことは、ヒュンレイさんはさっき言った監視官たちの場所ももうわかっているんですか?」

「いいえ。ただ、その場所にいけば何かがあるという事だけは理解しています」

「どうしてですか?」

「簡単な話です。今回の敵が、少なくとも望んで相手を殺しているわけではないからです」

「?」


その言葉に三人は疑問を抱く。


「二度来た監査官を行方不明にしておいてですか? てかやっぱり、殺していると仮定するんですね」

「まあそこはそうですね。申し訳ないですが、間違いなく死んでいるでしょう」


 数回にわたり説明された最悪の想定を聞き、苦い表情をする蒼野。がその点についてはそれ以上ヒュンレイは追及せず、B塔に向かう理由を淡々と説明する。


「聖野君が行った事を逆に言うとですね、正体不明の敵は監査官しか襲っていないんですよ」

「……確かに言われてみれば」

「まあ監査官に強い恨みを抱いている相手なら別ですが、そのような方は少ないでしょう。とすれば、監査官が何かを『見てしまった』から襲われたんですよ」

「それは分かりましたけど、B塔を本命にした理由は?」

「S工場の中はかなりしっかりと見れましたからね。特に現場周辺の埃のつもり具合は厳重に確認して、奇妙なところはありませんでした。だから、あるとするならばB塔であると思うんです」


 ヒュンレイの考察に頷く聖野。


「うーん。色々あって頭の中で整理しきれないわね。まとめると、

 監査官が襲われたのは、見てはいけないものを見てしまったから。

 大勢で監視してても違和感がないから工場や塔が怪しい。

 ヒュンレイさんが前もって調べた結果、S工場はそこまで怪しいところはなし。だからB塔に行くと」

「まあB塔に行く理由は蒼野君の能力の関係もありますけどね。流石にS工場は一週間以上前でしょう。どうですか聖野君」

「そうですね。てかさっきから言ってるその期間はなんですか?」

「失礼。その点についても話しておかなければなりませんね。実は蒼野君は」


 優が話をまとめ、ヒュンレイが聖野に蒼野の能力について事細かに説明を始める中、


「すごいなぁ」


それを見た蒼野の口から、ふとそんな言葉が漏れ出た。


「いきなりどうしたんだよお前は」


 突然の蒼野の呟きを以外に思った聖野が振り向き、不思議そうな様子で蒼野を見ると、蒼野はどこか遠慮した様子で、口を開き始めた。


「あ、いや、なんか別世界の住人に見えちまって」


 蒼野は生まれてきてから十余年、色々な人に出会ってきた。

 外から来た人々と敵対することもあれば、町の修復に勤めている内に仲がよくなった人々もいた。

 そうしているうちに、人それぞれの個性や強さ、他にも色々な事が見えるようになってきたが、目の前にいる三人はこれまであった誰よりも群を抜いてすごい。

 個性や強さだけでは説明のつかない何かを秘めているように思えた。


「ついて来たはいいけど、なんか圧倒されててな。ちょっと腰が抜けるような気持ちだ」


 それを見て思わずそ本音をそのまま口にした蒼野は、自然と自虐的な笑みを浮かべた。


「え、なにお前サボるつもり」

「いやそうじゃなくて……」

「一人だけラクするつもりかコノヤロー!」


 ふがいない様子で頭を掻く蒼野だが、ジト目、指差しときて最後に声をあげる聖野の姿を見て半ば反射的に目を丸くする。


「蒼野君はなぜか悲観しているようですが役に立たないなんてことはありません。今回の作戦、君の能力は大いに役に立つのですから。気合いを入れてもらわなければ困ります」


 むしろ結構大変ですよ、そんな風にヒュンレイから言われると、一瞬で心が軽くなり、何を悩んでいたのだと数秒前の自分を笑い飛ばす。


「さてそんな蒼野君に一つ頼みがあるのですが」

「はい?」

「これを」


するとそんな様子の蒼野に対しヒュンレイがポケットから小さな機械を取りだし投げつける。


「これは?」


 手渡された小さな箱のようなものを不思議そうに見つめ、わけもわからず様々な角度から眺めたり近づけて見てみると、中から僅かな音が聞こえてくる。


「デジタルカメラです。ちょっとした実験を行いたいのですが、一度数秒分の録画を行ってくださいませんか?」

「あ。はい……………これくらいでいいですか?」

「結構ですよ。では拝見します」


 そう言って蒼野の手からカメラを取り上げ中を覗き頷くヒュンレイ。

 それからもう一度カメラを蒼野の手に戻すのだが、事の次第を理解できず蒼野は頭に疑問符を浮かべた。


「では蒼野君、このデジタルカメラに君の能力を使って一分ほど戻してください。その後、また私に私にください」

「わ、わかりました」


 再び渡されたデジタルカメラの時間を戻しヒュンレイに手渡すと、彼は先程以上に満足した様子で頷いた。


「ありがとうございます。いい結果です」

「それはいいんですけど、今のはどういう実験ですか?」

「それは作戦が完全にできた時に話しましょう。あとは何時ごろに侵入するかですけど」

「そこらへんは他の人が寝静まった頃でいいんじゃないですか?」

「そうですね。最低でも警備の方々の相手はしなければなりませんが、できるだけ戦いは避けたいですね。おおよその時間ですが、深夜二時頃にしましょう。今のところは、これで終わりです」


 ヒュンレイの提案に、誰一人として口を挟む者はいない。

 そうしてヒュンレイがそう言いきると、聖野は伸びを行い、優は座っていた回転いすから立ち上がり、蒼野は疲労からか欠伸をした。


「んじゃ話は終わりっすかね。どうします。夕食をどこかで食って、時間でも潰しますか?」

「そうですねぇ。あ。その前に聖野君にはもう少し詳しく蒼野君の能力について説明しますよ。この能力。少々クセが強くって」

「?」


 残る課題を終え、各々が好きに動き回れる自由時間に移行しようとしたところで、


「どうしましたか蒼野君?」

「少し離れた所で誰かが戦っています」


 蒼野の耳にうっすらとだが音が聞こえ、座っていたヒュンレイのベットから立ち上がり、窓から外を覗きこむ。


 そこには知った顔の女性が存在し、これまで見せたことのないような表情を浮かべていた。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。

皆さまお待たせしました。緩い空気が終わりを告げ、ここから事態がどんどん進んでいきます。

今回はその入口。

作戦の肝となる蒼野の能力についてです。

ヒュンレイのこの確認が何を意味するかは、また数話後に


では、明日もまたよろしくお願いします!

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