みんなで工場見学をしよう! 二頁目
「さて、着いたな」
午前十時四十五分。彼らは目的地である第八工場に到着。
バスに乗っていた面々は『お客様駐車』と書かれた立て看板を横目で見ながら横断歩道を渡り、入場門を超え中に入った。
「すごいな。どういう能力を使ってるんだこれ?」
「いや、これは能力によって形成された景色じゃないらしい。話によると、外の景色をモニターで映してるらしいぞ」
入場三十秒後、まず第一に蒼野が感嘆の息を漏らしたのは、工場を覆っているドームの中から見る事ができる景色だ。
蒼野や聖野が中に入ってすぐ目にしたのは、鉛色の壁に包まれた閉塞的な空ではなく、入る前と地続きな外と変わらぬ景色。
それが気になって蒼野が渡されたパンフレットを見たところ、聖野の言う通りそこには外の景色を直接モニターで映しだしているという事が書いてあった。
加えて雨や雪の類は中に入ってこず、最適な温度に調節する機能もあるという事で、『外よりもずっと過ごしやすい!』と赤の大文字で書かれていた。
「ではみなさん! これから午後三時まで自由時間です! 思う存分! 遊んじゃってください!」
全員が中に入り、黄色いスーツに身を包んだバスガイドの女性がそう宣言する。
するとその場に集まった人々が別々の場所へと散っていき、その場には蒼野達を含め極少数しか残されない状況へと変化。
「さて、まずはどうするべきでしょうか」
「目的地のうちどちらかを回るか、食事でしょうか?」
周囲の目がない事を理解した彼らは、然程声を潜めることもなく堂々とこれからの作戦会議を始めた。
「あ。それなら俺、ここの名物が食べたいです。確かここからまっすぐ言った先に観光客も入れる社員食堂があって、名物のスタミナメニューとかがあるらしいですよ」
「おやぁ~『ウォーグレン』の方々は仕事にとりかからなくていいんですかな~」
が、その時突如名指しで呼ばれたことに驚き、最初にヒュンレイが、続いて優と康太が、武器こそ持ちださぬものの明確な敵を発し声のした方角を見た。
そこにいたのは先程までバスガイドを務めていた二十代前半の女性で、蒼野達を見て、毒気のない満面の笑顔で彼らに接していた。
「君は?」
その様子を目にしたヒュンレイが不審に思い顔から表情を消しながら彼女に話しかけ、その様子を目にした聖野が彼らの間に割って入った。
「す、ストップストーップ! みなさん落ち着いてください! この人はたぶん」
「そ、一応同じ依頼を受けるわけだから、ご挨拶にとね。ギルド『アトラー』のリリです。よろしく」
活発な声でそう告げ、腕を差し出す姿を見て蒼野が言葉を失い、優も動揺から一瞬動きが止まってしまった。
「ああ、そうでしたか。こちらこそよろしく」
とはいえ全員が全員固まったまま動かなくなってしまったというわけではない。
三人の中でもヒュンレイだけは然程驚くことなく対応し、差し出された手を握り返す。
「優です。よろしくお願いします」
「蒼野です。よろしくお願いします」
それを目にした蒼野と優も、目の前の人物に危害を与える空気が一切ない事を見破り握手に応じる。
「いきなりですいません。ただアタシ、ヒュンレイさんや善さんのファンで、正直バスで見た時からバスから出たらすぐにご挨拶に行きたいなと思っていたところでして」
すると彼女は二人の握手に気軽に応じ、その後照れ笑いを浮かべながらヒュンレイと向き合い話を始めた。
「おや、それはうれしいですね。ところで、基本的に交流はなしと聖野くんから聞いていたのですが、なぜ私たちに声掛けを?」
リリの発言に然程驚いた様子もなく、ヒュンレイが事前に聞いていた計画とは違う展開になった事について尋ねる。
すると彼女は周囲には自分達以外に人がいない事をしっかり確認し、それからヒュンレイだけでなく蒼野や優を一瞥。今の状況ならば話をしても問題ないと判断した。
「はい。実はうちのボスのクロバさんが気を利かせてくれまして」
「というと?」
「ええ。工場見学という名目で侵入する今回の作戦。ヒュンレイさんも含め恐らくみなさんの顔は割れていません。けど、やっぱり一泊二日のうちに事件現場両方に乗り込むと、どうしてもマークされて動きにくくなるんじゃないかって」
「ああなるほど。それでリリさんがバスガイドとして来てくれたんですね」
「そう言う事! 優ちゃんは呑みこみが早い!」
手を叩き納得したという表情を見せる優を指差し、声高にそう叫ぶ。
優はと言えばちゃん付けで呼ばれることが滅多にないためこそばそうな表情をしながら俯き、ごにょごにょと恥ずかしそうな様子で何かを言っていた。
「あなた達だけで散策した場合不審でも、わたしが一緒についていけばある程度は怪しさも緩和される。傍目から見たら、バスガイドの女性が少人数のお客さんを連れて案内しているだけですからね。なんでしたら、一緒に行きたいって人たちを募ってもいいかもしれません」
「なるほど」
「それはそうね」
一般市民として乗り込むため、アトラーの面々と比べれば然程警戒されず調査を行えるであろうと考えていた一行だったが、それでも厳しい視線で見られれた場合、厄介事になる可能性は大いにあった。、
それが解決できるのならば、メリットは大きいと蒼野や優は認識。
ヒュンレイの答えを聞くまでもなく、彼女の提案に同意した。
「じゃあ出発しましょう。まずは、近くにあるS工場です。不審な点はないか、よく見ててください」
そう告げて前を歩くリリという女性の後に続く一行。
「アヤシイ気配……ミツケタ」
しかしこの時彼らは想像もしていなかった。
自分たちの姿が思いもよらぬ形で見られているなど…………想像もしていなかったのだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
今回は短くて申し訳ありません。
うまい切り目がここしか見つからなかったものでして。
とはいえこれで目的地に到着。
そして同盟相手である『アトラー』の女性リリの登場です。
今回はこれらのメンバーで何やかんや騒ぎながら、進めていければと思います。
それと、少し早いのですが、これから来る結構きつい展開に関して警報を出しておきます。
毎度の事ながら、ブックマークや評価ももしよろしければよろしくお願いします。
それと、数日前にあげた短編『異世界居酒屋『細彩亭』と夏の幻想』もよろしくお願いします!
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ではまた明日お会いしましょう!




