三狂 革命王 ミレニアム 一頁目
『何故だシロバ』
『ん?』
『このような展開にするならば何故わざわざオレと戦った。時間に体力。それに貴重な道具の無駄ではないか』
嵐が吹き荒れ、局地的に地震が起きたかのような姿をした部屋の奥で、大の字で倒れたまま動かないクロバが横で腰かけるシロバに尋ね、それを聞いた青年が顔をしかめた。
『ふざけたことを抜かす奴だ。自分が僕の言葉を真に受けるような素直な性格か考えてみろ。
どうせ御託は動けなくなった後にじっくり聞いてやる、とかぬかして、僕に襲い掛かってくるに決まってる。心当たりなら十分にあるだろ?』
『…………むぅ』
矢継ぎ早にまくしたてるシロバにクロバは何も言い返せない。
確かにシロバがどのようなことを宣ったとしても、自分はまず身動きを取らせないようにすることを選んだであろうという自覚はあり、とすればシロバの選択にはこれ以上意を唱える事はできなかった。
『ま、これからの僕の動きは伝えた通りだ。あ、一応言っておくがイグドラシルや他の奴らに伝えようなんて思うんじゃないぞ。攻めてくるのはかつてない程の数の大軍勢だ。その中には面倒な奴らも複数含まれてるんだ。対処する数を減らした場合、最悪こっちの勝敗を待つまでもなくあっちが敗北を喫するぞ』
自身の動きを見透かされたかのような発言に対し男は再度唸り、少ししたところで諦めたのか息を吐く。
『…………承知した。だがそこまでわかっているのならばせめて南本部からの奇襲程度は止めて欲しかったな。その部分はかなり厄介だ』
そして彼はピクリとも動かぬ体に内心で文句を言いながらも苦言を呈するが、それに対しシロバは失笑で返した。
『おいおい、そこはむしろ僕を褒めて欲しいところだぜ。選ばれた面々は個人の実力や連携、思想やらなんやらにおいてクセがある人物ばかりだ。
そんな奴らをひとまとめにして、ソードマンと誰かが戦うような爆心地の側に置いておくんだ。こいつらは自然とくたばる。
ソードマンが乗り込む事に目を瞑りさえするのなら、普通に攻められる場合と比べても被害は最小に抑えられるはず。つまりあの人の命を人質に取られた上で行える、最大にして最良の抵抗だ』
暗にできるだけ傷は小さなものにするよう努力したと伝え、クロバもそれ以上は文句を挟まない。
『…………いいだろう。貴様の策に乗ってやる』
その後暫く考えた末にこれ以上今語るべきことはない事を確認し、クロバがシロバの案に賛同。
こうして、犬猿の仲である二つの家系の当主は手を組むことを決意した。
――――それから数時間後――――
「ロイヤルキャノン!」
「少し見ぬ間に中々いいものを手に入れたなシロ公!」
黄金の王を前にして、集いし戦士がその全力を発揮する。
中でも一際強く存在感を主張していたのがシロバと、彼が放つ様々な風の攻撃だ。
クロバが最新の薬を投与することにより闇属性の属性混濁を発現。鎖を接触した敵に巻きつける黒い霧を会得したのと同様に、シロバもまた新たな力を発現した。
「僕の事を!」
シロバが得たその力は単純明快、しかしそれゆえに絶対的な力を誇る。光属性の速さの付与だ。
これによりシロバの攻撃は薬が効果を発揮しているうちは全て光の速さで敵に迫るようになり、元々の風属性の切れ味や不透明な姿という厄介な点に合わさり、凄まじい速度と威力を備える攻撃へと変化した。
「知ったような口ぶりで話すな! その名でこの僕を! お前なんぞが呼ぶんじゃない!」
美しさを第一とする彼らしくもない咆哮と共に、クロバの体さえ斬り裂いた鋭さと速度を兼ね合わせた風の斬撃がミレニアムの体に刻まれ、重戦車を思わせる足取りが止まり僅かに後退する。
が、それだけだ。
黄金の王の王は未だ沈黙することはなく、前へと進んでいく。
「どうした? その程度では、我を崩せんぞ?」
「そんな事は分かりきっている事だ。お前を仕留めるのは、お前と同じ脳筋の役目だ」
「覇鋼・裂弾!」
常日頃と変わらぬ豪快かつ圧迫感のある進軍を見せるミレニアム。
そんな彼に迎撃の姿勢を取らせるのは、シロバとは違う方向で構えていたクロバ・H・ガンクで、打ち出される鉄球は彼の体を破壊することこそなかったものの、黄金の王の足を完全に止めるという成果を出した。
「むっ!」
「よおし、そのまま絶え間なく攻撃を叩きつけろよ脳筋! あの全身金ぴか野郎に致命傷を与える可能性が一番高いのはお前なんだからな。てかやれ! でないと君をここに連れてきた意味がないんだからな!」
「騒がしい奴だ。少しは静かにできないのか?」
「なんだとコノヤロウ!」
黒海研究所の屋上展望台を舞台として彼らは動き回る。
クロバが鉄球を撃ちだせばミレニアムがそれを弾くか避けようと体を動かし、それを阻止するためにシロバが風を割り込ませる。
それらに加えて優を除いた四人の少年がミレニアムの動きを阻害するように攻撃を当てていき、戦場を自分たちに有利な状況に持っていくための場づくりを行っていた。
「シロバさん! ブドーさんの回復にもう少し時間が掛かりそう!」
「なあに気にするな! なんなら、ブドーが復活するまでの間にこいつをぶちのめすさ!」
残る優が回復に時間をかけている姿を目にしながら、シロバが声をあげた。
戦いの場は、シロバの新たな力と康太達四人の邪魔が合わさり、拮抗状態を保っていた。
中でもシロバが手渡した装備の中でも最大の威力を誇る狙撃銃を手にした康太が、彗星が如き勢いの地属性の塊を撃ちだし、足止めにおいて大きな効果を発揮していた。
「HA!」
「あ、あぶねぇ! 死ぬかと思った!」
「俺の時間回帰はミレニアムに封じられてるんだ。是が非でも攻撃に当たるなよ! 一発で瀕死の重傷だぞ!」
「こっわいなそれ!」
そう声をあげながらも積は普段は手にしていない派手派手しいピンク色の球体を投げつけ、ミレニアムに着弾。
その体を大量の粘着液が包みこみ、康太と同様かそれ以上の成果を上げていた。
「小賢しい真似を!」
「するなとでもいうのかい。だが相手は世界最強の防御力を持っていると言っても過言ではないお前だ。この程度、策のうちにすら入らないだろ!」
「世界最強の犯罪者が俺の攻撃を嫌がるとかやばいな、クセになりそうだ!」
「効果的な物は好きなだけ使え! こいつを撃破できるのなら、いくらでもおつりが返ってくる!」
シロバがそう声をあげると、喜びながら積が持っていた武器を使う。
蒼野にゼオス、それに優の三人は使い慣れた武器が最も良いと断ったが、康太と積の二人はシロバがこの時のために用意しておいた無数の武器を駆使することを選んだ。
それらの種類は多種多様だ。
単純な破壊力に振りきった性能を持つ康太が使用している銃や、積が使用しているトリッキーな粘着弾。
「HAAAA!」
「さっきから何で俺にばかり向かってくるんだよミレニアムは。てか何だ!? 今日はやけに化け物に狙われる日だな。泣くぞ!!」
「厄介な奴だと思われてるんだろ! それはそれで光栄に思えばいいじゃねぇか!」
「な、納得がいかねぇ…………」
「とりあえず逃げ回れ! お前に的が向くだけでもめちゃくちゃ楽になるんだよ!」
そのほかにもミレニアムの攻撃を防ぐ事ができる、ゴムのような伸び縮みを行う奇妙な壁や、標的に向けるだけで音よりも早く伸びるいわゆる如意棒などが入っていた。
「そういうことだ! 我に仕留められる栄誉を受けよ原口積」
「嫌だよ! 報酬が死の栄誉なんて、死んでもお断りだ!」
積がどれだけ逃げようと一瞬で距離を詰めるミレニアムが、再び大きく振りかぶる。
「させん!」
その状況で両者の間に割り込んだのは、先程まで瀕死の状態で身動きが動けなくなっていた熱血漢。
自身が吐血した血で変色した道着を着こむブドーである。
「ほう! 回復術を掛けられたとはいえもう動けるようになったのか! 倒れたまま動かぬアイビス・フォーカスから、不死鳥の座でも貰うかブドーよ!」
その姿を視界に収めたミレニアムが嬉々とした声をあげ、振り下ろされた拳を掴むと肩に背負い、後方へと投げ飛ばした。
「よし! これで全員揃った!」
クロバが、ブドーが、蒼野、康太、ゼオス、優、積、そしてシロバが五体満足の状態で屋上に立ちミレニアムを囲う。
「行くぞ! あのクソムカつく金ぴかを破壊する!」
シロバが腕を振り上げ言いきると、それに応えるかのように全員が覚悟を決める。
ある者は雄叫びをあげ、ある者は前に出た。
ある者は武器を構え僅かな隙も逃さぬと目を光らせ、ある者はそれらの者全てを視界に収め戦場全体を俯瞰した。
まさに全力。彼ら全員が持てる力全てを使い立ち向かう。
「来るがいい。戦人達よ。貴様らの全力を我は歓迎しよう。そしてそれら全てを、正面から叩きつぶしてやろう!」
そして彼らは知ることになる。
世界最強の犯罪者、その地力を。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
というわけでついに始まりました最終決戦!
そのはじめを飾るタイトルはこれまでも幾度かあったこの形。
蒼野が、康太が、ゼオスが、シロバやクロバが、果たしてどうやってこの強敵と戦っていくのか
最後までぜひご覧ください!
あと、昨日は二話投稿できましたが、今日はどうなるかわかりません
クライマックスは一気に進めたいので、行けるなら十一時前には投稿したいと考えています
それではまた次回、ぜひご覧ください




