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AGGRESSION WAR 千秋楽


 ウルフェンが消え周囲に充満していた殺意が消える。

 同様に彼らの周辺を覆っていた極寒の冷気も消え失せ、夏の熱気に支配された空気が戻ってくる。


「お、終わった~!」


 これまでで間違いなく最強の敵との戦いが終わった。

 その事を四人は悟りまだ冷たさの残る息を吐き、全員の一致している感想を優が口にした。


「さて、ゼオス」

「…………」

「そろそろ話して貰うぞ。お前が…………」

「お、お前なんてことしてくれたんだよぉぉぉぉ!」

「いってぇぇぇぇぇぇ!?」


 そうして一息ついてすぐ、真剣な表情で失われた下半身を再生させたゼオスを眺める康太。

 そのまま口を開く彼はしかし、それを言いきるよりも早く積が背後から彼を殴った。


「この野郎! いきなり何しやがる!」

「そりゃこっちの台詞だ! 何で最後の最後に名乗るんだよお前は! あれのせいで有象無象の下等種族だった俺たちが、名指しで覚えられちまったじゃねぇか!」


 声を荒げ呪詛を吐きだすような勢いで叫ぶ積。

 それを前にして康太は自分が何をしでかしたかを理解すると一瞬だけ目を見開き口を閉じ、


「その件はその……なんだ。うん…………そうだな。勢いに任せて言っちまった。正直すまんかった」

「謝って済む話かバカヤロウ! あれだからな! これから獣人に襲われるたびにお前を呪うからな! 俺が殺されてみろ! その時は毎晩化けて出てやるぅぅぅぅ!」

「いや本当に悪かったって。てか泣くな。涎を垂らすな。単純に汚ぇ!」

「誰のせいだと思ってやがるチクショー!」

「そんな事よりもだ!」


 延々と絡んでくる積を引き剥がし、再び康太がゼオスを見つめ、それでもなお抵抗の意志を示す積の頭を地面に沈め足で動きを封じ、彼は今度こそ口にしなければならない内容を告げた。

 

「そろそろ教えてもらうぞゼオス。オレ達を助けていた協力者の正体を」

「きょ、協力者?」


 地面に押し付けられた積が何とか足を振り払い、立ち上がると視線を康太に向ける。

 すると彼は一度だけはっきりと頷き、続く言葉を喋りだす。


「そうだ。考えても見ろ。最初に作戦を説明した時点でおかしいじゃねぇか。大して中の事情も知らねぇのに生ごみを使った作戦を考えだしたり、五階に隠れるのに適した植物園があるなんて、何でこいつが知ってるんだよ」

「あ」

「それに加えて途中の展開もだ。鼻を潰したウルフェンさんが、何で一直線に俺達の元に向かってこれたんだよ。極めつけはオレ達の体の欠損部分を瞬時に回復させたあのカプセルだ。あんなもん、ゼオスが所持してるわけがねぇ。どう考えて最高級品だぞ?」


 肉体の損傷を瞬時に修復させるそのカプセルは、作戦を実行するにあたりゼオスが彼らに一粒ずつ渡したものだ。

 その効果については半信半疑であった康太や優だが、実際に使いその効果を認識すれば、それが自分達では手が出せない類の値段がするものであるのはすぐにわかった。


「ついでに言うとウルフェンさんの五感を狂わせた最後の道具もね。あんなもの、ウルフェンさんが攻めてくるってわかってなきゃ用意できないものよ」

「そ、そういえばそうだな。生き残るのに必死でそこまで頭がまわらなかったぜ」


 康太に加えて優の指摘を受け、積もこの戦いの中に隠れた違和感に視点が向く。


「…………」


 それを前にしてもゼオスは口を開かない。腕を組みながら遠くを見つめ、抱えた秘密を口に出すべきかどうか、内心で迷いながら無表情を貫き、


「ああ。ここまで来たら秘密にする必要はないよゼオス君。隠して欲しかったのはウルフェン殿に悟られないためだったんだ。本人がいなくなってまで隠す必要はない」


 そんな状態が続いた四人の元へ、一人の男が現れる。


「え! あ、あんたは!」

「そうか。いやまあ妥当っちゃ打倒だな」


 それは屋上へと続く最上階で待っているはずの、ミレニアムを除いた最後の障害。

 南本部超シロバ・F・ファイザバード、彼が子供達の前に姿を現した。




「みんなお疲れ。いやまさか、いくら手を抜かれてるからって誰一人欠けることなくウルフェン殿を退場させるとは。善は本当に良い部下を持った」


 未だ凍っているコンクリートの地面に革靴の足音を鳴らせながら現れた青年に四人の視線が注がれる。

 積は戸惑いを、優とゼオスはさして驚いた様子のない視線を向ける中、康太だけは敵意の籠った視線を彼に向けていた。


「それで? オレ達に手を貸してくれた理由は教えてくれるんッスよね? でなけりゃオレはアンタを味方と思えないんですけどね?」

「おいおい。残り体力も少ないだろうに僕に敵意を向けるか。ここで連戦しても、勝ち目はないだろうに」

「やる必要があるからやる。それだけッスよ。あんたが敵なら、勝ち目云々で考えて、どうにかなる状況でもあるまい」


 その視線受けたシロバが可笑しそうに笑うが、康太の返事を聞き、顔をしかめ、嫌なものを見るような視線で凝視。


「君はクロバみたいな考え方をするね。嫌な奴だ。ま、そこまで疑い深い奴のほうがかえって安心できるといえばできるんだけどね…………君たちに手を貸した理由だったね。簡単さ、僕の目的のためにはウルフェン殿が邪魔で、あまり自分の力は使わず退けたかった。だから君たちを利用したんだ」

「シロバさんの……目的?」


 迷うことなく言いきるシロバ。

 それに対し全てを理解しきれない積は言葉を反芻し、康太も懐疑的な目を彼に注ぐ。


「…………俺も気になっていた事が一つある。何故俺にしか協力者である事を明かさなかった? 全員に伝えていた方が、今のような状況に陥らず楽だったろうに」

「君と優君だけならそれでよかったんだけどね。事前に調べてたプロフィールを見た感じだと、康太君は馬鹿正直……失礼まっすぐな性格でどこかで口をこぼしそうで、積君は極限まで追い詰めたら僕に頼りそうでね。だから君だけに伝えた。あ、残る二択で君を選んだのは能力の利便性だね」

「ひ、否定しきれない!」

「馬鹿正直……てか無駄に嫌味を言うッスね! ゼオスが一番都合がよかったで丸く収まるじゃねぇか!」


 積の言葉に素直な意見を返す積に、苛立ちを隠しきれない声で反論する康太。


「ジョークだよジョーク! 大分肩ひじ張ってるようだったからね。ここいらで気分転換でもしてもらおうと思ったのさ!」


 するとシロバは笑いながらそう口にして、その様子を見て康太やゼオスは、彼が本心を掴ませずそこら中を飛びまわる、風のような人物であると認識した。


「さて、でも時間がないから本題に移ろう。僕の目的? そんなの単純だ。

 ミレニアムの討伐。そして僕の大切な人を取り返す事だ」


 だがその印象が変わらなかったのはそこまでだ。

 本題に入った彼は気の抜けた笑みをかき消し、真剣な表情で、伝えるべき内容を彼らに話す。


「大切な……人?」

「そうだ。そのために僕はここに来た。だから南本部本部長としてギルド『ウォーグレン』に所属する君たちに依頼したい。頼む、どうか僕と共にミレニアムを倒して欲しい」





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司でございます。


ウルフェンとの戦いが終わり、この物語をおしまいへと導く最後のピースが登場。

そして! 舞台はこの革命戦争における最後の戦いへ移ります。


次回の話は2章全体で引っ張って来たミレニアムの真実!

それを一気に詰めていきます!


さらにそのお話は今夜中に投稿できればとも考えています!


という事でまた明日、ではなくまた次回、ぜひお会いしましょう!

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