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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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聖野登場 一頁目


 アビスちゃんが来て、決して戦ってはならないと日々シスターから口酸っぱく言われていた『黒い海』との遭遇から一週間が経った。

 あれからアビスちゃんが美しい笑顔を見せ、ゴロレムさんが心底嬉しそうにお辞儀をして帰った後、俺はもう一度気絶した。

 とはいえ、思い返せばそうなるのも当然と言えば当然であった。

 賢教最強の一角と出会い、『世界三大災厄』の一角と遭遇し生き延びた。

 普段の俺ならたぶん五回気絶していた事を考えれば、むしろよく粘った方だと自分で自分に関心する。


 もっともそれを言ったところで康太に叩かれたが。


 そんな大変な事があった俺達だが、次の日にはさして疲労を残すことなく仕事に向かい、それまでと然程変わらぬ依頼を受けては、たまに善さんやヒュンレイさんの力を借りながら解決していった。

 で、問題はここから何だが、そうして毎日を過ごすうちに一つの疑問が湧いた。


 それはこのギルド『ウォーグレン』の金銭事情についてだ。

 少数精鋭かつ依頼の達成率が異様に高いのはここ一ヶ月近く仕事をしていて理解できた。

 人数が少ない分かかる人件費が少ないのは良く分かるのだが、それにしてもこのキャラバンの発展具合はかなりの物だ。

 つい先日初任給を貰ったのだが、その金額も入ってすぐの数日分にしてはやはり多いように感じた。


『そりゃ、金払いのいい客がいるんだろ』

「金払いのいい客?」

『その善さんっていう人はそこまで裕福そうな出で立ちじゃないんだろ。ならまあ、それが一番ありえる可能性だろ』

「……何とも言えないな。あの格好は威嚇の意味も込めてるって言ってたし」


 加えて、アビスちゃんとゴロレムさんが帰ってから今日までの一週間で、俺達の身の周りに大きな変化が起きた。

 俺と康太が、人生初の携帯電話を手に入れたのだ。

 これについてはギルドに入った当初から絶対に手に入れたいと思っていたのだが、アビスちゃんの電話番号を手に入れた日に康太が善さんに交渉し、善さん自体もこれからの仕事では必須のアイテムという事で俺たち二人分の携帯電話を買ってくれた。


 驚くことに仕事用に加えて個人用と、二人合わせて四台もの携帯をだ。

 正直なところ自費で個人用の携帯は買うつもりだったのでその旨を善さんに伝えたのだが、善さんは入社祝いの類を渡していなかったから、その分で買ってやるという事で、さして気にしていない様子で俺達に渡してくれた。


 それがあまりにも予想外だったから、俺はこんな感想を抱くに至った、というわけだ。


『まああれだ。商売で金を稼ぐっっていうのはなんだかんだいいながらどれだけでかいパイプを持ってるか、それを維持できるか、ってことが重要だからよ。でかいお得意先を持ってると思うぜ。聞いて見たらいいじゃねぇか』


 なぜそれをしない、とでも声色で聞いてくるゲイルだが、俺がそれをしないのにももちろん理由がある。

 何故かは知らないが善さんは自身の過去を語りたがらないのだ。

 自分の経歴はもちろんの事、過去に繋がる情報は一切喋りたがらない。

 これについてはかなり徹底しており、優やヒュンレイさんに聞いても、本人が語りたくなるまで聞かないでほしいと言われてしまった。


「まあ、そうだよな。悪いなゲイル。こんなことで電話して」

『いいさ。気になるんだったら、こっちから依頼を出すこともあるだろうし、その時に安い値段で受けてくれたらいい』

「商売人め。まあ、その時が来たら俺も一緒に善さんに頼んでやるよ。じゃあな」

「そりゃ助かる。じゃあな」


 電話を切り、自室のベットに仰向けで飛べこみ大きく息を吐く。

 ちなみに電話の連絡先についてだが、善さんやヒュンレイさん、優に康太とギルドの同僚の連絡先を登録。その後アビスちゃんの連絡先を登録した。

 もちろん、康太の場合真っ先にアビスちゃんの連絡先を入れていたが。

 その後俺達は転送装置を使って一度ジコンに戻りシスターの連絡先を聞いて、手紙のやり取りをしていたゲイルとも連絡先の交換を行い、以後はそっちで話している。


 こんな感じでこのギルドに入って一ヶ月近く経ったが、俺達の生活水準は順調に上がっていったというわけだ。


「気になる…………やっぱり気になるな」


 だからといってそれが胸の引っかかりを解消するわけではなく、俺は解けない謎を前に悶々とした気持ちを抱えながら息を吐くことしかなかった。


 疑問の答えが、すぐにわかるとも知らずにだ。




「今月の売り上げはどうだヒュンレイ」

「順調ですよ。これに聖野君から来る依頼が加われば、目標額は超えるでしょう」

「聖野?」


 二人の話を蒼野が聞いたのは、本当に偶然の事であった。

 その日の依頼を終えた蒼野が報告書を作成し部屋に戻った際、善とヒュンレイが売り上げの事に関して話をしており、それを聞いた蒼野が不思議そうに尋ねた。


「ええ。このギルド開店当初からのお得意さまで、神教がらみの色々な依頼を私たちに提供してくださっているんですよ。その彼が明日くる事になってるんですよ」

「お得意様……」


 ヒュンレイの話を聞いた蒼野が首を捻る。

 その聖野という人物がゲイルと話していた金払いの良い客なのではないかと考えたからだ。


「そういえばあいつの事をお前らに紹介しなけりゃと思ってたんだよな。明日の受付当番は誰だ。聖野に会いたいっていう奴がいたら、電話でいいから教えてくれ」

「はい。あ、この事については康太と優にも伝えておきます」

「そうだな。優はともかく康太の奴は初めて会うからな。そういう奴が来るって、前もって教えておいてやってくれ」


 そのような考察をしている事で蒼野の返事は意識の籠っていない気の抜けたものになり、一呼吸間を置いて、自身がやっておいた方がいいことに意識を向けて部屋を出た。


 それから一夜が過ぎ朝が来た。

 蒼野はここ一ヶ月で既に見慣れた天井を見ながらベットから起きあがり、簡単な支度をして剣をもって部屋を出た。

 その後訓練室に入り黒い海から人を助けられなかった無念を二度としないために、以前と比べ遥かに苛酷になった日課の朝練をして朝食を取るという日頃のルーチンを取ると、受付台に立ち肩を揺らした。


「楽しそうだなおい」


 肩を揺らすことが楽しみの表れだと知っている康太が、隣に立つ蒼野に話しかけ、その返事に快活な声が返ってくる。


「そりゃもう。資金面に関してはそう関係ない人物だとは思うけど、善さんの過去の知り合いっていう話だからな。どんな人かは気になるだろ」

「まぁ気持ちはわからんでもないがな」


 そしてその思いは康太もまた同じであった。

 ヒュンレイも善も彼らに自分のこれまでの経歴の類というものは決して語りたがらない。

 その謎の一端または全てを知れると考え、蒼野と違って休日の康太も、今日ばかりは外に出る事なく、ギルド内で待機していた。


「蒼野、今日の予定は?」

「一日受付」


 ギルド『ウォーグレン』の仕事の受け方は基本的に予約制だ。

 電話か実際に受付まで来て依頼を行い、相手の要望や適したメンバーは誰かを決めた上で、仕事に当たるようにしている。

 電話受付の予約席と店頭での予約席は別に設け、店頭重視の体制をとっており、この店頭の担当を昔は善、ヒュンレイ、優のローテーション。今は蒼野、康太、優の三人でローテーションを組んで行っている。

 また仕事の休みに関しては一斉休日の日と、個々人が思い通りに休める日の二種類があり、祝日の類はないが、その代わり蒼野達十代の三人は週三日の休みが確定。善やヒュンレイも確実に二日は休むようになっている。


「まいどありがとうございます。ギルド『ウォーグレン』です」

「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」


 この日は善の関係者らしき聖野という人物に会いたい一心で二人掛かりで受付に立ち、善が口にした『聖野』という人物を目にしようと待ち続けた。


「ところで康太。お前は聖野っていう人物はどんな奴だと思う?」

「善さんの知り合い……ねぇ。ゴロレムさんと会う前なら、厳つい強面の人だと考えてたんだが、見たところ結構顔が広いらしいからなぁ。何とも言えないな」

「まあ顔が広いつっても、実際にあった事があるのはゴロレムさんだけだけどな。あ、でもヒュンレイさんも昔なじみらしいぞ」

「へぇー……あ、それ以外にもう一人心当たりがあるな。たしか女の人だ」

「女の人ってことは恋人とかか?」


 腕を組み頭を捻る康太に、蒼野が最もありえそうな可能性を告げるが、康太は首を横に傾け、険しい表情をした。


「いや、そうじゃないみたいだぞ。たまに電話が掛かってきて飲みに誘われてるのを見るんだが、結構嫌そうな顔してることが多いぞ」

「んー昔の会社の、嫌な同僚とか上司ってとこかな?」

「そんなところだろ」


 一日受け付けをしているとはいえ、人が絶えずやってくるという事は中々ない。

 そのため誰もいないタイミングを見計らって二人はそんな話を行いながら、善が言っていた人物が来るのを待ち続けていた。


「…………来ないな」

「ああ」


 が、待てども待てども善が言っていた人物はやってこない。

 今朝方、善から『受付に来るはずだから、来た際には自分を呼んで欲しい」と伝えられていた蒼野なのだが、いくら待てどそのような人物は一向にやってこなかった。


「昼時だ。オレとお前、どっちが先に飯食う?」

「じゃあ先に食べさせてもらおうかな。どんな奴が来るか緊張しちゃって、無駄に体力を消費しちまった」

「難儀な性格だな。まあわかったよ。じゃあ電話受付した分の依頼を事務室に持っていってくれ」


 苦笑しながらそう伝えた康太が数枚の予約用紙を蒼野に渡し、蒼野がそれを受け取りながら受け付けを出る。

 それからリビングを抜け事務室へ向かうと、そこに件の人物は存在していた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


まずは遅くなってしまい申し訳ございません。思ったよりも編集作業でてこずってしまいました。

そんな今回の話ですが、本日から新章突入+新キャラクターの登場です。

ヒュンレイや善さんなど、これまで動いてこなかった面々もしっかり動かせて行ければと思うので、

そこらの面々が気になる方はお楽しみに!


あと、今回からまたなろう内で見れるサブタイトルが変更されました。

よろしくお願いします。

あと、小説の事について呟いてるtwitterのアカウントも上げておきます。

https://twitter.com/0H68m6xuMpA4KyK


こちらもまたよろしくお願いします。


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