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解説! 獣人王追放作戦! 一頁目


「なぁゼオス。これはちっとまずい状況じゃねーの!」

「…………そのようだな」


 彼らがウルフェンに攻撃を当ててから数分が経過した。

 しかし本来ならば次の段階に進むはずの計画は想定していた通りには進まず、四人は耐えがたい停滞の時間を過ごしていた。


「攻撃は当たるようになったけれども!」


 一度攻撃を届かせた事でウルフェンの冷静さは失われ、彼は今荒れ狂う暴威と化し彼らに襲い掛かってきていた。

 そうなった彼はどれほど格上であろうと御しやすく、四人の攻撃は然程効いてはいないが確実に命中し始めていた。


「これじゃ意味がねぇぞ!」


 ここで問題となるのは、ゼオスが想定していたよりも大きなウルフェンのプライドの高さだ。


「オォォォォン!」

『ダメだ。やっぱ武器でしか攻撃してこねぇぞこいつ!』


 本来の計画では攻撃を一度でも当てればウルフェンはその事実に激昂し、武器を捨ててゼオス達四人に襲い掛かる予定であった。

 そうなることで、次の段階、すなわちこの作戦の最終段階に進むはずであったのだ。


「どーすんだよこれ! 俺達が死ぬのも時間の問題だぞ!」

『ベルラテスに移動させるどころじゃねぇ! 失敗だ!』


 ゼオスが残る三人に考案した作戦。それはウルフェンをこの黒海研究所から竜人族の住む土地、ベルラテスに移動させるという作戦であった。


 そもそもの話としてゼオスが今回の最終決戦で重要視されたのは所持している希少能力からだ。

 瞬時に空間を別の場所に繋ぎ、敵を追放ないしより戦場として適した場所に移動できるという点ひとつで、ゼオスは今回の戦いで有用な戦力とみなされた。

 というのも今彼らが戦っているウルフェンは各勢力の最強クラスでしか止める事ができないほどの実力者とされており、戦場に現れ本気を出されれば、いかに四大勢力が力を合わせた連合軍とはいえ、止めるのは至難の業であると考えられていた。


「エルドラ、一つ確認します。貴方は今回の戦いから手を引くというわけではなく、私たちの前に出る事だけを断るということでいいのですね?」

「あぁそうだ。別に今回の戦いを静観するつもりはねぇよ。俺達がそっちに行かないのは俺達自身の身の安全を考えての事で、ここで戦えるってんのなら、まあ普通に戦うぞ」


 そこで白羽の矢が立ったのがギルド最強の男エルドラだ。

 あらゆる種族の中で最強とされる竜人族が今回の戦いでラスタリアに現れないのは、自らの身を案じての事だ。

 本気で戦う場合どうしても彼らの大半は本来の姿に戻る必要があるのだが、それは極力避けたい事態であった。


 竜人族という亜人は、世間一般では千年前に絶滅した存在とされている。

 千年前の戦争で神の座イグドラシルに従った彼らは勝利に大きく貢献したが、賢教最強の小隊によって一人残らず殲滅されたというのが、世間一般で信じられている情報だ。


 このような措置を取った理由は竜人族の希少性や価値にある。

 彼ら竜人族の鱗は一枚で防具にすればあらゆる攻撃や熱に耐える素材となり、武器にすれば万物を斬り裂く鋭利な刃物にする事が可能。

 心臓の肉を一口でも食せば、不老長寿を得ることができると言われていた。

 そのほかにもその勇猛さを物語る瞳は高価な品として金持ちに好まれ、角も神からの贈り物として賢教の至る所で祀られていた。

 それ以外の全身の様々な部位も、滅多にない希少素材として取り扱われていた。


 これらが理由で欲深い人間に目を付けられた彼らは、個の強さでは圧倒的であったのだが数の暴力により数を減らしていき、この状況を許している賢教に対し心底からの嫌悪感と危機感を抱き、エルドラを筆頭とした竜人族はイグドラシルに従い千年前の戦争に参加。

 終戦後は前もって行っていた契約に従い、表舞台から消え去る事を代償に平穏な生活を得たのだ。


「それなら一つお願いがあるのです。私たちは必ずベルラテスにウルフェンを送ります。ですから、彼の撃破を貴方に任せたい」

「送る……………………なるほど。ゼオス君の能力か」


 なので彼らは自身の姿を表舞台に晒す事を心底嫌がっているのだが、自身の正体がばれずに済む安全性が確保されているのならば喜んで戦う。

 それこそ鬼人と族同様かそれ以上に楽しげに戦う傾向にある。


「そうです。彼の能力はこちらの都合でラスタリア内で使えないことになっているのですが、ウルフェンを必ずラスタリアの外に追い出し、彼の能力でそちらに移動させます。それならば、貴方も問題なく戦えるでしょう?」


 問い正すイグドラシルに対し、エルドラはニヤリと好戦的な笑みを見せつけた。


「応とも! 正直言うとな、ウルフェンの馬鹿野郎だけは俺自身の手で一度ぶん殴ってやりたいと思っててな! どうにかして良い案はないかとない頭を捻ってたところだ! んで、そんな中、あんたが最高にいい提案をしてくれた!」

「では」

「その案に乗った! あの野郎は必ず俺がぶちのめしてやるから、しっかり届けてくれよ!」


 こうしてウルフェン撃破作戦は建てられ、その中核を担う者としてゼオスは黒海研究所に待機。四人の仲間とブドーを護衛に付け、来たるべき自身の出番をおとなしく待ち続けていたのだ。




『どうするんだよゼオス。こいつが肉弾戦で攻撃をしない限り、結界は破れないんだろ!?』


 実行する場所こそ変わったものの、ゼオスが今ここで行おうとしている作戦は、基本は当初の予定と変わらず、ウルフェンをベルラテスに飛ばすというものだった。


 ただこの計画には大きな障害があり、それがシロバとウルフェンが語った黒海研究所を覆う結界だ。

 しかしゼオスはこれは突破不可能な類の物ではなく、手順を踏めば破壊可能なものであると断言した。

 シロバが口にした内容通りならば、この結界に込められている効果は認識阻害、加えて空間転移を防ぐというものだ。

 となればそれらは少なくとも二つの結界に分かれており、自分たちの邪魔をするように立ちふさがっているのは、何の能力も張られていない『ただの強固な壁』であるとゼオスは言いきった。


「二つに分かれてるってのはどういう事だ? あの壁は様々な能力を付与したものじゃないのか? 通信の無効化とか、空間移動の制限はどう考えてもその類だろ?」

「…………通信の無効化と空間移動に関してはその通りだろうな。だが俺達を覆っている薄紫色の壁に関しては、恐らくその類の効果は含まれていない。ただ固いだけの壁だ」

「な、なんでそこまで言いきれるんだよ。二つに分けるなんて、んな面倒な事を奴らがする理由がねぇじゃねぇか!」

「……ミレニアムの存在があるからだ」

「………………なるほど。そういう事ね」


 動揺する積を横目に、ゼオスの発言を聞きまず始めに優が納得。

 次いで康太も納得したような素振りを見せた。


「どういう事だ? 二層に分かれてる理由になんでミレニアムが関わってくるんだ?」

「ミレニアムが神器の使い手だからよ」

「あぁなるほど。能力無効化の特性か」


 すると優が簡単に説明を行い、積も答えに辿り着く。


 神器にはあらゆる能力を無効化する特性が備え付けられている。

 ミレニアムの神器の種類を知らぬ四人ではあるが、少なくとも直接触れるような事があれば必ず能力は消えてなくなる事は理解している。


「その特性を発揮させないための二層化か」

「……そういう事だ。まあ三層に分けている可能性も十分あるが」


 もし外部からの侵入を防ぐ直接的な守りと認識の誤認、空間能力の無効化の三つの効果を一つの壁に押し込めているのならばそれは紛れもない能力だ。

 認識の誤認や空間能力の無効化は、単一属性では不可能であるからだ。

 それらを一つにまとめるのはとても効率的に見えるのだが、総大将のミレニアムが神器を装着しているため、実際には大きなリスクが伴っている。


 この問題を解決するための案が、ゼオスが最初に口にした結界の分離。すなわち二層化だ。

 何の概念的な守りも備えていないただの壁ならばミレニアムが近づいても何ら問題はない。そしてどの種類の神器であれミレニアムから百メートル以上離れたところに残りの効果を付与した結界を張っておけば、能力無効化の射程から離れ安全である。


「……俺達の最終目標は周囲一帯を囲む薄紫色の防御結界を破り、更に奥にある空間移動を邪魔する結界を超える、ないし破壊することだ。そうすればあの怪物をベルラテスに追放できる」

「な、なるほど。いやすげぇなゼオス。いつの間にそこまでしっかりした作戦を考えたんだ?」

「…………」


 地下二階の駐車場内にある真っ黒な車に腰かけ、淀みなく語り続けるゼオスに積が感心し、その横で康太が疑いの目を向ける。


「……今回はうまい具合に思いついただけだ。気にするな」


 その視線を浴び積に賞賛されてもなおゼオスの表情は変わらず、それからすぐに作戦の重要な点を告げていく。


 まず第一に、ウルフェンを無敵足らしめる鼻の機能を完全に停止させる事。これができて初めて、彼らは彼と戦うという土俵に上がることができる。


 第二に、ウルフェンの冷静さを奪いある程度こちらの作戦に沿った行動を取らせる事。

 これについては鼻を奪った時点で彼は激昂するのは大いに予想できたので、さしたる問題ではない。


 そして第三が、ウルフェンに本気を出させ、武器を捨てさせ直接体術の類を使う状態にまで追いこむことであった。


「その段階は必要なのか? 要は防御結界を破壊させるだけの攻撃をさせればいいんだろ? ギルド第二位の総隊長であるウルフェンさんなら、その位いくらでも持ってるだろ?」

「…………いやそれではだめだ」


 積の至極当然の意見をゼオスは否定する


「…………もし破壊出来たとしても俺の能力の中に足を踏み入れるかと言われれば甚だ疑問だ。最初に遭遇した奴の言う通りならば、発動してから中に入るまでの間に、十分な対応をされる可能性はある」

「じゃあダメじゃん!」

「落ち着け積。だからこいつは、激昂させて体術まで持っていくって言ってんだろ。まあちょっとおかしな気はするが」


 引っかかりを覚えると口にする康太。その意見を無視し、ゼオスは話を先に進める。


「…………そうだ。奴が体術で攻撃するようになれば壁を破壊できるだけの力は十分にある。その状態で奴にこちらの狙い通りの攻撃をさせることができれば、体の一部程度ならば呑み込むことも可能なはずだ。俺達はそれを狙う」

「つまり壁を破壊させて、その後カウンターの要領で『時空門』を当てて、あの化物をベルラテスにまで追放するってことか。無茶苦茶だ…………」

「…………できなければ死ぬだけだ」


 積があきれてものも言えないという様子で語るが、ゼオスはその言葉をばっさりと斬り落とし、


「「…………」」


 それを聞けば積だけではない。康太も優も黙るしかなかった。


 そうだ、蜘蛛の糸のように細く長く伸びた僅かな可能性の勝機。


 普段ならば決して賛同できない提案。


 だが、それを行わなけれは自分たちに待つ未来は死か隷属しかなく、それを思いだし彼らは腹を括る。


「…………安心しろ。最後の詰めに役立つ秘密兵器を持っている。これを使えば万に一つの可能性を百分の一程度までにならば狭められるはずだ」

「秘密兵器だと?」


 そう語るゼオスの姿を康太が疑いの目で、優が不思議そうな目で覗きこむのだが、彼は何も答えない。

 兎にも角にも、彼らはこのようして絶望的な戦いに飛びこむに至った。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


打倒ウルフェンにおける作戦の詳細説明。

まあ大雑把な解説ではありますが、彼らが目指している結果は作中で語られている通りです。

果たしてこの作戦は彼らの思い通りに行くのか?

今回の話も、最後までじっくり見ていただければ幸いです


それではまた明日、ぜひご覧ください

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