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AGGRESSION・WAR 真実への道標


「どうした? 我は今満身創痍。死力を尽くせばその刃、届くかもしれんぞ?」

「く、くそ。めちゃくちゃな鎧着込んでるくせに好き勝手言いやがる!」


 午前十一時四十分。

 屋内でウルフェンがギルド『ウォーグレン』の四人を相手に大立ち回りを演じ、ラスタリアでは四大勢力の連合軍と『境界なき軍勢』が衝突をする中、黒海研究所の最上階では三人の戦士たちが戦いを繰り広げていた。


 一方は古賀蒼野とブドー。

 両者ともに傷は負っていないが、肩で息をし目の前の存在を睨むその姿には、疲労感の色がありありと現れていた。


「貴様らは我の姿を目にして勘違いしているようだがな、ここまで我を追いこんだのは誰だと思っている。

 あのアイビス・フォーカスだぞ。いかにあと一歩で殺せる状態とはいえ、その一歩は奴の力で考えた時の『一歩』だ。貴様ら目線で考えれば、それは地平線の先まで続く道のりよ」


 対するミレニアムの状態は最悪。

 纏う鎧には隙間なく大小様々なヒビが刻みこまれており、崩壊寸前であると誰もが理解する姿をしている。

 だが彼はその状態を然程気にしている様子もなく、堂々とした仁王立ちで蒼野とブドーの前に立ちふさがっていた。


「お前……無敵か?」


 目の前の存在には隠すことができないほどの傷が刻みこまれている。

 それを目にすればそんな事はありえないとすぐにわかるはずなのだ。


 だというのに蒼野は、幾多の攻撃を受けようとも怯むことなく前に出るこの存在を前に、思わずそう尋ねずにはいられなかった。


「如何にも。我は無敵である」


 その蒼野の言葉をミレニアムは否定しない。


 彼はあのまま戦っていれば確実にアイビス・フォーカスに負けていただろう。

 ここまで傷ついている状態ならばシャロウズやエルドラにも負けるだろう。

 しかしここで『黒い海』を放てばそれらの障害の大半がいなくなる――――すなわち彼に勝てる可能性のある者が潰えていく。

 ゆえに彼は自身を脅かす存在は消え去る事を確信し、蒼野の言葉を肯定する。


「今日この場を去った瞬間、我は真の意味で無敵になる。同じ地平を見る者はこの星から消え、世界は我が手中に収まる!」


 右腕を伸ばしたまま肩の高さにまで上げ、拳を握る。

 それだけの動作ではあるのだが、彼を前にする蒼野とブドーは思わず唾を飲みこむ。


 目の前の人物ならば本当にそうなるだろうという予感が、彼らの心を蝕んだのだ。


「…………さて、となればこの場が我を倒せる最後のチャンスとなるわけだが…………貴様らはどうする? この場で平服し命乞いでもしてみるか?」

「…………馬鹿言うなよ」


 囁くように、誘惑するように、そして煽るように、ミレニアムが自らと対峙する二人に尋ねる。

 それを聞いた彼らの足に…………力が宿る。


「あんたの好き勝手にはさせねぇ。どれだけ遠いと言われようと、限界はすぐそこなんだ!」

「そうだ! 某の体はまだ動く! 五体砕けるその時まで、戦い続けてやるさ!」


 ミレニアムの挑発を受けた二人が声をあげ、弱気な心を吹き飛ばすように声をあげ全身に力を込める。

 まだ終わってはいないと、口以上に目で語る。


「ふ、HAHAHA……」


 それを見たミレニアムは――――――笑った。

 これ以上楽しい事はないと、嬉しい事はないと、心の底から笑った。


「よくぞ言った! このミレニアムを前によくぞ言った!」


 すると彼はその場で大きく足踏みをし、全身に真っ赤な気を纏う。

 実力差は明確。万に一つも勝ち目がない自分に立ち向かうと言い放つ二人。

 そんな二人の思いに応えることこそ礼儀であると彼は考え意識を研ぎ澄ます。


「そうだ。それでいい。降伏などしようものならば興ざめであった。対峙し勝機を見出し、それを掴むために足掻け。絶対的な死を前にし、その命を輝かせろ!」


 両手に重力が圧縮された真っ黒な球体を作りだし、勢いよく打ち出すミレニアム。


「援護を頼むぞ蒼野君!」

「はい!」


 ブドーがいくらミレニアムの体を衝突させても僅かに凹むだけの床を大きく凹ませる、まさに殺人級の威力の重力波を躱し、彼らは二手に分かれ突き進む。

 対するミレニアムは動く事などせず、二方向から迫る彼らをただただ待ち構える。


「風刃・絶空!」

「レオグン!」


 風の属性粒子を先端に集め圧縮した、あらゆるものを貫く風の突きと、獅子の頭部を模した無数の気の塊がミレニアムへと進んでいく。


「無駄ぁ!」


 飛来するそれらを、ミレニアムは重力の塊で全て地面へと叩きつける。


「蒼野君!」

「大丈夫です!」


 それを見ても万物を破壊する『原点回帰』を備えている蒼野は前へと進むのだが、そんな彼の前で、ミレニアムの体がその場に僅かな闘気を残し姿を消す。


「練気の…………放出系か!」

「応とも!」


 真横に現れたミレニアムの姿を属性粒子で感知した蒼野が、体を傾けレニアムと向かい合う。


「甘い、甘いぞ古賀蒼野! よもや貴様程度が、この俺の一撃を受け止めるつもりか!!」


 その姿を前にしたとき、ミレニアムの口から漏れたのは、自身の力量に対する絶対の自信だ。


「HA!」


 しっかりとした足踏みと共に迫る剛腕。

 その威力を直に確認した事はないが、どれだけ恐ろしいかは既に感じ取れており、そんなものと正面からやり合う気など蒼野には全くない。


「馬鹿言うなよ。お前みたいな馬鹿力に、正面から付き合ってられるか!」


 愚直に、策を弄することなくまっすぐ進む拳。

 蒼野はそれを受けるのではなく剣の面に乗せることで受け流し、そのまま前に出てミレニアムの足を引っかけ、黄金の巨体を傾けた。


「ほう! ほうほうほう! やるではないか!」


 蒼野の動きにはまだ固さがあり、洗練したとは到底言えないものである。

 だが初見相手ならば一度程度ならば通用するだけの技術は確かに存在しており、その動きに対しミレニアムが関心を抱いた。


「貴様のような若輩者が到底思いつく動きではない。古賀蒼野、その動きをどこで覚えた?」

「今行きている中で、世界一の剣士の動きだ。お前の拳程度、全て捌ききってやる!」

「ほう! レオン・マクドウェル! なるほど、奴の動きで学習したか!」


 強がりを声高に宣言する蒼野の言葉を聞き、ミレニアムが心底楽しそうに笑い、


「よくやってくれた蒼野君。某も、この悪鬼の息の根を止める活躍で報いなければな!」


 そしてその隙を逃さず迫るブドーが、自らの腕が届く射程圏内にまで近づいた。


「ブドー!」

「むん!」


 蒼野に撃ちだしたものとは比べ物にならない本気の突きが、腕を伸ばす男へと向け繰り出される。

 その撃ちだされた腕を掴んだブドーはそのままミレニアムを背負い、一本背負いで地面に叩きつける。


「効かんなぁ!」

「いいや効いている! その証拠に、僅かながらもヒビは広がっている!」


 地面に叩きつけられたミレニアムがそのままの状態でブドー目がけ蹴りを放ち、ブドーは伸びた足を掴み再びミレニアムの体を持ちあげ地面に叩きつけ、黄金の王の言葉を否定する。


 全く逆の意見を言い合う二人だが、状況判断においてはブドーのほうが正しい。

 その証拠に、ほんの僅かではあるのだがミレニアムの体に刻まれているヒビは大きなものに変化しており、地面には黄金の鎧の破片が、砂粒程度の大きさではあるのだが転がっていた。


「HA! 如何に貴様の言葉が正しかろうと、それでは我は討つことは敵わぬ!」


 ブドーに再び体を投げつけられ始めてから五度目の一本背負いによる投擲。

 しかしそれはミレニアムを地面に叩きつけることは敵わず、気の放出により勢いを得た彼はブドーの手から解放され、二人を確認できる距離まで引き下がる。


「そうでもない!」

「なにっ!」


 彼我の距離はおおよそ五十メートル。

 それだけの距離がありながらミレニアムの体が宙を舞い、すぐそこには道着を着こんだロッセニムの覇者の姿があった。


「ブドーよ。貴様…………」


 投げられたと知覚するまでの間の、断片的な記憶が抜け落ちている事にミレニアムが驚愕する。

 彼は黄金の鎧という神器に身を包んでいるゆえに能力による影響は一切受けない。

 となれば『異能』や『練気』の類となるのだが、少なくとも時間を凝縮するような能力はそれらには存在しないと言いきれた。


「僅かでも効果があるというのならば問題はないのだ。効果があるのならば、破壊できるまで投げ続ければいい!」


 となれば答えは至って単純。

 今討ちこまれた攻撃は、この世界の変革を口ずさむ革命家の認識できないほどの極技である。


 接近、接触、姿勢の崩しに投げるまでの一動作。それを瞬きする暇さえない間に行ったブドーの瞳には確かな覚悟が刻まれており、それを見てミレニアムは悟った。

 ブドーはこのまま、自分が完全に破壊されるその時まで、状況を整えさせる暇さえなく投げ続けるつもりなのだと。


「はぁ!」


 ミレニアムが引けばその呼吸に合わせるような動きを取り、引いた体の力を利用するように回り込んでは投げて地面にぶつけ、打撃攻撃をしてくれば伸ばされた腕や足を掴みまた投げる。

 重力を使った攻撃をしてくればそれを掻い潜り、瞬時に姿勢を崩し投げ捨てる。


 互いの距離は離れたとしてもおおよ百メートル。


 その領域内においてブドーは、ミレニアムの全ての抵抗を受けてなお神速の投げ技に繋いで見せた。


「す、げぇ。全部投げ技に繋いでる」


 これぞ技の極み『無限投げ』


 一個人が『属性粒子』や『能力』ではなく、ただひたすらに『体』を鍛え『技』を磨き、それを扱うに値する胆力、すなわち『心』を得た結果辿り着いた一つの極致。


 優れた動体視力と空間把握能力で最初に投げた後に見せる敵の動きを瞬時に判断し、続く二回目の投げ三回目の投げに続く動きを行う。

 ブドーがレオン・マクドウェルからロッセニムの覇者を譲り受けるきっかけとなった技が、ミレニアムの体に幾度となく叩きこまれる。


「う、ぐっ!」


 一つ問題があるとすれば、それはブドー自身のコンディションだ。

 デスピア・レオダとの戦いの傷がまだ残っている彼の体調は万全でなく、それゆえ最前線を離れゼオスの護衛役に選ばれたのだ。

 全快時ならば半日以上続けられるその極技も、今の彼では恐らく数十分が限度だ。


 それまでにこの怪物を倒しきれるか?


 口の中にじんわりと漂ってくる血の味を噛みしめ、全身の筋肉を絶えず動かし続けるブドーが、脳内でそう自らに語りかけ、


「見事だブドーよ。ここまでの極技は、数多の戦場を歩いてきた我でも一度とて味わった事がない。がしかし…………ここまでだ。退くがよい」


 その思惑を切り崩す声が、ブドーの耳に聞こえてくる。


「!」


 ミレニアムの体を投げ飛ばし、次の行動を読み取る観察の瞬間、黄金の王の体がこれまでにない速度で拳を放つ。


 思わぬ反撃に僅かに驚くブドーではあるのだが、すぐに対応。

 打撃ならば伸びた腕を掴むのだと手を伸ばすが、その手がミレニアムを掴むよりも早く、ミレニアムの空いていたもう片方の腕が、ブドーの脇腹を殴り飛ばした。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


最終決戦は中盤戦へ突入

そしてミレニアムに関する謎解きも大詰めです。

といっても、もうわかっていらっしゃる方もいると思いますが


次回は引き続きVSミレニアム

お楽しみに!


それではまた明日、ぜひご覧ください

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