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語る登場人物 二頁目


「この場所を譲れだと。お前は一体何を言ってるんだミレニアム!?」


 闘気を纏い、堂々とした様子でそう宣言するミレニアム。

 彼に問いを投げかけるのは同じく臨戦態勢を取り、蒼野を庇うように前に出るブドーだ。


「そもそも、ここは戦場から大きく離れた黒海研究所だ。エグオニオンのような兵器は存在しない。なのに、なんであんたはラスタリアでの戦いを放棄してまでここにいるんだ?」

「ふむ」


 ブドーに保護され背後で外部との連絡を試みる蒼野が、時間を稼ぐために質問を投げかける。

 それを聞いたミレニアムは僅かな間ではあるが微動だにせずにいたかと思えば闘気を引っ込め、ブドーと蒼野を視線で射貫いた。


「ラスタリアでの戦いも問題なく続いているようである。ならば多少の時間はある。貴様らの質問に答えてやろう」


 蒼野の問いに素直に応じるミレニアム。

 その様子に二人は少々驚くが時間を稼げるのならば十分である考え、口を挟むことはせず、彼が語る目的に耳を傾ける。


「古賀蒼野、貴様は先程口にしたな。この場所は黒海研究所であると」

「言ったよ。それがどうかしたか?」

「それが最も重要な事なのだよ。聞くがこの世界の地下深くに存在する『黒い海』。それをこの場所に勤めている研究員たちは如何様に研究していると思う?」

「…………過去の災害データを元にした研究や、仮想空間を利用した方法。そういう方法で研究しているんじゃないのか?」


 ミレニアムの投げかけに対し嘘偽りのない素直な言葉を吐く蒼野。

 だが語るうちに、蒼野の胸には何故だか言いようのない不安感が襲い掛かり、全身をジワジワと侵食していく。


「それらを用いた方法は確かに行っている。だがこの場所で行われる研究の主流ではない。この場所ではな、実際に『黒い海』を吸い上げ研究を行っているのだ」

「なんだって!?」


 その言葉には蒼野だけではなく、隣にいるブドーでさえ動揺を隠せぬ様子でミレニアムを見つめていた。


「そう驚くことではなかろう。黒い海は広がれば恐ろしいが、その名の通り水に近い物質だ。上から蓋をすれば外に出さずに済む」

「しかし危険は付きまとうものだ。加えて『黒い海』は『闇の森』と『十三の人災』に並ぶ三つの禁忌の一つだ。研究のためとはいえ、外部に出すとは何事か!」

「メリットを考えればそれもさしたる問題ではあるまい。完全に手なずけ制御しきれば、神教は最強の兵器を手にする事ができるのだからな」

「兵器…………」


 映像などではない。実際の体験として蒼野は黒い海を目にしている。


 大勢の人々の悲鳴にそれを飲みこむ無数の黒い手。


 見るだけで心臓が握られ、這いずりまわる音だけで発狂しそうになるあの感覚。



 あれを制御する?



「無理だ。あれは……人間が制御できるものじゃない!」


 災害の対策のためという目的ならば蒼野にだって理解できる。いつか自分たちに牙を剥くかもしれない脅威から身を守るため日々努力することは、人として当然の事だからだ。

 だがアレを軍事利用などできるはずがない。


 少なくとも人の手によって操れるものではないと蒼野は断言できた。


「……………まあ貴様の所感などにはさしたる興味もない。ここで重要になってくるのは、この場所は黒い海に直接繋がっているという事だ」

「どういう、事だ?」


 ミレニアムの言葉を聞き蒼野だけではない。ブドーも嫌な予感を感じ取る。


「先に述べた通りこの場所は『黒い海』を研究材料として使っているわけだが、それらは地下五百万メ―トルのところで蓋をしている。『黒い海』を封じ込める蓋をな。その蓋を、我が手で破壊する!」

「だ、ダメだ! それだけはやっちゃいけない!」


 その後語られたミレニアムの目的、それを聞いた瞬間、蒼野はこの上なく慌てふためく。

 が、それも仕方がないことではある。

 蒼野は初めて『黒い海』を目にした際、それは針の穴程の大きさから溢れ出て町を蹂躙することが可能な程広がっていったのだ。

 黒海研究所にある蓋というものがどれだけの物かは蒼野には詳しくわからないが、しかし研究に利用するという目的から、あの時よりは大きな穴である事は想像することは容易く、未曾有の災害が巻き起こるのかもすぐに理解できる。


「あんたは……あんたは一体どうしようってんだ! あんなもんを使って、一体何をするつもりだ!」


 迫る未来を想像し、悲鳴と絶叫を重ねる蒼野。


「無論勝つつもりよ! 我が目指すのはいつだって戦いと勝利だ!」

「戦いと……………勝利?」

「そうだ。我はこの黒い海を世界に放ち、神の住む地ラスタリアを飲みこむ。そして全ての黒い海を掃った後に賢教・ギルド・貴族衆さえも支配し、玉座につく!」


 それを受けたミレニアムが、拳を握り声高に自らの目的を宣言。

 それを聞いたブドーは目の前の巨悪の目的を必ず阻止しなければならないと拳を握るのだが、蒼野の脳内ではそれとは別の疑問が思い浮かんだ。


「………………なぁミレニアム。お前は今、常に『戦いと勝利』を求めると言ったよな?」

「応とも。我は戦い、勝つことを生きがいとしている。何か疑問でも?」

「勝利……戦い…………ミレニアムの手によって支配された世界」


 言葉を聞くたびに蒼野の胸に中のわだかまりが大きくなっていく。


「やっぱりだ。やっぱりお前はおかしいぞミレニアム!」


 そしてそれが臨界点を突破した時、蒼野の口から正直な感想が溢れ出た。


「そ、蒼野君?」


 突然声をあげた蒼野に対し戸惑うブドー。


「ブドーさん。俺の質問に答えてください。それで、俺の感じる違和感があってるかどうかを確認して欲しいです」


 目の前にいるのはこの戦いを始めし黄金の王ミレニアム。

 すぐに飛びかかってきてもおかしくない危険人物だ。

 その存在すら無視して、蒼野は胸に抱いたわだかまりが正しいかどうかを確認するために口を開く。


「ミレニアムも語る基本姿勢。常に戦いを求めているっていうのは、どういう状態ですか?」

「考えるのが苦手な某には少々難しい質問であるな。だが、言うなればストリートファイターやロッセニムに集う戦士のような状態ではないか? 毎日を猛者と戦う日々で過ごしたいという思いだ」

「俺もそう思います。で、これは俺の所感なんですが、これは『動的』な目的であるように思うんです」

「『動的』?」

「ええ。常日頃から戦いを望む。なければ自分が動き場や環境作りだす。そんな風に『自分だったり物事を動かして願いを叶えようとする』思いです」

「なるほど。そういう事ならば某にも理解できるぞ。ロッセニムは戦いたくて仕方がない連中を集めたところであるからな。蒼野君が言う『動的』な奴らが集まっている」


 蒼野の発言に理解が追い付きブドーがしきりに頷く。

 対するミレニアムはと言えば蒼野が語る内容に興味を持ち、腕を組み、黙って話を聞き続けている。


「で、問題なのはここからです。ミレニアムが言っていたこの世界の統治。もっと言えば西本部壊滅と共に語っていた理想の国家形成。これをどう思います?」

「ふむ。奴なりの思想を感じる見事な演説であった! 正直少々惹かれたぞ!」

「だったら覚えていますよね。ミレニアムはあの演説で自らがこの世界を統治する神になった際の目的を世界を口にした。強者が上に立ち、常に切磋琢磨を行う、実力主義の世界を作りだすと言いきったんです」


 そこに惹かれるのは困るのだが


 そんな風に考えながらも蒼野はミレニアムの理想とする世界をブドーに語り、


「これについて…………どう思いますか?」


 先程と同様、彼に問いかける。


「先程の感想とは別の意見を求めるという事だな。うむ、まあ一言で言うとミレニアムらしいと思うぞ。常に強者を目指し戦いを続ける世界など、まさに奴の理想だろうからな! 奴が玉座に座るというのならば、これ以上にふさわしい世界はあるまいよ」

「いいえ。その考えは間違っています」

「なに? どういう事だね?」


 問いに対しそう言いきるブドーだが、対する蒼野の答えは……否定だ。


「俺も最初はそう思いかけていました。でも……違うんです」

「違うとは?」

「いくら戦いを繰り広げようともミレニアムは玉座に座りません。絶え間ない戦いを求めるというのなら、座ってる暇なんてないはずなんです」

「な、なるほど?」


 その後はっきりと確信を抱いた口調でそう言いきる蒼野であるが、ブドーは理解が追い付かず首を傾げる。


「それに加えそもそもの話として、世界を支配するにしても統治するにしても、言うなればそれは世界を一つにまとめあげるという『静的』な行為です」

「言われてみればその通りだな…………いやしかし待てよ! 常に戦いを望むミレニアムが世界の平定という『静的』な目的を掲げるというのか! 延々と戦い続ける『動的』な思想を持つミレニアムが『静的』な結末を望んでいるだと?」


 しかし蒼野が合いの手を入れ、そこまで話が進んだことでブドーも辿り着く。

 目の前の王が抱えている無視することができないほど大きな矛盾を。


「ミレニアムが日々戦いを求めるっていうのなら、統治された世界だけは求めちゃいけないんです。座して玉座に座ることはしちゃいけないんです。彼の望む戦いの世というのは乱世でしか生まれないのですから」


 ほんの数分前までならば、戦う理由は世界の平定を目指しての行為であるという事ができた。

 だがミレニアム自身が口にしてしまったのだ。


 『自分は常に戦いと勝利を求めている』と。ならば世界の支配を終着点に置いてはいけないのだ。それは自身が戦う場を大きく狭めてしまうからだ。

 さらに言えば、『手段』と『目的』に分けた場合、戦いという『手段』を楽しみ『勝利』する事が目的のミレニアムが、それら二つとは反する『目的』である『世界の統治』は、どう考えてもおかしいのだ。


「ミレニアム、お前は…………一体何を望んでいるんだ!?」


 太陽の光が分厚い雲に覆われ、作りだされた陰にミレニアムの体が沈んでいく。


「クックックックック…………HAHAHAHAHAHA!」


 そんな状況で指差す蒼野に対する返答。それは天を衝くほどの大笑いであった。


「まさか、まさか貴様だとはな古賀蒼野。我が抱える大きな矛盾を指摘するのが……貴様だとはな!」

「い、いいから答えろよミレニアム!」


 心底楽しげに笑うに彼を前に強気の発言を行う蒼野。

 蒼野の前の地面が大きく沈んだのはその時だ。


「そう逸るな古賀蒼野。貴様は我に質問を行い我はそれに応えた。加えて言うのならば付き合う必要もない貴様らの時間稼ぎにも付き合ってやっているのだ。こちら側にもそれ相応の見返りがあっても悪くはないのではないか?」


 自分の伸ばした腕の指先すれすれの地面が大きく沈んだことで冷静さを取り戻し、自分の目の前にいるのは、世界最強の犯罪者であると思いだす蒼野。

 すると全身から勢いよく汗が流れ落ちるのだが、弱気になった心を晒すことだけはせず、目前の存在を必死に睨む。


「見返りってことは報酬か? 一体何を望むっていうんだ?」


 この場所を譲れと言われた場合それが戦いの始まりだろうな。


 嫌な予感ながらもそれが最も確率が高いと考え、ブドーが気を練り蒼野が重力の塊に襲われても対処できるよう原点回帰をいつでも発動できるよう身構える。


「いやなに、少々気になっていてな。古賀蒼野よ、貴様に一つ問い正したい」

「お、俺に?」


 しかしそんな二人の当然の思惑は容易く外され、問われた蒼野の口からまぬけな声が漏れて出た。


「そうだ。古賀蒼野、貴様は何故この戦場にいる。いや……より正確に問おう。パペットマスターに心を殺されたはずの貴様が、なぜこの短時間で再び立ち上がれた?」


 のだが、彼の口から飛び出た疑問は、安堵から息を吐いていた蒼野の心を勢いよく突き刺した。


「蒼野君!」

「さあ、答えよ古賀蒼野」


 ブドーに様々な感情が込められた目で見つめられ、ミレニアムに促される蒼野。

 時間を稼ぎ目の前の男を確実に倒せる策を思いつく。それが最も重要な事は彼自身十分にわかっている。


「俺は…………」


 だからこそ蒼野は語りだした。

 正体不明の包帯男に事実を告げられたあの日、自身がいったいどういう思いで立ち上がったかを。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ミレニアムの目指す夢について追及した今回のお話、正直なところいかがだったでしょうか?


普段あまり感想をいただかないので、読者の皆さまがどう思っているのかわからないのが不安なところですが、自分なりにわかりやすく伝えたつもりでした。


ようは、永遠に乱世で戦い続けたいミレニアムが、どのような形であれ、統治という終着点は見据えちゃいけないよね


という話です。


これに関する返答は少し先で


次回はデスピア・レオダには語らなかった、古賀蒼野の復帰した理由に焦点を当てていきます


それではまた明日、ぜひご覧ください


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