語る登場人物 一頁目
「こいつがなぜこちら側にいるか理解できないって顔してやがるな。下等生物が。そろそろ察しろ。裏で糸引いてお前達全員を嵌めてた裏切り者っていうのはな……こいつの事だったんだよぉ!!」
午前十一時十五分。
徐々に康太達四人に近づいて来るウルフェンがシロバの隣に立ち肩を掴み、下卑た笑いを浮かべながらそう言い放つ。
「ぐっ」
「う、嘘ですよねシロバさん! 俺達皆を裏切ってなんて……嘘ですよね!!」
それに対する四人の反応は別々だ。
康太は苦虫を噛み潰したような顔をして二人を眺め、積は信じられないといった様子で縋りつくような口調でシロバに尋ねる。
「悪いね。これは本当の事なんだ」
「…………あの馬鹿が大層悲しむな。奴は貴様を、尊敬する人物として行為を抱いていた」
「それは…………非常に申し訳ない。でも世の中にはこういう事だってある。一つ、勉強になったと思ってもらおう」
「……ぬかせ」
康太に積、それにゼオスの言葉を受け流すシロバ。
その表情に曇りはなく、彼ら四人を逃がすまいと瞳にしっかり映している。
「それで、シロバさん達はここに来て何をするつもりなんですか。渦中の中心であるラスタリアから離れてこんな場所にいるなんて、おかしいじゃない?」
残る優が二人を睨みつけながらそう尋ねるとシロバはそちらに意識を映し、場の空気に似合わぬ温和な笑みを浮かべ口を開いた。
「ま、確かに気になるよねそれは。うん、実はこの戦いにおいて重要なのはこの場所……」
「南本部長様よぉ、そこまで語る理由はねぇよ。こいつらはここで、全員死ぬんだからよ」
その言葉を阻むように前に出たのはシロバよりも一回り以上大きなウルフェンだ。
彼はシロバの体を自身の巨体で隠すと、低い声を発しその行為を戒めた。
「おいおい、野蛮だなウルフェンさん。僕としてはもう少し平和に行きたいんだけどね。僕たちの役割は、ただの足止めだよ?」
「足止め?」
ここにこの二人がいる理由。それは足止めであるという。
だがこんな場所で足止めをしたところで、ラスタリアでの戦いに大きな影響はない。
であればここには別の人物がおり、別の大きな目的があるという事になるのだが、それが誰かを考察する優。
「し、死ぬって……殺すってことっすかぁ!?」
その横では積がゼオスにしがみつかなければ立っていられない程に足を震わせ、それを見たウルフェンが嗜虐心を刺激されたのか再び凄惨な笑みを浮かべる。
「おうそうだ。この戦いに勝ちゃ予定通りなら面倒な奴らの大半が死ぬからな。そうなりゃミレニアムの野郎との同盟関係も終わり。俺と奴らは敵同士だ。どうせ邪魔な人間どもは全員ぶち殺すんだ。なら、少し早いうちに始めたところで問題はねぇだろ?」
そう語る獣人族の王の全身から闘気が漏れる。
パペットマスターのように絡みつくようなものではなく、心臓を握りつぶすような恐怖もない。
もっと原始的な、野獣が得物を喰い破る感覚が四人の全身を襲い掛かる。
「皆殺しねぇ。君の目的は亜人達の支配する世界だから仕方がない事だけど、人間全員殺すっていうのは少々やりすぎな気がするんだよねぇ」
「あぁ? 何が言いてぇんだテメェは」
革袋から巨大な鋼鉄の砲身を取り出し片手に装着。照準を合わせるウルフェン。
四人がそれを前に身構える中、ウルフェンの背後からシロバが声をかけ、それを聞いた彼が苛立った声を返した。
「ただの人間を下等種族と見るのは勝手だ。いや身体能力の差を考えれば君の発言は間違っていない。けどね、人間の中にも、利用価値のある存在っていうのは確実にいるんだよ」
「ほう。そこまで言うなら聞くがな、こいつら四人には生かす価値があるってのか?」
シロバの返しを聞き煽るウルフェン。
対するシロバは怖気づくこともなく、彼に対し説明を行う。
「まず一番に理解がしやすいのはゼオス君だ。忘れちゃいないだろうが確認だ。
この結界は防御結界、認識阻害の結界という意味合いだけでなく、空間移動を封じる、幾重もの効果を張り巡らせた壁で構築されている」
「ああそうだな。ま、俺は必要ないって否定したんだがな」
「通常空間移動の能力には多少なりとも時間が必要だ。最低でも二秒くらいか? それだけの時間があれば僕たちなら十分に狩れるから君の言うことは大方正しいんだけど、その例外がゼオス君だ。むしろこの結界にその効果を上乗せさせたのは、彼の存在があってこそだと言ってもいい」
「どういう事だ?」
視線をゼオス一人に映すウルフェンと、そんな彼に言葉を紡ぐシロバ。
「彼はね、超希少な空間移動の希少能力持ちなんだ。それも一秒もかからず空間を広げて移動ができるね。彼一人をお供につければ、それだけでどこにでも行ける。そんな彼を殺すというのは少々もったいないんじゃないか?」
「…………」
シロバの言葉を聞きウルフェンが手を顎に置き僅かに思案する。
「次に紹介するのは康太君だ。彼は危険察知能力に優れていてね、彼さえいれば不意打ち暗殺の心配をする必要はなくなる。これから戦いを続けていこうとする君からすれば、彼ほど便利な人間はいないはずだ」
「……他の二人は?」
「優ちゃんは二十歳未満にしては凄腕のヒーラー。育て上げれば世界最高クラスになる実力がある。積君はそのメイカーバージョンと言ったところだ」
「ほう」
シロバの説明に興味関心を持った様子のウルフェンが構える四人を前に思案に暮れる。
やがて左手の親指と中指を合わし音を鳴らすと楽しげに口を開いた。
「なるほどなるほど。確かに一部の人間には生かす価値があるみたいだな」
その答えを聞き、意外そうな顔をする康太達四人。彼らの知る限りでは獣人族の王ウルフェンの人間嫌いとはかなりのものであり、こうも簡単に掌を返すなど思ってもいなかったのだ。
「よし決めたぜ。空間移動者の方は頭を叩いたら能力を発動するインテリアに、危険察知の野郎は危険を察知したら声をあげる呼び鈴にしてやるか。こいつらは家具の類だから――――四肢はいらねぇな」
そしてその考えは微塵も間違っていなかった。彼の口から語られるのは、想像を絶する恐ろしい未来であった。
「ヒーラーとメイカーは四肢が必要だな。ならそこのガキ二人は痛めつけて従順にして、首輪を付けた後はきっちりと世話をしてやるか」
「……まるでペットだな。獣人族の王。貴様は俺たちを犬猫の類と同列に扱うか」
続けて語られる内容に優が顔をしかめ積が顔を青くする中、ゼオスが敵意を込めた声で言葉を返す。
「あ? テメェら如きが犬猫に並べると思うな。生かす価値があるとはいえ、テメェらはゴミだ。毎日生かしたことを感謝しねぇようなら、即刻廃棄だ。その程度の事くらい理解しておけ」
その言葉に対し返されるのは、理不尽な怒り。
ただの人間というもの自体を忌み嫌っている獣人の王の容赦のない言葉だ。
「さてとまずは性能調査だ。ヒーラーとメイカーは全力でその力を使いな。どの程度の物か見極めてやる。危険察知能力の野郎は、テメェが避けれそうなギリギリを攻めてやる。精々足掻け。んで、空間能力者は……いらねぇな」
「っっっっ!?」
ゼオスの体が、突如現れた長く伸びた尾により、防御するよりも早く真下へと叩きつけられ下の階層へと落ちていく。
「ゼオス!」
「人の心配してる暇があるのか。お前ら程度に?」
それを見て声をあげる康太を尻目に、部屋だけでなく彼らのいる二階全体の電気が消されていき、
「お前は手を出すな南本部長。これは俺の狩りだ」
「……仕方がない。でも、逃げられそうなら手を出すよ。それと、屋上までは被害を出すなよ」
それから動きだそうとしたシロバを腕で静止し、前に出るウルフェン。
こうして獣人の王による凄惨な狩りが幕を開けた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
今回の戦いに参加する者達の意思表明。
それが明かされていきます。
ここ最近は忙しくて見直しが甘かったり、時間が不安定になってしまっているのですが、
温かい目で見ていただければ嬉しいです。
それではまた明日、ぜひご覧ください




