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急転


「な、なんだ!?」

「これは!」


 主戦場のラスタリアで異常事態が起きる一方で、それは彼らのいる場所でほぼ同時期に起きた出来事であった。

 蒼野がブドーと共に周囲の警戒をしている最中、彼らがいる研究所を囲むように半透明の紫の壁が地面から生えてくる。

 それは突然の出来事に蒼野やブドーが対応できない中勢いよくせり上がり、塔全体を飲みこめるほどの高さまで登ったかと思えば蓋をするように天井部分が閉まり、中にいる人物達を閉じ込めた。


「ブドーさん!」

「うむ、緊急事態だ!」


 自身を覆う世界の全てが重くなったような感覚が身を包み、心臓を鷲掴みにされるような感覚が蒼野を襲い、額から嫌な汗が流れてくる。

 ただならぬ事態であると判断した蒼野が横にいるブドーに声をかけると、程度は違えど全身に迸った感覚は同じ様子のブドーが頷き、周囲に気を放ち警戒を強める。


「周囲に気を配れ蒼野君。これはかなりまずい状況だぞ」


 彼の口から漏れる声には先程までの明るく朗らかな様子は一切なく、命の取り合いをする武人が見せる、切れ味の鋭い声に変化。


「そこにいるのは誰だ!」


 蒼野が周囲に風属性粒子を撒き、ブドー同様に周囲の状況を知ろうとし始める。

 そのタイミングでブドーが虚空を掴むように腕をあげ敵意を込めた声を発し、この場所へと昇ってくる二つの手段の内の一つ螺旋階段へと視線を向ける。


 そして


「なっ!?」

「お前は!」


 その声に応ずるようにその存在は彼らの前に姿を現した。




「だめだ! 反応しねぇ! くそっ、一体どうなってる!?」

「出る事も……できなくなってるな。どうやらオレ達はこの場所に閉じ込められたらしい」


 蒼野とブドーが慌てる一方で、突如起きた事態に対し、康太と積の二人もまた彼らなりに対処しようとしていた。


「俺達、いやこの場所を隔離するのに加えて通信手段の無効化か? 勘弁してくれよぉ」


 ギルド『ウォーグレン』の面々の中で一際臆病な積はすぐにこの異常を伝えねばと考えラスタリアへの連絡を試みるが、電子機器や能力など、あらゆる連絡手段が使えないことを理解。

 加えて内部にいる蒼野やゼオスとも連絡ができないことも確認した。


「まあ幸いなのはこの結界らしきもの自体にオレ達をどうにかする力がない事だな。とにかく、一度蒼野達と合流するぞ」


 康太はと言えば持ち前の直感が反応するかどうかを結界に触れる前に確認。何度か結界に近づいては離れてを繰り返した結果、この結界が自分たちに直接危害を加える者ではない事を確認。

 手で触れてみると半透明の紫色の結界は自分の手をそれ以上先に進めないように阻んだことから、この結界が通信手段を封じる以外に自分たちを閉じ込める意図がある事を認識した。


「あ、猿と積だわ」

「お、ゼオスに優! 無事だったんだな~~! よかった! 本当によかった! 俺を守ってくれ!」

「アンタねぇ……」


 康太が二丁の拳銃を構え周囲の警戒を行いながら、駐車場を急いで抜け研究所の中へと進んでいく。

 入った当初はいるはずであった研究員や受付をしていた人物が道端やホールで意識を失っていた事で不安感を募らせていた積であったが、螺旋階段を登り二階に上がったところでゼオスと優の二人と合流し、涙を流しながら接近。

 勢いよくゼオスに飛びつき涙や涎を流しながら抱きついた。


「……離れろ原口積。俺に貴様の涙や涎を喜ぶ性癖はない」

「す、すまねぇ。でもまあそれだけ合流で来たのがうれしかったんだと思ってくれ!」

「積の奴の様子は置いといてだ、単刀直入に聞くが、ゼオス、時空門は使えるか?」

「…………使えるな」

「マジ!?」


 ゼオスの答えを聞き飛びあがる積。が、ゼオスの表情は普段と比べ一層険しく、康太と積の前で能力を使ったところでその理由はわかった。


「……使えるが、範囲はこの建物に中に限定されている。他の場所に移動しようとすると壁に阻まれる。理由はわからん」

「てかアンタら外の見回りをしてたんでしょ。ならなんか異変はなかった? アタシ達の方は突然胸にズドンと重みが来たかと思ったら、話してた研究員の人も含めてみんな気絶しちゃって」

「何だお前ら。外の様子を知らねぇのか?」


 そうして周囲の気絶している人々を手早く隅に安置しながら康太と積が状況を説明。

 それを聞き、優が頭を捻る。


「変ね。この切羽詰まった状況でこの場所にそんな結界貼ってどうするのかしら?」

「どういう事だ犬」

「ラスタリアで世界最大規模の戦いが行われている中ここにそんな結界を貼る意味が分かんないってことよエテ公。考えてもみなさいよ。今この状況で、『黒い海』を管理するこの場所を乗っ取る理由がある?」

「………………いやないな。少なくとも早急にこの場所を奪う必要性はなに一つない、はずだ」

「でしょ。だから正直なところ、アタシはこの襲撃は『境界なき軍勢』とは別の何かの力が働いていると思うの」

「ていうと?」

「それがわかれば苦労しないわよ。で、その答えを知ろうとさっきから頭を捻ってるんじゃない」

「いや、間違ってるよ優ちゃん。この襲撃は間違いなく『境界なき軍勢』によるものだ」


 気絶している人たちを一通り運び終えた四人が休憩スペースにある向かい合っている二人掛けのソファーに座り、自らの考えを優が語る。

 それに積とゼオスが合いの手を入れる中、その声は聞こえてきた。


「……シロバ・F・ファイザバードか…………ですな」


 声のした方角に視線を向けるとそこにはシロバがおり、唯一顔を合わせたことがあるゼオスが、不審気な表情をする三人より先に声をかける。


「マジか! これは生存確定じゃね? 確定だよな!」

「やあゼオス君。あ、それと敬語が難しかったら無理に使わなくもいいよ。面倒でしょ」

「……感謝する」


 ゼオスが告げた名を聞き、立ち上がって喜ぶ積。

 積がガッツポーズを取り思い切り立ち上がる様子をにこやかな表情で見守るシロバがそう口にすると、ゼオスが少々安堵した様子で言葉を返した。


「それにしても驚いたね。まさかいきなり人が倒れるなんて。一体どうしたんだろうね」

「シロバさんももわからないの?」

「まあね。とりあえず風をうまく使ってできるだけ安全な場所に運んでおいたけど、理由がわからない事には何ともいえないね。ところで君たち意外に戦力になりそうな人はいるかい?」

「外の様子は俺とこの康太が見ました! どうやら外界との通信を遮断して、俺たちを外に出さないようにする効果がある結界に阻まれているようです! あと、俺達以外の戦力で言えば屋上に蒼野とブドーさんがいます! な、康太!」

「蒼野君にブドー……か」

「え?」

「それよりシロバさんは何でここにいらっしゃるんですか? ラスタリアで戦っている最中ではないんですか?」

「ん? ああ。緊急の指令が神の座から出されてね。急ぎ足でこの場所に飛んできたんだ」


 康太の首に腕を巻く積の言葉を聞き表情を曇らせるシロバだが、優が質問をするといつも見せるようなニコニコとした表情で気軽に答えを返す。


「そうでしたか。そりゃ驚いた。ならついでにもう一個質問に答えてほしいんですけどいいですか?」

「ん? なんだい?」


 その答えを聞いたところでこれまで黙っていた康太が口を開き、変わらぬ表情で彼を見るシロバ。


「アンタは一体何を連れてきた。その階段の陰に…………誰がいる!」


 危機感や怒り、困惑が混じった声をあげ、彼らが上がってきた螺旋階段を指差す康太。


「ほう。小便垂らしそうなガキの群れかと思えば、どうやらある程度はやれる奴が混じっているみたいじゃねぇか」

「は?」

「え?」

「……なに?」


 その奥から現れた男の姿を目にして、全員が動揺の声をあげる。

 鍛え上げられ、木の幹の如き太さにまでなった両手両足を備えた、浅黒い肌をして切り揃えた短髪にあまり不揃いな顎髭を蓄えた巨漢。

 他者を徹底的に見下すその口調の主を彼らは知っている。


「ウルフェン!」

「ウルフェン、様だ。様をつけろ雑兵共」




「ロッセニムの覇者ブドー。そして…………ほう、これはこれは。この場に最もいるはずのない者と遭遇するとはな」


 蒼野とブドーの二人が臨戦態勢を取る中、紫色の空に覆われた世界に声の主が現れる。


「なっ!?」

「お前は!」


 その姿を見間違えるはずがない。

 肩や膝。腕や脚。果ては胴体に至るまで様々なところに鋭角的なフォルムを宿したフルフェイスの黄金の鎧。


 本人にその気はなくとも、聞く者を自然と萎縮させる威圧的な声。


 放つ気は覇者の風格。歩みは堂々。


「何故だ。何故お前がここにいる――――――ミレニアム!」


 世界を変えようとラスタリアにて連合軍相手に最後の戦いを挑む『境界なき軍勢』。


 その主にして『三狂』に一角。


 世界最強の『悪』ミレニアム。


 その男が決戦の地から百キロ離れた『黒海研究所』に降臨し、


「悪いがこの場所を譲ってもらうぞ。ブドー。そして古賀蒼野」


 そしてそれが、この世界の行く末を決める、本当の最終決戦の始まりであった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


お話していた通りの予約投稿でございます。

そしてこの第二章の最後の区切りでもあります。


二章全体、というより毎日投稿はこの二章の終わりまで続ける予定なのですが、

書籍単位で考えると、ここが最終巻との区切り辺りになると思います。


さてそんな本編の内容は、この戦いの核心部分。ミレニアムの企みが何かという話へと移って行きます。

そして二章の最後という事もあり、別の章まで続く謎を除けば、疑問などの解答にも移って行きます。


兎にも角にも、第二章はクライマックスに突入。

最後までご覧いただければ幸いです。


あと、明日に限っては投稿できるか不明なのでご了承ください


それではまた次回、ぜひご覧ください


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