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砂中の歯車


 この戦いは、後に歴史に刻まれる大きな戦いである。


 参加していた連合軍の戦士達、立ち向かう民草や『十怪』。そしてミレニアム。


 それらの多くが様々な形で伝えられ、生まれてくる者はその熾烈さを知る。


 だが一つ、ただ一つだけ記されることのなかった出来事がある。


 後の世に語り継がれず、記されず、歴史の闇に消えた事態がある。


 とはいえこれは誰かが意図して行った事態でもなく、不注意から来る失敗でもない。



 もっと単純な話。つまり――――――真相を知らないのだ、誰一人として。



 視界遮る奇妙な空間で起こった事実を。


 戦場で名を連ねた戦士たちは、誰一人として知らないのだ。


 ただそれだけの事である。




「た、隊長。我々はこのまま待機でよろしいのでしょうか?」

「それがイグドラシル様の指示だ。我々は、それに従う事しかできない」


 砂吹き荒れるその戦場の奥を知る者は誰もいない。


「ぎゃ!?」

「ひ、ひぃ!?」


 ただ純然たる事実として、そこでは一方的な虐殺が起きていた。

 内部へと入ってくる者を容赦なく死へと誘う悪魔の口膣。その奥からは無数の悲鳴が上がるのだが、それは外にまで届くことなく、伸ばした腕も力尽き地に沈む。


 その光景は決して外には漏れず、後に残るのは砂嵐の外から溢れたこの星の代表者に逆らう機械の残骸と無残な死体なのだが、その光景を見て傍観者たちはふと考える。


 これは本当に正義なのか?


 凄惨で残虐な行為を連想させる、苦悶に満ちた表情を浮かべ息絶える人々の姿は痛ましく、彼らの心に影を産む。

 これが許される行為なのかと心が抵抗を示すのだが、その思いが行動に移されるよりも早く賊軍は減って行き、この戦いの趨勢は瞬く間に決しようとしていた。




「蹴散らしなさい」




 そんな決まりきっていた道が、大きく歪む。


 彼方から放たれた誰も聞いていない声の刃はラスタリアで具現化し、戦場に大きな変化をもたらす事となる。




「なんというか…………圧倒的だな」

「ああ。詳細はわからないが、これが第四位が抱えているという部隊の実力なのだろう」


 砂嵐の中に潜む怪異の勢いは凄まじかった。

 様々な機械や能力を弾く性質を持った数キロを軽く包む砂嵐は、炎が導火線を潰すかのように敵を呑み込んでいき、彼らを死体へと変貌させ元の世界に返していた。

 その勢いは恐ろしいもので、瞬く間に北側正門に迫る脅威を退けていっていた。


「ん? ノア、今何か見えなかったか?」

「いや? 気のせいじゃないか?」


 その時、レイン・ダン・バファエロが違和感を覚える。

 

 雲一つない空を昇り成層圏さえ破り伸びていく砂嵐が、僅かに揺れたように思えたのだ。

 それは本当にごく僅か、かつ一瞬の出来事であったため彼は見間違いと思ったレインであるが、その認識をすぐに改める事となる。


「な、なんだこれは!?」


 目を見開き、注視した先で目にした光景。

 それは先程までと変わらぬ圧倒的な蹂躙だ。

 しかしその進路や動きは先程までと大きく異なり、天まで伸びていく砂嵐は『境界なき軍勢』だけでなくラスタリアへと戻ろうとしていく者達まで巻きこみ、その速度を急激に上昇させていく。

 それからしばらくして両軍の死体に加え灰のように真っ白な砂が大地に広がり、レインやノアの見ている前でラスタリア正門にまで迫って行った。


「まずいな。正門を破るつもりだぞ」

「そうはさせん! 行くぞ!」

 

 それを異常事態と見た彼らが突入しようと意志を固めると、一度だけ砂嵐は大きく揺れ、更に巨大な物へ変化。奇妙な事に動きを止めた。


『全軍に次ぐ。必要な戦力は投入した。その砂嵐には絶対に突入するな! これはアタシの判断ではない。神の座の判断だ!!』


 すると思わぬ変化に動きを止めた彼らの耳に指令が届き、それを聞いた彼らは考えを改める。


「これは一体、どういう事なのだ?」


 とはいえ関心が消えたわけではない。

 ノア・ロマネは砂嵐に呑み込まれぬよう距離を取りながらそう呟き、この地震では認識しきれない騒動が収束するのを待ち続け、


 数十秒したところで彼らの目の前で砂嵐は掻き消えた。





 誰も飛びこめない地獄の中で影が動いていた。


「―――――――――!!」


 凄まじい轟音の中で発せられた声は対象に届くことなく掻き消え、それを耳にしたかどうかもわからぬ存在は迫る脅威を退ける。


 観測者の有無すらわからぬその世界で、気がつけば動いている影は三つだけになっていた。


「っ!!」


 その内の二つの影が残る一つの影へと迫り攻撃をして行くのだが、目に見えない力がそれらを弾き、返す刀で撃ちだされた何かが逆に二つの影を追いつめ、最後に放った一撃が、二つの影のうち大きなものに直撃し、何かが空へとはじけ飛んだ。


「―――――――!!!」


 その瞬間、事態は大きく動きだした。


 三つの影のうち最も小さかった影は砂嵐の勢いすら吹き飛ばす勢いの怒声を発し、戦場から離脱し腕の方へと向かっていく。

 するとそれに追従するように対峙していた影も動き出し、幾つかの視線が空に浮かぶ物体へと注がれ、


「「!?」」


 次の瞬間、誰もが手を伸ばし、目で追っていた物体が、姿形を消してしまう。


 その事態に大半の人物が混乱し、自分たちは夢を見ていたのだと思うのだが、


「っ! 時間!」


 夢を覚ますかのように少年の声が消えゆく砂嵐の中に木霊し、止まっていた時間が動き出す。


 すると中に居た人物達は泡が溶けるように消えていき、一人また一人とその痕跡を世界から消していき、


 衆人環視の中で、戦場は正常な物へと還って行く。



「正門が」

「破壊された…………」



 この戦線に参加する者に残された事実はただ一つ。この世界における最も重要な土地。その正門入口が破壊されたという順然たる事実だけだ。



「…………」



 そしてもう一つ、当事者にしか分からぬ事実がある。

 ほんの一瞬、誰もが視線を向けた争奪戦。

 それを勝ち抜いた彼が手にしたもの。


 それは何者かの『腕』であった。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


はい、というわけで先日から話していたわけワカメな話です。


この話について詳しく分かるのはずっと先で、

それならこのタイミングで挟まなくてもいいじゃん! と言われるかもしれないんですが、

事情がありここでいれました。


次回からはこの戦いの話に戻るので、許していただければありがたいです。


ただちょっと明日明後日がリアルの方で結構忙しく、明日の分は予約投稿で20時に投稿するようにしておくのですが、明後日の投稿がどうなるか不明です。


見ていただいている皆さまには本当に申し訳ないのですが、よろしくお願いします



それではまた明日、ぜひご覧ください

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