革命狂騒劇 急
「シロ、バ!」
叩きつけられた一撃の衝撃に、鋼鉄の男が顔をしかめる。
その後すぐさま反撃に出なければと意志を固める彼であるが、自分の体が思うように動かせないよう絶え間なく続く攻撃の波に舌打ちする。
自身と同じ切り札と言っていたからには、属性混濁がシロバの切り札なのはすぐにわかり、その内容がどのようなものなのかもすぐにわかった。
「光属性っ! 速度の付与か!」
日輪の輝きとは別の光が溢れ、それを認識したと同時に彼の全身に不可視の斬撃が届いている。
その輝きを見れば彼が得た力は一目瞭然だが、だからと言って安堵で胸を撫で下ろす事はない。
いやむしろ、その恐ろしさに寒気がする。
得意属性に別の属性の特性を『能力判定』に引っかからず付与することが可能になる属性混濁だが、その中にも当たりはずれはある。
その中でも最高の当たり候補として挙げられるものの一つが光属性のよる『速度』の付与だ。
様々な属性に光属性の全属性最高の速度を付与するその力は、シンプルながらも凄まじい効果を発揮。この特性を持って生まれた人間は、誰もが歴史に名を残す戦士へと成長することが約束されていた。それこそ、長い星の歴史の中では一時代において最強と呼ばれる者も存在する。
「ちぃ!」
そんな最高クラスの属性付与だが、最も相性のいい組み合わせは『鋼属性』と『風属性』の二つだと言われていた。
「シロバァ!」
鋼属性にこの特性を付与した場合、全属性最高の硬度が流星の如き速度で敵を粉砕する狂気へと変貌させる。
風属性の場合は速度の上昇により、斬撃の切れ味を凄まじい鋭さに変貌させる。
「斬り裂け!」
「っっっっっ!!」
その刃は、鋼すら断つ程に。
難攻不落の人間要塞だった男の体に、絶え間なく撃ちだされる輝く刃が確かな傷を与えていく。
「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
その結果を前にして男は咆哮する。
明確な脅威を前にして、それを跳ねのける意志を声に出し前進する。
「近づくんじゃねぇ脳筋が!!」
「ずっ!?」
するとそれを見たシロバは輝く斬撃を撃ちだすのを静止し、表面が平たい、拳程の大きさの風の塊を連射。それは鋼鉄の肉体に当たると傷つけるのではなく後方へと体を押し返し、両者の距離が開いていく。
「っ!!」
「小細工なしの直進かよっ! 美しさのカケラもないな!」
その抵抗を受けても、男は足を止めない。
厄介と思った彼が様々な方角から攻撃を行い男を崩そうと躍起になるが、攻撃を受け続ける男はむしろこれまで以上の力で地面を踏み前進し、着々と距離を詰めていく。
「ま、僕がお前の意地に付き合う理由なんてないんだがね!」
とはいえ当たり前の事ではあるのだが、風の申し子が馬鹿正直にそれに付き合う義理はない。
輝く風の刃を撃ち出しながら距離を取り、目前の宿敵を仕留めるのに十分な距離を確保していく。
「シロバァァァァァァ!」
「うおっと!」
なおも愚直な前進を行う彼は、宿敵を壁の一角まで追い詰める。
その事実に僅かに驚くシロバは、しかしすぐに左右への移動を開始し、再び自身の勝利が約束されている距離を保とうと動き出すが、
「ぬぅん!」
「何!?」
次の瞬間、床と壁が隆起し、その奥から黒い靄を纏った砂でコーティングされた岩の壁が部屋の四方の壁を突き破りながら二人の動ける範囲を狭めて来た。
「クロ、バ!」
動ける距離が瞬く間に奪われていき、避けようのない終結の時を前にして、男の顔に焦りが生まれる。
すると近づかせる前に勝負を決しようと風の刃の勢いは熾烈さを増していくのだが、全身を硬化させた男は表情一つ変えることなく一歩ずつ前へと進み、
「終わりだ」
静かに、しかしはっきりと聞こえる声で、男の前に立ちそう告げ、
「むん!」
掲げていた拳を振り下ろす。
「黒い靄がお前の体を縛らない理由は――――」
「!」
「お前の体も同質の靄を纏っているから…………逆に言えば靄さえ隠せばその判定から外れると思うんだが…………どうかな?」
はずであるのだが、彼の腕は静止する。
その理由は至って単純なもので、振り上げられた彼の体に固体として実体化させた桃色の風の塊が付着しており、近づいてきた岩壁にへばりついている無数の黒い靄に接触し鎖と合体。
使い手であるクロバの動きをほんの僅かな間ではあるが静止させていた。
「ロイヤルスラッシュ(高潔なる白刃)――――――」
そしてその瞬間!
「パニッシュメント(断罪!)」
シロバが全身におびただしい量の傷を付けた宿敵の腹部に触れ、自身が持つ最大最強の一撃の名を唱え、
「ぐ…………がぁ―――――」
その肉体に触れた掌を中心に十二方向に伸びる斬撃が刻まれる。
それは彼の肉体の表面だけでなく内部にまで浸透し、幾度か痙攣を繰り返したのち、クロバは膝から崩れ落ち意識を失った。
「流石は脳まで筋肉でできている怪物だ。ここまで粘るか普通」
「お疲れ様ですご主人様……って、うわ! すごい血しぶきですよ。大丈夫ですか!」
戦いが終わり数分後、館の最奥にあった書斎の扉が開く。
そこから現れた主の姿を前にして、二人をここまで案内した執事が砕けた口調で話しかけた。
彼の言う通りシロバの格好は凄まじいもので、体中の至る所に血を飛び散らせ元の色が判別できない状態に変貌。
内部の様子を見渡すと、明かりが消えたその部屋は何らかの天災に見舞われたかのような荒れ具合であり、部屋の中で行われた戦いの熾烈さを鮮明に表していた。
「持っていく装備の準備は?」
「既に終えています」
「わかった。ああクソッ! クロバの奴め。数少ない超回復薬を二つも使わせやがって。残るはあと……五つか。ギリギリ足りるか?」
至る所に鋭利な刃物で斬り裂いたかのような斬撃の跡と、巨大な物体で貫いたかのような穴が空いており、そして元の大きさに戻った部屋の最奥では、クロバ・H・ガンクが力なく横たわっていた。
「この後の事は君達個人個人に任せる。今の時間は?」
その様子を確認しながらこの後の段取りを思い出しそう告げるシロバ。
「九時半です」
「少し時間があるな。よし! なら僕は風呂にでも入ろう。せっかくの晴れ舞台に、血だらけの姿でなんて出たくないからね。身だしなみの整頓はデキる男の義務だ」
「ぷっ!」
「おいおい、何でそこで笑うんだよ」
すると彼はそのような事を口にし、それを聞き突然吹きだす部下の姿を見て半目で指摘すると、執事の男性は目に涙を浮かべながら口を開いた。
「いえ、これから世界の命運を賭けた決戦だというのにご主人様の様子があまりに変わらなくて。思わず吹き出してしまいました」
「全く失礼だなウチの使用人は…………ま、そうなるように常々言ってきたのは僕なんだが。ていうか、僕だって緊張はしてるよ。ただ……」
「ただ?」
「僕はもう、覚悟を決めた。後悔のない道を選んだんだ。だから後は――――進むだけさ」
「……失礼しました。では、新しいお召し物を用意させていただきます」
真顔で言いきるシロバの言葉に執事が恭しく礼をする。
その後百八十度向きを変えその場を去ると、シロバは風呂場へと移動する。
「…………もしもし、僕だ。ああ……クロバは始末した。ああ…………わかった。五分前には現場にいられるように努力しておく」
風呂場へ移動し血で濡れていた上着を放り投げる。
そうしている最中彼の懐から聞きなれたメロディーが鳴り響き、すぐに取る。
そこから聞こえてきた声に表情を険しくさせながら受け答えをすると、何もない空間にモニターを浮かびあがらせながら操作を行いすぐに終えると、
「さあて、開戦だ」
彼は決意と覚悟を抱いた声で、そう口にした。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
遅くなってしまい申し訳ありません。本日分を更新しました。
本編の方は二人の対決が終了。そして話の区切り目となるタイトルが登場。
この第二章はついに最終決戦へと進んでいきます。
というわけでいきなりですが皆さまに感謝を。
作者としても長々と書いてきましたやはり毎日皆さまに見ていただけると考えると、それだけで大きなモチベーションになりました。
最後までガンガン書いて進めていくので、お付き合いいただければ幸いです、
サプライズですごい事もする、かもです。
それではまた明日、ぜひご覧ください




