表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
464/1361

AGGRESSION WAR 裏切者


「おはよう諸君、昨日はよく眠れたかな?」

「「………………」」

「「!」」


 神教における最後の守護者陥落の報から一夜が明けた次の日。

 午前八時十五分。

 アイビス・フォーカスの猛攻から生き延びた戦士達を前に、黄金の王が姿を現す。


 ちょうど一日前、黄金の王の登場で静謐な空気を作りだした隠れ家であったが、その日は違った。


 ほぼ全員が声を発する事はないのだが、胸に抱いている感情は多種多様なものに変化。

 少なくとも昨日まであった、ミレニアムという存在に対する妄信に近い信頼感は失われていた。


「そうか、この様子を見るにほぼ全員があれを見たか。ま、当然の反応であるな」


 その空気を、多くの者達を見下ろすミレニアムもまた正確に感じ取る。


「ならばまずは謝罪をするべきであろうな……先日は貴様らの理想の我、どのような障害や他者を相手にしても正面から蹂躙し、全てを蹴散らし破壊する我が、このうえない醜態を晒してしまいすまなかった」


 そのような彼らを目にして、腕を組み、瞳を閉じ、しみじみと言葉を綴るミレニアム。

 頭を下げることまではしなかった彼であるが、それでも今彼らに晒すその様子は、この大軍勢を指揮し自らも正面に立ち敵を粉砕する彼が見せる、精いっぱいの謝罪であった。


「であるならば、我は諸君の目を覚まそう。そうだ、我も貴様らと同じ、負けるくらいならば何でも使い勝つ男だ。それが、意地汚い不意打ち奇襲であったとしてもだ!」


 その上で腕を伸ばし肩の高さまで持っていき、開いた状態であった手を握る黄金の王。

 その一連の動作と同時に語られた内容を聞き、その場にいた人々が動揺し声をあげる。

 彼が直接語ったその内容は、彼らがそれまで想像していた『無敵の蹂躙者』という形の姿とはあまりにも乖離していたからだ。


「だが同時に!」


 どよめく声は空間を埋め尽くし、ここまで戦ってきた戦友たちの心に隙間ができる。

 目の前で自分たちを率いる男に、本当について言っていいのかという疑問が湧く。


「我は誓おう!」


 そんな彼らの心の叫びを、黄金の王の力強い声がかき消す。

 彼の演説を聞いていた千万を容易く超える人々の動揺を吹き飛ばし、その耳を、視線を、自身の一挙一動に半ば無理矢理注がせる。


「全身を泥で濡らすことがあるだろう! 勝てぬ相手を前に卑怯な手を使う事もあるだろう!」


 あまりにも情けない、しかし普段以上に力の籠ったミレニアムの叫びを前に彼らの心が揺さぶられる。

 何を語るのかと、心底気になる様子で先を待つ。


「だが! 最後には必ず勝つと!! どのような過程を踏もうとも! 最後には必ず勝利へと導くと!!」


 その場にいた者達が彼の言葉を頭ではなく心で理解する。

 同時に目の前の存在に対する意識を『無敵の蹂躙者』という形から『無敵にして不敗の覇者』という印象を抱かる。

 すると彼らの心に巣くっていた弱気は吹き飛び、全身に炎が宿る。


「我こそは勝利の王であると! いかなる障害、強者、猛者、百戦錬磨、一騎当千、万夫不当、超越者――――そして神! どのようの者が立ちふさがろうと、最後には勝利に導くと!」


 そこまで彼が口にしたとき、彼らの心に迷いはなかった。

 どのような困難が待ち受けようとも、最後までこの男に付いて行こうと心に決める。


「征くぞ! 今宵、我々は神教を打倒する! 新たなる歴史を!! ここに作る!!!」


 そう叫んだミレニアムが拳を突き上げると、それに合わし全員が叫び声を上げ拳を上げる。

 それは防音設備が完備されていた部屋全体を埋め尽くし、


「すげぇなおい」


 その様子を同じく壇上に上がっていたエクスディン=コルが半分関心半分呆れといった表情で眺め、様々な感情が混ざったため息を吐き声をあげる。


「では本日、いや最後の作戦を発表する! といってもさして難しいものでもない」

「はっ!」

「我が貴様らに告げる命令は二つ! 一つ目は至極単純だ…………蹂躙せよ! 持てる力全てを使い、立ちふさがる敵全てを蹂躙せよ!」

「はっ!」


 空間が揺れるほどの声で、ミレニアムに対し彼らは敬礼をする。


「二つ目だ。俺が撤退命令を出した瞬間、貴様らは戦場を離れ引け。それから数分後、世界は我らのものとなっている」

「はっ!!」


 命令の真意など彼らは今更問わない。

 ただただ天に存在する絶対者の指令を妄信し、声をあげ敬礼を繰り返す。


「作戦は以上だ。だが真に問題なのはこれからだ、諸君にはいくつかの勢力に分かれラスタリアを襲撃してもらう。Aの番号札を持つものは北側、Bの番号札を持つ者は――」


 その後数分にわたり細かな指示が続けられ、兵士たちが熱心な様子で話を聞き続け、その全てを聞き終えた時約半数が驚き、周囲の人々と興奮冷めぬ様子で話をしていた。


「では、準備を行い覚悟を決めよ。決戦の時は、すぐそこにまで迫っているぞ」




 貴族衆Fの家系ファイザバード家は、貴族衆全体においても特別な家系であった。

 時代の節目には所属する家系を入れ替える彼ら貴族衆の中でも、Aの家系ベルモンド、Bの家系ノスウェルと並ぶ最古参の家系の一つなのだ。

 それゆえに他の家系にはない役割があり、一言で表すならばこのファイザバード家は、貴族衆が掲げる『理想や願い』をそのまま形にした都市であった。


 貴族衆の理想とは、この世界全体を保つバランサーとしての機能だ。


 どのような時代、どのような世界になろうと、運営する26の家系により世界の秩序を正し、その上で『楽園』を作りだそうとする信念。

 それを体現したファイザバード家管轄の都市『エデュン』は、貴族衆だけでなく多くの勢力や人々が目指す理想を体現した場所と化していた。


 特に目を引くのはこの町に住む人々だ。


 賢教、神教という千年続く対立を続けている二大宗教に所属している人々が、隣同士で住みにこやかな挨拶を交えている。

 町を歩く人々の中には鳥人や獣人、魚人はもちろんの事、鬼人などの希少な種族までがメインストリートを闊歩し買い物をしている。


 言うなればこの場所は、差別なく誰もが平等に過ごせる安楽の李なのだ。


 午前八時四十五分


 そんな場所を、一人の男が誰も連れずに歩く。


「………………」

「「!」」


 木々に囲まれ綺麗な川が流れるその土地に住み、幸せな日々を送り続ける住民たちは、その男を見て表情を凍らせる。

 と言うのもその男だけは、この場所に来るはずがないと考えていたからだ。


 その男は、わけ隔てなく人々が住むこの場所において唯一歓迎されない人間。

 ファイザバード家が古い時代から顔を合わしては睨み合ってきた宿敵とも呼ばれる家系、その現当主だ。


「失礼する」

「お待ちしておりましたクロバ様。当主様が書斎でお待ちです」

「わかった」


 男が豪邸に辿り着き、黒のスーツに身を包んだ使用人に案内されながら歩き出す。

 彼らは一階のロビーからエレベーターで三階にまで上がっていき、登った先でいくつもの部屋が等間隔に並ぶ茶色のカーペットが敷かれた廊下を歩き最奥にある部屋に辿り着く。


「失礼します。お客様がお見えになっています」

「そうかい。入ってもらってくれ」


 クロバの前を歩く使用人がノックを繰り返し、その奥から返事がある。

そうして扉を開けた先に待っていた当主、シロバ・F・ファイザバードが、自室にある椅子に腰かけながら、入ってきた人物をジロリと見た。


「やあやあ、久しぶりだねクロバ。早速だが要件を伝えるよ。というか、君ならここに呼ばれた理由くらいわかるだろ?」


 不機嫌を隠さぬ様子で語るシロバ。

 彼の手にはクリップで留められた書類があり、それを見たクロバが苦い表情をする。


「ま、こういうのはお約束でね。一応言わせてもらうよ。『境界なき軍勢』に裏から手回しをして神教、いや連合軍の情報をリークしていた人物。それは君だクロバ」



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


世界を揺るがす二章最終決戦。その二日目の始まりです。

これまで幾度となく語られてきた裏切り者に対し、ついに焦点を当てていきます


それではまた明日、ぜひご覧ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ