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AGGRESSION WAR 開戦 


「凄まじい熱気だな」

「あぁ。連中もここが正念場だと踏んでいるのだろう。これは気を抜くと痛い目を見るな」


 レインとノアの二人が、空に浮かびラスタリアへと向け迫る賊軍に視線を向ける。


 距離にして約五十キロ先、地平線の彼方から現れる人の波を見つめるレインとノア。


「数はわかるかね?」

「わからん。ただ以前宇宙に飛びだし異星を飛び回る大型遠征に行った際、同じような光景を見たのを思い返すと…………恐らく千万は下らないな」

「それほどの数が攻めてきているという事実は確かに恐ろしい。がそれ以上に、今のこの治世に不満を抱いていた人間がそれだけいた事実が私は怖いよ」


 レインの述べた別世界での戦いに思案しながら目前に迫る脅威に身を震わせるノア。

 彼は懐から数枚の紙を取りだすとそれを自然な動作で空に放つ。


「正面以外にも三方向、三時、六時、九時の方向からも同等の大群が来ているな」

「…………」


 レインの伝えた内容を聞き、思わず頭を抱えるノア。

 それから心を落ち着かせるために板チョコを取りだすと、一口齧りすぐに懐に戻した。


「ところで、出現ポイントは確認できたか?」

「いや、相変わらずわからないな」


 冷静になった頭で、確認するべき事をしっかりと聞くノア。

 しかしレインがどれほど目を凝らしても出現ポイントは見つからず、紙を使い大軍の様子を伺っていたノアもそのような物は見つけられなかった。


「千万の大軍が四つか。本当にすごいな。正直、奇妙な興奮すら感じるよ」

「そうだな…………ああそうだ。ここまで来ればもう……面倒な事は私も考えない」


 降り注いだ全ての紙が地面に着陸し、何度も折られていたそれが徐々に徐々にだが開いて行く。


「さあ開戦だ」


 そうレインが口にした彼ら二人へと向け彼方から十数発の追尾式レーザーが降り注いだのはほぼ同時。

 それらを容易く躱し、ノアがその場に一枚の紙を貼りつけ地上へと急降下。

 レインは斜め前に出て、狙撃手が集まる展望台へと移動。

 続いてノアがラスタリア周辺の地面に置いた紙が完全に開ききると、そこからラスタリアへの道を防ぐような巨大な砦が出現した。




「まず始めに最も重要な事を伝えておく。此度の戦は二日に分けて行われるものであり、今日明日では、大きく方針が違う。このことをよく頭に刻みこんでおけ」


 進軍開始十五分前。

 五千万を超える大軍を前にミレニアムが説明を始めるのだが、それは奇妙な光景であった。

 五千万の人間が一同に会するというのは、普段ならば決してありえない。

 それだけの人数が集まる場所を作るというのも大変だが、それ以上に集まる理由がないのだ。

 ゆえに集まるだけで異常事態であるのだが、その集まった後の様子が異様であった。


 ミレニアムが声を発し、その姿が虚空に映しだされたモニターに映しだされる。

 それだけの事でざわついていた彼らの空気が緊張感に包まれ、途方もない数の人間たちが口を閉じる。

 その光景が壇上に上がる『彼』からしたら最も恐ろしかった。


「此度の戦が二日に分かれる理由は単純だ。アイビス・フォーカスがいる一日目と、アイビス・フォーカスがいない二日目、そのような区切りだ」


 そこから少し離れた位置で淡々と語る黄金の王だが、その言葉の意味を理解し全員が息を呑む。

 自分達、いや幹部である面々よりもさらに高い壇上に登り作戦を説明するこの黄金の王は、今日世界最強の一角を下すと堂々と宣言したのだ。

 千年間誰も成しえなかったその偉業を実行すると、はっきりと言いきったのだ。


「では一日目である今日の詳細を語る。アイビス・フォーカスは諸君が想像する通りこの我が打倒する。

神教側の幹部共はこちら側の幹部共が食い止める算段だが、今日に限ってはそう前には出てこないであろう。

 さて、そんな中諸君が目指す目標は至って単純だ。我がアイビス・フォーカスを撃破するその時まで、決して死ぬな。

 今日ばかりは汝らに自らの覇を示せとは言わぬ。生き延びることにだけ意識を注げ」

「「はっ!」」


 誰もが彼の力強い物言いに呼応しながら敬礼し、胸に溜まった思いを声に出す。

 そのままの勢いで彼らは順次定位置につき、決戦の瞬間を待ちわびる。


 その時の彼らは、決して油断していなかった。

 自らが信仰する王の勅命を受け、意識を集中させ、今日生き延びることを念頭に置き守勢、耐久などの守りにだけ意識を注いでいた。

 しかしそんな彼らに想像を絶する試練が待ち受けている事に、まだ誰も気づいていなかった。




「止まれ! 目の前に砦がある!」


 所定の位置から出た『境界なき軍勢』の戦士たちが、立ちふさがる真っ白な砦を前に足を止める。

 ただ進軍するだけでも大変な彼らが足を止めるのにはある程度の時間が掛かるが、それでもラスタリアから見て北側に位置する場所から攻めこんだ千万人は、誰一人怪我することもなく足を止めた。


「どうしますか。壁に対する攻撃を行いますか?」

「…………うーむ」


 ミレニアムが首魁である『境界なき軍勢』は完全な縦社会だ。

 武勇だけでなくあらゆる要素において『上』の者の主張が通され、『下』の者がそれに適応する。

 最も権力のあるミレニアムが掲げる新たな法により、競争活動の妨げになるような行為や私利私欲に走った行為は厳しく罰せられるが、より高みに昇るための新たな試みは常に推奨されている。


「いや、無理な攻撃行動はよそう。王は我々に『戦え』とは言わず『生き残れ』とおっしゃった。とするならば『攻め』ではなく『守り』に重点を置くべきだろう」

「ではそのように伝えます」


 今回の進軍においてもミレニアムや幹部であるウルフェンやソードマン直属の部隊以外の面々については、軍師として上位四名が各所の指揮をしており、下の者の意見を取り入れながら行動をしていた。


「少々消極的では?」

「自分でもそう思うよ。しかし我らが王は我々は今日に限り戦わず生き残ることだけに意識を向けろと言われた。このことから推測するに、かなり熾烈な攻撃がやってくると予想される。ならば、それにいつでも対抗できるようにしておかなければな」


 副官の問いに対し苦笑しながら返す軍師。


「なるほど。周囲の状況確認はいかがいたしますか?」

「それだけはしっかり行っておきたい。守りに自信がある者を数人つけ、探知能力持ちは地上の状況確認を。飛行能力持ちは空からの確認を行え」


 彼はそのまま指示を出していき、その指示を副官が全体に対し無線で伝える。

 千万人による長蛇の列にその指示が行き渡ったのはすぐの事で、数ヶ所から空に昇る者達が現れ、また別の場所では周囲と砦の中の探知を始める者がいた。


「あ、あれを見てください!」

「ん? エクスディン様か」


 そうして砦の前で守りを固める彼らの横を一個師団が駆け抜けていき、最後尾にいた『十怪』の一角エクスディン=コルが軍師の元に舞い降りた。


「おう、気張ってんなお前ら。ま、この戦争はかなり熾烈になるだろうからよ、あんま無茶はすんな。

 ただの勘だがな、おじさんの予想じゃ守りに徹底した今の構えでいい。下手に攻めたら、待ってんのは地獄絵図だ」


 数多の戦場を駆け抜け世界最悪の下衆野郎と言われる『戦争屋』の勘は恐ろしい精度を持っている。

 これは康太の持つ直感のような無意識による未来予知というよりは経験則に近いものなのだが、様々な戦場で培ってきたその精度は恐ろしく高い。


「き、肝に銘じておきます」


 その言葉を聞き、胸を押さえる軍師。

 それを見届けたエクスディン=コルは再び走りだし、立ちふさがっていた壁を何の躊躇もなく飛び越えた。


「エクスディン様はなんと?」

「ああ。王のおっしゃっていたことと同じだ。要約すると、今日はゆっくりしてろということだ」

「な、なるほど」


 そうは言うものの彼らの目の前でエクスディン=コルは容易く砦を飛びこし中へと入って行ったのだ。自分たちもそうするべきではないかという気持ちが出てくる。


 下手に攻めたら、待ってんのは地獄絵図だ。


 しかしほんの数秒前に伝えられた指示を順守することを決め、彼らは本格的に籠城の構えを取るための準備を開始。


『あら。攻めてこないのね。こんな前からの侵入者を防ぐためだけの砦なら、列を乱して登ってくる奴がいると思ったんだけど』

「あ、あれは!」

『どうやらミレニアムの指示は、かなりしっかり行き届いてるみたいね』


 砦の内部からは一切音は聞こえず、外で待つ彼らは夏の日差しに晒され汗を流しながらもただ周囲の警戒を行うのみ。この世界の今後を決める大きな戦にしてはあまりにも静かな戦場に――――――声が響く。


「ア……アイビス・フォーカス」


 その声の主をその場にいた全員は聞き間違えない。

 虚空に突如現れた灰色の画面が映しだしたのは、この世界で最強の一角と言われる女の顔だ。


『こんにちは賊軍のみなさん。今日は貴方達に最終通告を行いに来ました』


 それからあいさつの後に行われた最終通告という言葉に、その場にいた百万人全員が口に溜まった唾を飲みこむ。


「ここで降伏を宣言すれば、貴方達には手を出しません。踵を返し『境界なき軍勢』に所属する前の組織に戻りなさい」


 その状況で告げられた提案に彼らは意表を突かれる。


 彼らは世界中で暴れまわってきた。

 そんな彼らに対する最終通告はあまりにも優しいものであったのだ。


「ふざけるな! ここまで来て引き下がれるか! 私たちはここに戦いに来たのだ!」

「そうだ! どうせここで引いたところで、世間の目は俺達に厳しい!」

「俺たちが生き延びるには、ここで勝つしかねぇんだよ!」


 だが彼らは既に理解している。

 たとえここで引いたとしても、彼女が許しても世間はそうでないことを。

 命だけ拾って帰ったとしてもここにいる彼らは元の生活に戻ることなどできず、充実した人生を送るためには、ここで勝つ必要があるのだと自覚していた。


「俺たちは勝ちに来た。降伏するのは神教の方だ!」


 ここだけではない。


 東・西・南の三方向でも同じ質問が投げかけられ、同じような答えが返される。


「そう……じゃあ」


 それを聞いた彼女は一度だけ深いため息をつき、


「もうあなた達はこの世界に必要ありません。五千万人全員――――――ここで死に果てよ」


 テレビで見せる太陽のような笑顔と快活な声からは決して想像できない、無表情と平坦な声で、五百万の人間に対し冷酷無比な死刑宣告を行い、


 そして地獄の釜は開かれた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


最終決戦始動。

その始まりを告げるのは神教最強の座アイビス・フォーカス。

次回からはこれまで彼女が見せて来た様子とは一風違う面が見れると思います。


先に言っておくと結構熾烈かもです


それではまた明日、ぜひご覧ください



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