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Despair night 一頁目


「レインさん。デスピア・レオダの野郎の様子はどうだ!」

『徐々にだがウイルスの蓄えを戻している。周囲のウイルスを全て使いきっただろうが、その代わり全快になったと思ってもいいはずだ』

「ほんっとにめんどくせぇ生態してやがるなこの野郎は!」

「だからといって無理に前に出るなよ。万全の状態だというのならば、最悪喰われるぞ」

「わかってるって」


 ハナアビでの戦いが終わってから半日以上が経った。

 当初はさほど時間をかけることもなく追いつめることが可能であると考えていた善とクロバだったのだが、その思惑は外れ、追走劇は深夜にまで及んだ。

 そうなった大きな理由は二つあり、一つはデスピア・レオダが町や都市に入る度に、捕獲を後回しにして住民の避難に時間を割いていた事。

 そしてもう一つは、デスピア・レオダがクロバの鉄砂や善の攻撃により対応できるようになってきたことだ。

 特に顕著なのがクロバの鉄砂による攻撃に対する対応で、同じような動きをウイルスを使い真似ることにより、相殺されることが多くなった。

 これに加え鉄球による攻撃の多くも回避されることから、クロバが触れずにできる行動の大半が対処されるようになってしまった。


「追いかけっこも長くはやれねぇ。そろそろ仕留めなけりゃまずいぞ旦那」


 また、善の攻撃も完全に対処されることはなくとも、攻撃のカラクリを理解し、致命傷を避けるような動きも見て取れた。


「旦那!」

「ああ。奴め、また村に潜伏するつもりだ」

「埒が明かねぇ!」


 半日前と比べても一切勢いが衰えていない健脚で走る二人の視界に、小さな村に入るデスピア・レオダの姿が見える。

 全身を霧状にしてゆっくりと中に侵入するその姿は、これまで実体化したまま急いで入る様子とは根本的に違い、自分たちを誘っているのだという事にすぐに気がついた。


「行くぞ善」

「おうよ」


 それを前にしても、彼らは警戒こそすれ恐れはしない。

 臆する事なくまっすぐと駆けていき、これまでと違う動きを見せた彼を目にしながらも、この場所で撃破することを胸に誓う。


 そうして彼らは、この戦いの終着点へと入って行った。




「ところで旦那、俺はこの村についての情報が全くないんだが、何か知ってることはあるか?」

「多少なら知っている。村の名はアカブ。神教に対する信仰心の厚い村だな。村の文明の発達レベルはラスタリアから離れてるのもあり少々遅れている…………セブンスターをやっていたお前よりも俺の方が知っている。これは少々問題ではないか?」

「そこに突っ込むなよ」


 この場所に辿り着くまで、二人はデスピア・レオダを追って九つの森と三十六の町を超えてきた。

 そんな中でもこの場所は隣接する町がなく、周りも農耕に使うために整備された草原や田んぼ以外は目立ったものは見当たらないため、他の町と比べ一際田舎町であるように思えた。


「善、周囲の気を探れ。住民に被害が及ぶ前に奴を見つけるぞ」

「ああ」


 ひび割れたコンクリートの地面や全体的に築年数が長そうな石造りの建物に視線を向けていた善が、クロバの発言を聞き気を練り周囲にまき散らす。


「きゃぁぁぁぁ!」


 瞳を閉じ意識を集中させる善。

 そのまま自身の気を周囲に広げるよりも早く町の奥から悲鳴が聞こえ、それを聞いた二人が全速力で現場へと移動。

 そこで見たのは、口と鼻から血を吹きだし横たわる一人の老婆と、それを見て肩を揺する数人の老若男女であった。


「どうした!」

「わ、わかりません。突然声が上がったので駆けつけてみたら、人が倒れていまして。って、善様にクロバ様!? このような辺境の地にど、どどどのようなご用件で?」

「一から十まで説明してる暇はねぇ。任務の都合で立ち寄ってな。その件に関係する死体かもしれねぇからこいつは俺達が預かっておく。あんたは事件があった事をこの町の町長に伝えて、出来るだけ早く避難しろ」


 それはあまりにもおざなりで、根拠などあったものではない説明だったのだが、それを口にしているのが世界中で有名な人物であるという事で男は二つ返事をして、どこかへと移動。


「…………さっきから思うのだが、少々適当すぎやしないか?」


 が、事態の重さを知っているクロバからすれば先程の説明はあまりにも情報が足りておらず、厳しい声が口から漏れる。


「つってもここに『三狂』の一角がいるとは言えねぇだろ。パニックになる。ならまあ、こうやって大雑把な指示をして、言う事聞いてもらうのがちょうどいい。幸い旦那の説明によればここは信仰深い町なんだろ。なら反論なんかせずにいう事を聞いてくれるさ」


 その返事としてそう口にすると花火を咥え火を点ける善。

 彼はそのまま再び動きだそうと一歩前に出るのだが、


「うわぁぁぁぁぁ!」


 そんな彼が行動に移るよりも早く再び悲鳴が聞こえ、その現場まで移動すると、先程要件を伝えた男性が、体を不自然に縮こまらせて死んでいた。


「ギャハハハハハハハハ!」

「デスピア・レオダ!」


 色が抜け落ちかけた赤い屋根の上から声が聞こえ振り向くと、そこには善とクロバを愉快げに見つめる怪物の姿があり、それを見た善の口からその名が突いて出る。


「……これまでみたいに尻尾降って逃げるのを辞めるたぁどういうつもりだ?」

「どうもこうもねぇよ。足りなくなったウイルスを急速に回復させるために俺のウイルスに侵された奴を増やす。そうすりゃそいつらの体に直接入っているウイルスが急激に成長し、一気に強くなれる。その原理に従ったまでだ」


 この村の住人は、そのための生贄である


 そう言いきったところで、善の拳がデスピア・レオダの顎を捉え、それを受けた彼の体が霧散した。


「善!」

「どのみちこいつにダメージを与えられるのは俺だけなんだ。こいつの足止めは俺がする。旦那は住民を安全な場所まで移動させろ!」

「頼んだ」


 手慣れた様子で会話を行う両者。

 そのまま善が自身の懐につけている革袋の中身を確認し、前日の朝出発する際に蓄えておいた火炎瓶の残量を確認。

 残り十二本にまで減っていたのを確認し舌打ちをした。


 いかに攻撃を命中させられるからとはいえ、そもそも善はこの怪物の致命傷となる炎属性の使い手ではない。

 そのためこの怪物に確かなダメージを与える場合、どうしても外付けの装置やアイテムに頼らざるを得ず、善はその問題を補うために火炎瓶を百本革袋の中に忍ばせていた。

 その善の欠点については、一日以上続いた長期戦からデスピア・レオダも既に理解しており、拳に炎が宿る度に回避に専念することで、かなりの数を消費させることに成功。

 時折見せる善の表情や火炎瓶を使おうか躊躇する姿から、残り本数が少ないことまで理解していた。


「さあさあさあさあ、俺に食らいつける回数はあと何回だ? 本当に残りのストックで俺を殺しきれるのか?」


 嘲笑うデスピア・レオダの姿に苛立ちを覚えるものの、本音を言えば中々難しいところであった。

 火炎瓶を一つ使い拳に炎を灯せる時間がおよそ一分。単純計算するならば後十二分間の攻撃チャンスのうちに、この男が世界中に振りまいているウイルスのストックを奪い尽くす必要があるという事だ。

 それがどれだけ非現実的なことなのかなど善ならば承知している。

 ならば回復さえ追いつかない速度で殴り続ける方法になるのだが、引き気味で戦い火炎瓶を消費させようとする今のデスピア・レオダ相手にはそれもまた至難の業だと自覚している。


「はっ。馬鹿なことを聞くな。いくら学習しようとな、お前如きを消滅させるのに十二本は多すぎるくらいだぜ。なんなら、一本で十分だ!」


 そこまで自覚していながらも善は不敵な笑みを浮かべ挑発する。

 お前など本気の自分の相手ではないと、世界最悪の犯罪者を見下す。


「…………この状況で、んな口が叩けるとはな。いい度胸してるぜ。流石は原口善だ。害虫ランキング第二位だ」


 それは目の前の怪物に対して確かに効果があったのだが、それが逆鱗に触れたのか、彼は善へと向けていた敵意を潜ませ、掌を自分が座っていた家屋に向けた。


「おい、おめぇなんのつもりだ」

「大口叩いたんだ。この位の事は対処して見せろや!」

「こ、の……腐れ外道が!」


 圧縮され撃ちだされたウイルスの砲弾と家屋の間に、善が急いで割り込み蹴り飛ばす。

 それを愉快な様子で見るデスピア・レオダが掌を空へと向けると、無数の黒い刃を降らせ、避難を続けているアカブの住民へと降り注がせた。


「っ!」


 これ以上この怪物を生かしておいてはいけない。


 そう考えた善が火炎瓶を割り炎を両腕に纏い勢いよく肉薄し拳を撃ちこむが、拳は空を切りデスピア・レオダは善から勢いよく離れていく。


「そうら。守れるもんなら守ってみやがれ!」


 その様子を嘲笑うデスピア・レオダは屋根の上から飛び跳ね地上へと降り立つと、視線の先にいた幼い子供に真っ黒な刃を投げつける。


「大丈夫か坊主!」


 それを見た善がその子供を放って置くことができるわけもなく、刃が到達するよりも遥かに速く子供の元に辿り着き、投擲された刃を容易く弾き、震える子供を抱え移動を開始。


 その状況を、死を運ぶ怪物は嘲笑った。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


VSデスピア・レオダ最終局面。長くなりましたがもう少しで終わりです。

次回くらいで話を大きく動かせたらいいな~などと思います


それではまた明日、ぜひご覧ください

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