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矜持・義務・復讐 五頁目


 空を突き破る赤い波動が収まった時、その場には何も残されていなかった。

 洪水によって崩れた土砂や建物、樹木。デスピア・レオダが作りだした黒い巨塔や空を覆う帳。それら全てが消滅し、見渡す限りの平原が広がっていた。


「疲れた……十分な仕事はしたしあたいは帰るよ」

「ああ、あんたはよくやってくれたよホント」


 それらの被害の中心地から声が聞こえる。

 その場にいたのは全身の至る所に穴を開けた鬼人族が誇る女傑と体の至る所を焦がした二人の男の姿で、極小にまで縮んでいた黒い渦が再び広がり始めたのを確認し、彼女は重い足取りで歩きながら中へと飛びこんだ。


「やってくれたな」

「ん?」

「やってくれたなおい!」


 空から声が聞こえ、さして意識せずその方角に顔を向ける。

 そこにいたのは全身の至る所を壊鬼同様欠損させた死の王の姿であった。


「ああ。やってくれたよ。俺らじゃなくて壊鬼の姉御がな」

「壊鬼……壊鬼壊鬼壊鬼! 覚えたぞ! あの野郎の名前を覚えたぞ! ぜってぇに許さねぇからな!」


 声を荒げ叫ぶデスピア・レオダだったが、これまでと違い彼の体は急速な再生を見せなかった。


「レイン殿。世界中に散っているウイルスの散布状況はどうだ?」

『ああ、ほんの少し前に一気に減った。見たところ、残っているのは元々の十分の一以下だ』

「そうか」


 その言葉をクロバが聞きそれを念話で善に伝えると、二人の視線は空に浮かぶ『三狂』の一角に注がれる。


「「…………」」


 この場にいる三者が同じことを考える。

 どのような結末であれ、この戦いに終わりが迫って来ているのだと。


「ちくしょう…………ちくしょうが!」

「逃げるぞ!」


 最初に動きだしたのは、満身創痍かつ追われる側の立場であるデスピア・レオダだ。

 彼は善やクロバを相手に背を向け、彼らから少しでも離れようと飛んで行く。


「善!」

「応!」


 それを追うように善とクロバが動きだすと、その邪魔をするようにウイルスを固めた攻撃が撃ちだされていった。


「旦那」

「ああ。もう少し……もう少しだ!」


 彼らを阻害する攻撃の数々。それらは彼らの行く手を阻みはするがこれまでの攻撃と比べあまりに弱弱しく、彼の身に限界が迫っている事を告げていた。


「チクショウ……チクショウ…………害虫が…………クソ害虫共が!」


 そう叫ぶ死の王に先程までの勢いはなく、詰める二人の戦士の気力は十分。

 戦いの終わりが近づいて来ていた。




「『境界なき軍勢』の様子はどう?」

「はっ、午前七時半現在、目立った動きはありません。恐れながらも第一位殿、本当に彼らは攻めこんでくるのでしょうか?」

「今日来る……とまでは言いきれないわね。でも、これから三日以内には攻め込んで来るはずよ。なんせ、彼らにとってはこの上ない好機なんだから。ラスタリアに待機中の兵士にはいつでも戦に出れるよう準備をしておくよう伝えておきなさい」


 アイビス・フォーカスの言葉を聞き、彼女の背後に立っていた鎧を着ている男が足を合わせ敬礼をしてその場を去る。

 それを肌で感じ取った彼女は息を吐き、憂鬱げな表情で雲一つない空を眺めた。


「朝……か。とうとう時間がなくなってきたわよ善、クロバ。今日ケリが着かないのなら……死者の数は跳ね上がるわね」


 空に昇る太陽を前にした世界最強の女が僅かに歩み窓に触れ、誰にも聞こえぬよう小さく呟く。


 時刻は午前七時三十五分。


 善とクロバの追走劇が始まってから一夜が過ぎた。


 その間もデスピア・レオダが放つウイルスは世界中に点在していた神教の兵士たちの体を蝕み続け確実に弱体化させていったのだが、その弱体化が超えてはならないラインを超えようとしていると彼女は判断していた。


 これまで何とか戦線を維持して来ていたが、これ以上弱体化すれば恐らく戦場に立つ事すらできない脱落者が出てくる。

 そうなれば後は雪崩に呑みこまれる無力な者の如く、一気に攻められる、それがアイビス・フォーカスや神の座イグドラシルが下した判断であった。


 ワクチンを作りだせればすぐにでも解決するのだが、調べた結果わかった事実として、この新種のウイルスは殺傷能力と速攻性を捨てた代わりに持続力と特殊な性質を得たらしい。

 その特殊な性質というのが本体との結びつきであり、デスピア・レオダが生存している限りこのウイルスは変異を繰り返すという結果が示された。


 つまり、デスピア・レオダを説得するか殺さない限り、賢教を除く三勢力を襲っているこのウイルスは決して取り除けないのだ。


「本当に急ぎなさいよ。あんたたちの手に、全世界の人々の命運が握られてるんだから」


 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


本日も遅くなってしまい申し訳ありません。

諸事情でこの時間になってしまいました。

二章終了までは毎日更新を続けていければと思うのですが、これからもこのような事は何度かあると思うので、ご了承いただければ幸いです。


本編はといえば壊鬼殿退場の場面転換。

長かった戦いも、最終局面へと突入します。


それではまた明日、ぜひご覧ください


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