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死ノ国ヲ統ベル王 二頁目


 見た事も聞いた事もなり異界を前に戦場に現れた戦士たちが身構える。


『善さん。ここは…………』


 他の者に守られるようこの大集団のど真ん中にいた康太が最前列にいる善に対し念話を飛ばし、


『さてな。見た事も聞いた事もねぇ世界だ…………ただまあ一つだけ言えることがあるとすれば』

『すれば?』

『お前とゼオスは、自分の命だけを守る事に専念しろ。こいつは…………予想通りなら相当やばい代物だ』


 その言葉に含まれたニュアンスを察した善が彼らに指示を出し、


「来るぞ!」


 隣に立つレインがそう告げると彼らの前の大地が隆起。黒い水が溢れ噴水となり天へと向け伸びたかと思えば意志を持ったかのような動きで彼らへと襲い掛かった。




 意志を持った動きを示す黒い水柱を躱した一行。続いて伸びてきたかと思えば同じように人間へと襲い掛かる真っ黒な雑草を焼き払った彼らは、そこで現状を正確に認識し始めた。

 一言で言えば、ここはデスピア・レオダのためだけの『世界』なのだ。


 水が、草木が、大地が、いやこの世界に存在するあらゆるものが病に侵されている。


「!!」

「飛んでくるセミに触れるな! ウイルスに侵されるぞ!」

「というより、だ。向かってくる動物やら植物は全部敵だと思え! んで呼吸も自分の粒子で賄え。大気事態が汚染されてるぞ!」


 あらゆるものというのは文字通りの意味で、無生物だけでなくこの世界に住んでいるあらゆる生物も全身に黒い瘴気を纏っており、敵意を含み充血した目で彼らを睨み、それぞれの生物に則った動きで接近し、攻撃を繰り返してきた。


「だ、ダメです! この世界には先がありません!」

「壊鬼殿の神器はどうだ!?」

「と、帳を崩す事はできないと!」

「ゼオスの奴の能力は?」

「こ、ここでは外には繋げられないと!」

「ちぃ!」


 別々の部下から飛んでくる凶報を聞き、レインは舌打ち。


「レインの旦那。こいつは」

「あぁ。まさか奴が『あれ』を使え、更にここまで早く展開できるとは」 


 同じように部下の報告を聞き現状を理解した善が心底面倒な様子で呟くと、同様の結論に達した彼は深々と息を吐いた。


「れ、レイン様! 善殿! あれを!」


 これ以上討伐に時間をかけられないゆえ後退だけはありえないと考えていた二人であるが、この状況の打開策が思い浮かばず脂汗を滲ませる。

 しかしそんな中自分たちの背後にいた部下の言葉に従い指差された方角を見つめると、そこにはこの世界には存在しないはずのものがあった。


 文字通りそれは光だ。


 夜の帳に亀裂を入れたかと思えば突き破って来たそれは徐々にだが増えて行き、不気味な世界に命を感じさせる温かさを伴い降り注いでいた。


「強度が足りねぇのか。いやまあそうだな。あの展開の早さを考えりゃ当たり前だわな!」

「炎属性の使い手はすぐに空にある亀裂に攻撃を注げ! ここで炎属性粒子を使い果たしてもいい!」 


 それによりこの自分たちを包みこむ異様な世界の弱点を導きだした両者が声をあげ、それに応じ様々な種族や立場の人間が炎属性粒子を使った攻撃を繰り出していく。


「!」

「帳が!」


 それらは確かに効果を発揮し降り注ぐ脅威を振り払うかのように亀裂を広げていくのだが、それと同程度の速度で修復を始めていき、彼らの抵抗を嘲笑う。


「じゅ、十時の方向…………いえ、等間隔に合計十二体のデスピア・レオダが出現! 全員が掌を合わせ何か呪文を唱えています!」

「よく気がついたね坊主! 勲章ものだよ!」


 しかし同時に出現した十二体のデスピア・レオダがこの事態がどのようにして起こされているのかを鮮明に示しており、それを前にして大軍の中心部に陣取っていた壊鬼が跳躍。着地点の安全を全身から発した炎を用い確保すると同時に疾走を開始。


「大黒天!」


 自身の相棒である神器を展開し炎を纏うと、一振りで最も近くにいたデスピア・レオダを破壊。怪物は燃えている箇所を切り離すなどという抵抗をすることなく消滅した。


 と同時に、亀裂の修復速度が僅かに遅れる。


「こいつらはこの空間を展開するだけのデコイだ! 普段みたいな不死身の肉体を持ってるわけでもない! 誰でもいいからぶち殺しな!」

「ようし分かった! 善! クロバ殿! 我々の手で一気に奴らを仕留めるぞ!」

「いやそうも言ってられねぇみたいだぞ!」


 打開策を前に興奮した様子で言葉を吐きだすレインであるが、善の表情は暗い。

 というのも分身体が破壊された瞬間彼らを襲う攻撃の密度が増していき、大半がその対応に追われ身動きが取れなかった。


「……………………仕方があるまい。私だけが出る!」

「ああ頼む。俺やクロバの旦那、それに壊鬼の姉御じゃ『速度』が足りねぇ」


 だがここで尻込みしている場合ではない事は一兵卒からこの場を率いる将まで全ての者が重々承知の事であり、大軍の中で最速かつ神器を備えている存在、レイン・ダン・バファエロが声を上げる。


「一人で行くのはいいがちときついだろ。康太を連れてけ。あの危険察知力は必ず役に立つ。だがぜってぇに守りきれよ」

「…………恐喝のような言い方で言われると素直に喜んでいいかわからんな」


 念話で会話をする善に僅かに視線を向けた彼が大地に膝を付き、次の瞬間、


「まあその進言には従うがね!」

 

 初老を迎える男の背を突き破りながら黄金の翼が伸びていき、その身を覆いなおも余裕を備える巨大さへと成長すると同時に飛翔。


「康太君。悪いが少々付き合ってくれないかな?」

「!?」


 光の速度で空を舞い、掴まれた本人さえ気づかぬ間に少年を回収すると、最も離れた位置にいたデスピア・レオダの肉体まで接近。


「おお! 確かにあのクソめんどくさい再生力がない。こいつは鬱憤を晴らすにはちょうどいい!」

「いやそれより、この状況の説明を頼んでもいいッスか?」

「ああすまない。善に君の力を借りるように頼まれてな。背負っているのがおじさんで悪いがしばしの間、空の旅を楽しもうじゃないか」


 音を置き去りする速度で手にしているレイピアで対象を幾度となく抉ると、再び空高く飛翔。


「はぁ。まあ付き合いますよ。オレの仕事は危険察知ッスね。間に合わなくても許してくださいよ?」

「ハッハッハ! そこは頑張ってくれ!」


 快活に笑いながら地上を見下ろすその姿は、担がれている康太にある存在を連想させた。


 黄金の羽を備え世界を照らしつける聖なる存在。


 すなわち神の使徒である天使である。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ない。

今回は書き溜めではなく完全新規部分の話。

そのため急いで書いたのですが短めです。お許しを。


なぜ書き足したかは…………まあ後を見ていただければなんとなく分かると思います。


で、この能力に関しては少し先で話します。


それではまた明日、ぜひご覧ください

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