三狂 死王 デスピア・レオダ 七頁目
「あっちの担当をもう下しやがったのか!」
そう口にするデスピア・レオダがブドーの前に立ちふさがる三人を驚きと憤怒の目で凝視。
同時にこれまで以上に強い警戒心を顕わにして、真っ白な全身の至るところが輪郭をぼやけさせ、黒い泡が体から溢れ出てくる。
『状況確認をしたい。ブドー、こいつは本当にデスピア・レオダか?』
『無論だ。それがどうかしたのか?』
それを確認しながら自身動揺指揮権を持っているレインに念話で尋ねるクロバ。
その当たり前の問いに対しレインはさも当然と言う様子で返事をするが、それを聞きクロバは舌打ちを行い、それを聞いていた壊鬼が背後から念話を飛ばす。
『どうしたもこうしたもないよ! ここに来るまでの間にね、あたい達はこいつと戦ってて、結果的に善がぶっ殺したんだよ。その筈のあいつがここにいるってのはどういう種だい?』
『俺たちが撃破したのは分身だったのか? いや、そんな雰囲気は一切なかったのだがな』
『奴曰く分身というよりは自分自身のコピーを生みだしている感覚らしい。もしかしたら、本体というもの自体が存在しないのかもしれん』
「なんだと?」
「そりゃまた……気長な戦いになりそうだね。いやそんなに時間を掛けちゃいけないのか。全く面倒なこったよ」
ブドーの説明を耳にしたクロバと壊鬼が念話で会話をするのも忘れ素直な感想を口にする。
「いやブドー、奴の分身じみた行為の原理については分からねぇが、少なくとも本体は必ずいるはずだ」
しかしそこで待ったをかける人物がいた。
原口善だ。
「全員が記憶を共有している同一個体ということではないのか?」
「今ちょうどあの野郎が言ってただろ『あっちの担当をもう下しやがったのか』って。記憶の共有を本当に行っているならそんな台詞は口から出てこねぇ」
「それは…………そうだな」
善の言い分は筋が通っており、それを聞いたブドーも納得できるものである。
「そういえば善さん。あいつ気になる事を言ってたッス」
「ほう?」
「増殖を行った理由はより強烈な快楽? かを得るためだって」
「…………なるほど、な」
次いで康太もそれを捕捉する情報を善に提出し、そこまで語られれば。今解決しなければならない問題が一体なんであるのかもおのずと見えてくる。
「問題はあの中に本体がいるかどうかだな。いるのならば戦う価値はあるが、そうでないのならばここは撤退を推奨する」
「…………致し方ないな」
デスピア・レオダの内一体を足止めしていた「守りを主体とした集団」が彼らの側まで後退し、クロバが今後の動きを念話で指示、同じく指揮官であるレインもそれには頷く事しかできなかった。
現在この場には今回の討伐戦に参加する全員が存在しているが、この戦力はデスピア・レオダ一体を相手にする場合を想定した戦力なのだ。
複数体のデスピア・レオダの存在など当たり前だが想定しておらず、もしそれらを相手にすると考えた場合、本体が居なければ勝算自体がなく、もしいたとしても大軍で迎え撃つ場合、こちら側が失うものがあまりにも多い。
「…………」
撤退しなければならない
そう考えたレインが一歩後ろに引き全員に指示を出そうと念話を開くが、
「おやおやぁ……まさか俺を相手に容易く逃げきれるとでも思ってんのか~」
その気配をこの怪物は敏感に察知し攻勢に出る。
「「一時撤退だ!」」
それを前にしてもなおも一切怯まぬレインとクロバが同時に号令を発し、四体のデスピア・レオダが体の輪郭を朧気にしながら襲い掛かる。
「壊鬼殿! 殿を頼みます! 善にクロバ殿は、私と共に一体ずつ対処していただきたい!」
「おいおい、それじゃ最後の一体を止める術がないよ。そりゃちょっと危険な策だね。最後の一体はあたいが見た方がよくないかい?」
「いやこれでいく!」
レインの提示する策に壊鬼が苦言を呈するが、彼女の文句を彼は一言で否定する。
「もし貴殿が最後の一体を仕留めかければ、ノーマークになった者達に対して新たなに複数体放たれる可能性がある。いやそれ以上に…………激昂し思わぬ反撃にあう可能性がある!
そうなれば負傷者を抱えている我々は最悪の未来を辿る可能性が高い! そうさせないため、一体だけは撤退するものに任せるのだ!」
対デスピア・レオダにおいて切り札の壊鬼ならば二体を撃破する可能性は大いにあるであろう。
だがこちらが優勢になれば彼はそれを遥かに上回る実力を発揮する可能性があり、それを避けるためにある程度ではあるが防戦に回る必要があるというのがレインの見解であった。
そしてその考えは、目の前の怪物の思考を理解しているクロバや善も同意できた。
「っち、しゃーない。今回は隊長様の指示に従うよ。野郎共! 一時撤退だ。ゼオス・ハザードの側に近くに移動しな!」
壊鬼はその全てを理解したわけではないがレインの表情に潜む真剣さを見て嫌々ながら了承し、三者が散ったのを確認し声をあげる。
「おらぁ!」
彼らが動きだしたのを確認したレインにクロバ、そして善の三者がデスピア・レオダへと接近し、各々が足止めを開始。
「…………時空門」
その隙にゼオスが開いた時空門の前に炎の壁を作り、ウイルスが入らぬよう注意しながら一人ずつ中へと入って行く。
「空間移動か!」
無論玩具の確保を望む彼がそれを見過ごす理由はなく、最後の一体は逃げようとする面々全員を掬いあげられるほどの大きさに掌を巨大化させ、それを振り下ろす。
「来やがったかい!」
「覇鋼旋風!」
好戦的な笑みを浮かべ神器・大黒天を構える壊鬼が、デスピア振り下ろされた腕を容易く払いデスピア・レオダの体を両断。
「行くぞ!」
善、クロバ、レインの三人が、ゼオスを除いた部下全員が黒い渦の中に入って行ったのを確認し自分たちもデスピア・レオダ達から距離を取り黒い渦の中に飛びこんでいく。
「そんじゃま、今度はどちらかが力尽きるまでやろうじゃないか!」
「…………離せ。自分で動ける」
最後に残った壊鬼が、伸びて来た無数の手を炎を纏った金棒で消滅させ、ゼオスが文句をを言うのをものともせず彼を抱え黒い渦の中へと飛びこんでいく。
「覚えた…………覚えたぞ玩具共!」
対峙する相手がいなくなったデスピア・レオダ。彼は戦場の中心に立ち、独り言を続けていた。
こうして、デスピア・レオダ討伐に向けた最初の一日が終わりを迎える。
用意していた戦力の想定を超える勢いでデスピア・レオダは進化しており、彼らの計画の悉くを破っていた。
しかし、しかしだ。
「この俺様を前にして! 玩具如きが! 恐れもせず挑みかかる!」
世界最大の犯罪者である『三狂』の一角デスピア・レオダ。
「舐めやがって! あの金ぴか野郎との約束なんて知るか! この俺様の恐ろしさを理解しながら、死に果てろ!」
彼の恐ろしさを味わうのは、これからであった。
次の日、世界中で大量の死者が発生する。
――――デスピア・レオダ、死の王――――
純粋なる悪が、この世界に影を落とし始めた
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
VSデスピア・レオダ、その初戦はこれにて終了!
クッソめんどくさい感じがある程度は表現できたと思っているので、そのように伝われば幸いです。
次回は少々別方向の話に移ります。
ちょっときつい話かも
それではまた明日、ぜひご覧ください




