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三狂 死王 デスピア・レオダ 五頁目


 自らの分身を作りだす事ができる能力は多々ある。

 各属性ごとの分身術がその代表で、特殊粒子を加えたり別の能力や技と組み合わせることで、本体と同様の思考を備えさせたり、ただの分身体では不可能な力や技、それに能力を再現可能であったりもする。


「まったく、頭がおかしいな」


 様々な戦場を渡り歩いてきたレイン・ダン・バファエロだが、今目の前にいるデスピア・レオダが見せる分身は、彼が見てきた全ての中で最も凄まじい精度の分身であると確信できる。


「分身…………いや、自身を作りだしている事を考えれば、それは分裂に近い物と考えるべきか?」


 康太が口にした内容にレインも心中で同意する。このレベルの自己の創造はもはや『分身』という言葉の範疇に収まるものではない。神業や魔技の領域だ。


「ま、その努力の甲斐あって今は過去最高の充足感を得る日々を送ってるわけだ。んじゃ、俺の身の上話はこれで終いだ。さて、じゃあ…………ね死!?」


 それらを晒し心底楽しげに語り続けるデスピア・レオダだが、全ての言葉を言いきることはなかった。

 それよりも前に病の不意打ちを喰らい動けなくなっていた者達の中からブドーが立ち上がったかと思えば、骨と皮だけに近い怪物を持ちあげ、頭から地面に叩きつけた。


「ブドー殿! 大丈夫なのですか!」

「ああ! 幸いにもこいつが我々に使った病は過去に抗体を得ていたものだ。某には効かん! 

 レイン殿! 病の種類はC―21型だ。あるのならばすぐに全員に打ちこめ!」


 再生しては襲い掛かるデスピア・レオダをブドーが一人で食い止める間に、レインが布袋の中を探り、ブドーが宣言した番号が書いてある緑色の液体を取りだす。


「康太君!」

「了解ッス!」


 デスピア・レオダも使う病は千差万別。気体・液体・固体の三種の変化から始まり、万を超える症状に無数の発症・進行の条件。さらには迎える最後の種類も枝分かれしている。

 しかし五万種類を超える病も元を辿れば百を超えるとはいえある程度のベースにまで絞り込むことができる事が病を調べていたアイビスと科学部門の三賢人によって解明され、それら一つ一つの抗体を作ることで、彼らは数多にあるデスピア・レオダが作成したウイルスに打ち勝ってきたのだ。


「狙いは崩れ落ちてる全員だ――――――行け!」

「おい、せっかく俺がうるさい玩具の口を封じたってのに、それを解こうとすんな」


 勢いよく引き金を引き、崩れ落ちている二十人以上の人々へと抗体の入った針状の銃弾を撃ちだす康太。

 しかしそれに気がついたデスピア・レオダはブドーの猛攻からは逃げきれないことを悟り右手だけを分離させると、右手が世界中に散らばったウイルスを吸収し、行く手を阻む壁へとその姿を変貌させる。


「人々の命を救う道の邪魔はさせんぞ死の王!」


 そう口にしたレインが取りだしたのは突くことに特化した剣・レイピアで、康太が撃ちだした銃弾二十数発が死王が作りだした壁に衝突し破壊されるよりも早く、光速に至る速度の突きを放ち続け、銃弾が通るに十分な広さの穴を無数に作りだす。


「このワタシの目が黒いうちに、部下たちの命を奪えるような事があると思うな!」

「玩具が!」


 たった一歩の踏みこみでレイピアの射程圏内まで迫ったレインが、続けざまに目にも止まらぬ速さの突きを繰り出す。

 デスピア・レオダが炎属性以外の攻撃では大したダメージはないとはいえ、それは一撃だけ当てた時の損傷具合についての話だ。

 秒速千回を超えるの乱れ突きならば、致命傷には至らずとも足止めには十分な効果があり、体中の至る所に針を通したような穴が空いた。


「よし、全員に無事当てられたようだな。流石は善が推す銃使いだ」


 そのまま横に視線を移せば銃弾を撃ち尽くした康太の姿を確認できるため安堵するが、その背後から迫る三人目のデスピア・レオダを確認し、彼は息を詰まらせた。


「康太君!」

「!」


 レインが叫ぶよりも僅かに早く、康太が背後から迫る三体目に気が付き距離を取る。

 しかしデスピア・レオダも康太を脅威に思ったからか攻撃の手を休めることはなく、しつこく追撃をかけプレッシャーを与えていく。


「しつけぇなこの野郎!」


 炎属性の弾丸で一気に撃ち落とす康太だが、それでも数限りなく増えて襲ってくる腕の追尾から逃れるのは困難を極める。

 腕の数が勢いよく増えていき瞬く間に百を超えるのに対し、銃弾を撃ちだす速度が間に合わず、また続けざまに撃ち続けたことで粒子の残量にも焦りを覚える。


「康太君!」

「アーチャーさ…………いやえっと、確かライアン……フェルト?」

「フェルマーです。それよりも君は信号弾を撃ちだしなさい。あれならば彼らも気づいてくれるはずです」


 そんな康太の側に寄り、引き金を絞る以上の速度で弦を絞っては手を離し放たれるヒュンレイの側近であったライアンの矢は、命中精度こそ康太に劣るが、数倍の数の矢を撃ち出し、空を埋め尽くし迫る無数の腕全てを撃ち落とした。


「助かるッス!」


 そしてその時間は康太が信号弾を撃ちだすには十分なもので、目当ての真っ赤な信号弾を銃弾に込め、勢いよく空へと撃ちだす。


「信号弾ではこちらの正確な位置まではわからないでしょう。もう少しだけ時間を稼ぎますよ康太君!」

「りょうか……下だ!」


 空から迫る無数の腕を撃ち落とすライアンの言葉に頷きかける康太だが、その時足元から鳴り響く警報に従い迫る危険に反応する。


 それに従い下を覗いたフェルマーが目にしたのは地面に生える草木を汚染しながら近づいて来る粘着性の黒い液体。


「っ」


 危険性を察知した康太がすぐに紋章の重ね掛けで威力をあげた炎属性の弾丸で燃やし尽すが、その際に飛び出た影……四体目のデスピア・レオダを殺しきるには至らない。


「な、に!?」

「何をそんなに驚いてるんだよ玩具ぁ! 人数増やして充足感を得ようと思ってんだ! そりゃ人数が多いに越したことはねぇだろばぁぁぁぁか!!」


 そう語るデスピア・レオダとの距離はおよそ二メートル。すなわち接近戦の間合い。

 弓矢と銃弾を使う両者にとって決して入られてはならない領域だ。


「引け二人とも! こいつの相手は某がする!」


 その最悪の状況で彼らの間に入ったのは、抗体を持ち他の者と比べればある程度は動ける様子のブドーだ。

 彼は現れたデスピア・レオダの首を余っていた片腕で掴むと、もう片手に掴んでいた固体と同時に恐ろしい勢いで何度も何度も地面に叩きつけた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


予約投稿最終日。突然の報告で申し訳なかったのですが、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。

そして同時に申し訳ありませんでした。

普段よりも文章量が少なく、なおかつ誤字脱字も多かったと思います。

これについては今後も努力し、何とか改善していきたい次第です。


という事で本編ですが、普段は動かさないキャラクターに主軸を置けるので、作者本人としては楽しいです。


皆さまはどうでしょうか?


楽しんでいただければ、とても嬉しいです。


さて、明日からは普段通りの投稿です。

これからも変わらず頑張って行きますので、変わらずご閲覧いただければ幸いです


それではまた明日、ぜひご覧ください




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